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067 特別名誉侯爵

 ◇


 ノアストティは考えていた。


 自国ヴァンデミーアに気付かれずにサキュバスを手に入れる方法を。


 隠密作戦は失敗した今警備はきつくなっているだろう。もう使えない。


 標的もぼかされてしまった今、なにを狙えばいいのかもわからない。



「残る方法は…………やっぱり荒事しかないな」



 平民の零番隊に似つかわしくない上物の服を着てノアストティは社交界へ向かう。



「副長! また社交界行くのか? お貴族様は大変だねえ」


「まあな。お前らのメシ代稼いでくるからイイ子で待ってろよ」


 色男は女だったらクラクラと来てしまうような甘いマスクでフッと笑う。


「ヒュー! 頼りになるぅ!」



 酒盛りしていた隊員は「あ」と一応形式上薦めた。


「副長も酒飲んでくか?」


 軍にとって酒は貴重だ。上官が優先される。


「いや、それよりもっと上物のを飲めるんでね。俺の分は残さなくていい」


「流石太っ腹ァ!」


 ノアストティは実は酒に強くない。


 なので酔い防止の状態異常無効の魔導具をもって社交界に挑む。



 ノアストティは部下たちからのエールも程々に、社交界に行く無駄に豪華な馬車に乗り、一人ため息をつく。


「…………酒も女もどこがいいのか、さっぱりわからんな……」


 そう、馬車の中で独りごちた。






 ◇







 私とギルヴィードおじ様はそのほか、ベルドリクス領で変わったこと、困ったことはないかとお祖父様とお祖母様二人に聞いていた。


「そうだな…………確かに移民は増えたが、首都ほどごった返してはいない」


「ベルドリクス領の限定品が欲しくて観光客が増えたから、マリアが企画した観光客用のツアーを組んだり農業やお酒作り体験をさせたりして活性化はしてきたかしら」


 おおっ! 私が軽く言った意見を取り入れてくれていたのか。



 ベルドリクス家は機を見るに敏だ。


 ペロっと言ったことをしっかり理解して実行してくれる。



 リルムちゃんベルドリクス領バージョンも人気みたいで良かった。


 幸いカーグランドは小さい国だから首都からベルドリクス領まで他国領ほど遠くはない。


 バスツアーならぬ馬車ツアーの送迎があれば更に行きやすいだろう。


 今度の『月刊リルムちゃん』では、それを広告として載せてみるか……などとお祖父様に提案していた。



「あとはそうだな……特に関係のない話だが、土地が疲れてきている」


「連作障害とかですか?」


「対策はしているんだが、どうにも限界というものがある」


 この世界には肥料という概念はあるが全快させるほどの効力はないらしい。


 これはどの国も起こる共通の悩みだそうだ。



「マリアは回復魔法が使えるのでしょう? 土地を回復することとかは出来ないの?」


 シルメリアお祖母様の発想は詳しくは無いが故に実に自由だ。


「えぇ!? それはさすがに…………やったことがないので…………」


 原作ゲームは農業シュミレーションではない。なのでそんな設定はどこにもない。


「……………………」


 ギルヴィードおじ様はちょっと考えた風にして


「ちょっとやってみたらどうだ」


 と提案してきた。




 問題の畑を前にして、私はイメージを膨らませていた。


 応用魔法の変則版といいますか…………人ではなく土地を回復。


 土地ということはエリアヒーリングがいいのだろう。浄化というよりは栄養を戻すような……元気にするイメージで良いのだろう。


 一区切りの農業場を意識して回復魔法を祈る。



 一帯の農業場が光につつまれ、おさまる。


 そこの農業場の地主が恐る恐る土を確かめた。



「ど、どうですか…………?」


「す、すげえ…………さすがマリアお嬢様です! かなり良くなってます!」


 ワッ! と湧く村人たちに次はウチの畑もとせがまれる。




 その大盛況ぶりに、私は嫌な予感がしていた。


「…………も、もしかして、これ、聖女を欲しがる理由マシマシになってません?」


「今更増えたところで然程変わらんだろ」


 戦争が終わって怪我人が減っても引く手数多だぞ。よかったな。と、さらっと言い放つギルヴィードおじ様に嵌められた!としてやられた気持ちになった。


 これは病院巡りにプラスして農村巡りまで政務にプラスされるな……と内心ため息をついた。


 ブラックだ! 昇給! 給料を所望する!









