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061 世界情勢と誘拐疑惑

 


 ラフィちゃんが食道楽に放浪の旅を始めて


「ラフィエル様にそっくりな青年が各国に度々現れる」


 との伝承がまことしやかに広がった。



 それだけならまあ放置できる案件なのだが、ラフィエル様の名を騙って詐欺やら犯罪をするような輩が出てきてしまったのだ。


 創造主ラフィエルの名を騙るなど、どの国でも極刑だ。


 でも本当にラフィちゃん本人も降臨している手前、確かめようがない。



「ラフィちゃん、これから身分証明できるものを出してって言われたらこれを出してね」


「あいわかった」


 とりあえずの処置としてベルドリクス家しか持つことを許されない、家紋の付いたアクセサリーを渡した。



「マリア。今日の土産はモノリスの串焼きとアリアーナの肉まんだ」


 完全にグルメになったラフィちゃんは各国の美味しいものを持ち帰って来てくれる。



 ……ゼルギウス陛下にカーグランドの国章も頼むべきかもしれないな。






 ◇








「なあなあマリア。オレに出来ることあるか?」


 リルムは張り切っていた。私は元気に身体を動かすリルムを困り顔で眺めながら頼める仕事を探す。


 ギルヴィードおじ様の為に一生懸命頑張るリルムはとても健気で可愛いのだが、その分悲壮感も強くなる。



「そうだなぁ……今は特に先立ってやることはないし……」


 雑誌や写真集、抱き枕などグッズ用の撮影もついこの前終わって、今は職人たちが頑張ってくれている状態だ。



 兵たちの面倒は今日は他の武官たちにも経験を積ませるという扱いで指揮を任せている。


 いつも忙しいリルムにしては珍しく、なんの予定もなかった。



「うーーーん、最近カーグランドが多国籍化して若干治安が悪いみたいだから、警備の手伝いをしてくれたら助かると思うけど……」


「街の見回りだな!」


「あっそのまま行くと人に囲まれちゃうかも」


 リルムはシャルルの魔導具が出来るまではほぼ家に押し込められていたし、私たちが勝手にやっていることだから当たり前なのだが、全国規模の有名人(アイドル)という自覚がない。



