053 権力の暴力
※最初カーグランド王(第三者)視点です
◇
カーグランド国王は悩んでいた。
聖なる光で創造主ラフィエルを呼び出した少女。マリア。
彼女を一目見たいと他各国から国王に要請が届いているのだ。
多分似合いの男子も連れてくるのだろう。
婚約なりの言質をとり、マリアをこちらに寄越せと言いたいのだ。
貴族の基本的な手だ。
確かに小国のカーグランドには過ぎたる存在。
どこぞの国にでも引き渡し代わりに優遇や加護を求めるかも考えてた。
しかしこの世界でラフィエル様は絶対。とてつもない利用価値がマリアにはあった。
しかもこの前まではラフィエル様に気に入られているだけの存在であったが
回復魔法も使えるようになったのなら軍事にいるだけで全く変わる。
どうにかしてカーグランド王族で囲いたい。
しかし丁度良い男子がゼルギウスにはいない。
歳の差にはなるがまだ婚約状態のゼルギウスにマリアを正妻として娶れと言ったらありえないと断られた。
ソフィアがいるとはいえマリアが16の頃にはゼルギウスは約40。あり得ない婚約ではないだろうが。
側室でもいいと言ったら聖女を側室とはと咎められた。
なのでシグルドに勝ってもらってジェラルドに娶ってもらいマリアを確保したかったのだ。
しかしそのシグルド陣営は完全に沈黙……。
ゼルギウス陣営の調べを待っているところだが、これでザッグベルの件にシグルド陣営が関わっていたとしたらシグルドを選べばザッグベルから横突きを食らう。
もうシグルドは選べない。
唯一の救いと言えばジェラルドとマリアの仲が良好なことだ。
公式ではゼルギウスに婚約を拒否されたとのことだが、ジェラルドから伝え聞いた話だとマリアとは毎日のように手紙をやり取りしマリアの近況を聞いたり、会えない寂しさを紛らわすために写真なるものを作りジェラルドに送ったという。
写真はすさまじい発明だ。すっかり我がカーグランドの名産品となっている。
人物写真に風景写真も撮れ、カーグランドの名所などを撮っては人通りの良いところに貼り、人が集まる人気のスポットとなっているようだ。
ベルドリクス家が天才発明家シャルル=カルーセルを引き抜き亡命させただけの意味はあった。
しかしその発端がジェラルドに姿を贈りたいというマリアの献身的な気持ちだとしたら……
カーグランド王はこの事態を収める最善手を考え始めた。
◇
「えっ もうですか?」
ザッグベル事件の真相は大体つかめたようだ。
私はカムイに淹れてもらったお茶を飲みながら、ギルヴィードおじ様とフィンスターの話を聞く。
リルムはお疲れなのかベッドで寝ていた。
「あぁ。牢にいた売国奴の平和主義派から詰めてったら意外とあっさりな」
「他国の協力を得て、ザッグベルをけしかける方法を考えてもらってましたね」
馬鹿が考えつかねえ方法だと思ってたら他国に操られてやがったと舌打ちした。
「どの国かわかったんですか?」
「十中八九、多分ヴァンデミーアだろうと」
げぇ! ