070 対ヴァンデミーア戦1日目
◇
一方、ミレージュ国境街に布陣した軍3万だが、セントーラにいるマリアの為に電撃戦を強いられることになる。
そのため、防衛ではなく、外に出ての野戦勝負を仕掛けなければならない。
外門前に陣を構え、ヴァンデミーア軍を待ち構える。
偵察を終えたフィンスターが敵の様相などを報告する。
「ヴァンデミーア軍は非常にスタンダードですね。陣も基本形だし、力押しでゴリ押すつもりのようです」
ヴァンデミーア軍は約5万。確かに数で押せる数字ではある。
「前線の者は降伏した軍の兵を集めた、殆ど肉壁要員ですね」
「むごいが明日は我が身だ。全力で潰すぞ」
「ある意味マリアがいなくて良かったのかもしれねえな」
「確かに」
こんな状態なのに可哀想だから助けたいとか言いかねない。
流石にマリアもこの状況で舐めプはしないが、周囲からのマリアは、ひたすらに慈悲深い聖女だった。
「早々に潰走してほしいこちらとしては一発目でとにかく士気を削ぐ必要がある」
「舐められているうちに最初から全力で叩き潰す」
ゼルギウスは王の威厳に満ちた顔でギンっと敵を睨みつける。
「だが今回はマリアがいない。ポーションはあるとはいえ即座にマリアほどの回復量は見込めない。死にそうなものはすぐに下がるように徹底させろ」
生きていれば欠損していようが死にかけていようがマリアが治してくれる。それが士気の向上にも繋がるのだ。
「しかしマリアの支援魔法がないのは地味にキツイな」
こちらの作戦を立てているときに痛感させられた聖女不在という痛手。
しかしそれを押してでもセントーラはマリアに任せるしかなかった。
「基本陣で寄り集まってくれてればくれてるほど魔法を当てたときに被害が甚大になる。何処に撃てばより効果的か手に取るようにわかる配置だな。楽しみだ」
ギルヴィードは空中から見てレヴィンが描いた配置図を見て不敵に笑った。
「ヴィードの大隊は基本後衛がメインだからな、あまり出過ぎぬようにしてくれ」
「あぁわかってる」
ギルヴィードは魔法隊を主に集めていた。
レヴィンに左翼、エリウッドに右翼を任せ、防御重視のカムイに受け止める中央を任せた。
その奥にはブリザベルトがスキル『大将軍』で指揮塔となりゼルギウスと共に控え、その後ろにギルヴィードなどの後衛部隊という配置となる。
「背後は守るべき街だからな、後ろを突かれないというのはありがたい」
今日は受け止めるのは全てカムイ隊で、そこから引いて両翼で囲んで混乱をさせある程度を潰走させていく作戦となる。
「今日の出方によって明日の陣形も考えなくちゃいけねえが……」
ここでピピピと音がなる。
シャルルの作った魔通信機だ。
『こちらセントーラ。交戦開始しまシタ。今のところは計画通りデス』
この日の為に試運転がてら投入してみたが、感度は良好のようだった。
「早いな」
さすがは零番隊の機動力といったところか。
「足止めしたい方が行動が早いとは、困るな」
「マリアがどれだけ耐えてくれるか……」
『ありがとうございますシャルルさん。引き続きなにかあったらお願いします』
通信は慣れたシャルルと連絡役のフィンスター本体が持っている。
そしてそれぞれの大将にも持たせている。上手く連携が取れればめっけもん、というところだ。
「こっちもあっちを待ってやる義理はない。さっさと開戦と行こう」
引き締まった顔でゼルギウスは各々に指示を出していった。
「なあギル……、なんでオレたちこんな後ろの方なんだ?」
「オレが打たれ弱い魔導士だからだよ」
サラリと流しながらギルヴィードは戦闘服に着替える。
「でも、総力戦なんだろ? オレ前衛だし、オレも前衛で戦った方がよくないか?」
リルムの魅力の効果は大きい。
敵に魅了を当てればマリアがいなくともそこそこは混乱させられるだろう。
しかしそれと共に敵から大きなヘイトを生む。
国民的アイドル並の有名人であるリルムは直ぐに覚えられ集中的に狙われる可能性が高い。
「それよりもオレのチャージ役の方が役立つからだ。オレを守る為にここに来たんだろ。ならオレの近くでチャージ要員やってろ」
「戦闘はなにがあるからわからないから、護衛はいるに越したことないよ。ね?」
