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065 馬鹿な娘

 

 ――つい勢いで部屋まで引っ張ってきてしまったけど、どうしよう。


 私の部屋に連れてきたリルムは放心状態だった。



「え!? 初めて見たの!?」


 ギルヴィードおじ様が令嬢に囲まれてるのも、言い寄られてるのも一つもみたことなかったみたいだ。


 あんなに言い寄られてたのに……


 見えないようにしていたのは優しさなのか、めんどくさいことになるからなのか。



 リルムには私の部屋着を貸して、一緒に寝ることにした。



 今はちょっと一緒にいてあげないと心配だ。


 ラフィちゃんも昨日出かけてくると言っていたので、今日は来ないだろう。



「なれて愛人だろうって前から言われてて理解はしてたし、覚悟は決めてたつもりだったんだ」


 それで夢見がちな幸せな世界しか描かれないロマンス小説を読むのをやめた。


 リルムは大好きなロマンス小説よりギルヴィードおじ様をとったのだ。



「さっきのコ、本当に本のお姫様みたいな子だった」


 確かに綺麗なドレスにツヤツヤの髪を綺麗に巻いて、令嬢然とした恰好だった。


「ああいうコがギルのお嫁さんになるコなんだなって、オレ、無理なんだなって」


「リルムだって可愛いよ!」


 それこそ世界中がメロメロになるくらいに可愛いんだよ!!



