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074 合流戦2

 

 ◇


「セントーラが見えてきた! ここからアイツらを突っ切って門に入る!」


 マリアも味方がきたらバリアに穴を空けると言っていた。


「オレたちが当たって時間を稼ぐ。その間にギルの馬車をセントーラに突っ込ませろ」



「……待て」


 辛そうにだが、いきなり言葉を発したギルヴィードにリルムは驚いた。


「ギル! 喋れるようになったのか!?」



「それより……この隊であそこを突っ切るのは無謀だ……後続を待て……」


「後続なんか待ってたらギルが死んじまうだろ!」


 涙声で言うリルムに皆が痛々しい顔をする。



「………………」


 対立するギルヴィードとリルム。


「……わかった。オレと死ぬ気がある奴だけ付いてこい。残りは全員で馬車を守ってセントーラに突っ込め。いいな!?」


「押忍!!」


「てめえ……っ」



「フィン、オレに付いてきてくれるか?」


「僕はリルムちゃんとなら、地獄の果てだって付いていくよ」


 こくりと頷き、馬車から離れた。



「……っ馬鹿かおめえは。おめえを守ったのも匿ったのも、全部国の為だ」


 恋愛体質が浮かれて突撃すんじゃねえと、ギルヴィードが呼び止める。



「……そうだったとしても、ギルがオレを守ってくれたのは本当だから」


 リルムは再度ギルヴィードに寄り、頭を撫でる。


「嬉しかった。ありがとな」



「一生恋愛体質だとしたら、オレはギルを好きなまま死にてえよ」


 立ち上がるリルムに手を伸ばそうとするが


「……っぐ!」


 ギルヴィードは怪我で動けず、その場で呻くだけだった。



「ギル。早く嫁さんもらって家族のヤツら安心させてやれよ」



 リルムはそう笑って手を離した。



「オレは口調も荒いしダンスもからっきしだが、ギルを守ることはできるんだ!!」


「いくぞ!」


 リルム隊はセントーラに向かう馬車から離れ、零番隊に突撃した。







 ◇








 馬車がこっちの外門に向かってくる。


 多分これがギルヴィードおじ様が乗っている馬車だろう。



 そしてそれとは別にピンク髪の派手な、戦場に不釣り合いの美少女が大きな双戟をもって飛び出していった。


 横には小さな男の子もいる。



「あああ! リルム突撃しちゃったよお~~~!!!」



 外門上から見ている私は大パニックだ。


 リルムは出会ったときから爆弾娘というか、死ぬ気で生きてるような子だった。


 一回死ぬ覚悟を決めたことがある子なだけに、今回も死ぬ覚悟を決めてギルヴィードおじ様の為に突撃していっているだろう。



 自分を犠牲にしてギルヴィードおじ様を助ける気だ。


 親友悪役キャラとしてはよくありそうな死に様なだけに、焦った。



「真っ直ぐにジークベルトに向かっていってる~!!」


 リルムちゃんがいない世界なんて生きている意味がないフィンスターも一緒に付いていく気だろう。



 このままではリルムとフィンスターが死んでしまう。



 私はとにかくリルムが死なない方法を必死になって探した。


 すると戦場に前見た、平民の零番隊の中で一際上品で落ち着いた金髪の美男子を見つけた。


「そうだ!!」


 あのジークベルトの隣にいる軍師、ノアストティにはリルムがサキュバスだとバレた時に洗脳魔法で誤魔化したことがあった。


「アレを逆に洗脳を解けば!!」


 そうすれば零番隊のお目当てはリルムということがバレてリルムが捕えられたとしても、死ぬことはない!


