075 戦後処理
目が醒めると、いつもの天井だった。
「おはよう。マリア」
「うん、おはようラフィちゃん」
隣にはラフィちゃん。
いつもの光景が広がっていた。
零番隊はリルムによる混乱による陣の乱れのまま後続の軍と当たるのは得策ではないと、後続と当たらず退却していった。
フィンスターが気絶したことにより、リルムの影が一気になくなったのも大きいのだろう。
その辺りの判断がノアストティのゲームでの知力ゲージを物語っている。
私はギルヴィード隊と後続の隊を癒し「流石にそろそろ自分のおうちのお布団で寝たい!」という本音を隠して、MPや貧血で戦線に復帰がまだ厳しいであろうギルヴィードおじ様、リルム、フィンスターを送る為に一旦ベルドリクス家に転移をし、帰った。
とりあえずギルヴィードおじ様を挟んで三人並んでベッドに放り込んでおいた。
フィンスターに至っては子犬の姿だ(運ぶのが大変なのでせめて縮んでもらった)
相当ギリギリの戦いだったのだろう、三人ともまだ夢の中のようで、部屋から物音は聞こえない。
今回の戦いを思い出すと、かなりリスキーな点が多すぎた。
終わってみると反省点ばっかりが出てくるし、もっと他に良い作戦があったのでは? とか、こうしたほうが犠牲を減らせたのでは? とか……軍の総大将ってこういうものなのかな。
私は総大将ではないけど策の立案者なわけだし、犠牲の数も重くのしかかってくる。
結果カーグランドを守りきれたといっても尊い犠牲者たちは忘れないようにしたい。
『数』として見ていた昔を思い出し、なんだか不思議な気分になった。
ヴァンデミーア軍は両軍とも退却したようだ。
講和の使者も来て、こちらも受け入れ、一応終戦と相成った。
もっと詳しいことを知りたいけれど、頼みのフィンスターはMP切れで今も眠っている。
今日はミレージュの方に転移をして、傷を癒しにいく約束をしている。
ミレージュに行ったら色々な話も聞けるだろう。
私は使用人さんに新しい服を用意してもらいセットをしてもらったらサッパリとして心がお出かけ気分になった。
といっても行くのは戦後街なんだけどね……。
「マリア。俺はヴァンデミーアに行ってみようと思う」
私が詳しく知りたいと言っていたら、まさかのラフィちゃんが密偵を買って出てくれた。
ラフィちゃんも「何故こうなったのか、知りたい」と、興味を持ったらしい。
しかしながら帰ってきたら美味しいご飯の話しかされないような気がしている。
「ヴァンデミーアは治安が悪くなってるかもしれないから、気を付けてね」
「わかった」
今回は神様の気まぐれならぬラフィちゃんの気まぐれで助かったようなものだ。
今後は余裕で勝てるような戦がしたい……
いや! そもそも戦はしたくないよ!
ミレージュに飛ぶ前にギルヴィードおじ様たちの様子を見に行ってみる。
従者のフィンスターも倒れているので、色々人手が足りない。
メルフィアちゃんの育児とかの為に残していたフィンスターの影も無くなってて、完全に育児放棄になっていた。
帰ってきてよかったーーーーー!!!!
口の固いメイド長に「預かった子」と、ギリギリ嘘にならない嘘をついて面倒を見てもらった。
倒れて初めてわかる、フィンスターの大切さ……。
ギルヴィードおじ様のお部屋のドアを開けるとパチリとギルヴィードおじ様が目を覚ました。
聖女の私が回復させたので、貧血はそこそこ治ったみたい。
残りの二人のMP切れの方が重症なのか、まだ二人は寝たままだ。
「すみませんおじ様、起こしましたか?」
「いや……大丈夫だ」
ギルヴィードおじ様が動こうとすると両サイドをリルムとフィンスターで固められていることに気付く。
「……こいつらもちゃんと生きてたんだな」
おじ様は優しくリルムの頭を撫でていた。
「おい、ざんばら髪になってんじゃねーか」
「私は髪まで再生できませんよ」
いや、育毛とか頑張ったら出来るのかな? 土地は回復出来たし。その辺どうなんだろう。
「サキュバスは好きな相手の為に容姿を整えるんですから、おじ様が「元の長さが良い」って言ったら元に戻るでしょ」
「………………」
おじ様は返事も無くリルムの髪で遊んでいる。
「もー! おじ様! リルムはおじ様の為に死ぬ気だったんですからね!」
なんとも言えないギルヴィードおじ様の態度に業を煮やした私はつい言いすぎてしまった。
「なんとかするのはおじ様の専売特許なんですから、リルムのことだってなんとかしてください!」
跡継ぎも産めない平民以下の娘を伯爵に薦めるとか伯爵令嬢にあるまじき行為だ。
怒られるかな……とギルヴィードおじ様の方をみたらボーっとリルムの髪をいじったまま
「そうだな……」
