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006 幸せ家族計画

 ゲッソリしながらもベルドリクス卿 ―― 引き取って下さったので今後はお祖父様 ―― との面会が終わった。


 流石ギルヴィードおじ様の家族……。


 これは幼女パワーで孫馬鹿にさせるなんて以ての外みたいな空気だったわ……。


 グッタリしていると全く申し訳なさそうな顔をしていないギルヴィードおじ様から


「すまないが家族が増えたのに私にも紹介してほしいと母から連絡がきたので、夕食は家族水入らずでとることになった。用意はメイドにさせるから指示に従ってくれ」



 なにが家族水入らずじゃい!!



「基本的なマナーは昼教えたし、粗雑でも平民だって最初は大目に見てくれんだろ」


「わかってたならもっとちゃんと教えて!!」



 戦闘により薄汚れた初期装備の修道着服からメイドさんに用意してもらったお嬢様服に着替えておめかししてもらうと、流石はこの世界のヒロイン、それなりにお嬢様に見えるのでは? という美少女が出来上がった。


 新しい服にちょっと上がったテンションも氷点下のベルドリクス家を前にしてカチコチに凍った。


「まあ! 貴方がマリアね。()()()()()()()()()()……わたくし会えてとても嬉しい」



 ついさっき出来た娘の更についさっきできた孫にも笑顔で対応できる……これがギルヴィードおじ様の母……。


 私と私の母は療養で静かな土地に居たことになっていた。



「お、おばあ様……この度はお会い出来て……」


「かたくならないで、これからはわたくしが娘の分まで幸せにして差し上げますからね」


 ギュッと抱きしめてくる温もりはとても暖かく、演技だとしても安心した。



 シルメリアお祖母様はいつもニコニコしている、社交界で人気のありそうな品の良いマダムだった。


 とはいえ、社交界は貴族の戦場、情報戦だ。


 そんな貴族設定を作った本人としては笑顔を張り付けて胆力もありそうなシルメリアお祖母様は強者以外の何者でもない。こ、こあい……



 急に出来た孫の私にも直ぐに対応し話を合わせ取り入る術は流石としか言いようがない。


 メイドさんから聞いた話、このベルドリクス家、これでも家族仲は良いらしいのである。


 確かになんていうか……全員強そう。


 強者同士の絆みたいなものがあるのだろう。


 だからギルヴィードおじ様も共闘みたいな持ちかけ方をしたのかな?



 夕食をみんなで召し上がるが正直味がよくわからない。


 テーブルマナーで必死だ。


 そんな私をよそに三人は夕食と言う名の会議を始める。



「まずはマリアはウチの孫だと言うことを周知させるまでは下手に動くな」


「は、はい」


「マナーの家庭教師にはわたくしもお手伝い致します。社交場で孫との触れ合いを語るのも素敵ですわね」


 孫と仲良い自慢のマウント勝負に使えるのか……何処の世界も孫は強いな。



「ギルヴィードは内密に少しでもマリアの能力が強まるか考えてみろ」


「了解した」


 お祖父様も隠密派で助かった……


 少し落ち着いてご飯を味わうことが出来るようになってきた私は、流石に貴族の夕食は大衆料理店とはまろやかさやコクが違うな……と違った美味しさがあるともぐもぐ美味しく食べていた……ら、お祖父様が爆弾発言を口にした。



「私はいつか、この大地が戦乱にまみれると考えている」



 喉に詰まりかけた。


 な、なんだって!?