 急いで魔通信機で突撃しているフィンスターに連絡を取る。



「ねえフィンスター! リルムが死なない方法があるかもしれないんだけど、乗らない!?」

『乗ります』


 腹をくくっているのだろう。随分落ち着いた声だが即答を返してきた。


 こういう時、彼のリルムちゃん至上主義はわかりやすくて頼りになる。



 リルムは雑魚を蹴散らし、敵の本陣に思いっきり入り込んでいっている。


 その横でこんな話を冷静に聞いている胆力は、まさに神獣だった。


「私がタイミングを見てノアストティの洗脳を解くから…………」


 私は戦場にいるはずのフィンスターより慌てながら落ち着けと自分に念じ、作戦を伝えていった。





 ◇





 零番隊はいきなりの増援に驚いた。


「まさか貴族軍がやられたというのか!?」


 一切零番隊と連携を取りたがらなかったが、数が全く違う。


 こんな数日で小国のカーグランドに負けるとは思えなかった。



「ジークさん、なにか馬車のようなものを厳重に守っています。なにか大事なものでも運んでいるのでは」


 ノアストティは細かく敵軍を観察した。


「中身がなんなのかわからないと攻撃しようにも出来ないな」


「ウチの貴族って場合すらありますからね」


 零番隊の弱点はヴァンデミーアの身分差にある。貴族を人質にとられてしまっては零番隊は退くしかない。


「ここを突破してセントーラに入るつもりのようだな。そうはさせん」


 ここ数日でセントーラに敵兵はいないと確信したジークベルトは方向を転換し、ギルヴィード隊を迎え撃つ姿勢をとった。




 馬車から出てきたのは年端も行かないピンク髪の少女だった。


 この娘が守る対象か? と思ったら、そんなことはなく双戟を構え、こちらに突っ込んでくる気の様だった。



「じょ、女性が……!? ありえない……!」


 戦は男子がするものと相場が決まっている世界で、女大将が出てきた事実に少し動揺する。


『魅了!!』


 女大将リルムは零番隊に向け大出力の魅了を展開し、行動を鈍らせた。


「テメーら! オレの敵の大将を討て!」


 女日照りの戦場で魅惑的な美少女に皆、目が釘付けになったり女好きの者は混乱により、ジークベルトに攻撃しに行こうとする兵まで現れた。



「ノア! 敵の幻術やべーって! 何人か混乱して同士討ちが起きてる!」


 零番隊の一隊を任されているサムスは焦りながらも軍の状況を報告する。



「あれはカーグランドの魅了使いの女武将!」


 ブロマイドとかいうもので大量に売られていた、魅了が付与された紙に写っていた女性だ。


 サキュバス捜索時にカーグランドの魅了使いを探していた時にリストの中に入っていた。


「こんなに凄まじい魅了、なかなか出せるものではないぞ……!」


 さすがのノアストティもこれには焦った。ギルヴィード隊は少数精鋭さながら真っ直ぐにジークベルトに向かってきていた。



「ジークさん!」


「大丈夫だ」


 ジークベルトは一切の焦りも見せず大きい剣を構え、迎撃の体勢を取っていた。



「全て俺が蹴散らそう」






 ノアストティは頭の中になにかモヤがかかったような、何とも言えない気分を味わっていた。


 ピンク髪の女武将を見ていると、何かを思い出すような……。


 その女武将が近付くにつれ、頭の中はぐわんと歪んだ。


 ジークベルトとピンクの女武将であるリルムが一撃を交わした辺りで急激にパッと思い出した。



「ジークさん! その女武将が我らの狙いのサキュバスです!」


「何!?」


 ジークベルトは慌てて剣の軌道を変えたがリルムの片腕から髪にかけて綺麗に吹っ飛んだ。

 軌道が変わっていなかったら真っ二つになっていたかもしれない。



『マリアさん! ノアストティ思い出しました! 成功してます!』


「やった……!」


 遠くからノアストティの洗脳魔法を解いたマリアは汗をぬぐった。



 リルムは片腕が吹っ飛んでも、もう片方の武器の持ち方を変え、サキュバスだと動揺した隙をついてジークベルトに戟を突き刺した。


「ぐっ!!」


「死ね……っ!!」


 リルムはジークベルトに戟を刺したまま自身も焼く炎でジークベルトを内側から攻撃した。


「ぐぉおおお!!」



「ジークさん!! ッ貴様……!」


 ノアストティがリルムに魔法を食らわそうとするがサキュバス捕獲の為、強い魔法は出せない。


 しかしサキュバスよりジークベルトの安全を第一に考えたノアストティはリルムに風の魔法でジークから吹き飛ばした。



「ジークさん! 大丈夫ですか」


「あぁ……サキュバスはとんだじゃじゃ馬らしいな……」


 ジークベルトはこれだけのダメージで未だに動ける体力がある。


「全くです。まさかサキュバスがこんなに強いとは……!」


 サキュバスは普通は戦い向きの魔族ではない。リルムはイレギュラーなのだ。



 そう話していたらまたピンク髪の武将が片腕で腕も焼けながら足で攻撃を仕掛けてきた。


「我らの目的のサキュバスは弱っている! 捕獲するぞ!」


 そう思って襲い掛かってきたリルムの足を掴むと影の様にすうっ消えた。


「なっ!? 消えた!?」


 そう思ったら複数のピンク髪の女武将が各所で飛んでいた。


 残り少なかったフィンスターの全MPを使ったフィンスター全身全力の複数影武者だ。


「コイツが我々の目的だ! 捕まえろ!!」


 そう叫んで零番隊は大量の逃げ惑うリルムを追いかけながら敵と戦う大惨事となっていた。



 リルムの幻影たちはギルヴィード隊の隊員に全員で号令をかけた。


