064 ストーリー変化と金策グッズ
レヴィンはベルドリクス家の後見を付けて兵役に入り、まず新兵として訓練をしている。
身体強化スキルがあるということで即実践部隊に投入され、めきめきと頭角を現していた。
そしてレヴィンは部隊の扱いがとても上手い。兄貴気質な彼は早くも何人かにアニキと呼ばれ慕われ始めているようだ。
更に黒竜のジェノスまでいて兵卒というのがおかしいだろう。
「黒竜を羨む奴は多かったが聖女のマリアお嬢様と、そのバックにいる軍事を総指揮するベルドリクス家が睨んでいるおかげで、今は平穏無事に過ごさせてもらってる」
「ふふふ、レヴィンに手出しはさせませんから安心してちょうだい」
そう私が笑えば「思ってたより骨のあるお嬢さんだ」と肩を竦めていた。
今から黒竜のジェノスを中心としたレヴィンと信頼関係を築いた部下たちの部隊が作れれば、かなりの戦力となるだろう。
「またマリア様が見つけてきた人材らしい」
「マリア様の目は神の目なのか……」
いいえ、ゲームマスターの目です。
知識チートで申し訳ないが、仲間集めは早いトコやっていかないとね。
「ベルグの旦那も商会でやってる奴らの近況とかを教えに良く来てくれて……なんつーか、疑って悪かったな」
「いいえ、あの状態で疑うのは良い傭兵の証拠ですぞ。いい契約が出来て良かったですな!」
ゲルベルグさんがよく来るのは仲良くならないとリーベの元に連れて行くことが難しいから好感度を上げてるというか、推しカプの為だからあんまり感謝しなくていいと思うの……とも言えず。
「今後他国ともなにかあるかもしれませんからな。用心は大切ですぞ」
「他国か……」
レヴィンは遠い何処かを想って目を細めた。リーベのいるマーカチス侯爵家が気になっているんだろう。
リーベを想い、少し遠い目をしているレヴィンを見て「燃料……」とブルブルと震えるゲルベルグさん。落ち着いて。
ヴァンデミーアはやっぱりキナ臭くて、ヴァンデミーアの初期攻略キャラのリーベを手に入れるタイミングがイマイチつかめない。
前回の証拠ではやはり尻尾はつかめず、真相は謎のままだった。
レヴィンを仲間にした状態でヴァンデミーアに行くと攻略キャラのリーベを仲間に出来るんだけど、ストーリーが大幅に変わった今でも起きるのかな?
『聖女勇者』ではレヴィンを兄のように慕っていたリーベは、両親から「ヴァンデミーアは今危ないからレヴィンなら安心」とレヴィンに預けるように仲間になる。というご都合シナリオだ。
カーグランドから少し遠い、ラッセンブルグのお助けキャラとして簡単に仲間になる用のキャラクターがリーベと言うわけだ。
――なのだが、今は数年前で、ストーリーも変わってきている。
リーベが仲間になるときはもう戦乱も戦乱、ぐちゃぐちゃな状況でヴァンデミーアの内情も大変なことになっている設定で両親がリーベを逃がすように仲間に参入させてくれた。
なので、下手に平和なときにレヴィンを侯爵家に連れて行ったら、折角ゲットしたレヴィンを逆に「返してほしい」と頼まれかねない。
レヴィンとは良くも悪くも金で雇った私兵程度の関係だ。
原作でもレヴィンからアプローチが来ることは少なかったこともあり私と絡もうともしてこないし、信頼関係が出来ているとはイマイチ言い難い。
今の段階で選べと言われたら人生の恩人であるマーカチス侯爵家にいってしまうのは明白だった。
私はベルドリクス家応接室でゲルベルグさんとリーベ対策会議を開いていた。
「というわけで、今リーベをゲットしに行ってもゲットできるかわかりません」
二人で頭を悩ませる。元々貴族の上位でヴァンデミーアでも貢献度の高い領地を持つリーベの侯爵家は、他国の者がそう簡単に手を出せる存在ではないのだ。
今まで仲間にしてきたキャラの中では一番地位が高い。
「フィンスターにリーベの動向は調べてもらおうと思いますが……しばらくは無理そうですね」
「のおおお……!」
ゲルベルグさんはガックリと肩を落とした。
ゲルベルグさんも気を落としているが、私も別な理由でリーべは手に入れたかった。
