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062 救出作戦

 ◇


 今日の昼前、リルムはご機嫌だった。


「オラァ! 一丁上がり!」


「うおおおお!! いいぞー! リルムちゃーん!!」


 治安が悪くなったカーグランド首都の見回りをするとゴロツキがうようよしていた。


 魔物が少なくなって冒険者があぶれたんだろう。


 暴れるゴロツキたちを片手で捻るように片付けては衛兵につきだしていった。



 リルムはずっとサキュバスとして人から逃げるように過ごしていた。


 それが今は人と一緒に暮らしてもバレないくらい馴染んでいる。


 マリアやギルヴィード、そしてフィンスターのおかげである。



 二人のカーグランドを守りたいという気持ちをリルムも協力したい。


「困ってることがあったらオレに言えよー!」


「うおおおお!! リルムちゃーん!! ぐはぁあばばばばば!」


 突進してきた街の男がリルムのバリアで雷撃を食らう。



「あ、そうだ普通に近付く分には大丈夫だけど、オレに変なことしようとすると電撃食らうから気を付けろよ」


 リルムに近寄っていた男たちは冷や汗をかきゴクリと頷いた。



 相当ゴロツキも衛兵につきだしたし、これはギルに褒めてもらえるなと家犬の顔でホクホクとしていたリルムに困り顔の気弱そうな青年が話しかけてきた。


「すみません、ゴロツキに僕のバッグが取られてしまって……!」


「なんだって!? どいつだ!? そいつらは!」


「あ、あのあそこにいる5人です……!」


「わかった! ちょっと待ってろよ!」


「あ! リルムちゃん! 待ってよ~」


 リルムはぴょんと跳ねパタパタと路地裏に向かって飛んで行った。



 いつもつきだしてきたゴロツキと変わらないそいつらを軽く蹴散らした。


「わあ! すごいです!」


「まーな! どんなもんだ! それで、アンタのバッグは―……」



 話している最中に今まで気弱そうにしていた青年から魔法が飛んできて油断していたリルムに刺さった。


「……まるでサキュバスとは思えない強さだな」


「か……は……っ」


「リルムちゃん! っぐあ!」


 リルムの元へ行こうとするフィンスターが切り裂かれ消える。



「さっきの少年たちは幻術かなにかの類か?」


 強力な魔導士を迎撃しようと構えるが、武器も装備もなかったリルムはくらりと意識を失い倒れた。


 最後に見た顔はニヤリと笑った男の不敵な笑みだった。




 ◇




「まったく……何のためにお前らを雇ったと思ってるんだ。結局俺が運ぶことになったじゃない」


「いやでもそんな上玉になにも思わないほうがおかしいですぜ」


 リルムを運んでいる気弱そうにしていた青年はフンと鼻を鳴らした。



「女なんか全部同じようなモンだろう」


 このサキュバスは性的な劣情を向け触れると、それに準じた魔法攻撃が飛んでくるバリアが張られていた。


「やはりコレを飼っていたのは相当な魔導士か」



 サキュバス包囲網時捕まった後、どの国の探索魔法でも探索が困難になった。


 一瞬ヒューガ国で強い反応があり皆そちらに皆群がったが、ヴァンデミーア『零番隊』副隊長ノアストティ=ルーベンバーグは、ほんの微かだがカーグランドに度々サキュバスの反応を感じていた。



