072 追撃戦
――私、マリアは『聖女勇者』のヒロイン的ポジションで、聖女である撃たれ弱い私は攻略キャラからかばってもらったりと、守ってもらうポジションだ。
なのだが
「頑張ってください! 聖女さま!!」
「聖女さまだけが頼りなんです!」
「ぐぬぬぬぬぬ……っ!!!」
私は必死に一人で戦っていた。
睡魔と。
「聖女さま……あんなに苦しそうに……」
「きっとMPが切れかかってるんだわ」
「ずっとバリアを張っている集中力だってかなりのものだ……」
いいえ睡魔です!
ミレージュ戦では快勝したものの、臆した貴族軍が遠くに陣を張って諍いを始めてしまった。
討って出ると更にすぐ逃げ出し戻ってくるを繰り返しているらしい。
その為戦いが一向に終わらない。
私、マリアは遂に禁断の五徹目に突入した。
おかしいな……私、乙女ゲームのヒロインなのに……なんでこんなに苦しいんだ……?
いや、私が向かわせたんだけど、攻略キャラもいない(シャルルたんはもはや攻略キャラではない)この街で孤独に戦うヒロインなんてあっていいのか……?
わーわーとまだ波状攻撃の音がする。
倒れるわけにはいかない。
バリアが……切れたら……
く、くそ~~~っ!
誰か、颯爽と私を助けてくれるストーリーがあったっていいじゃないか!
「だ、だれか、助けて……!」
眠い!!
そう祈ったすぐにか一人の青年が声をかけてきた。
「マリア」
「ラ……っ!」
ラフィちゃん様~~~~~!!!!
「マリアの声が聞こえた」
神様って本当にいたんだ……って言いたくなるようなセリフだ。
周りからは「創造主様……」という声が聞こえた。
像そっくりだもんね。わかるよね……。
「最近マリアは寝ていないみたいだったが、どうかしたのか」
律儀に私の部屋まで遊びに来てくれていたのか。
「ちょっとそれどころじゃなくて……」
「?」
「今、外の敵に攻め込まれてて、それを守らなきゃいけないから、手が離せないの」
ラフィちゃんはよくわからず「敵……」と騒がしい城門の外へ視線をやった。
「消すか?」
「それはダメ!!」
創造主様が加担して人間に危害を加えたら、カーグランドや聖女が大陸中から危険因子扱いされてしまう!!
それに私が頑張らなければ、ラフィちゃんが無双したら多分この世界も消える!
「…………」
「ラフィちゃんに甘えてばっかりじゃ……いけないの……」
もはや前もまともに見えていない状態でラフィちゃんと話していて、ラフィちゃんの表情が良く見えない。
「ここを守らねば、カーグランドもモノリスやアリアーナのようになるのか」
「そうなの……だから、守らないと……」
「聖女様……っ!」
一緒に徹夜してくれていた住民の皆さんの悲痛な声が頭に届く。
みんなの為にも頑張らないといけない。私が気を失ったら……みんなは……
「マリア」
そう私を呼ぶ声だけがはっきり聞こえ、私の意識はブラックアウトした。
微かに「すまない」というラフィちゃんの声が聞こえた気がした。
◇
創造主ラフィエルは聖女マリアの前に手をかざすとマリアを眠りに落とした。
「ラフィエル様……っ!」
なんてことを、これではマリア様が必死に守ってきたバリアが……と思えば、外のバリアはそのままで、場内は平穏無事であった。
混乱している市民たちに創造主ラフィエルはス……ッと自分の胸元からカーグランドの国章を取り出した。
「俺は今は人間だ」
「は、はあ……」
明らかに創造主であるラフィエルが、自分は人間であると主張してきた。
「人間だからセーフだ」
そう言って、マリアのバリアを引き継いで展開し続けた。
自称人間のラフィエルはマリアを横抱きにして眠らせている。
「マリアが苦しむ姿を見ているのは辛い。俺はマリアを助けたい」
皆が困惑する中、なおも言葉を続けた。
「俺はモノリスやアリアーナがなくなり悲しかった。カーグランドもそうはならないでほしい」
神とは思えぬ、人間みのある言葉であった。
「――……今ココにイらっしゃるのはカーグランドの特別侯爵のラフィ=エル様でアリ、人間デス。一カーグランド国民がカーグランドを守るのに、なんの咎がありまショウ」
創造主をカーグランド国民として扱うのは侮辱に値する行為であると、怒る者もいるだろうが、創造主本人がそうなりたいというのなら、そういうことにするのが神の僕として正しき行為であろう。
「な、なるほど……」
さほど信心深くもないシャルルであったが、だからこそ柔軟に対応してこの場を丸く収めた。