「ただのゴロツキであったレヴィンをレアな竜騎士にする為だけに作られた、リーべの『動物に好かれる』って設定なんですが、これを利用したら竜騎士を量産することが出来るんじゃないかと思うんですよね」
「っ!! マリア神、天才!!」
レヴィリーをどうくっつけるかしか考えてませんでした! というゲルベルグさん。そこは考えなくていいから。
竜を手懐けるのは難しい。気に入られる前に話し合いの場すら設けられない。
そこに動物に好かれるリーべがいれば、話し合いが成立する可能性は充分にありえる。
「そもそも飛行ユニットはかなり使い勝手いいよね」
「わかります。ゲームでもレヴィンは戦争フェイズに重宝しました」
レヴィンの隊を全員竜騎士隊にしたら、制空権を握れる。
『聖女勇者』には制空権なんて概念は無かったが、多分絶対有利な筈だ。
他ゲームとかでも制空権を取れば有利になったり、攻撃通り易くなったりしてたし!
戦闘機などを使ったゲームは範疇外ではあるが、とりあえずドラゴンの飛行隊を作ったら頭の良い人たちが良い感じに活用してくれるだろう。
リーべ自身のキャラは、身体強化の代わりに魔法を持ち武器である弓にのせて攻撃をする、いわゆる魔法剣士キャラ。
なので物理部隊にも魔法部隊にも組み込めるし、一流貴族で育ったため頭が良く、ほぼ全ての戦略を覚える。戦争フェイズにお役立ち。
原作でいう教養が浅いカムイや突撃好きのエリウッド、平民のレヴィンなどと一緒に軍を編成すれば強いキャラが強い計略を使えるようになる。
痒いところに手が届くサポートに長けたキャラだ。
見方によっては器用貧乏なのだが、一通りのことは何を任せても成功させてくれるので一人いると便利というか、ソツのない有難い存在である。
リーべはレヴィンが助ける都合上、この『聖女勇者』最年少攻略キャラで、私と同じ歳くらい。
だから今加入してもカムイの様に戦力として育つには少し時間がかかると思っていたが、別の使い道が出てきたとなれば、話は別だ。
「竜だけじゃなく他の獣魔もテイム出来るなら、リーべはテイマーとして使えるかも」
RPG画面の戦闘時に、リーべは時々『動物たちが守ってくれた』などの行動がランダムで現れ、攻撃を受けない場合がある(ちなみにレヴィンもジェノスが守って攻撃を受けない場合がある)
魔導士のギルヴィードおじ様ほどではないが、魔法弓のリーべも比較的打たれ弱いのと「せっかく動物に好かれる設定があって、ジェノスがレヴィンを庇うランダムプログラムあるからリーべにも付けよう!」と付いていた。
(健全リメイク版になった時にレヴィンとリーベが一緒にパーティにいる場合『ジェノスがリーベを守る』というプログラムも追加されたなあ)
リメイクの細かい仕様変更を思い出し、物思いに耽った。
そんなリーベは防御力が弱いにも関わらず動物たちのおかげで全く攻撃を受けないという幸運王子である上に、敵の攻撃が外れやすくクリティカルが出やすい幸運値も高く、紙装甲なのにリーベが攻撃を受けるのは稀という特異な性能をしていた。
更に魔物も動物である為、好かれて攻撃され難いプログラムが組まれている。
その代わり別のキャラが攻撃を受ける確率が上がるので、リーべとはカムイやレヴィンなどの攻撃を受けても大丈夫なタフなキャラを組ませるのがベターだ。
「外の世界でリーべとギルヴィードおじ様でパーティを組ませて、紙装甲のおじ様がボコボコにされてやられる動画とかありましたよね」
今思い出すとこの世界の澄まし顔のおじ様が頭に浮かんできて、つい笑ってしまう。
「ああ! ありましたな! スキル相性動画の!」
これが昔話した『スキル相性』の、わかりやすい例である。
それから『攻撃食らったら即リセットの幸運王子リーべ縛り』など懐かしの動画の会話に花を咲かせた。
話もそこそこに、私はゲルベルグさんに今回のザックベルの事件はヴァンデミーアのノアストティが、サキュバス欲しさに裏で手を引いていた確率が高いと話した。
原作知識がある仲間の知恵は出来る限り頼りにしていきたい。