「見回りだからって言って通してもらうから大丈夫だって」


 昔は向かってくる人間全てに警戒していた手負いの狼(サキュバス)だったというのに、今はベルドリクス家の安心感にすっかり牙の抜かれた家犬のように無邪気だ。


 正直もうちょっと警戒してほしいと思う。



 個人的には大人しくしててほしいけど、だからと言って大人しくしててはご褒美がもらえないので何かしたいんだろう。


 尽くす女の子を止める手立ては私にはない。まぁフィンスターもいるし大丈夫か。


「絶対に無茶だけはしないでね」


 リルムは大陸規模で指名手配されてる絶滅危惧種なんだからね。



「私にマナーレッスンが入ってなかったら付いていってあげたいところだけど……」


 リルムは、サングラスをかけ、服も私服を着た。


 私服と言ってもさすがサキュバス。着る服の露出が異様に高い。


「大丈夫大丈夫! 行ってくる!」


 その中でも強そうな黒い革の上着にショートパンツを履いてしゃなりと決めて出ていった。





 社交界デビューに聖女の政務と公に出ることが増えてしまった私は常に新しい社交界の話題を頭に入れておかねばならない。


 どこどこの公爵に子供が産まれたとか、結婚したとか。


 だれだれがお亡くなりになったとか、親戚付き合いみたいな知識だが相手は親戚でもなんでもない。


 親戚付き合いくらいの世間話なら良いのだが、遠回しの口撃や、その仕返しなど……私はどうもこういう場になれなくて、自分のコミュ力の無さを嘆いた。



 聖女ということでニコニコしてたり、ふわふわな天然ぶった反応でかわすことが出来る私の方がまだマシだ。


 口撃で笑顔で言い争いをする御婦人たちが怖すぎる。


 この中で頂点に立たねばならないソフィア王妃はさぞ大変なことだろう。



 新しい情報をフィンスターに教えてもらいながらメモを取っていく。


 今日の授業……というか情勢情報はフィンスター本体が教えてくれて、リルムちゃんには影が付いていった。



「なんか珍しいね」


 リルムちゃん>>(越えられない壁)>>他ってイメージだったから私を優先されるとは思ってなかった。


「マリアさんとは約束していましたし」


 刻一刻と情勢が変わっている今、本体に入ってくるリアルタイムの情報が必要になる。



 フィンスターはリルム優先だが、ちゃんと約束は守るタイプだ。


 それは今、リルムの人権の代わりに真面目に働いていることから見ても明白だった。


 それでも少しは私のことも優先順位の上の方に入れてくれているのかな、と少し嬉しくなる。



 ギルヴィードおじ様とリルムも和かに眺めているし、今のフィンスターを見ているとヤンデレキャラなんて無かったんじゃと思えてくる。


 こっちも軽い気持ちで無理にリルムに擦りつけようとしたのに罪悪感を感じながらフィンスターの話を聞いていた……が。



「比較的このベルドリクスのお屋敷から一歩も出さず閉じ込めておけてるのは良いですが、こういう時の対策も考えておかなきゃ……」


 前言撤回。


「リルムちゃん周辺には影を複数忍ばせておいているので、外に出たとしても変な奴は近寄らせません」


「あ……そう……」



 私は原作フィンスターらしい束縛強い行動に若干引いたが、彼は気にせず「でも良かった」と顔だけは可愛い顔で微笑む。


「リルムちゃんは簡単に行動制限に従うし、僕が近寄っちゃいけないって言ったら近寄らないんです」


 フィンスターは興奮するようにゾクゾクと身体を震わせリルムを操り束縛している喜びを語った。


 ギルヴィードおじ様や私はフィンスターの中の許容ゾーンというか……リルムを閉じ込めておく際の遊び相手として認めているみたいだが、確かにリルムがカムイや他の使用人とガッツリ話しているのは見たことがないし、いつも間にフィンスターが入っていた。



 ……リルム、それで良く息苦しくないな。



「今回も良くわからないところから傭兵を拾ってきたり仲間集めが趣味の良く動き回るマリアさんを好きになっていたら毎日気が気じゃなさそうですよ」


「それはこっちのセリフだよ」


 フィンスターに惚れられたら独占する為にひたすら私の邪魔をしていたことだろう。


 他の攻略キャラクターとかも殺しかねない。



 下手したらフィンスターによってゲームオーバー……この世界が消えてたかもしれないと思うと身近な恐怖に身震いした。



 ヒロインに絶対の愛情を注ぐ忠犬のようでいて、全く言うことをきかない。それが神獣フィンスターだった。


 彼を使うには標的にならない状態になりつつも彼の味方としての枠に入らないといけないわけだ。


 この一癖あるキャラクター性が結構人気ではあったが、実際だと本当に関係の調整が難しいな……。


 リルムちゃん、本当にありがとう……。








 ◇





「『聖女』ということで、特に宗教大国クレルモンフェランの圧力が酷いですね」


 元々宗教で儲けて大きくなった国だから、創造主ラフィエル様の加護を持つ私は大変魅力的なんだと思うし、クレルモンフェランが聖女を持っていないと信仰心が薄れかねない。


 ラフィちゃんの『マリアが幸せじゃないとただじゃおかない』宣言のおかげで難は凌げているが、なかったらこっちに寄越せと凄かっただろう。



 クレルモンフェランは高圧的外交で、友好国と言う名の属国にしている国も多い。


 今も弱小国カーグランドを属国にする機会を虎視眈々と伺っているように見える。


 大国の人口率というのもあるが、婚約チャレンジにくるのもここが一番多い。




「クレルモンフェランと魔人連邦ガノンは一発触発といった空気なので、両者回復魔法を持つ聖女を取られたくは無いのでしょう。ガノンからのアプローチも凄いです」


 戦争で使う為に口説かれてると思うと百年の恋も冷める。


 何度「一目見て好きになった」と熱心に言われても背景からしてまったくなびきたくは無い。


 下手したら「手に入れたからゾンビアタックできるやん!」とか言って戦争が始まるまである。絶対に嫌だ。



「三大大国はどこも大国を利を活かして圧力をかけてきてはいますが、三者睨み合いでマリアさんがどこかに寄るようなことがない限りは手を出しにくいでしょう」


『マリア様はお祖母様もお祖父様も純血の貴族。やはり貴族の血を守る我々ヴァンデミーアが住みやすいのでは?』とかいっていってすり寄ってくるのは三大大国最後の一つ、選民思想のヴァンデミーア。