フィンスターにもなだめられ、一方的に言い負かされてしまった。
「でも元はといえば……」
自分のせいという罪悪感が抜けないリルムは役に立ちたい一心だった。
「オレのチャージ役もおめえにしかできねえ立派な仕事だ。おめえの分まで殺してやるから安心しろ」
そう言ってギルヴィードはリルムの頭をポンポンと叩いた。
新兵から異例の昇級を見せ、今回が活躍の見せ所だというレヴィンの顔は浮かなかった。
「レヴィン殿」
「ベルグの旦那」
輜重隊として自分の元部下と参戦してくれた気骨のある商人、ゲルベルグに呼び止められる。
「よろしければこれを。マリア神からです」
「? なんだこれ……これは!?」
レヴィンは紙をみてゲルベルグを二度見した。
「フィンスター殿にまとめていただいたヴァンデミーア側の参戦貴族一覧だそうです」
マリア神がレヴィン殿が気を病んでいたら渡せと言われておりました。とゲルベルグは言う。
レヴィンは一心不乱にその一覧をみる。
どこにもマーカチス侯爵の名は入っていなかった。
「兵糧を多く納めることで兵役から逃れた貴族もいるとのことですので、ヴァンデミーア全貴族というわけではないようです」
レヴィンは先程までの気の病みを無くして胸を撫で下ろしていた。
「……あぁ。感謝する。……しかし、なんで俺が気にしてると思ったんだ?」
「前にいた時はヴァンデミーアにいたと聞いておりましたからな。マリア神がなにかの役に立つかもと用意しておったみたいです」
本当は全てをわかっているゲルベルグだが、自分が言ったら怪しく見えるのですべてマリアの奇跡とした。
「ヴァンデミーアも一枚岩ではありませんからな。なにか心配事があるようでしたら一度訪ねてみるのも良いかもしれません」
「……そうだな」
言質をとったゲルベルグの目はキランと輝いていた。
どんないかなる状況の場でも自分の利を大切にする。商人の鑑である。
そわそわと落ち着かないカムイにエリウッドは話しかけた。
「姫様のことが気になってるの?」
エリウッドは原作ではヒロインのことを「聖女様」と呼んでいたが、カムイにかぶれて「姫様」と呼ぶようになっていた。
「エリウッド……」
カムイは強張った顔でエリウッドを見た。
「いや、姫はお強い。きっと大丈夫な筈だ。しかし、姫の為に俺が出来ることは目の前の敵を一刻も早く潰走させること……」
「ちょっとー、作戦はカムイが一回当たって奥まで引き付ける係なんだからね~?」
エリウッドがカムイの先走りを指摘する。
「わかっている! ……エリウッド、悪いが一発俺を殴ってくれ」
「え? いいよ」
エリウッドは殴る専門のキャラクターの為、殴りがとても痛い。
ドゴォ!と鈍い音が辺りに響くほどの力で容赦なくカムイを殴った。
しかしそれでも立っていられるのは、さすがの防御力を誇るカムイならではだった。
「有難う。目が醒めた。俺は姫の為忠実に任務をこなし一刻も早く潰走させる!」
「それあんまり変わってないけど~。まあいっか。頑張ろうね」
二人は腕をガツンとくつけてそれぞれの配置についた。
開戦の合図はギルヴィードの初撃となる。
『ヴィード、始めてくれ』
「わかった」
通信を切って、いつもの外門上で魔法を展開する。
ギルヴィードの一撃は重い。
オーバーキルになってしまう為、威力は抑えめで射程は長く。数重視でいく。
リルムがいるためほぼ魔法が撃ち放題だ。ギルヴィードの顔が凶悪な笑顔になる。
先程陣形を見た時にねらい目だと思った箇所5か所。
フィンスターから聞いた貴族が布陣しているエリアだ。
肉壁をいくら殺しても意味がない。頭を取ってなんぼだ。
「そこだッ」
狙い通りのところに魔法が飛び、迎え撃つ魔法も虚しくはじき返され綺麗に狙ったところで爆発する。
「今だ! 突撃ー!!」
エリウッドとレヴィンの両翼が端から攻撃を始める。
貴族軍は混乱しながらも前進の命令通り進んでいく。
混乱しているので中央に集められていく誘導には気付かない。
カムイの盾兵が攻撃を受け止め押されるように後方に下がっていく。
相手は数の有利を言い聞かされているのだろう。下がっていく兵に調子を良くして進んでいく。