ゲルベルグさんも「ヴァンデミーアですか〜〜……っ!」と項垂れていた。
「だよね」
「ノアたんは貧乏な零番隊のオカンですからな。金策になるサキュバスは欲しいでしょう」
ノアたんとはノアストティのことらしい。
「やはりヴァンデミーアは手強そうですな」
「商人の噂でもそういうの入ってくるんですか?」
ゲルベルグさんはヴァンデミーアにいるリーベが欲しいとは言ってはいるが、現実的に現状を把握していた。
「はい。原作知識があるというのもありますが、やはり『零番隊』は恐ろしい」
外の世界では零番隊もこよなく愛していたゲルベルグさんも「まともにやり合う相手ではありませんぞ!」と震え上がっていた。
「そうなんですよね……制作時も零番隊はちょっと強くし過ぎたなって思ったんですよ」
零番隊隊長、ジークベルトは元が強く常に身体強化のような加護がついている逸材で、そこから更に身体強化スキルを重ね掛けできる。メタ的に言えば第二段階だ。
斬られれば全部が豆腐のように崩れていく。
常人と一線を画した一騎当千の豪傑。
その力に皆も憧れ、慕い付いていく最強の戦士。
「いやいや貴族社会の中で平民が軍をやれるくらいの強い精鋭となると、あれくらいの説得力は必要でした」
ゲルベルグさんは零番隊は強キャラであるべき! と主張した。
「ジークベルトならパーティ無しでボスキャラも倒せるくらい強いからなあ……」
むしろジークベルトがイベントボスみたいな位置付けだ。
鬼つよな攻略キャラとヒロイン五人がかりで倒すキャラ……文字通り最強の人間キャラだ。
そんなキャラクターをヴァンデミーア初見で操って「俺つえー!」と楽しんだ途端に仲間から外れ、敵にまわられる絶望。
「しかもそれが集団になって来ますからな…」
『零番隊』は最強平民集団なので皆、大なり小なり身体強化や魔法が使え、しかも虐げられて生きてきたこともあり団結力も高い。
「副隊長であるノアストティの統率力や軍事スキルも厄介すぎる……今のカーグランドじゃ太刀打ち出来ないよ」
しかしヴァンデミーアには零番隊追放イベントが起きるのはわかっている。
それが起きると一気にヴァンデミーア国は弱体化するので、それまで付かず離れず穏便に済ませたい。
とにかく
「「戦いたくない」ですなあ……」
「新しいキャラはひとまず置いておいて、金策グッズの結果はどうなりました?」
ゲルベルグさんは頭を切り替えて商人モードで説明してくれる。
「まずリルムちゃんフィギュア、抱き枕カバー、月刊雑誌共に作らせてみました」
流石ゲルベルグさん。それっぽいものが出来ている。
「このリルムちゃんフィギュア、クオリティパないですね……」
色やらなにやら綺麗についていて現代のと差分ない。
「彫刻家がリルムに大ハマりして作りまくっているらしく、もうリルム彫刻は出回っておるのですよ」
「マジか」
軍の場外訓練は見学自由な為、昔は令嬢たちが目当ての騎士をきゃあきゃあ応援する場だったのだが、最近はリルムを見にくる聖地のような、観光スポットのような様相を呈しているらしい。
「そこで毎日リルムを観察して作ったとか」
天才と変態は紙一重だな……。
「色まで使った彫刻は珍しいし、型を作って量産が出来るので娯楽品として大量に売り出せます」
一点ものの素晴らしい彫刻とは趣が違うので、需要が被らないとか。
「色んな種類のポーズや衣装があれば、コレクター魂にも火が付きますよね」
カーグランドやベルドリクス領限定のリルムフィギュアとか作るのもいいかもしれない。
聖地巡礼してもらおう。地域の活性化ってやつだ。
抱き枕カバーも値段は張るが凄く良い出来だった。
男性オタクは高価でも質の良いものを求め、女性オタクは低価格で量を求めるという。
「女性向けグッズは絵ハガキや便箋、クリアファイルや缶バッチなどから攻めたいとは思っているのですが……攻略キャラがこんなにもいるのに協力してくれるのがカムイ殿とエリウッド殿だけとは……」
いやはや……とゲルベルグさんがため息をつくが、仕方ないじゃない!