「ギルヴィード隊、退けぇーー!! みんな死ぬなよ!!」


「押忍!!」





 ◇





 遠くから後続の軍がやって来ている。


「ギルヴィード隊が退いてる隙に後続が当たれば被害はかなり少ないデショウ」


 双眼鏡でシャルルは後続の軍になにやら連絡を取ってくれていた。


「酷い乱戦でノアストティも魔法はもう打てないはずデス」


「あ、ありがとうシャルル……」


 途中まで見ていたが人死にに耐えきれなくなり、私は見るのをリタイアしていた。



『リ…ルムちゃん……か、確保しました……。い、今から其方に向かいます……』


 フィンスターもMPを使い果たし、いつもの余裕はなく報告をしてくる。



 ギルヴィードおじ様を乗せていると思われる馬車も順調にこっちに向かってきている。


「フィンスター大丈夫!? 今馬車用にバリアに穴開けるから、入れそうなら入ってきて」


 もうみんな色々限界だ。可能なら迎えに行ってあげたい。


 そう思いつつ馬車の為のバリアの穴を空けた。



「ジークさん! バリアに穴が! 馬車を引き入れるようです!」


「くそ! そうはさせるか!!」


 ジークベルトが馬車に向かって馬を走らせてくる。



「ああ~~っ! なんでジークベルトがこっちにくるの! 中にはおじ様しかいないよお~!」


 私は焦りに焦る。



 そう思っていたら馬車の後方の影から黒い狼が現れた。


『ワォーーーーーン!!』


 そう吠えた狼は紛れもない、神獣フィンスターだ。



『我は人を見守る為、神が遣わした神獣フィンスターなり』



 MPが無くなり人間の状態すら維持出来なくなったのだろう。


『我に歯向かう者、神への冒涜と知れ……』



 完全なハッタリだ。



 さっき全MP使ったばっかりだし、能力は戦闘向きじゃない。


 ジークベルトに小突かれたら死んでしまう。



 しかしこんな時でもフィンスターはフィンスターだった。


「は、ハッタリが上手すぎる……」




「し、神獣……」


「なんで神獣が……!?」


 敵も味方もどよめいている。


 その子いっつもみんなにお茶入れたり差し入れしたりしてる給仕の子だよ。



 素早さの高いフィンスターはその素早さを生かしてセントーラに向かって駆け抜けた。


 黒い背の上には見えないようにギルヴィードおじ様の黒いロングコートを被ったリルムがフィンスターに捕まっている。


 さすがの零番隊も聖なる神獣に攻撃は出来ない様だ。



「くそ! せめてあのわからない馬車だけでも……!」


 そうノアストティが魔法攻撃を馬車に向けて仕掛けた時に変な声を上げてしまった。


「あああ~~~!! おおおおじ様が死んじゃう~~~っ!!」


 馬車に乗っているのが総大将に近い存在で敵に利用されたら大変めんどくさい。


 死んでしまえば価値はないし、ノアストティには彼方の軍に思い入れのある貴族は一人もいない。


 味方の貴族であっても乱戦の不慮の事故ならしょうがないとシラを切るつもりなのだろう。



 豆粒ほどに遠い距離でバリアがはれないかとか色々やったが無理で、祈るようなポーズを取った。


 ら、


 上から炎のブレスでノアストティの魔法攻撃は相殺された。



 竜騎士のレヴィンが一人、空中から間に合って来ていた。



「あ、アニキ~~~~~ッ!!」


 そうだよ!! レヴィンはこういう男なんだよ!!


 ピンチを救う頼れるアニキ……仲間にしておいてよかった……。



 黒竜はゆっくりと馬車と零番隊の間に降り立つ。


 ◇


「お前……マーカチス侯爵の」


「ノア、この竜騎士を知っているのか」


「ジークさん……俺と同じ侯爵貴族であるレオンハルトの弟の……、リーベの護衛だったように記憶していましたが……」



「今はもう関係はない。カーグランドに金で雇われただけの傭兵だ」


 レヴィンは語気強くマーカチスとの離縁を宣言した後、ノアストティに声を抑えて助言をした。


「……ノアストティ様、ヴァンデミーアの貴族軍は敗退しました。これから大量のカーグランド軍が来ます、今のうちに軍を引いてください」


「…………」


 ◇


 なにやら遠くで話していて私からは聞こえないが、レヴィンは会話で時間を稼いでくれていた。


 流石のレヴィンでもジークベルトとノアストティ二人相手に一人は無理がすぎる。元ヴァンデミーア国民の本人も理解して仕掛けていないんだろう。


 話が終わったのか零番隊は退却を始めてくれた。レヴィン、頼りになる……!




 フィンスターは馬車と共にセントーラの街の中まで駆け抜けると、ガス欠の様に倒れた。


「うっ」


 それに放り出されるようにリルムがぼとりと落ちてきた。


「リルム!」


 か、片腕がない!!



「り、リルム! すぐ治して……」


「止血してあるから大丈夫だ! それよりマリア! よかった! はやくギルを治して!!」


 リルムはフラフラしながらも羽根でパタパタと飛び馬車まで私を連れて行く。



「ギル、ギル。マリアを連れてきたから。もう大丈夫だからな」


 馬車の扉を開けると血の匂いが充満していた。酷い出血量だ。


 良く生きていたとしか言いようがない。



 ギルヴィードおじ様は朦朧とした意識の中、リルムの声を聞いて目を覚ます。


「……おめえ……」


 かすれた声でギルヴィードおじ様はリルムに声をかけた。



「……おめえのほうが、ズタボロじゃねえか」



 リルムはギルヴィードおじ様の減らず口を聞いて微笑んだ。



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