 リルムは緩く顔を振った


「……サキュバスは、男を惑わす為に人間の男好みに可愛く作られてるんだって」


 震えて泣きそうな声で絞り出すように言う。



「だから、オレはお姫様じゃないんだ」


「ギルのお嫁さんになるのはオレみたいに口調も荒くなくてさ、ダンスも出来て、そう、マリアみたいな」


 リルムは私を見て笑った。


「……マリアみたいになれたらいいのになあ……」



 私は返す言葉がなかった。


 この子は親友キャラの没で悪役キャラになった子で。


 (ヒロイン)の引き立て役だ。



 国中に追い掛け回されたり


 逃げて数年隠れて生活したり


 捕まればひどい目にあわされる家畜扱いで


 隷属させられて素材として商品として搾取されつづけて


 恋した相手は伯爵でいい様に使われて


 サキュバスだから恋愛体質だからと恋心も否定されて


 家畜だからと愛人になるだけで精一杯



 何度も私は心の中で大なり小なり「私がリルムじゃなくてよかった……」と無意識に何度も思ってた。



 不幸がおきる度に、リルムは自分の不幸を呪ってはいなかったのだろうか。


 マリアみたいになれたらって何度も思ったんじゃないだろうか。


 私みたいな存在が近くにいて、苦しくはなかったのだろうか。





 一緒の布団に入った私に申し訳なさそうに言う。


「あのな、今マリアが連れだしてくれたのに凄くギルに会いたいんだ」


 リルムは悲しそうに笑いながら私に言った。


「最近会ってなかったからスゲー腹が減っててさぁ」




「……これが食欲なのか恋なのかもオレ、わかんねえんだ……」


 こんなんじゃサキュバスだからって相手にされなくてもしょうがねえよな。と笑うリルムを抱きしめた。


「恋だよ! サキュバスはきっと……恋で生きてるんだよ!!」


 必死に言う私におかしかったのかリルムはクスクスと笑ってくれた。





 それから私たちはとりとめのない話を色々とした。


 軍役中の面白話だったり、あのフィンスターがドジっ子なことをした話だとか。


 でもやっぱりギルヴィードおじ様の話がどうしても多かった。



「マリアはまた呆れるかもしんねえんだけどさあ、ギルもオレのこと、結構気に入ってくれてると思うんだよな」


 ギルヴィードおじ様がこんなことしてくれたとか、そんな話をしているリルムはどうしても幸せそうで私はうんうんと聞いていた。




「……なあマリア、オレ、最近身体が変だなって思ってたんだけど」


「え? 大丈夫なの? 私で治せる?」


 なにかあっただろうか、リルムになにかあったら辛いよ。



「いや、多分そういうのじゃなくて……」


 言いにくそうにもごもごとリルムが言う


「多分……今、子供を作れる身体になってると思う」


「ええ!?」


 私は布団の中からガバッと起きた。



 えっ!? サキュバスの妊娠方法って……


「MPを全部使って気に入った男の種を産み落とすんだ」


 回復するまでなにも出来なくなるけど、人間と違って食事が出来なくなるので一瞬で孕んで産む。


「身体がギルの子供を産みたいって言ってるみてえで……」


 茫然とする私に気まずそうにリルムは言った。



「認知はしてもらわなくていいんだ。どうせサキュバスはサキュバスしか産めねえからさ。ただ、許可はねえとダメだよなって思ってさ、ほら、サキュバスが増えるわけだし」


 私はクラクラした。リルムが更にシングルマザーになってしまうのか。




 リルムの見た目は永遠の18歳で未だに変わっていない。


 いや、サキュバスは気に入った男の好みに合わせて姿形を変えれるから、もっと年上の女性になろうと思えばなれるんだろうけど。


 それが更に背徳感に拍車をかけていた。



「多分、オレが頼んだら言い負かされちまうと思うからさ、マリアも協力してくれねえか?」


「で、でも……」



 子供って……!


「普通サキュバスは女手一つで育てるのがフツーらしいし、人間ほど手もかかんねえから」


 人間みたいに長い期間無防備な状態が続く動物は少ない。


 サキュバスも食事の都合上、早めにそれなりの見た目になるようだ。




「子供が出来たら……ちょっとは繋がってる気分になれるっていうか……頑張れるような気もするしさ」


 ううっ! ダメだ! 私にはもう応援することしかできない!!


「……サキュバスは絶滅危惧種として認定されてるから、子供ができるのは喜ばしいことだと思う。カーグランドの国益にもなるし……そのあたりを押していけば承認はしてくれるかも……」


「なるほど! マリアは頭がいいな!」



 ニコニコと笑うリルムが照れながら私に言う。


「やっぱりギルが好き。オレは恋愛体質みたいだから、ギルが好きな気持ちそのままでいいんだと思う」


「……そうだね! 私もそれでいいと思う!」


 私はグッとリルムの手を掴んだ。リルムが今を幸せに生きてくれればそれでいい!


 ギルヴィードおじ様とリルムの仲を出来る限り、応援していこう。



 リルムが笑い、私もにこっと笑う。


「じゃあギルに相談しに行こう!」


「今から!?」


 深夜だよ!?



「大丈夫! この時間ならギル起きてるから!」


 そういう問題じゃなくて、さっき連れてくってリルム攫ってきたばっかりなんですけど!?



 もうギルヴィードおじ様に会いたくて仕方がないのだろう。



 私は苦笑しつつも引かれた手のまま一緒にギルヴィードおじ様の部屋まで歩いた。














「なんで戻っていきなり子供が産まれるって話になってくんだ」


 正論です。



「その、前からなんか身体がおかしいなってなってて……その」


 なんだっけ、と私を見てくる。


「サキュバスは絶滅危惧種ですし、誰の種に関わらず子供が出来るのは良いことじゃないですか。国益にも繋がるし」


「そうそれ!」


 リルム、もうちょっと会話を詰めて話すべきだったんじゃないかな……。



「認知とかはしなくてもいいし、人間ほど育てんの大変じゃないハズだからさ、その、許可だけ欲しいってゆーか……」


「………………」


 ギルヴィードおじ様は渋い顔をしている。


 ていうか怒ってる?