神は平和を望む聖女を愛し、平和を望んでいる。
「神のいとし子であるエンジェルの為に神が動くコトは誰にも止められまセンよネ」
「確かにそうですね師匠!」
そう弟子たちが声を上げれば、周囲もそうだそうだと納得し始める。
美貌の微笑みでなんでもないような雰囲気に流しつつ、あちらにこの「カーグランドに創造主が味方してしまった」状態をどう報告しようと頭を悩ませた。
◇
「くそっ! あいつらこちらの狙いをわかってやっているのか!」
逃げては戻るを繰り返す何とも言えないぐだぐだな采配をしているヴァンデミーア軍にカムイは苛立つ。
「いえ、本当に混乱しているだけみたいです」
困った様にフィンスターは返した。
ヴァンデミーアとしては話がまとまるまで時間稼ぎがしたいが、その時間稼ぎが一番こちらに効く。
「しかし貴族の軍はどんどん離脱や逃亡して数を減らしてってるな」
ゼルギウスは今の自分たちの兵数より、ヴァンデミーア軍のほうが減っていると予測していた。
「ですが……姫は大丈夫だろうか……」
「シャルルによると特別名誉侯爵ラフィ=エル様が通りがかりマリアの睡眠時間を確保してくれたようだが……」
大陸の中立でいないといけない創造主が「カーグランドを助けた」という問題が出来てしまった。
「その問題も大変だが、それよりも無事でいられた方が大切だ。ラフィ=エル様がお助け下さって良かった」
今後の話より今の窮地。
マリア一人ではもう体力が持たなかっただろう。ゼルギウスはホッと息をついた。
「ラフィ=エル様のお力で敵を灰に変えていただくのは出来ないのですか」
「カムイ、そう焦るな。そんなことしたら神の力を利用している国として全国から睨まれるぞ」
あくまで神が力を貸すのは聖女の為、その態勢を崩してはいけない。
随分と後ろに後退したヴァンデミーア軍は逆にモノリス国のリアスパーナ国境街にまで退避していた。
今度はこちらが攻城戦となってしまい、攻めれば侵略になってしまうので迂闊に手を出せない。
が、カーグランド軍が下がろうとすると追いかけてくるのだ。
「まだ血気盛んな貴族は残っています」
「一勝あげてあっちの膠着状態をなんとかしたいってことか」
「有難い話だが、零番隊と連絡を取り合いあちらが防衛戦をし出したらこちらが負けるのはわかるだろうに、一切協力しあっていないのだな」
もちろん伝書鳩や密偵を出そうものなら妨害するつもりであったが、一切その気配はない。
「本当に貴族と平民の溝は随分と深いみたいですね……」
貴族から売られて平民となったカムイは憂いを帯びた目をした。
「とりあえずその血気盛んな貴族たちをどうにかすれば、あとの腰抜けは帰ってくれるわけだな」
総大将もまだ交戦派らしいが、操る兵が逃げだしたら一人では戦えない。
「ギル、野戦はマドーシにとってキモンなんだろ? ぜったいに無茶すんなよ」
「おめえわかって言ってんのか?」
「ギルが危ないってことはわかってる!」
やる気いっぱいに護衛を務める気のリルムとあきれ顔のギルヴィード。
「まあ射程ギリギリまでこっちが寄らないといけねえからな。その時場所もバレるだろうし突っ込んでこられるだろう」
ヴァンデミーア軍としてはギルヴィードの魔法で壊滅させられた部隊は多い。
しかも野戦は魔導士を攻めやすい。この機会になんとしても一番に潰したい相手だろう。
「前にはカムイやエリウッドたちがいる。そうそうここまではこれねえだろうさ」
そうリルムに言い心を軽くさせているが、顔は戦前の引き締めた顔だ。
カムイはいつもは守りに徹する冷静さがあるが、マリアが心配で耐えるのはそろそろ限界だろう。
エリウッドも守るような体質ではない。敵をみたら いの一番に突っ込んでいってしまうような志願兵だ。
一当てしたら一旦下がった方がいいな。と自分の中で結論付けてギルヴィードは本を構えた。
「今回は総力戦だとよ。魔導士も参加するから突っ込んで巻き込まれないように気を付けろよ」
「へい! レヴィンのアニキ!」
「俺はお前らと同じ一小隊長なんだが……」
部下にも同僚にもアニキと言われるようになってしまったレヴィンは少し困り顔だ。
「いや、レヴィンのアニキは小隊長で収まる器じゃねえ。出世したら俺らの小隊も入れてくださいよ!」
「ならちゃんと生きて帰れよ。そう部下にも言っとけ」
「へい!」
そう言って小隊長たちと別れたレヴィン独り言ちた。