と返してきた。
若干疲れて眠くなってるのかもしれない。
おじ様にしては全体的に言葉にキレがなかった。
ミレージュ国境街に転移でやってきた私は勝利で士気の高い兵士や町民に出迎えられた。
早速けが人の治療にあたり、グロッキーな気分になりながらも少し休ませてもらってからゼルギウス陛下やお祖父様たちに謁見した。
私がミレージュ戦の様子も知りたいと言ったので常に前線に出ていたレヴィンも連れて来られた。
いつのまにかお祖父様に大層気に入られていて、びっくりした。
レヴィンは大物貴族に気に入られる素質でもあるのだろうか……。
一通りの説明をして「自分は場を汚す」と帰っていったが、そういうところが貴族ウケするのかな。
「そんなわけでマリアのセントーラに援軍に行くまでかなり遅れてしまった。すまない」
「いえ、もっと貴族がグダグダなところまで視野に入れておくべきだったのは立案した私でしたし、幸いラフィエル様が来て下さって事なきをえました」
「名目上貴族にもした上に、援軍にまで来てもらうなど、神をカーグランドが不当に利用していると思われるとまずい。あくまでも『聖女の為に来た』ということにしてくれ」
「わかりました」
カーグランドはあまりにも絶妙なバランスで成り立っている。
バランスをとるのが非常に難しい。
「クレルモンフェランやガノンは引き返したようだ」
「詳しい情報ははいっておらんからわからぬが、とりあえず攻める名目が無くなったので引き返せざる得ないというところだろう」
神獣フィンスターの存在もバレてしまったのだ。次の二国の動向も気になる。
「ギルヴィードおじ様にもこの会議に来て頂ければよかったのですが、目は覚めていたもののまだ本調子っぽくなかったので……」
「いや、マリア。正直ヴィードの生存は絶望的と報告を受けていた。王としてではなくヴィードの親友として礼を言いたい。有難う」
ゼルギウス陛下は私に頭を下げる。
「いえ、陛下。ギルヴィードおじ様を助けたのは私ではなく、道中命を繋いだサキュバスのリルムです」
サキュバスは好感度が高いものを自然回復させる能力があると説明をし、その上でギルヴィードおじ様が好きなリルムが死ぬ気で助けたのだと伝えた。
ゼルギウス陛下もお祖父様もサキュバスのリルムがギルヴィードおじ様を好きなのは初耳だったようだ。
驚いたと同時にゼルギウス陛下はこれまで結婚を逃げていた親友の行動に辻褄があったらしい。
……ギルヴィードおじ様、そういう話一切しないもんね。
「……わかった。今度リルムに会ったら礼を言おう」
「そうしてください」
ゼルギウス陛下もお祖父様も最初、家畜扱いのサキュバスだと気づかずリルムを普通の魔族として扱っていた。
だからかリルムをいきなり家畜としてみるのはなかなか難しいようだ。
リルムが家畜扱いされなくなったらいいな、とは思って色々やってはいたが、無事効果は出ていたようだ。
「それにしてもギルヴィードもだが、サキュバスも死ぬ気の特攻をしとったとは……カーグランドの国家財産が吹き飛ぶところだった」
リルムがいなくなってたらベルドリクス家のお財布に大ダメージだっただろう。
誰がいなくなっても致命傷だ。本当にみんな無事でよかった。
今回やってみてわかったことは私はMPが無限といっても気力というか、体力は削られていくこと。
永遠に機械の様に展開することは出来ない。
よく考えれば当たり前のことなのだが、今思い返してもよくこんなブラックなことを思いついたものだ。
自分のことを機械とでも勘違いしたのか、日本人の社畜根性の性というやつなのか。
「今回はなんとかなりましたけど、今回の策は失敗でしたね」
今後は私は大人しく後方支援をするべきだろう。
「まあでもこの強硬策のおかげでザックベルの協力だけで乗り切ることができたわけだ」
前向きなゼルギウス陛下は「これ以外になかった。良く提案してくれた」と私の失策も笑って流してくれた。
「ザックベルとの友好関係もかなり強固になりましたな」
「あちらとしては聖女派遣の恩を返すという名目だったし、渡りに船でもあったろう」
国に囲まれているカーグランドにとって一国と固い協力関係が結べたのは大きい、そこは攻め込まれる心配がないということだ。
「ヴァンデミーアは今回相当叩いたので、そう簡単には攻めてこようとはしないでしょう」
「問題なのは友好を結ぶように見せかけて侵略する兆しが見えたクレルモンフェランと魔人連邦ガノンだな」
あそことどう付き合っていくかが今後の課題となりそうだ。
ミレージュには今回の戦いで亡くなった戦士たちの名を刻んだ慰霊碑を建てることになった。
