057 体制と今後の方針
「家督を私、ブリザベルト=ベルドリクスからギルヴィード=ベルドリクスに相続します」
私のやっととも、もうとも言えるデビュタントと共にそれは発表された。
「ゼルギウス政権になり色々が一新され、ベルドリクス家もちょうどいいタイミングでしょう」
驚きの声とパチパチという拍手の音が聞こえる。
家督をお祖父様からギルヴィードおじ様に譲られることとなった。
お祖父様とお祖母様はその後はベルドリクス領に戻るが、そこでベルドリクス軍を鍛えたいと言い、まだ協力してくれる心づもりのようだ。
息子から「聖女の他に実はサキュバスと神獣も家に居て飼ってます」って言われたら「もう知らんお前がやれ」って気持ちにもなるわ。
どれをとっても大陸が大騒ぎになる案件すぎる。
「おじ様、おめでとうございます」
「あぁ、ありがとうマリア」
貴族スマイルのギルヴィードおじ様はやはり慣れない。
ギルヴィードおじ様は余所行きの笑顔で他の貴族にも対応していた。
イケメンなのでパッと見 紳士で見惚れる者も多い。
「ギルヴィード様! おめでとうございます!」
「マリア様にもお教えになるほどの魔導を腕前など本当に素敵……!」
そうなってくると激化するのはギルヴィードおじ様の婚約者争いだ。
正妻すらいない陛下の覚えもめでたいイケメン伯爵さまなんてお買い得にもほどがある。
私はきゃいきゃい囲まれているおじ様を冷めた目で見ていた。
ギルヴィードおじ様はどんな人がタイプか一度聞いてみた時に
「とりあえず頭の良いヤツであることが前提だな。ウチには隠さなきゃならねえことが多すぎる」
夢も希望もない結婚願望が返って来た。
リルムの人権を確保出来ないとフィンスターも使えなくなるしリルムを家畜扱いしないことが前提としてもあるんだろう。
でもギルヴィードおじ様は伯爵家の長男で一人っ子で、完全に家格の合うお嬢さんとのお世継ぎを求められる存在だ。
ゼルギウス陛下にも「ウチの子とヴィードの子が男女だったら婚約出来るな!」とウキウキの様子で約束してきてた。
つまり王にも結婚しろと言われているのと同義だ。
サキュバスは人間が産めない。産めるとしたら同じ女のサキュバスだけだ。
男の人間のお世継ぎが産めない平民以下の家畜扱いの娘など今をときめく伯爵さまにどう薦めればいいんだ。
はぁとため息が出てしまいそうになるが、一応これは私のデビュタントなんだった。
しっかりと勉強した礼儀作法や知識をフル動員して立ち向かっていく。
ゼルギウス陛下といえば、リルムがサキュバスであることを報告した。
そして神獣フィンスターが協力する代わりにリルムの人権を求めていることも教えた。
ここにいるのは私とギルヴィードおじ様、そしてゼルギウス陛下の初期メンバー三人組だ。
森で会ったあの頃から 聖女、伯爵様、国王陛下と随分立場が変わったものだ。
「なんかやってるなとは思ってたが、こんだけのモンを隠してるとは……」
王様になって色々大変な時期に聖女の他、更に厄介なものを一気に二つも持ってきたのだ。
あ、王様祝いに非公式でシャルルの作った高性能な魔導具セットを贈らせていただいた。
「聖女以外にもサキュバスや神獣がいるなら天才発明家を引き抜いてまでバリア魔導具を強化してた意味がわかるな……」
その高性能な魔導具たちをみて若干あきれ顔。ごめんね。
さすがのゼルギウス陛下も驚いていたが、切り替えの早さも天下一品だ。
「サキュバスは動かさない方がいいだろ。魅力的だがこっちじゃ人権を確保できるように立ち回れる気がしないし、下手したら他国にバレる」
ヴィードがいるなら安心だと王様黙認がもらえた。
「その代わり出資はガンガン頼むからな」
金で国に恩を売りベルドリクス家が更に盤石になりそうだ。
次にギルヴィードおじ様は今後の方針を話し出した。
「今のカーグランドは安全な国として売り出して外交で稼いではいるが、その安全はかなりぺらっぺらだ」
「確かに。最近のギリギリの戦で嫌というほど痛感したな」
ギルヴィードおじ様の言葉にゼルギウス陛下も頷く。
「なのでサキュバスで稼いだ金は軍備増強に使おうと思う」
「国でサキュバスの原液を確保したとうそぶいてポーションを作らせてもいいですね」
シャルルたちは研究で忙しいので正直ポーションを作っている暇が惜しいのだ。早くにゼルギウスさんが王様になってくれてよかった。
「前から軍を気にしていたが、そんなに軍備を補強する意味でもあるのか?」
ゼルギウス陛下なら信じてくれるかもしれない、今後の治安の悪化の可能性。
「回避出来ればそれが一番良いと思ってはいるんですが……」
昔から言い伝わっている『国が一つにまとまれば人の悪意より生まれた魔物は消える』という言い伝えを実行する口実で攻めてくる国が増えるかもしれないというこの世界の原作ゲーム『聖女勇者』のお話だ。
「……その事例が本当に起きるかはともかく、聖女に加えてサキュバスに神獣までいることがバレたら、こんな弱小国攻め落として奪い取ろうという奴が出てきてもおかしくはない」
ゼルギウス陛下は考え事をするときのクセなのか髭をじょりじょりしながら話していた。
確かに今のところ小競り合いはしたが、本気の侵略活動は受けていない。
「軍備の件は了承した。お前らで稼いだ金だ。お前らの好きにやってみるといい」
自分たちで出資した軍備費を自分たちの采配で使っていい許可がでたぞい!