私のヒロイン力ではこれが限界なんだ!
「本当は現代の曲ででも歌って踊ってCDとか出せたら売れそうなんですけど」
ダンスは行けるかもしれないが、流石にリルムとカムイにボイトレまでは強いれない。
というかボイストレーニングのやり方など流石に知らないぞ。
「流石に将軍がチャラチャラとダンスを踊っていたら軍の威信的には問題では?」
「そこもあったかー!」
この国の踊り子は魅惑的で、いわゆる娼婦的な連想を持たれやすい。
将軍アイドルもどうなんだよと言われると微妙だが、ブロマイドという新しい試みの被写体だとしたらどういう『使われ方』をしていても世間的にはお堅いのだ。
「そもそも記憶媒体自体が高価ですから。それを売るとなるとかなりの好事家にしか売れませぬ」
「平和になったらシャルルに記憶媒体のコスト削減も考えてもらえたらいいよね……」
商売は難しい!
まあ私は商売人じゃないし、サキュバス素材を隠せる隠れ蓑さえ作れれば良いのだ。
売れなくたって構わない……が、やっぱり売れたほうが嬉しいよね。
「マリア神……言っておきますが私たち、商人としましては相当儲けておる方ですぞ」
ただマリア神の散財に追い付いてないだけです。と返され、私はなんとも言えない顔になった。
「そういえばマリア神。またエリウッド殿をブロマイドに参加させることは可能でしょうか」
「えっ、どうでしょう……カムイに頼めばワンチャン……そんなに売り上げ良かったんですか?」
やっぱり外の世界の人気キャラは人気になるのかな? とか思っていたらゲルベルグさんが首を振り
「実は……腐女子の中でエリウッド殿とカムイ殿のカップリングが今激アツでして……」
「えぇ!? ウソ!?」
あっちの世界では聞いたことすらないカップリングだ。
「私もそう思ったんですよお~! でもここの世界だと超仲良しじゃないですか!」
確かに今もカムイはザックベルに友好を結びにザックベルで鍛錬しに行っている。
「ま、まあ確かに……すごい仲良いよね」
でもいわゆるそういう仲では一切ないというか……。
「ゼルギウス陛下が即位して結婚してから急激にエリカムエリの人気が上がってしまって……」
やはり結婚したら人気が落ちるのはどこの世界でも一緒なんだろうか。
「なんていうか、この世界の腐女子ナマモノに関してガンガンいくよね」
もうちょっと配慮というものが必要なんじゃないだろうか。
「あっちの世界ほどオープンではなく、かなりアングラにやっておりますからな」
会員制のかなり厳しい会らしいが、どんどん人は増えているようだ。
「即売会には仮面を付けて行き、貴族も平民もその場では関係ない趣味の場として親しまれておるのです」
平民の神絵師がそこで貴族の同じ性癖のお嬢様に使用人として雇われたりと、新しい交流の場になっているらしい。
「なにそれ……いっそ楽しそう」
「男性オタク即売会のリルムちゃん本の方がよっぽどアウトですぞ」
「確かに、ヤバそうな匂いしかしない……」
ギルヴィードおじ様とかフィンスターにバレたらどうするんだ……。
「フィンスター殿にはバレておりますが、ニコニコとリルムちゃん本を買っておりましたぞ」
おい神獣ーーーーーっ!!!!!!