 貴族優先の考え方は本当は平民の私としては相容れないところが多すぎて、無理。




 というか『聖女勇者』では攻略キャラの障害の為に貴族は一部を除き非常にクソという公式設定がある。


 カーグランドやカムイの件でもお分かりの通り、素行の悪い貴族がわかりやすいくらいにいたと思う。カーグランドはシグルド政権になる前だったからまだ良い方だったのだ。


 良い貴族は全員シグルドに追い出された。「これがゼルギウス政権だったなら……」という無能設定を濃くするために良い貴族がちゃんといた。



 ヴァンデミーアは貴族選民思考の国ということで特にひどい。


 ので、ヴァンデミーアで信じれるのはヴァンデミーア唯一の良心、リーベの家族のマーカチス侯爵家だけ。




「カーグランドはたくさんの他国に囲まれた土地になりますが幸い大国とは遠いです」


 大国はギルヴィードおじ様みたいなお助けキャラから遠くてもどうにかなるからね。そう設計した。


「更にその三国全ての中立に立っていて特に派閥の無い国なので商人が住みやすく、絶妙なバランスで成り立っています」


 すぐ潰れる国だから特にどこの派閥とかも作らなかったんだよね。


 雑設定がこんなにも役立つ日がくるとは……。


 特に危ない思想を持つ貴族や場所、気を付けた方が良いものをどんどんリストアップされる。



「覚えることがたくさんすぎる!」


「あはは、焦らず頑張っていきましょう」


 フィンスターは笑顔で返してくれる。


 一人でこれだけの最新情報を影から収集して頭がパンクしないのか……神獣の力なのか。




「ゼルギウス陛下は聖女を使って隣接国と友好関係を結び、その間にカーグランドを攻めにくい強固な国にする方針で動いているみたいですね」


「聖女がいる今しか使えない外交だけど、私がいなくなる前に地盤を固められたらなんとかなる話よね」


 今のうちに出せる強カードで攻めていくしかない。


「そうですね。特に今はサキュバスのリルムちゃんもいるし……」




「聖女の上にサキュバスまでバレたら、さすがに三者睨み合いでは済まないのかしら」


「あまりにも美味しすぎますからね、なにか理由を付けて攻め込む可能性は否定出来ません」


 聖女は創造主ラフィエルの加護があって手は出しづらいが、サキュバスは家畜扱いをされてしまっている為「聖女もサキュバスもいてズルい。せめてサキュバスだけでもくれ」みたいな条件を提示してくる可能性だってある。


「その場合は僕、神獣フィンスターとの契約を持ち出してなんとかしたいですが、僕は一度クレルモンフェランに負けているので、力としての抑制力にはならず、戦争を仕掛けて来られたら意味もありません」


 権力……力が弱いと防衛することも出来ない。




「リルムには悪いけど、もう少し日陰で生きてもらうことになりそうね」


「そうは言っても、今はもう大陸中のアイドルになっていますけど」


 くすくすとフィンスターは笑う。



 そう和やかに今の情勢の勉強をしているとギルヴィードおじ様が政務から帰って来た。


「おかえりなさい、おじさま」


 一応おじ様は伯爵になり、ここの当主なので玄関ホールまで行きお出迎えをする。


「あぁ」


 そう言いながら使用人さんたちに荷物を渡しているが、周りをきょろきょろと見ている。


 多分いの一番で飛んでくるピンク髪がいないことが気になるのだろう。



「リルムなら街の見回りに行ってますよ」


「アレがか?」


「一応影も付けてますから」


「本体じゃねえのか」



「さっきまでマリアさんの授業をしていて」


 アイツ自分がどんな存在かわかってんのか、と呆れるおじさま。不機嫌だな。



 私は政務に関わるような歳でも性別でもないのでおじ様からの又聞きだが、シグルドの前から計画して用意していた新体制は前もって用意していたおかげで、忙しくもなんとか成り立っているようだ。