「ヴァンデミーアか……クソだクソだと思っていたが、やっぱりクソばっかだな」
ただ一つ、豊かな土地を持つ温かい侯爵家を思い出し、あの人達の無事を祈った。
今回も近寄り、退却することで敵をおびき寄せた。
もう慣れたもので来るルートもわかっているため総力戦の時の為に温めておいた奇襲作戦を使う。
『来たぞ。撃て!』
ゼルギウスの魔通信機からの合図で魔導士が一斉に岩陰から魔法を撃つ。
その中にはギルヴィードの魔法もあり、礫のような岩が炎を纏って降り注いだ。
「うわあああ!!」
「みんな落ち着け! 落ち着ぐほっ!!」
いきなりの魔法奇襲に大混乱するヴァンデミーア軍。
『今のうちに魔導士部隊は退避! ギルヴィードから距離を置きつつ戦線から離れろ』
血気盛んな兵たちは速攻でヘイトを溜めに溜めたギルヴィードに狙いを定めていくだろう。その巻き添えを食らわないためだ。
「オイ! オレたちも離れるぞ!」
「えっ! ギル、オレは……」
「お前は護衛なんだろ。しっかりついてこい」
リルムは腕を引っ張られギルヴィードに連れて行かれるように下がる。
「いたぞーー!!! あいつだ!! あいつを殺せーーー!!!」
案の定全軍ギルヴィードに向かって捨て身の突撃をしだした。
「いいねぇ~捨て身の突撃! そういうのって燃えるよ~!」
「貴様らに恨みはないが早い終戦の為、死んでもらう!」
それをカムイとエリウッドが迎え撃つ。
「ギルヴィードォォオ!!! 覚悟ォオオ!!」
「やっぱりアイツら頭に血が昇ってんな。敵がこっちまで来てやがる」
下がっている最中のギルヴィード隊に食らいついてくる兵がポツリポツリと出てくる。
「ぐはあっ!!」
「テメーら寄ってくんじゃねーよ!」
リルムが近寄ってきた兵をバッサリとなぎ倒していく。
カムイとエリウッドの隊は遠目から見ている感じ大将首狙いだ。突っ込んでいる。
「総力戦とは言ったが、そういう意味じゃねえだろうが」
あとで説教だな。と思いつつギルヴィード隊は戦線から逃れる為後退していく
「ギルヴィードさん! 右手の方向、大きな穴が空いて敵がなだれ込んできます!」
攻撃に注視しすぎてこちらの防衛戦線が崩壊している。
「しょうがねえ、あいつらはこっちで迎え撃つしかねえな」
「おう!」
「はい!」
「随分と必死に追いかけてくると思ったら、この兵士全員隷属契約をさせています」
フィンスターは下手に降伏をさせることはできないと付け加えた。
「ひでえやり方しやがる……」
リルムは可哀想な目を兵士たちに向けた。
「平民を同じ人間と思わないのは貴族主義によくあることだ。情けをかけたら死ぬぞ」
ギルヴィードは射程範囲に入った兵を魔法で蹴散らしていく。
「……マリアがいたら悲しんだだろうな。いなくて良かった」
リルムは容赦なく切り伏せながらも心優しい親友のことを想った。
聖女であるが故なのか、平民も貴族も、敵味方関係なく慈愛を振りまく彼女を思い出す。
「あいつは有用だがこういう場面に弱いっつう致命的な弱点があるからな」
まるで戦争に慣れていない。こんな世界で数年は生きているというのに慣れる気配すらない。
それが聖女たる所以なのか、わからない。
「後続! 大きい波がきます! ギルヴィードさん、下がってください!」
フィンスターは戦うギルヴィードの代わりに戦況を見て撤退の指示を出していた。
「ゼルギウス陛下の軍がこちらに救援に向かってきています。それまで耐えれば大丈夫です!」
「全く、随分と過保護な幼馴染をもったもんだ」
親友のピンチに動いたのだろう。ゼルギウス陛下直々に向かっているとのことだ。
「いたぞ! ギルヴィードだ!! あいつだけでも道連れにしろーー!!!」
相手の親でも殺したのか、頭に血が昇って真っ赤な顔をしている貴族は、もはやギルヴィードのことしか目に入っていない。
「させるか!」
リルムは前線で戟をふるい、敵をなぎ倒していた。
「くそ! あまり突っ込むな馬鹿野郎!」
ギルヴィードは貴族に向かって突っ込むリルムにバリアをかけた。
「今だ!! ギルヴィードを殺せーーー!!!」
「なっ」
昔、リルムが持っていた自爆用ともいえる魔導具を抱えた隷属兵が泣きながらギルヴィードのもとまで敵の魔法の爆風を利用して飛ばされてきた。
文字通り人間爆弾だ。
ボロボロの隷属兵はそれでも命令通り引火しギルヴィードの目の前で爆破した。
「ギルーーーー!!!!」