 キリの良いところでMPがなくなるとうそぶいて帰ってきた。


 ふえー疲れた~。


「マリア。おかえり」


「ラフィちゃん!?正式に玄関からくるなんて珍しいね」


 人間の姿をしたラフィちゃんが屋敷の客室に通されており、出迎えてくれた。


「人の家にお邪魔する時はこうやって入るのだと学んだ」


「ああ成る程」


 旅を経てラフィちゃんも色々学んでいるようだ。


 ラフィちゃんは勝手知ったる我が家のようにくつろいでいる。



 ……そんなラフィちゃんの横で使用人たちはブルブルと頭を下げたままだ。


 いきなり客人で創造主がやってきたらビックリだろう。ごめんな。





 ラフィちゃんの分の夕食を用意させ、ギルヴィードおじ様と三人で夕食を食べる。


「これはどういう料理なんだ?」


 ナイフとフォークなどが沢山並んだ様子を不思議そうに眺める。


 旅で出会った普通のご家庭ではフォークやスプーンで事足りるだろうし、こんなにかっちりした場所には会わなかったのだろう。


 それにラフィちゃんは特に食べ歩きのお店を愛していた。


 食べ歩きながら綺麗な景色を眺めるのが旅の醍醐味なのはとてもわかる。


 そんなわけでB級グルメばかり食べていたのであろうラフィちゃんは、テーブルマナーがボロボロだった。



 あとでテーブルマナーを教えよう……と胸に誓いながらギルヴィードおじ様が説明する料理に私も耳を傾ける。


「美味い」


 子供のようにフォークを握った手で料理を頬張りながらラフィちゃんは黙々と食べ続けた。


 無表情ながらも喜んでいるオーラを感じる。



「有難うございます。我が家のシェフも喜びます」


 ギルヴィードおじ様もさすがに創造主にべらんめえ口調は出来ないのだろう。貴族対応だ。



「お店で売ってる料理とはまたちょっと違うでしょう。こういう場所だと食べるときの勉強をしとくともっと美味しく食べられるから、あとで教えるね」


「そういうものなのか」


「私も覚えるまで大変だったけど、ラフィちゃんならすぐ覚えられると思うよ」




 和やかに食事をしながらラフィちゃんの話を聞く。


「そういえば今日は東門前のクレープを食べていたら王宮に呼ばれた」


「王宮って、カーグランドの!?」


「そうだ」


 なんでもラフィちゃんお気に入りのお店の前で兵士たちが張っていたらしい。おつかれさまだ……。



「国章を渡す代わりに特別名誉侯爵として爵位をもらってほしいと言われた」


「特別名誉侯爵!?」


 なんだそりゃ!?