「おめえは子育てがしてえのか」


「あ、いや、まあ……そう……なのかな……」


 リルムはしどろもどろだ。目が泳いでいる。


 ギルヴィードおじ様ははぁと溜息をつき、ギンと睨む。完全に怒ってらっしゃる。



「本当はどうしてえんだ」


「えっ」


 リルムは目に見えて焦った顔になった


「オレは素直な女が好きだって言ったよな」


「あ……あう……」


「もう一度聞く。なんで子供が欲しいんだ」


 リルムはもごもごとなにかから逃げるような視線を泳がすがギルヴィードおじ様の視線に捕まり、涙目で俯いた。



「……ギルの子供を産みたい」


「最初からそういやいいんだ」


 ギルヴィードおじ様は満足そうにフンと鼻を鳴らした後、子供の話をした。



「存在は隠した方がいいだろう。おめえがサキュバスとバレたときに巻き添えをくらいかねえ」


「う、産んでもいいのか?」


「認知は出来ねえがな。ココで育てりゃいい。防音魔法も充実してるし執務には問題ねえ」


 断られると思っていたことをサラリといわれ感動するリルム。



「お、オレ! フィンに必要なものないか相談してくる!!」


 嬉しさと照れでフィンスターのいるであろう使用人部屋へ飛んでいく。


「はっ! 待ってリルムせめて防音魔導具持ってって!」


 リルムに向かって魔導具を投げる。


「サンキューマリア!」



 パタパタと飛んでいく忙しないリルムに私とギルヴィードおじ様はため息をついた。


 特におじ様はなんだか相当疲れたらしく、珍しくぐったりとしていた。



「……っとに、なんなんだアイツは」


 まあ修羅場になって喧嘩したかと思ったら、子供産みたいだもんね……。



「どうしてもギルヴィードおじ様が好きなんですって」


 少しつっけんどんな言い方になってしまった。だってなんか腹立つし。



「…………」


 ギルヴィードおじ様はむすっとしたまま、黙って動かなかった。


 どうしたんだろうと私がギルヴィードおじ様の様子を伺うと同じあたりでぼそりと声を出した。



「……貴族の女をたぶらかす為に甘ったるい言葉を吐いた時もあるけどよ」


 そういえば前そんな酷い話を聞いたこともあったな。


「そういう女は嘘だと知らねえで喜んでんだが」



「アイツは完全に嘘だとわかりきってる言葉で喜んで、まだ求めてきやがる」


 そう馬鹿にして言っているギルヴィードおじ様の口調は辛そうだった。


「……時々」



「アイツを見てると苦しい」



 ボソリと。数年一緒にいてギルヴィードおじ様の弱音なんて初めて聞いた気がする。


 それくらいにはレアで、驚いた。





「ギルヴィードさん! 本当なんですか! 明日朝一でベビー用品買いに行かないと!!」


 キラキラニコニコした顔でやってきたフィンスターに、ギルヴィードおじ様はいつもの調子を取り戻して応対していた。


 リルムもニコニコとしていて、幸せそうにギルヴィードおじ様の肩に抱き着いていた。


 おじ様も引き離したりはしてなかった。




 ギルヴィードおじ様も、サキュバスで恋愛体質を本気にしたらいけないと、家畜を貴族が好きになっても幸せにはなれないと、自分は跡継ぎで、貴族で、恋しちゃいけないとわかっていながら


 引き離せないのかもしれない。




 そう思うと、今までのことがスコンと腑に落ちるというか……。


 リルムが愛人になりたいと思ってるのと同じくらい、ギルヴィードおじ様もリルムを側に置いておきたいのかもしれない。


 そう思うと、今結婚から逃げ回ってるおじ様が少し可愛く思えた。








 リルムはギルヴィードおじ様に仕事を調整してもらい、長期休暇をもらった。


 そこで産むことになったのだが


「サキュバスって卵なんだね……」


 哺乳類じゃないんだ……。


 羽根も生えてるし、そっちかと言われると「なるほど」って感じだ。



 MPが全てなくなったからぐったりとしたリルムがベッドで寝ている横で卵は孵化した。


 刷り込みとかはなく、サキュバスの感覚かで母親が分かったらしい。すぐにリルムに向かっていっていた。


「ふぁああ……! 赤ちゃんかわいい……!」


「手、ちっちゃい……!」


 私は感動で赤ちゃんをひたすらふにふにしていた。


「ほら! ギルヴィードおじ様も抱いてみてください」


 おじ様は嫌そうに顔を顰めた。


「遠慮しておく」


 ははーん、情が移るのが怖いんだな。



「じゃあせめて名前くらい考えてあげたらどうなんですか」


「認知もしてねえのにオレが付ける義理はねえだろ」


「な、なら!」



 ベッドに横になってたリルムがテレテレと自分の考えた名前を言ってきた。


「ギルもオレも二番目に「ル」が入ってるから……メルフィアとか……ダメか?」


 キラキラした目で言ってくるリルムにギルヴィードおじ様は「……好きにしろ」と返す。



「メルフィアのフィはフィンのフィで、アはマリアのアなんだ!」


 とニコニコと言ってくれたリルムはサキュバスというより天使だった。


「僕……メルフィアちゃんのお兄ちゃんになる……!」


「私もお姉ちゃんと呼んでほしい……!」


 私とフィンスターはガシッとメルフィアちゃんに抱き着いた。



「無責任なパパより私たちが幸せにしちゃうから!!」


「それはいいですね!」


「……ったく」


 ギルヴィードおじ様は若干居心地が悪そうにしながらも退席はしなかった。

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