『聖女勇者』の強敵として知られる『零番隊』の凄腕魔導士。


 専攻ではないギルヴィードが作った魔導具では、拮抗した実力のノアストティからは若干の探知漏れが生じていた。


 シャルルが作ったことにより完全に遮断はされたのだが、ノアストティはカーグランドにいる可能性にかけてそれらしい者たちをピックアックして捜索していた。



「でもこのコって大陸でも相当話題のリルムちゃんですぜ? 本当にサキュバスなんですか?」


 おびき寄せる為に雇ったゴロツキ達はジロジロとリルムの身体を眺めていた。


「それを確かめるためにいくつか実験していく」


 外れたら次に行くまでだ。と淡々と答えるノアストティはこれまでに何人かの踊り子や歌姫にこの手の実験をしていた。余りにも情報がない為、総当たりだ。


 最近のカーグランドの治安の悪さを利用した犯行である。


「しかし総当たりで危険な真似をしてでもサキュバス素材は魅力的だ……絶対に見つけだす」






 用意していた森内の洞窟でリルムを下ろし、起きる前に鎖でつないでいく


「まったくなんで俺が……」


 ゴロツキたちが羨ましそうに見ている中、貴族のノアストティがリルムの服を脱がしていくという奇妙な図になっていた。


「うおおおお!!!」


 リルムの裸に興奮するゴロツキたち、その大声で起きたリルムが自分の恰好に驚く。



「な、なんだこれ! お、おい! みてんじゃねえてめえら!!」


「うおおおリルムちゃんが目の前でこんな……我慢出来ねえ!! なあアンタ! やっちゃっていいか!?」


「構わないが、触れたら死ぬぞ」


 ゴロツキたちは悔しそうに逃げようと必死に鎖に繋がれた腕をガチャガチャと動かすリルムを見つめていた。


 興味無さげにノアストティは淡々と機材を用意する。



「て、てめ……っ一体何を……」


「本当にサキュバスなら体液で素材が取れる筈だ」


 サキュバス、という単語にビクッとなるリルム。



「これは素材回収用に調教したスライムだ。指定した素材を取り出してくれる」


「ひっ」


 スライムを身体の上にボトリと落とされ、その冷たさと恐怖につい声が出る。


「唾液からなにから体液などサキュバスなら素材になるものを一旦搾取させてもらおうか」



 それで本物かどうか確認する。


 と冷えた目でリルムをみるノアストティの目は完全に家畜に向けた瞳だった。





 ◇






 私は祈るような気持ちで馬車に乗っていた。


「夕方から結構経ってますけど、あんまり離れてないですね」


「逃げて隠れてるか、それか本当にサキュバスか確認しているか……だな」



 ここ最近踊り子や歌姫など魅了が使える女性が被害にあう犯罪が多かった。


 元から狙われやすい職種なのであまり気にしてはいなかったが、誰かがサキュバスを探していたのかもしれないとおじ様は言った。



「リルムは魅了が使えるのはブロマイドで分かる人にはわかりますもんね……」


「私のせいだ……」と落ち込んでいるとフィンスターが「そんなことないですよ」と慰めてくれた。


「敵も総当たりだったようですし、遅かれ早かれ手は伸びてきました。みんな少し気を緩めすぎていたのかもしれません」


 まさかのフィンスターにフォローされるとは思わなかった。


 一番に怒りそうなものなのに、むしろ同じく悔いているようだった。



「今はリルムちゃんの安全の確保が最優先ですね。とにかく急ぎましょう」


 森についた私たちは身体強化の支援をかけて森を駆け始めた。



「遅え」


 自分に身体強化をかけたところで小さい私だけどうしてもお荷物だ。


 14歳になった私を俵のように担いで走る身体強化魔導士……シュールだ……。



 フィンスターは影を使って森中を探索しているようで、無言で集中している。


 随分落ち着いているように見えるけど、実際は相当混乱しているだろう。


 ギルヴィードおじ様の口数も少ない。



 戻ってきた影がフィンスターに取り込まれる


「ここから西の方角に小さな洞窟があって、そこに捕まっているそうです」


「リルムは!? 無事!?」


「まだギルヴィードさんのバリアは作動しているみたいです。けどリルムちゃんに性的感情を一切抱かない、バリアをすり抜けれる人がいるみたいで……その人が親玉みたいですね」


「チッ だから連れてかれたのか」


「誘拐犯に理性的な奴がいるとはやっかいな……」



 私はおじ様に担がれながら敵にあったら何をするべきかシミュレーションしていた。


 この聖女、ウチの子に手を出す奴は許しませんからね!





 西に向かって10分くらいすると本当に洞窟が見えてきた。


 リルムのバリアの電撃でやられたと見える山賊の死骸もあってヒッとなったがリルムのMPはまだ足りていたようで、触られてはいなかった


 が、


 男性向けで良くあるようなオークに捕まった姫騎士のような様相を呈しているリルムに言葉を失くした。


 抵抗し疲れたのかあられもない恰好で力無くぐったりとしている。



 あ、あいつら絶対に許せん……!!!



 さすがのギルヴィードおじ様も見た時ピクリと眉間に皺がよっていた。


 フィンスターに至っては完全にハイライトが消え瞳孔が開いている。相当怖い。


「出来れば殺さないでください。僕……ちょっと彼らとお話したいことがあるので……」


「……その辺りはおめえに任す」



 許可しちゃうんだ!?



「あの奥にいるのが親玉か」


 どれどれと見ると「あ」と声が出た。


 と、同時に絶望した。



「あれ、ヴァンデミーア国の人です……」


「やっぱりマリアの知ってるヤツか」


「おじ様並に強い魔導士ですよ……」


「ならオレの察知魔導具が遮断しきれなかった可能性があるな」


 まだ険しい顔のまま睨むように其方をみている。


 感情に任せて魔法をぶっ放さないのがギルヴィードおじ様らしい。



「オレが一発で仕留められなかったら時間を稼いでる間にあの親玉に洗脳魔法でこのあたりの記憶を消せ」


「わかりました」


 怖いとか言ってる場合じゃねえ!