 もう公式の数年間後の戦乱時代を見破る人がいるなんて……



「そ、そのような兆候がもう出ているのですか……!?」


 焦ってお祖父様に話しかけてしまう。



「まだ憶測を出ない話だがな」


 ギルヴィードおじ様もシルメリアお祖母様も真剣な様子で耳を傾け話題を提供した。



「そう言われると国ごとの物流の物価が徐々に変動していっております」


「商人もところどころで決まりが変わって大変と言っていたな」


 それって……



「何処かの国力を削る作戦を何処かの国がしている……?」


 ボソリと言った独り言に三人の目線が集まる。


 私はゲームディレクターだっただけあって設定の裏設定には詳しい。


 戦争が起きる前に『こんなことが起きてた』などの話はドラマCDなどを出す際に齟齬が起きない様――人気が出たあとの後付けだが――若干作ったりしていた。



 しかしそれを知ってると言えるわけもなく、言い当てるのは今は幼女の私は明らかに奇異だ。


「あ、浅知恵で申し訳ありません……!」


 焦っててきとうなことを言ったと謝る私をお祖母様は優しく褒めた。


「いいえマリア、その言葉気になるわ。わたくしは持ち帰った物流の流れをまとめてみようと思います」



「まとめたらギルヴィードに渡し何処か手を組んでいる可能性があるか仮説を出してみろ」


「わかった」


「承知しましたわ」


 たった一言でテキパキと決まっていくベルドリクス家に私は目を白黒させポカンと見守るだけ


 疑問や気付きを得たなら子供の戯言でも調べていくのか……こんな家であの切れ者ギルヴィード=ベルドリクスは生まれたらこうなるな……と、私は妙に納得していた。



「マリア」


「は、はい!!」


「次の夕食からも出席しなさい。あと……


 他家の前ではもっと子供らしい子を演じなさい」












「お嬢様のお部屋はこちらになります」


 無事孫認定を頂き一部屋を頂いたわけだが――


「ひ、ひろい……」


 お姫様のベッドだ……触ってみるとふかふかで


「身体がしずむ……」


 身体を大の字にしてベッドに横たわる。


 今日一日で色々ありすぎた。



 創造主と別れてから狼に襲われて、助けてくれたのが王子と伯爵の息子で、伯爵令嬢になった。




 どういうことなんだ。




 しかしながら小さな女の子のお部屋だというのに必要充分なものだけでシックにまとめられてるのはどうなんだ。


 いや今日まで『女の子の孫』なんていなかったから当たり前なんだけど。



「……戦争かあ」


 ゲームで起きるからと、漠然とする気になっていた。


 でも、今日、魔物に襲われて、ゼルギウスさんが怪我をして思った。



 この世界はゲームじゃなくて私の現実の世界。



 わかってたつもりだった。


 けどそうじゃなかった。



「……やりたくないな……」


 ゲームでは軽くボタン一つで戦ってた。



 でも、狼に腰抜かすほど怯えて血をみるだけで腰を抜かした私が戦争なんて出来るの?


「……でも、もしかしたら避けられるかもしれない」


 新しい『聖女勇者』というストーリーを作る私なら戦争を防ぐことだって出来るかもしれないのだ。


 孫子も戦わずして勝つのが真の戦上手だって言ってた!




「よし!」


 それまでに今出来ることはやっておこう。


 私は部屋の中で机に向き合い置いてあった紙とペンで作戦を立て始めた。



 まず仲間探し。



 弱小カーグランド国を選んでしまった以上とにかく戦力がほしい。


 このゲームは攻略キャラクターがとても強い。


 逆にその鬼つよな攻略キャラクターが敵に回ると滅茶苦茶厄介なので全員味方にしてしまいたい。



 国取りシュミレーションゲームである『聖女勇者』には攻略キャラクターのいる『開始国』が10国存在する。


「あっ地図がある。助かる~」


 幼女の部屋に世界地図があるのもどうかと思うが元は客人用の部屋だったのだろう。


「これに更に勢力図を足すとこんな感じか」


挿絵(By みてみん)


 ゲームスタート時の状態の話だから今現在もこの状態かはわからないが、大国3国が属国や加盟国で派閥を作り三すくみ、お互いを牽制し合うように存在していた。


「…………こうやってみるとカーグランド、本当に小さいな……」


 地図を見てたら不安になってきた。


 カーグランドは一番最初に攻略()しやすいようにどこの派閥にも属さない、攻略が大変になるであろう小中国を中心に隣接してる一番の弱小国。


 ここからどう立ち回って生き残るかが問題だ。


「……幸い、ゲームというか戦国時代に突入するにはまだ時間があるし、それまでに準備してこう」


 戦争回避していけたらめっけもんだ。




 ゲームには色んなエンドがあるが、私が目指すのは真EDとも呼ばれる『トゥルーエンド』……だと思えるような、新しいシナリオだ。


 全員に救いがあり幸せになる、物語として綺麗に終わることが主流なハッピーエンディング。


 その為には手段は選んでられない……あれ、この時点でヒロインの性格として破綻しているのでは?