「マリア神に関しては『聖女の品位を下げるような二次創作は禁止』と銘打っております故、あってもほのぼのやイラスト本なのでご安心くだされ」
「何をご安心したらいいのかわからないけどありがとう……」
なんかぐったりした……。
「そんなわけでエリウッド殿とカムイ殿の写真が……出来ればツーショット写真を!」
「今ザックベルに行ったら二人で鍛錬とかしてるんじゃないかな……」
今度いつ二人と会えるか魔法伝書鳩飛ばしてみるよ、と約束して帰った。
「なんだこりゃ」
ギルヴィードおじ様はリルムグッズたちを怪訝な目で見つめる。
「次の金策、リルムちゃんグッズです」
ちゃんと本人にもチェックしてもらおうとリルムに見せにきたのだが、珍しくギルヴィードおじ様がいた。
最近ギルヴィードおじ様は伯爵になったばかりの挨拶や人脈作りで社交界やら政務やらで家にいないことが多かった。
しかし本人は本当は家に籠って魔導研究してるほうが好き。
原作ではカーグランドに絶望し、テキトーに政務をしつつ魔導研究に没頭していた。
今はその大好きな趣味よりもカーグランドが大事なのだろう。いいことだ。
「すごい可愛いですね!」
キラキラの笑顔で見ているのはフィンスターだ。
いつもリルムの横で控えているのが本体で、他は全て影。私の付き人もおじ様の従者も全部影。
優先順位がわかりやすくていっそ清々しい。
「子供用のリルムちゃんぬいぐるみとかはないんですか? 女の子とか喜ぶと思います」
「ああ! なるほど!」
女児用ね。男性向けゲーム制作者の思考すぎて考え付いてなかった。
普通アイドルは女の子の憧れであって女児が「りるむちゃんかわいー」となってるのが普通のハズなんだ。
私の前提がおかしかった。
神獣なだけあって変なところで清らかだよね……フィンスターって……。
「こ、こんなの何に使うんだ?」
よくわかってないままのリルムは困惑しきりだ。
「リルムの魅了にかかった人たちが買ってくれるのよ」
私はにっこりとフィンスターに負けない清らかな笑顔で返した。
汚い大人の世界はリルムは見なくていいからね。
「……まあ、ここまで大々的にサキュバスを売り出してるとは誰もおもわねえな」
冷めた目でリルムちゃんフィギュアを手にとるギルヴィードおじ様。
隣に本物がべったりしてるからってそんなつまらなそうな目しないでもらえますか! リア充め~!
そんなやりとりをしていたら外からバタバタと声が聞こえてきた。
バンッといきなり令嬢が入ってきた。誰?