 ただ移動してきた他国者が増えたりと問題は多く、治安の悪化による衛兵増加や職業相談にてんてこまいらしい。


 軍人伯爵として軍事を一手に任されたと言っても政治に口出せないわけでもなく、ギルヴィードおじ様は外交や政治でもどんどん才覚を発揮しているので、原作通り宰相も時間の問題だろうな。




 夕ご飯の時間が近付いているが、まだリルムが帰ってこない。


「さすがに遅すぎねえか」


 おじ様も思ったらしい。フィンスターを見る。



「本体は影に指示を出せますけど、影は僕のところまで帰ってくるまで情報共有が出来ないんです」


 一応「リルムちゃんを早く帰って来させろ」とは指示をしてるらしいが、一向にその気配がないらしい。



「……なにかに巻き込まれた可能性は……」


「……十分ありえますね」


 影が何者かに消されていたら指示は通らない。



「しかしかなりの数の影をつけました。それを逃がさず消すなんて……」


 嫌な予感がする。



 ギルヴィードおじ様は「ったく」と仕方なさそうに立ち上がり


「迎えにいくぞ」


 と外出用の服に着替え始めた。



「念のためマリア達と揃いで買ったっつう装飾品に居場所がわかる魔導具を付けておいた」


 アレなら気に入って毎日付けてるからちょうどいいと付けたらしい。


 GPSかなんかか。いやまあリルムには必要だろうけど


「僕は今日街でなにかなかったか聞いてきますね」


 フィンスターは高速でフッと影を幾つか出した。



「わ、私も行きます!」


 女の私は時間がかかる。


 すぐにメイドさんを呼んで外出用意をしてもらった。



 メイドさんに着替えさせてもらいながら考える。


 街中で大人数で女の子を囲んで誘拐したら目立つだろう。騒ぎになってる筈なのにそれもない。


 捕まったとしたらどっちにしてもリルムに勝てるくらいの強い人物であることには変わりない。


 それだけでかなり犯人が掴めてくる。



 なにが目的なのか……もしかしたらと疑われてはいても、決定的にサキュバスだとわかるようなミスはしていない筈……まさかアイドルのリルムちゃんとしての誘拐か?


 サキュバスとして不安だったのは察知されていないかの不安だけど、今は攻略キャラの天才発明家シャルルお手製の察知バリア魔導具をつけたらもう遮断しきれているはず。


 本当に偶然なのか? それとも……




 まあ行ってみればわかるよね! と支度を済ませ馬車に乗る。


「遅えぞ」


「女の子の中ではかなり早いほうですよ。私」


 不機嫌なギルヴィードおじ様に迎えられ私、ギルヴィードおじ様、フィンスターの三人で出発する。


 御者は青年に変身したフィンスターの影だ。



「どうやら森の奥に入ってるみてえだな」


「街から出てる! 完全に事件じゃないですかヤダー!!」


 リルムは大丈夫なんだろうか。



「リルムちゃんにはギルヴィードさんがバリアを付けてましたよね」


 そうそうあのチートバリア。


「アイツのMPが尽きるまではバリアは展開される。なら『性的感情の無いヤツ』に誘拐されたってことは……サキュバスってバレてる可能性があるな」


 チッとギルヴィードおじ様は舌打ちをする。




「街ではリルムちゃんが店を荒らしていたゴロツキを退治して衛兵につきだしたり、目撃情報は結構あったんですが、夕方にはパッタリ目撃証言はありませんね。多分その頃なにかあったんだと……」


 このままリルムを誘拐されるのもまずいし、取り戻してもサキュバスがカーグランドにいることがバレた……。


 かなりマズい状態になったことを察知して、馬車は森に着くまで静かに揺れていた。



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