「……人間の姿だと扱いが難しいですから、ある程度の爵位が必要なのでしょう」


 ラフィエル様が構わないのならもらっておいた方が、他の国に行くときも楽かと思います。そう考えるようにギルヴィードおじ様は言った。


「確かに形式的にでも他国の貴族って言ったら下手な扱いはされないでしょうし、最近問題になってる偽物詐欺にも対応出来ますね」


 控えていたフィンスターが詳しくメリットを説いた。


 まだ人間世界に疎いラフィちゃんは「どうしたら良い」と私を見てくる。


「もらっといた方が良いよ。めんどくさくなったら返せばいいし」


「そうか」


 でも……その前に……


「でもその前に授爵式のパーティマナーとか覚えないとですね」


 フィンスターはさらりと言いづらい大事なことを言ってくれた。



 ラフィちゃんはめんどくさそうな顔をしている。そんな顔も出来るようになったのね。


「返す」


「早いよ!」


 綺麗にツッコミをする私に、まあまあとフィンスターがとりなす。



「ラフィエル様は万物を記憶する力があるんですから覚えたら一瞬ですよ。あまりにも失礼な人がいたら灰にすればいいだけですし」


「なるほど」


「物騒だよ!!」


 力があるとつい力技になってしまうのは悪い癖だ。



「ラフィちゃんは人間として人間の世を楽しみたいと思ってるんだから、楽しめるようにしないとだよ」


 まあラフィちゃんに下半身見せてくるようなヤベー変質者とかが出てきたら灰に変えちゃってもいいけど。







 ◇





 カーグランド王族主催のパーティが開催され、なにか発表でもあるのか? と貴族たちは訝しんだ。


 目下の注目のネタは新ベルドリクス伯爵、ギルヴィードをどの娘が落とすのかという話題だ。


 一番ありそうな王家の年頃の娘は全て婚約済みであり、聖女であるマリアは姪。



 今の王の右腕とも言われている……カーグランドの経済を押し上げる為の事業も大成功した、国にも金を貸せるほどの大金持ちギルヴィードに釣り合う娘が全くいない現状、令嬢からしたら玉の輿に乗る大チャンス。


 令嬢の父としても、ギルヴィードと縁談がまとまれば聖女のマリアともお近づきになれる。



 またとない破格の大チャンスなのだ。


 ギルヴィード争奪戦は水面下で蹴落とし合いは当たり前、大乱闘状態になっている。




 しかしそのギルヴィードはいつものように何食わぬ顔で参加している。


 どうやら彼が議題ではないらしい。


「いつもならギルヴィード様は姪のマリア様をエスコートして参加してらっしゃいますのに今日はお一人……」


 まさかマリアに関することか……!? と、ざわめいた。



 マリアはその清らかな外見と心優しく聡明な性格から民からも評価が高い。


 しかし創造主ラフィエルの愛を受けており、そう簡単には落とせない城塞になってしまった。



 その難攻不落の城塞を落とした猛者が現れたのか!?