最初は意味がわからないと言った風だったが、説明したらマリアのしたいようにすればいいと納得してくれた。
慰霊碑があることで遺族の心も慰められるし、何より物悲しい建物があることで「戦争とは悲しいものだ」という気持ちを忘れないでいてもらえるかもしれない。
セントーラに行った際、カムイと会ったがカムイは命令通りに動けずギルヴィードおじ様に敵を近付けてしまったと悔いていた。
死んでたら切腹する勢いだったかもしれない。本当に罪作りなおじ様だ……。
エリウッドもそんなカムイをまあまあと慰めてはいたが、見ていて思うところがあったのか、ちょっと好き勝手な性格が大人しくなっていた。
「マリア神! ご無事でなによりでした!」
「ゲルベルグさんも無事でなによりです!」
私たちはハイタッチをした。やっぱり二人の時はなんとなく現代のノリになってしまう。
ミレージュの一室を借りて、この世界を知りつくしているゲルベルグさん目線から色々聞きたいとお茶に誘ったのだ。
「シャルルたんからセントーラの方の近況を聞いていてハラハラしておりましたぞ」
「連絡取り合ってたんですか」
ラブラブかよ。
「やっぱり別々の戦地はもどかしいですな! シャルルたんを守ってくださり有難うございます!!」
一応守ってたのはセントーラなんだけどね。
「シャルルといえばミレージュ戦ではシャルルの魔導具が大活躍だったみたいで、受賞されるっていってたよ」
「さすがシャルルたん! 私の嫁!」
ゲルベルグさんはこんな時でもゲルベルグさんだった。
「ゲルベルグさんも民間人ながら軍に協力したって賞くれるって」
武器を開発したのはシャルルだけど、金銭面のバックアップは完全にゲルベルグさんだからね。そういうのも含めて相当な貢献度だろう。
「おおっ! カーグランドやザックベルで商売がしやすくなりそうですな」
考えるところは流石商人。そこなのね。
「次の戦地はカーグランドになると聞いて去っていた商人や町民も続々戻ってきているようですな」
「カーグランドは安全な国伝説がまた一つ出来上がりましたね」
今回の大国との快勝でカーグランドに攻め入ろうなんて猛者はなかなか出て来なくなるだろう。
「ヴァンデミーアの国力は弱ったとは思いますが、ガノンもクレルモンフェランもヴァンデミーアからは遠い為かまだ兵力があるからかなのか、攻める気はない様ですな」
「零番隊が殆どフルで残ってるから、まともな国なら戦おうとはしないよね」
ヴァンデミーアを相当叩いたとはいえ、まだ零番隊が無傷で残ってる中、警戒しとかないとな。
「今こっちも立て直しに必死でヴァンデミーアがどうなってるかわからないんだよね。ゲルベルグさん何か知ってる?」
そう言うと商人目線ですが……と前置いてゲルベルグさんの知ってる情報を教えてくれた。
「ヴァンデミーアは傲慢ですが、ごまをすっておけば金払いだけは良い国でした。ですが今は借金だらけで平民からの借金は平気で踏み倒す悪評が広まっております。相当立て込んでいるような気がしますぞ」
「そうなんだ」
「今回の戦でも武器を買うのもツケにさせろとうるさくて踏み倒す気満々でした」
「そうな……ちょっと待って! 敵に武器売ってたの!? どうやって!?」
私は聞き捨てならないセリフに驚いて聞き返した。
カーグランドとズブズブの関係のゲルベルグさんが他国に武器を売るなんて出来るの!?
そもそもカーグランドとも信用問題に関わるんじゃ!? スパイとか疑われちゃうでしょ!
「原作ではゲルベルグ商会は全ての国の中立として、ひたすら武器だけ売って儲ける死の商人でしたからな。同じような商人が出るくらいならウチがやった方がいいだろうと新たに設立したのです」
名を『モブおじ商会』と言うらしい。
「確かに武器の流通が抑えられるのはかなりデカいけど……」
相手にだけ高い値段でふっかけたり粗悪品を掴ませることだって可能だ。
今回みたいに経済状況だって把握できる。
「陛下やギルヴィード卿からの許可は頂いております故、裏切りはありませんぞ」
販売も足がつかないようフィンスターと協力してやっているらしい。
おじ様が武器商人からの情報があったっていうのはこの人か……。
「シャルル攻略の為に貸したフィンスターとそんなことまでやってるなんて……」
私は驚きで口が閉まらなかった。
シャルルも発明品で儲けているとはいえ、新しい研究や発明には莫大なお金がかかる。
そのシャルルの研究費ほぼ全てを負担しているにも関わらず、お財布にノーダメージなゲルベルグさんは相当なパトロンだ。
通りでシャルルの最近の発明のクオリティが高いわけだよ…。
「……シャルルは良い人に惚れられたね」
「一番嬉しいお言葉ですな!」