つまり実質軍の権利はベルドリクス家が握ったようなものだ。
「しっかしウチは攻められたらすぐ潰れそうな立地だからな。戦わないに限るぜ」
ホントだよ。カーグランドは潰しやすいボーナス国だからね。作ったの私だけど。
公の軍議でもカーグランド軍の全権を軍人伯爵で鳴らしたベルドリクス家が握ることに異論は出なかった。
むしろ「今のベルドリクス家ならもっと美味しい役職を持っていけるだろうに、そこまで軍にこだわるか?」って目で見られていたらしい。
確かに今は何度か攻められただけで講和もしたし平和だ。
ザックベル国とも犯人を突き出しザックベルの要求通りの処断をして講和した。
設定ではザックベルの王様は脳筋だけど正義漢な好人物だった。ゼルギウス陛下とウマが合いそうだ。
強い者が好きなお国柄であるザックベルにはゼルガリオン効果も手伝って結構気に入られたみたい。
去年やった対抗試合が思いもよらず好評で、ザックベルともあの形式の練習試合をしようとせっつかれているようだ。
「まあそっちの外交はゼルギウス陛下たちに任せておいて、私たちはひたすら仲間集めと増強ですね!」
「ストイックな軍人伯爵の名に恥じない行為だな」
帰りの馬車でギルヴィードおじ様と二人今後の予定を話し合った。
私は外交も内政も一切ノータッチでマッチョに生きてくぞ~。ムキムキ
……私、戦えないけどね……。
最近ラフィちゃんは夜も人間の姿で散策に出ていることもあるらしく、私の元に来ない日も増えた。
なので私とラフィちゃんの日常は変則的なものになったので、一人で寝ることも多くなった。
今日もそんな日なんだろう。
今はめっきり食道楽らしく、お土産を買ってきたりすることもある。
「お金はどうしてるの?」
「これか?」
そういうとラフィちゃんの手からお金や宝石などが生成された。
そうだよね……創造主だもんね……造れちゃうよね……。
神がほぼ無銭飲食ってどうなんだ……まあ偽金じゃないからいいか。
「……ラフィちゃんが世界を満喫しているようで良かった」
私はなかったことにした。
今日はラフィちゃんもおらず一人だし、今後の方針や最近の自分を振り返った。
王様の言葉になにも返せなかったのは良くなかった。
権力社会で、幼い頃からの婚約者でも上の人から「俺に寄越せ」と言われたら差し出さないといけない世の中だ。
だからといっても私は創造主のラフィちゃんに甘えすぎな気がする。
「ああ〜〜でも外交苦手だ……」
今回のですっかりトラウマというか、苦手意識が出来てしまった気がする。
出来ればその分野は周りに任せて、私は軍事方面で貢献したい。
た、戦えないけど……。
『外の私』もラフィちゃんに泣きつきまくりで自分で解決しないヒロインは興ざめだろう。
この世界は外の私がつまらないと思ったら考えることをやめられてこの世界は消滅してしまうのだ。
「ラフィちゃんには手伝ってもらうことはあっても全任せは出来るだけしない方向で頑張ろう……」
同じ手は二度は使えない。
反省を心に刻み紙を一枚引き出して、タスクをそこに書き出していく。
・戦争回避しつつ軍備増強
軍人伯爵と言われてたって出来ることなら戦いたくない。
攻め込まれないように強くなるのは大事……!
・聖女としての立ち回り
この力をどう使うのか。どう活かしていくのか。
これからが重要になってくる気がする。
・仲間の攻略キャラを集める
継続! 各地に広がってるからやっぱり集めるの大変。
敵にまわると厄介だし味方に出来ると防衛にもなるから頑張りたい。
数年経験して思ったけどやっぱりこの世界乙女ゲーだけど隠しきれない殺伐さがあるよ!
当たり前か! 戦争ゲーとRPG要素があるもんな……。
・やっぱりアダルトルート回避!
大人向け乙女ゲームなだけあって王子がプロポーズしてきたりとモブであろうと容赦がない。
権力も創造主も味方につけたしもうそうそう手出しはしてこないだろうけど、恋愛に持っていこうとする強い意志を感じる……。
転生者のゲルベルグさんっていうイレギュラーな存在も出てきたけど、根本は変わってないのね。
ヒロインが相手を選んでえっちをするだけでストーリーが変わるような大人向け乙女ゲームの世界だ。
そう考えると物凄い世界に入り込んでしまったものだよ……。
どんどん話は変わっていってる。
キーになるキャラたちがどんな動きをしだすか予想もつかない。
早いところ確保なり、味方に引き入れておきたい存在だ。
しかし、私は面白おかしくクリアして、外の私に「みんな幸せに暮らしましたとさ、チャンチャン!」と思わせたら、その後の『幸せな世界』がずっと残り続けられるかもと考えている。
だから私はこの世界の為に面白くて幸せな世界をみんなに、私に、提供しなければならない。
それが今の大切な仲間たちを守る方法なのだと自分を奮い立たせた。




