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007 初っ端から最終兵器

 


 誤解されがちだが乙女ゲームは恋愛ゲームであるけれど、恋愛ルートは幾つにも分岐されたところにあるので、根本の筋は恋愛じゃないことが多い。


『外の私』が悩んでいたのは真エンディングへの構想で、「どういうルートでいけば全員助けられるか」っていうルート構築だ。


 出来る限りキャラを助けながら『外の私』に面白い、有用なネタを提供できるか、というのが私の最大のポイントだろう。


 だからぶっちゃけ、恋愛はしなくていいと思っている。


 よくある『誰ともくっつかないエンド』真エンディング的なトゥルーエンドである。




 しかしながら『乙女ゲームでヒロイン以外と攻略キャラクターをくっつけていいの?』という疑問は最もである。


 乙女ゲームにも色んな種類があり、親密度の低い攻略キャラクターが友達に取られる、といった乙女ゲームも実際に存在している。


 美少女ゲームと違う点として「攻略キャラは全員自分のもの!」が主流ではなく「仲良しな親友にも彼氏がいて、恋バナ、Wデート」みたいなそういう楽しみを見出している女の子も少なからずいる。


 自分だけがイケメン総取りっていうのが逆に現実味がなくて萎えるとか、親友キャラがいるなら親友にも相手がいて欲しいという意見も(かなり少ないけれど)確かにあるのだ。


 ここではライバルの女の子とも共存するエンドということでなすりつけ……いやいや幸せになってもらおうと思う。






 さて、親友(予定)ちゃんは絶対として、他の男攻略キャラだけど……



 無理矢理引っ張ってきても、下手に恋愛フラグが立たれても困る。


 ……例えば、危ないところを助けただけで好きになられて「ヤンデレか!」ってくらい執着してくるキャラとかもいるのだ。



 そして今、そのキャラが欲しいなと思っているわけです。



「くぅ〜〜!!」


 ままならない……。


 RPGパーティに入れると素早さはあるけど弱い――……なシーフタイプな遊撃型の戦闘力で、戦争フェイズでも「ハードモードとかではそこそこ便利だけどノーマルモード以下なら力でゴリ押せるから必要ないよね?」みたいなテクニカルな不遇キャラではあったのだが、斥候としてはチートクラス。


 ゲームでは微妙だったけど、現実となったこの世界だと頼もしいことこの上ないだろう。


 頭脳派のギルヴィードおじ様に情報が加わればまさに無敵。


 孫子も情報は大事って言ってたし。



 スパイとして欲しい技能を全部もってるみたいな子で、


 ……そのスキルでストーカーしてくるから絶対逃げられない。



 くうう〜〜!!! 絶対無理!!



 そんな恐ろしい恋愛感情はゴメンだ。


 でも絶対仲間にほしい!!



 そこで、なにかないかと考えていたのだ。


 そして一つの結論を出した。






 親友(予定)ちゃんになすりつけよう






 待って! 聞いてほしい。


 このキャラは最高に束縛が強く、この現実となった世界でこの攻略キャラに好かれてしまったら他の男に現を抜かすような真似は出来ないかもしれない。


 この攻略キャラの好感度を上げたまま他のキャラの好感度を上げると、社会的にじわじわとそのキャラに追い詰められるイベントが発生し、冤罪で捕らえられ、その攻略キャラに暗く狭い部屋で一生お世話されるというバッドエンドがある。


 それくらい束縛が強い……というか、ヤンデレである。



 仲間集めどころじゃねえ。



 というわけで、世界平和の為にヤンデレくんを私の代わりに親友(予定)ちゃんに懐かせて二人まとめてもらってしまおうという算段だ。




 スキル的には親友(予定)ちゃんは出来ればギルヴィードおじ様とくっついてほしいけど、人の気持ちは操作出来ないし、なるようになれな気持ちだ。


(もうどっちかとくっついてくれればそれでいい!)


 二重三重になすりつけていくぞ。


 おじ様と親友(予定)ちゃんとヤンデレくんはトライアングルに良いスキル関係になれると思っている。


 この三人、めちゃくちゃバランスがいい。


 修羅場みたいになるけどここ三人で組ませるのが一番黄金配置だとゲームマスター()は思ってる。



 『聖女勇者』なんて大層な名前が付いてはいるがプレイヤー次第では全員侍らす逆ハーレムだとか結構なゲス行為をもやってのける自由度の高いゲーム。


 聖女がナチュラルに逆ハーかます世界観だったら親友(予定)ちゃんも二人や三人や四人面倒みてくれるでしょ。


 それくらいには私は親友(予定)ちゃんに多大な、大っ変多大な期待を向けている。


 出来るかぎり私から恋愛フラグを取り除いて欲しい。頼んだ未来の親友よ。









 しかしここで問題が出てきた。



 私、今現在の二人の居場所知らない。



 公式カップルでもなんでもないからイベントなんてあるわけがない。


 ただ「スキル的に都合良いから一緒にしとこ!」という感覚だ。


 完全に私の都合である。顔カプだ。



 さすがに二人を探すような魔法はチートでも存在しない。


 手詰まりだ……私はベッドへ飛び込んだ。


「はあ……」


 ヤンデレくんも人ではない上、深い怪我をして人知れず自然回復を待って弱っている状態が数十年続いていたはず。


 何処かで隠れてると思うんだよね。


 深い傷を負って数十年かあ……。


 確かにこう考えると一瞬で治したヒロインのこと好きになっちゃうのかな。


 ヤンデレくんは人ではないので一目惚れしたヒロインに執着の度合いがわからず全力で求めてきてしまうのだ。



(そういえばラフィちゃんも自我が無かったせいで色々と欠けてたな)