 とりあえずストーリーがきちんとハッピーに進めばなんとかなると信じ、計画を立てていく。



 現時点で仲間にしたといってもいいのはギルヴィードおじ様。


 ゲーム制作者の知恵を生かして出来るだけ技などの相性の良いキャラを仲間にしていきたい。


 このキャラが居ると便利そうだなっていうのは目星は付けている。



 乙女ゲーム『聖女勇者』だが、そんな乙女ゲームにも親友キャラと呼べる『女の子』キャラがいる()()()()()


 私は親友ちゃんには多大な、そりゃもう多大な期待をしている。


 絶対に手に入れたい。



 親友ちゃんは男嫌いで逆ハーレムの邪魔はしないし恋愛相談すればちょっとしたスパイスをつけてくれるような、絶妙な子だ。


 しかしながら、その子は大っ変、男性ウケするキャラだった。



 その子に我が社の男性陣が盛り上がってしまって設定を盛りすぎたのだ。




 結局その子は盛りすぎた設定と容量の関係で仲間にならず、倒されるだけの『悪役キャラ』になってしまったのだ


 が、


 我が社男性陣有志による、その親友悪役キャラの公式同人スピンオフゲームを作ってしまったのだ。


 まだ『聖女勇者』の人気に火がつく前、そのゲームに売上が負けてなんとも言えない気持ちになったのを覚えている。




 そんな悪役親友ちゃんのスキルだが、かなりギルヴィードおじ様と相性が良い!


 ギルヴィードおじ様は魔導士でとてもとても強いのだが、MP消費が激しい。


 悪役親友ちゃんは没前の原作データでは友好度の高さに応じて(仲間)キャラのHPとMPを徐々に回復させる常時発動の固有スキルが備わっていた。



 (ゲームマスターのチートのおかげで無限MPの私にはもう関係ないが)ヒロインにもMPがあるので、悪役親友ちゃんと仲良くなれば仲良くなるほどMP回復が早くなり有利に進められる……


 ――……という親友キャラだったのだ……。悪役になっちゃったけど。



 流石の私もMPでMPを回復するみたいなこと出来ないのでMP回復はポーションかその子のスキルのみが戦闘中のMP回復方法となる。


 MPポーションも全く普及しておらず、大陸を冒険しまくるヒロインたちでさえ見つけられるのは数個だけ。


 そんなMP回復だが、ゆとりな乙女ゲー仕様で戦闘毎にリセットされ全回復するのでほぼ死にスキルになっていた。



 サポートのサブサポートみたいな「あんまりいらないけどまあいたら便利だよね」という親友キャラらしい性能を持っていた。


 が、このセーブポイントなどは無く、ましてや戦闘毎に全回復なんてものもない現実ではかなり悪役親友ちゃんのスキルの重要度が増してきた!


 で! MP消費の激しいギルヴィードおじ様と友好度でMP回復する悪役親友ちゃんをくっつけたら『友好度MAXになって最強ギルヴィードおじ様になれるのでは?』と閃いたわけだ。



 是非くっつけてギルヴィードおじ様と私の恋愛フラグも粉々に砕きつつ、戦闘でも有利になるスキル構成を構築させたい!



 ――さっきからなんで恋愛フラグを折ろうと画策しているかというと、このゲーム。



 大人向け乙女ゲーム……『アダルトゲーム』なのである。



 人気が出て健全版も出たが、美少女ゲーム会社が片手間で作ったゲームなだけあり、元はアダルトゲームだ。


 付き合ってもいない、両想いでもない、下手したらあっちに愛もないのにヒロインに襲い掛かるイベントがある。


 そして今回制作予定の企画は健全向け。


 私がエッチなことをしたら世界が消える可能性がある!



 なんなんだこの危険な状態。



 そんなわけで世界平和の為に悪役親友ちゃんには誰かしらとくつけ、生贄となってもらう。


 逆ハーレム前提ゲームで逆ハーレムせずに全員幸せにするなんて相当な難易度になる。手段は選んでいられない。


 とんだ極悪聖女だと言われようが多少の無茶はしていかねばならない。



 もう『血のつながった家族』であるギルヴィードおじ様には攻略キャラの年齢になるくらい枯れるまで独身より早く可愛いお嫁さん貰ってほしいしね。うんうん。


 私はなんていい姪なんだと自分を棚に持ち上げた。


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