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071 対ヴァンデミーア戦2日目

 

 ◇


「ヴァンデミーア軍で今回死んだ貴族は5名、拘束した貴族3名です」


 フィンスターは淡々と報告をしていた。



「削った兵は約1万と想定します」


 あっちには防ぐ手立てもなく強力で連続して出せるギルヴィードの魔法が刺さりまくっていた。



 思ったより上手く囲えたのもあり、囲った兵数もかなりのものだったのでなかなかの戦果だっただろう。


「しかしまだ4万と3万か」


 普通一日で5分の1削れたら相当なものだが、あちらはそこまで気にしていないらしい。


「肉壁の平民兵ばかりだったのと貴族も下級や息子が多かったから、そこまで惨事と捉えていないらしいな」


 選民思考らしい考え方と言える。



「……やはり、敵の親玉の見えるところまで乗り込んでいくのが一番なのでしょうか……」


 マリアへの心配ゆえか思考がバーサーカーになりがちなカムイを抑えるのも一苦労だ。



「ん……しかし次は奴らは奇襲で後方を狙う心算なんだろう? ……なら、同じことをされても文句はいえねえなあ」


 ニヤリと笑うギルヴィードにゼルギウスはなるほどと頷いた。



「相手が思い描いていたことをこっちが綺麗に決めたらインパクトもでかい。カムイ、やってくれるか」


「はっ!」


 カムイはすぐに礼のポーズをとった。



「そっちの情報は筒抜けって意思表示にもなりますよね。因みにあちらの密偵はどうしましょう? ウソでも握らせておきますか?」


「オレの居場所と一緒に今日と同じ戦法をとるとか伝えておけ」


「わかりました」


 フィンスターは変わらないいつもの笑顔で、まるでお茶を頼まれたかのように頷いていた。



「それと奇襲といえばフィンスターの十八番だろう。アイツらを攪乱することはできるか」


「奇襲隊長に化けて位置が変更になったと言って回って一つにまとめて叩きましょうか?」


「それはいいな」


 マリアが聞いたら卒倒しそうな会話を淡々としていく男たちであった。







 開戦二日目。


「姫はこの最中もあちらで一人戦っておられる……」となかなか寝ないカムイを強引に眠らせた功績をもつエリウッドの挙手で、強襲部隊はカムイとエリウッドの二人に任せることになった。