 他国にマリアが行ってしまったらカーグランドの聖女の特権が無くなってしまう。


 だからと言って他の貴族の家に行ってしまったらカーグランド内の勢力図も大きく変わる。


 一同は外目は笑顔ながらも緊張が走っていた。




 マリアが現れないままゼルギウス王が現われ開催の挨拶をする。


 それと共になにか発表があるであろう……貴族たちは真剣に聞き入った。


「そして――……我が国に特別名誉侯爵として新たに侯爵家を作ることとする」


 予想外の話題にざわっと騒めく。そんな話聞いたことがない。



「王よ、それは……元居る貴族を昇格させるというわけではなく、新たに作るということですか」


「そうだ」


「平民をいきなり侯爵に!?」


「ありえない……!」



 ただの平民がいきなり自分たちの目上になるのだ。


 あまりにもおかしい。



 ゼルギウス王は片手を上げ、入ってこいと指示する。


 そこに現れたのはマリアをエスコートした……



「そ、創造主様……?」


 創造主、ラフィエル様にそっくりの人間だった。



 聖女マリアと共に来るということは、そういうことなのだろう。


 皆固まり、その場から動かなかった。


 野次も一切飛ばない。



 静々と王の前まで来たラフィエルに似た人間はゼルギウス王に紹介された。


「この方が今回我がカーグランドの特別名誉侯爵となるラフィ=エル様だ。彼はこのカーグランド国章を持ち、世界を巡り、見聞を広める旅に出る」


 カーグランドの国章を掲げた他にも他国の国章を掲げた。


「此方はクレルモンフェラン国よりラフィ=エル様にと名誉勲章も預かっている」


「あの宗教大国の!?」


 創造主ラフィエルを信仰する大国が、ラフィ=エルの存在を認めた、という事はつまり


「紛れもない……」



 ラフィ=エルはゼルギウス王から国章を受け取り、皆に向き変える。


「よろしく頼む」


「は、ははーっ!」


 貴族の中でもラフィエル様に似た人間が国内で食を楽しんでいたという話を聞いていた者は多かった。


 そしてそれを利用したラフィエル詐欺も。


 それに終止符を打つ為、聖女のいるカーグランドにて、身分が証明されたのだ。




「それでは、今日はパーティを楽しんでくれ!」


 そうは言われても騎士を一瞬で灰に変えたところを見たものは多い。


 貴族たちはおっかなびっくりで人間の姿のラフィエルを遠くから眺めた。




 ◇





「特に問題もなく受け取れてよかったね」


「あぁ」


 国章をもらったラフィちゃんはほくほくとしていた。



 カーグランドだけでラフィエル様を貴族に勝手にするのは良くないから、クレルモンフェランの顔を立ててクレルモンフェランからも勲章をいただいたらしい。


 更に友好国のザックベルやら他大国のヴァンデミーアなど、一連の国からも許可を得ての名誉侯爵であり、各国ラフィエル様ご本人だと申告された場合はその勲章を見せてもらうようにと詐欺防止策の御触れが広まった。


 まあでも当の本人のラフィちゃんは「よく似てると言われる」と他人のフリをしてるんだけどね。



 しかしこれでラフィちゃんの身分は世界中から認識されたことになる。


 もはやこのラフィちゃんは印籠をもった水戸のご老公様だ。



 ゼルギウス陛下の合図に合わせて音楽もなり始めた。


 しかしみんな遠慮しているのか、ダンスをしようとするものはいない。



「音楽が流れたらダンスをするものではなかったのか?」


 ラフィちゃんで完全に委縮しちゃってるな……。


 ゼルギウス陛下も踊ろうにもソフィア王妃は身重だし、まだ側室は決まっていない。



「そ、そうなんだけど、ラフィちゃんに遠慮してるのかも……」


 創造主の前で踊るのって緊張するよね。わかるよ。



 ラフィちゃんはフィンスターの言った通り、テーブルマナーやダンスなど、ほぼ一日でマスターしてみせた。


 万能な神なだけあって、めんどくさがらなければ全部出来てしまうのだ。



「なら俺と踊ろう。マリア」


「ふぇ!?」


 ラフィちゃんとしては折角覚えたダンスを踊ってみたいんだろう。


 綺麗にポーズをとって手を差し出してきた。



 さ、最高にキマってる…………!



 親バカを爆発させながらも、でもこんな大きいところで初めてダンスするラフィちゃんと二人だけで踊るの厳しすぎでは!? と混乱しながらも手をとるしかない状態なので、手をとって諦めてダンスフロアへ行く。



 周りからの目が痛い……。


 しかし社交場では常に笑顔! とお祖母様から徹底的に教えられた私は楽しそうに笑顔を振りまいた。


 音楽に合わせてダンスがスタートされる。


 最初は慣れないラフィちゃんをリードしなきゃ……と思ったのだが、



「……ラフィちゃん、これ本当に初めて?」


「あぁ」


 万能神すぎでは!?


 ほぼラフィちゃんに躍らせてもらってる状態で完全にリードしてもらっていた。



 いつもは上手にダンスしなきゃと必死になって笑顔を作っていたものだが、今は「うふふー」と回っているだけで勝手にダンスになってる。



 音楽が終わり、ストップしたところで盛大な拍手が鳴る。


 私たちがダンスフロアを出るとぞろぞろとちゃんと踊る貴族たちも出始めた。



「ラフィちゃんすごく楽しかったよ!」


 興奮のままラフィちゃんに話しかけた。


「俺も楽しかった」


 ラフィちゃんも私にいつもの微笑みをくれた。



「人は、楽しいものだな。マリア」


 そういうラフィちゃんに、私はまた笑った。


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