 芸術品のように佇む創造主を思い出す。



(場当たり的な感じで管理画面に帰してしまったけど、ラフィちゃんは元気だろうか……)


 創造主ラフィちゃん様ならどうにかしてくれたりしないのだろうか。


 もうほんと神頼みしかない。



 ラフィちゃんも困ったことがあったら呼べって言ってたし。


「も~ラフィちゃん~! 助けて〜〜」



 言った途端に目の前に光が集まり始める。



 ま、まさか…………


 大きな6枚の翼を部屋いっぱいに広げ、


 ラフィちゃん



 大 光 臨



「マリア」



 変わらぬ綺麗で無機質な瞳をしているが微かに微笑みを浮かべて


「会いたかった」


 と一言呟く。



 確かに困ったら呼べって言ったし、呼んだけども……これってアリなのだろうか。


 私はあまりの神々しさとやらかしてしまった感で放心状態に陥った。






 ラフィちゃんと再会してベッドの上に座って再会の挨拶をする。


 部屋の中がメチャクチャ光ったがカーテンだったりで外からは漏れていなかったようで、人は来なかった。


 バレたらギルヴィードおじ様になんて説明すればいいのかわからない。


「マリア」


「ごめん久しぶりに会ったから感動しちゃって……」


「そうか」


 ラフィちゃんは未だに表情は固く、ボーっとしているというよりも無機質だった。



 一呼吸整えて私はラフィちゃんに特定の個人を探索出来ないか聞いてみる。


「人を探したいんだけど、私からは探せなくて、ラフィちゃんに探してほしいの」


「どの様な者なのだ?」


「えっと……」


「思念で伝えてくれれば良い」


 と手を握ってくれる。



「じゃあ……こういう女の子と……」


 親友ちゃんは人間ではないので長生きだ。しかも性質上殆ど歳をとらない。なので見た目もさほど変わらず存在しているだろう。


「こういう姿になってる……と思う」


 ヤンデレくんはヒロインが出会ったときの姿でいるだろう。



「あい わかった」


 ラフィちゃんは目を閉じ光が輝く。ラフィちゃんが明るいからか外もなんだか明るく感じる。


 眩しいのにだんだん慣れてきたら「わかった」と輝くのをやめる。



「上から見ても見つからなかったが下からは見つけた。隠れているのだな」


「まあ二人とも、事情が事情だしな……」


 事情を知ってる身としては正直早く保護してあげたい。


 けど自分の身はかわいいし、都合よく進めたい。


 どう考えてもゲスい考えの暗躍聖女である。



 ラフィちゃんから手を伝って二人の居場所がわかる。


「あっ 二人とも結構近いとこにいる! ラッキー!」


 カーグランドからそこそこ離れたところではあるがフィーネという国の鬱蒼とした森に二人とも潜伏してるみたいだった。


「片方は動けない」


 怪我してるであろうヤンデレくんのほうかな。



「動ける子に誰にも見つからずそこまで行ってもらえるのは出来るかな」


「可能だ」


 ラフィちゃんは幻影の蝶を作り出し、外に飛ばした。


 幻影の蝶は目的の場所に案内するまで消えないらしいからなんとか辿り着いてほしい。



「……上手くいくかはわかんないけど、原作ストーリーが始まるまでぼっちよりはマシだよね」


「そういうものなのか」


「いやぁ、私の打算とエゴだけどね」


 優しさというには打算に溢れてて、計略というには情に流されてる。


 仲間を増やす準備を、戦う準備をしておいて殺す覚悟はない。


 自分が生んだ愛しいキャラクターなのに、チートを持っている筈なのに、守れるほど強くない。



「凄い中途半端だよね」


 なんとも弱気で卑屈な私のコメントにラフィちゃんは宝石のような綺麗な瞳を細めて



「それがマリアの物語だ」



 と微笑む姿はまさに神様だった。





 それから少し、やっとゆっくりラフィちゃんとお話をすることができた。


 やはりというかなんというか、ラフィちゃんは人としての感情も常識どころか自我も薄かった。


 情操教育でよく話される絵本を口頭で話してみては『きつねは何故そんなことをした』とか、『その鬼はなぜ退治されるんだ』など実に可愛らしい返事が返ってきた。


 今度この世界の絵本を買ってもらおう。



 ラフィちゃんに人間的感性を与え、情操教育をする。


 主人公のヒロインと創造主が仲良いなど今まで考えたことも無かった。


 少しこの世界の続きを見てみたいと『外の私』は思うんじゃないかな? と打算的な私はまた少し自分を皮肉った。




「また何かあったら呼ぶと良い」


「うん、ありがとう」


 ラフィちゃんに許されたような気分になって私は爽やかに見送った。


(また癒されたいときに呼んで翼もふもふさせてもらおう)と、上機嫌で元気に部屋を出た。




 が、



 この後、天が光ったと思ったら次は大地まで光出し、「創造主ラフィエル様からのなんらかのメッセージだ」と教会に駆け込み懺悔する者や自首する者が増え、


 今回の天啓の解釈戦争が激化していると聞き「気軽に力を使わせたらヤバい」と考えを改めた。


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