「いつもカムイが俺を止めてる側だから、なんか新鮮だよね」


「すまない……」


 どうにも落ち着かないカムイは今もうずうずとしていた。



 今回ギルヴィードは囮となるということでリルムも双戟を構えピリピリとしていた。


「テメーらぜったいにミスんじゃねえぞ!」


「押忍! リルム副長!!」


「ぜったいギルはオレが守るからな!」


「……だったら突っ込まずにいるようにしろよ」


「わかった!」


「リルムちゃんは結構猪武者なところあるからね」


 あははと笑うフィンスターは流石神獣と言うべきなのか、いつも通りの笑顔でお茶の用意をしていた。




「やはりマリアの拾ってくるヤツは面白い」


 ブリザベルトの指揮内に入ったレヴィンを見てすぐに気に入ったようで、あれこれと指示を出していた。


 レヴィンも貴族の扱いには慣れたもので、伯爵様に対しての礼を欠かさず指示を聞いていたのも好印象だったのだろう。




『敵兵士、奇襲配置についてます』


 シャルルの魔通信機により魔法伝書鳩のように敵に気付かれず、連絡を取り合うことが可能になった。


 奇襲配置は昨日フィンスターがもってきた情報通りだった。皆どこに隠れているかわかっている。



『これから計画通り誘導を開始します。少々待機をお願いします』


 フィンスターが影を使い奇襲隊長に変身して奇襲場所を変更していく。



『B地点全隊クリア。カムイさん、エリウッドさん隊はそちらから敵後方にまわってください』


『了解した』


 カムイとエリウッドの有志少数精鋭は敵本陣近くまで潜伏し、本陣に奇襲をかけることとなる。



「うう~こんなのザックベルじゃ味わえないよ。楽しすぎる~」


「エリウッド! 遊びじゃないんだぞ」


 かく言う有志達もザックベルの者が多かった。


 ザックベルには戦いに飢えた猛者たちが多すぎる。




「ギルヴィードさん、準備出来ました。お願いします」


 初撃は前回の作戦通りと告知しているので、またもやギルヴィードだ。



 同じく遠くの狙い目を打ち抜き開戦する。


 それと共にギルヴィードに襲い掛かる算段だった奇襲部隊はおらず、むしろ奇襲部隊を奇襲する奇襲部隊に追いかけられて草むらから出てきた。



 ヴァンデミーア軍指揮官たちは、何故このようなことになったのか、わけもわからず怒っているようだ。


「ちょっとはちゃんとギルヴィードさんを狙いにくる兵がいるかと思ったんですけど、まったくいませんでしたね」


「マジかよ~! フィンにギル守られた~!」


「まあまあリルムちゃん」


 気合を入れてたリルムは肩透かしをくらった格好だ。



「随分と忠実な兵どもじゃねえか」


 フィンスターが化けた貴族の奇襲隊長の言い分がメチャクチャであっても従うしかなかったのだろう。


 それが悪い方向に出ていた。



 焦ったヴァンデミーア軍は全軍突撃の様相で前進を始めた。


「こっちも突撃だ」


 レヴィン率いる先鋒を出しブリザベルトの軍が動く。それに合わせて他の隊も動いていく。


 レヴィンの隊は黒竜ジェノスを中心とした動きに特化した特殊隊だ。


 ジェノスに乗ったまま攻撃を仕掛けたと思ったら敵陣内に降下してレヴィン一人で大立ち回り、その上からジェノスが火を放ちレヴィンを回収してまた陣に戻るようなトリッキーな動きもしてみせていた。