その間にも相手からの魔法攻撃が飛んでくるが、シャルルがギルヴィードからもらったマリアのデータを見て製作した、防衛用の対魔法バリアを各所に配置していた。
新しく出来た『魔法バリア部隊』により、魔法攻撃はかなり防げていた。
魔法バリア兵はスピンオフの主人公のように「MPはあるけど魔法が使えない」という残念な人が使える『MPを消費して使う魔導具』で、今まで役立たずだったMPだけ持ちの人間がシャルルの魔導具により一気に花形となった。
じっくりと敵を誘い出している後ろでギルヴィードはヴァンデミーア軍奥の総大将に射程の長い魔法で圧力をかけていた。
「ビビッて逃げてくれりゃあこっちのモン……」
「ひゃっギルっ! ん……っ」
ギルヴィードはリルムを引き寄せてチャージがてらにキスをした。
「ぎ、ギル、やっぱりオレ……こんなところでイチャイチャしてていいのかって……」
いや、嬉しいんだけど……とギルヴィードの腕の中でそわそわとするリルム。
そんなリルムに軽くデコピンをして
「おめえがオレのことを好きでいればいるほどMP回復が早くなんだよ」
だからおめえはオレのことだけ考えてろ。と言われたリルムは真っ赤になって「うん……」という他なかった。
リルムの能力は秘密事項の為、隠れた場所でやっているだけまだ被害者は少なくて良かったのかもしれない……。
ノリノリで攻めていたヴァンデミーア軍は両翼に退路を断たれ、包囲されていたことに気付いたときには遅かった。
包囲内はパニックになり、カーグランド魔導士兵から魔法の嵐を浴びた。
ギルヴィードの牽制により救援部隊の指揮系統も混乱していて動けず、包囲された兵は続々と投降していった。
投降してくるのはほぼ貴族で、平民は死に物狂いで戦っていた。
「前線部隊は壊滅と言って良いだろう」
数はまだヴァンデミーア軍の方が有利かもしれないが今回でかなり士気の差がついた。
「ギルヴィードさん。捕えた平民に聞いたところ、家族などを人質にとられているみたいで降伏や逃亡する兵が少ないのはそれみたいです」
「むげえな……」
リルムは顔を顰める。
「だがそうなると少し長期戦になりそうだな」
今日コテンパンにしたところで逃亡兵は少ないだろう。
「ただマリアさんの言った通りこちらの軍は随分とお粗末ですね。対密偵用の魔導具もなにもありません。次は奇襲で攻めるそうです」
フィンスターにはどんな作戦も筒抜けだった。
「やっぱり今回貴族に一番圧力をかけてたギルヴィードさんが一番怯えられてましたね。一番倒したい相手として挙がってました」
「じゃあ次はオレを囮にして囲って殴るか」
敵の作戦を完膚無きまでに崩すと一気に士気が下がる。
更に読まれているとわかると恐怖すら抱かれる。
「そ、そしたらギルが危ないじゃねえか」
「雑魚にやられるほど落ちぶれちゃいねえよ」
心配するリルムの頭をぐしゃぐしゃとしてフィンスターの影を連れて会議に行った。
「エンジェル! ミレージュ戦は予定通り圧勝したとのことデス」
「ほんと!? よかったあ」
杖を持ったままの私にシャルルは近付いてきてミレージュの近況を教えてくれる。
「しかし逃亡兵などは期待出来ナイようですネ。貴族の肝胆を砕いて下がらせないと厳しいみたいデス」
「長期戦か……でも今遊んでる零番隊があっちに応援に行ったら詰みだから、連絡とりあってないようでよかったよ」
今零番隊はやっぱり交代制にして波状攻撃を仕掛けてきてる。
私を疲弊させるつもりなのだろう。
さすが参謀にノアストティが付いてるだけある。一番いやな攻撃してくるよ~。
おかげ様のチート性能で私はご飯を食べてもトイレに行ってもお風呂に入ってもバリアが張れる。
流石に眠ってる時は無理なので眠らなければ勝ちなのだ。
しかし……
「あっちが潰走して零番隊はいつまでここにこだわるかだな……」
一応予定としてはヴァンデミーア貴族軍を潰走させたらそのまま全軍セントーラに応援にきて数千の零番隊を蹴散らしてくれる予定でいる。
零番隊には数の暴力でなんとか帰ってもらうしかない。
特に隊長ジークベルト。あの人だけは本当にやばい。
仲間にならないからってかなりチート性能なのだ。
なんとかみんなが無事この戦闘を終えられるよう、私は力を込めた。