 親友のリルムの姿に私とフィンスターは我を失ってた。本当におじ様がいてよかった。



 リルムは性的なもの以外はバリアが適応されないのでおじ様の魔法にも当たってしまう。のであまり広範囲で威力のある魔法は打てない。


 相手も魔導士なので魔法防御が高いこともあり二人共相性は良くない相手となるだろう。




 ギルヴィードおじ様はレーザーのように細い雷撃を奥にいる親玉に向かってビュンと飛ばす。


「ッ!」


 親玉であるノアストティは寸でで躱し、魔法が飛んできた先を正しく見極めた。


 その攻撃に驚いた子分たちは逃げようとするが、フィンスターが影でぎゅうと締め上げ縄のように確保していた。



「飼い主の登場か。……やっぱりというか、貴方達か。ギルヴィード=ベルドリクスにマリア=ベルドリクス」


「あぁ。随分と舐めたマネしてくれたじゃねえか」


「随分早い到着だったな。おかげであまり素材を取れなかった。……が、かなり貴重な素材を有難う」


 囲まれてるというのにノアストティは不敵に笑った。



「てめえはここから生きて帰れると思ってんのか」


「外せない魔導具が幾つかあったから、その中のどれかに居場所がわかる魔導具でもあったのかな?」


 随分と良い魔導具だね、と世間話のように話すノアストティに苛立ちながらもギルヴィードおじ様は私から気を逸らさせる為に喧嘩腰な会話を続けてくれている。


 私はギルヴィードおじ様に言われた通り、気付かれないように洗脳魔法をかけ始めた。



 時間が足りるかわからないのでとりあえず大事なことから消していく。


「っ!」


 自分の異変に気付いたのかノアストティは「ぐっ」と頭を抱える。


 マズい! と思い更に力を強めてゴリ押し洗脳をするが、ノアストティには転移魔法を展開して逃げられた。



「アイツも一人転移が可能みたいだな」


 ノアストティは『零番隊』の参謀で暗躍軍師だった。


 チートな敵役設定だったし、転移が使えてもおかしくはないか……。



 フィンスターは鍵を拾い、リルムの拘束を解いていた。


「リルムちゃん! 大丈夫!?」


「ふ、ふぃん……?」


 焦点が定まらないような目でフィンスターを見つめるリルムに、ギルヴィードおじ様はまたいつぞやと同じように自分のコートを投げ渡していた。



「マリア。どれくらい消せた」


「体感、ほんのちょっとって感じでした。リルムや私たちの顔や名前はなんとか消せてるとは思います。魔法抵抗力が強い人なので、なにかの衝撃で思い出してしまうかもしれません……」


「上出来だ」


 ギルヴィードおじ様は私の頭に手をポンと置いた。



「でもカーグランドにサキュバスがいることは確実にバレてしまいました」


「時間稼ぎはできた。とりあえずは一旦帰って落ち着いたらゼルに報告だな」



 転移魔法を使い、私たちは家へ帰った。


 フィンスターは馬車を使って捕まえた子分たちをベルドリクス家の地下牢に放り込んで、何があったかを『尋問』するそうだ。



「……何年も住んでて初めて知ったんですが、ここに地下牢なんてあったんですね」


「まあな」


 ギルヴィードおじ様は抱き上げていたリルムをベッドに降ろしながらさらりと言った。


 あんまり知りたくなかった……から黙ってたんだろうけど。軍人伯爵家は色々恐ろしい。



 リルムはMPが切れかけているのか、ぐったりとしていてほぼ寝ているようだった。


「とりあえず寝かして起きたら風呂にでも入れてやれ」


 冷たく言ってギルヴィードおじ様は机に向かった。



「ちょぉーーーっと待ってください!」


 私はさすがに引き止める。


 今は仕事より大事なことがあるでしょうが!



「あんなことされてリルムは絶対心のキズになってます! そんな時にギルヴィードおじ様がいてあげなくてどうするんですか!!」


 ギルヴィードおじ様は嫌そうに顔を顰めた。


「あのなあ前から言ってるが……」


「相手にしないとかはわかってます! でも、あんなことがあったら絶対心細いじゃないですか」


「………………」


「そんなとき一緒にいてくれるならギルヴィードおじ様がいいに決まってる」


 好きとかじゃなくても、ちょっとでもリルムを思ってくれるなら一緒にいてあげてほしい。



 ギルヴィードおじ様は長い沈黙の後、私の目に負けて「……わかったよ」とため息をはいた。



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