068 聖女包囲網
「ぱぱ」
家に帰るとメルフィアちゃんが喋れるようになってた。
「なんでよりによってパパなんですかー!!」
ずるいー! とギルヴィードおじ様に叫ぶ私とフィンスター。
「わ、悪い。こんな言葉教えたことねえんだけどよ……」
認知されていないのにパパと呼ぶメルフィアちゃんに焦るリルム。
「ぱぱー」
ふわふわと飛びながらギルヴィードおじ様に突進していく。
リルムに似たのかなんなのか……。
ギルヴィードおじ様はため息をつきながら、自分の膝に乗るメルフィアちゃんを転がした。
「……別にここだけだったらバレねえし好きにさせときゃいい。物心ついたらやめるだろ」
「ギル……」
「ぱー」
ギルヴィードおじ様の気持ちを理解するとおじ様がクソ甘すぎてスリッパで殴って「早くなんとかして!」って怒りたくなってしまう。
二人をみてもだもだしていたらフィンスターの影が飛んできて、私と同じく微笑ましく見守っていたフィンスターの影の中に一体化する。
それと共にフィンスターがハッとした顔になり、険しい顔で報告をした。
「ヴァンデミーアが侵攻を開始したようです」
「!」
今いる全員に緊張が走った。
「な、なんでまた急に……!」
「侵攻方向はモノリス国とアリアーナ国……直線状にカーグランドがあります」
前回のノアストティの件から見るに、目標はカーグランドであることは想像に容易だった。
「ゼルにも報告しに影を飛ばせ」
「はい」
ヒュンっと一つの影がフィンスターから離れていく。
「ヴァンデミーアが……」
十中八九ノアストティが仕組んだことだろう。
「侵攻理由は、やはり世界を一つにすることで魔物がいなくなるという大義を果たす為という名目です。貴族の血を強く引いているヴァンデミーアこそが統一するに相応しいと」
「建前はそうだとしても、ヴァンデミーアの狙いは聖女だろうな」
零番隊だけではなく、聖女というエサで貴族の本隊も動かしている。
そして、零番隊……ノアストティの真の目的はリルムだとは忘れさせたがカーグランドにいることが確定したサキュバス。
「ヴァンデミーアを丸め込んで、攻めさせてくるなんて……!」
さすが最恐集団零番隊のブレインだ。
「元々ヴァンデミーアの周りには中小国ばかりでした。殆ど太刀打ちできないはずです」
「カーグランドまで攻め入り混乱に乗じてサキュバスを捕まえるつもりか」
「先鋒は、やはり零番隊だそうです」
「零番隊が来られたら中小国なんて一たまりもないですよ」
降伏する国も多いだろう。
リルムはギルヴィードおじ様の腕にぎゅうと抱き着いていた。
「こりゃあ……確実にカーグランドに攻め込んでくるな」
「数でも強さでもウチじゃあヴァンデミーアには100%勝てませんよ……」
相手は大国で、他はどうにかなるとしても脅威の零番隊がいる。
「……お、オレがそっちの国に行けば、回避できるのか……?」
リルムがおずおずと質問する。
「…………」
……確かに、相手の狙いはリルムだ。
秘密裏にノアストティに渡したら便宜を計ってもらえるかもしれない。
「……もう始まった戦だ。渡したところで本当に約束してもらえる確証はない」
ギルヴィードおじ様はバッサリとリルムの意見をなんでもないように一蹴して「ゼルのところへ行ってくる」と転移していった。
多分、ゼルギウス陛下にも同じ説明でサキュバスを渡して回避するのを止めようとしてるんだろう。
「マリア……」
不安そうな顔のリルムに私は両肩に手を置いて
「大丈夫! このためにずっと用意してたんだから!」
聖女さまに歯向かったこと、後悔させてやるわ! と大見栄きって安心させた。
とりあえずカムイに迎えに行くから荷物をまとめとくよう魔法伝書鳩を送った。
ゲルベルグさんの頼みはまた今度ね! ごめん!