「失礼いたしますわ。ギルヴィード様にマリア様」
優雅に礼を決める芯の強そうな謎のご令嬢だ。
平民の門兵たちは貴族に対抗できなかったのだろう。
令嬢ということもありここまで入ってきてしまった。
「わたくし、アーデンハイド伯爵家の娘、ジュリアーナと申します」
同じ伯爵家の令嬢だったらしい。確かにアーデンハイド卿には娘が二人いたはず。
「これはこれはジュリアーナ嬢、いかがいたしましたか」
ギルヴィードおじ様は敢えて立ち上がらないつもりのようだ。そのままの姿勢で応対する。
貴族用のスマイルを張り付けてギルヴィードおじ様は応対する。
初めてみたリルムは驚きで二度見していた。
「わたくし、社交界だけでは駄目だと感じ、ベルドリクス邸まで足を運ばせていただきましたの」
ジュリアーナ嬢は強そうな目ではっきりとギルヴィードおじ様を上から捉えて言葉を伝える。
「貴族としての結婚は弁えているつもりです。我がアーデンハイドはカーグランドの食糧に多大に貢献している土地で、兵糧が必要なベルドリクス家には互いに利のある結婚だと考えております」
うわっ突撃アプローチってこと!? ま、まさかこんなのまで来るようになってくるなんて……
「愛などと馬鹿なものも求めたりはしません」
「………………」
ジュリアーナ嬢の目は強く真っ直ぐだった。
「そこにいる愛人も許容いたしますし、ギルヴィード様のお邪魔にはならないつもりです」
ビクリとリルムが震える。人に愛人扱いされるのは初めてだ。
ギルヴィードおじ様のことはしっかりと調べたのだろう。
敢えてギルヴィードおじ様の求める聞き分けの良い都合の良い女として家の為に嫁ごうとしている。
「家の為、一考をお願い出来ればと思ってまいりました。どうぞよろしくお願い致します」
ジュリアーナ嬢は正妻候補として完璧に条件を満たしてきた。
家格としても十分。これだけ強ければ軍人伯爵家でもやっていけるだろう。
「……愛などいらぬというわりには君の行動は情熱的すぎる。そういうセリフはもっと貴族らしい攻め方で言うべきだな」
図星をつかれたのか、カッと赤くなるジュリアーナ嬢だが、すぐに冷静になり
「……突然のご訪問失礼いたしましたわ。次はご招待に預かれたら嬉しく思います」
淑女の礼をして去っていく。
門兵に「次は絶対に通すな」と命令して下がらせた。
ジュリアーナ嬢はギルヴィードおじ様の気に入る女になってまで正妻になりたいのだろう。
愛はいらないと言いつつ若干の恋愛感情はあるのかもしれない。
ギルヴィードおじ様の女泣かせ度がグングン上がっていってるぞ……。
嵐が去ってシン……と静まり返る部屋。お、重い……。
「さ、さっきの娘……どうすんだ?」
リルムは震えた声でギルヴィードおじ様に尋ねる。
も、もう修羅場だよ~~~!
「さあな。フィンスター、さっきの令嬢の動機を調べてくれ。アーデンハイドが金欠かなんかになってる可能性もある」
「は、はい」
「でも! さっきのコ、ギルの条件に合わせて……」
「なんだ? オレに結婚してほしいのかてめえは」
「おじ様それは……!」
あんまりにも酷い……!
「お、オレは、ちゃんとわかってて!」
必死にギルヴィードおじ様に返事をしようとする。
「オレじゃさっきのコみたく女らしくもねえし、貴族でもねえし、ギルの世継ぎは産めねえし、家畜だし、あいじんに、してくれる、だけでも、ありがたいって、わかってて」
リルムは途中から涙声でぽろぽろと涙をこぼしていた。
私が最初にみた男らしい泣き方ではなくて、ちゃんと女の子の泣き方をしていた。
「わかってて、なのに、オレ、馬鹿だからさ、なんか、わかってたと思ってたんだけど、ごめん」
ぽろぽろと泣くリルムの目を逸らさずにいつのも顔でギルヴィードおじ様はリルムを見つめている。
「ちゃんとわかるようになるから……」
駄目だ! この流れは駄目だ!
「だから結婚し……」
「リルム! リルムは今疲れてるの! 私が預かります!! いいですねおじ様!!」
リルムを抱きしめてギルヴィードおじ様を睨む。
おじ様ははぁとため息をつき手で私たちを払う。こっちがしてやりたいくらいなんですけど!!
「リルム、私の部屋に来なさい」
敢えて命令口調で私の奴隷であるリルムに命令した。
「……はい」