 竜騎士一人でヴァンデミーア軍は相当な混乱に陥っていた。



 一当てして注意が前に向いたところで、奇襲部隊を殲滅し終わり、そのまま本陣の背後に回ったカムイとエリウッドの少数精鋭部隊が飛び出していった。



「姫の為、狙うは大将首!!」


「あははっ お覚悟~」


 攻撃をカムイが受け流し、その隙をついてエリウッドが攻撃するようにコンビプレーで進んでいく。



 まさかの奇襲返しに貴族たちは慌てふためき逃げ惑った。


「貴様ら! 将の癖に逃げるな!!」


 マリアの為に一刻も早く終わらせたいカムイは相手からみたらまるで阿修羅のようだったろう。



「あの中央。ヒマそうにしてんじゃねえか」


 ギルヴィードは敵しかいない範囲を見つけて魔法を展開していく。


「いいねえ大軍は……撃ち甲斐がある」


 笑いながらギルヴィードはドカンドカンと派手に魔法をぶちかました。



 その近くの現場にいたカムイとエリウッドすら面食らう威力だ。


「こ、これは、ギルヴィード様の……!」


「あははっ 相変わらずスゲー威力!」


 もう敵にしたくねー! と笑いながら敵を倒すエリウッドに、魔法以外も恐ろしいことを知っているカムイは内心だけで同意した。



 一日目よりも派手に囲まれボコボコにされたヴァンデミーア軍は、恐怖のまま散り散りに潰走していった。







「でも再編成出来ちゃうほど兵力があるってすごいよね~」


 エリウッドは外門上から前より随分離れたところに布陣しているヴァンデミーア軍を見た。


「あれだけやったのにまだ帰らないのか……」


 大将首が取れなかったのが悔やまれる……と忌々しそうな顔でカムイは見つめていた。



「元々ヴァンデミーア国王は来てないみたいだし、総大将打ち取ってもすぐすげ替わっちゃうって。どんまいどんまい」


 カムイはそれでも難しい顔をしながら「姫は大丈夫だろうか……」とマリアに思いを馳せた。






 ◇






「一徹目はまだいけるんだけど、二徹目は結構きついな……」


 三徹になってくると一周まわってハイになってくるんだけど……とクマを濃くした私はそれでも杖を支えに立っていた。


 零番隊はあっちも飽きてるだろうに交代制で延々と攻め続けている。


 時々防衛兵器で攻撃したりはするが、まあ賑やかしみたいなものだ。あちらも兵を大事にした立ち回りをしている。



 私が倒れたら死ぬとわかっているからか、住民の皆さんが私の周りで一緒に祈るように一緒に二徹してくださったりと、私の徹夜に関して協力的なのはありがたい。


 まあ延々と外から攻撃音が聞こえてくる侵略者が攻めてる状況で眠れないよね……。



「エンジェル! 二日目のミレージュ戦も快勝だそうデス!」


 その報を聞いた街のみんなも活気づく。


 ミレージュ戦が終わり次第こっちに助けに来てくれる予定なのだ。



 聖女の私がいる以上、国が見捨てるわけはない。



 それもあって住民たちもこの精神状態と戦っているのだ。


 私はみんなの希望になっている。絶対に辛いところは見せられない。


「本当!? シャルル! みんなあともう少し、頑張りましょう」


「はい……! 聖女様!」


 零番隊にもこの報を届けて動揺させたいところだけど、そしたらミレージュに行っちゃって足止めが出来なくなるかもしれないし、そもそも仲が悪いから「へーそう」で流しそうな気もする。


 あんまり良いことはないだろうし、これは私たちだけの吉報として喜んどこう。






 ◇






「今回も奇襲隊はほぼ捕獲や降伏、殲滅に成功しています」


 生き残った奇襲隊はなにがあったかを説明し奇襲隊長が槍玉にあげられていますね。と自分のせいで可哀想な目にあっている人間の話をフィンスターは淡々と説明していた。


 神獣なんてそんなモンかとギルヴィードは割り切りながら敵の様子を聞く。



「相当削れたので今は兵数は五分五分。普通に当たっても倒せるラインまで来てますね」


 今いるのはギルヴィードのテントの中。


 フィンスターとギルヴィードとリルムの三人だ。



「それで、どうだ? 敵さんの様子は」


「カムイさんとエリウッドさんの強襲で相当怯えてました。もう帰ると言い出している貴族もいます」


「良い傾向だ」



「ただ、もう流石に死んで良い貴族や兵がいないらしく、先鋒の押し付け合いになっていますね……なかなか攻めてこないかもしれません」


「そいつは困るな」


 こちらとしては速攻でケリをつけたいワケありだ。



「それを気付かず実行してくるなんて、さすがヴァンデミーア軍だ」


 ギルヴィードは皮肉たっぷりに褒めた。


「マリアはどうすんだ? 大丈夫なのか?」


 遠くにいるマリアのことを心配そうにリルムは言葉にした。



「地の利は捨てることになるが、少々討って出るしかなくなるだろうな」



 防衛戦の花形は魔導士だが、野戦になると高低差も少なく陣形がわかりづらいのでなかなか距離感が掴めず、あまり役には立たない。


 しかも防衛場所から隠れて撃つこともできないので、撃たれ弱い魔導士にとっては少々鬼門だ。



「戦うにしてもただ逃げる軍を追いかける敗走戦になる可能性も捨てきれません」


「あまり深追いはしたくないところだが、戻って来られないようにしなくちゃ次のセントーラにいけねえな」


「まだヴァンデミーア側は混乱しています。今が好機とみるか、何をしでかすかわからないとみるかは人によりますが……」


「しかし時間はかけらんねえだろう」


 なんだかんだと姪を思うおじは次の作戦を練った。

 

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