お祖父様への連絡は私が行ったほうが良いだろうと私が転移して説明をした。
「ザックベルと講和している今、ベルドリクス領に不安はない。大体の兵は持っていけるはずだ」
旧知の仲の者にも連絡できるように文を書こうと言ってくれたが、私は無限転移が出来る。私が直接お祖父様を連れて周ったほうが良いだろう。
「勝手に動くのは非常事態のみだ。今はまず陛下に指示を仰いでから動く」
さすがお祖父様。国への忠誠心は変わりないようだ。
私はお祖父様を連れてゼルギウス陛下とギルヴィードおじ様のいる部屋へ飛んだ。
「父上も連れてきたのか」
「陛下、ベルドリクス軍は大体が出陣可能です」
「ブリザベルト、助かる。俺からもザックベルには講和の強化を頼もう」
「お祖父様の旧知の仲の貴族に兵の協力を頼めるかもしれないとのことで、私がお祖父様を運んで巡ろうかと思うのですが」
「そうだな、兵を集めるのは早い方が良いだろう。兵糧も頼めそうなところはあるか」
どんどんと話を詰めていく。
準備はしていたとはいえ、時間との勝負だ。
「ヴァンデミーア近くの国境領土は二つある。モノリス国とアリアーナ国、どちらから来るかだが……」
「平民が率いてる零番隊と貴族が率いる他部隊は仲が良くなく、別々に来ると思います」
「二つとも落として各個撃破で来られたら……厄介だな……」
チッとギルヴィードおじ様が舌打ちする。
そう話していたら影のフィンスターがもう一人やってきた。
本体はリルムを置いていくわけにはいかないのだろう。来ていない。
「お話中すみません。クレルモンフェランと魔人連邦ガノンの兵も動き始めました」
「なんだって!?」
クレルモンフェランは友好国という名の属国サンドール国を通って、カーグランド付近に。
魔人連邦ガノンも同盟国を通ってカーグランド付近に陣をとるようだ。
「『ヴァンデミーアから聖女様をお守りする』というのがクレルモンフェランの名目で、ガノンはそれの阻止の為に同じ名目を上げ、陣を構えるそうです」
や、やられた……!!!!
完全に聖女包囲網だ……!
「……どこの手をとるか……かなりの難問だな」
ゼルギウス陛下は顎を撫でた。
ここでカーグランドが助けを求めたらその国の属国になり、聖女を好きにできるようになる。
求められなくてもカーグランドが潰れた後、ヴァンデミーアから助ければ聖女を自然に自分の国のモノにできる。
漁夫の利を得ようという考えの大国が二つも待ち伏せしている。
「そんな三国がカーグランドで大混戦なんて起きたら……」
「カーグランドが全面戦場になる……!」
全員の顔色が悪い。
聖女が喉から手が出るほど欲しい人材だっていうのはわかっちゃいたけど……
「これはえぐい……」
「ヴァンデミーア国王も「聖女を手に入れれば天下も夢ではない」などとそそのかされてカーグランドに攻め込む気ではいるでしょう」
「零番隊の目的はサキュバスですから、聖女はエサなわけですけど、とんでもない導火線に火を付けて行きましたね……」
ノアストティめ〜〜……!一手でカーグランドがなんとか舵を取っていたバランスを思いっきり崩すなんて……本当に敵にしたくないよ……。
「そのうちクレルモンフェランやガノンから『救援してあげようか?』みたいな書状がくるだろうな」
くそ〜〜っ!そんな奴に助けられたくないぞ!
どう返せばいいのか……ひたすらオロオロするしかない。
「待て、一先ずシンプルに考えてみろ」
お祖父様に言われて焦りに支配されかけた場は一旦落ち着きを取り戻した。
「クレルモンフェランとガノンは漁夫の利を得に来ただけだ。名目上は害意はない」
「確かに……私たちが勝てれば良いんですよね」
「なら敵はヴァンデミーアのみ。我らだけで勝てそうか?」
「数にもよるが……多分兵の数なら倍は差があるだろう」
「別々にくるということはこちらも分散させないといけないだろうしな」
「それに少数ですが物凄く強い零番隊がいて、まともに当たったら一たまりも……」
片方は貴族主体の数だけが多い部隊。もう片方は物凄く強い零番隊……。
「………………」
私はハッと閃く。
「あのっ!」
「数が多くても弱いのなら、カーグランドの全兵力を分散させず、その貴族部隊だけに投入したら、勝てますか?」
「……どういうことだ」
お祖父様は引退していた軍人伯爵の顔で私を見た。
「皆さんが貴族部隊と戦ってくれてる間……」
私は意を決したように言い放つ。
「私が零番隊と戦います」




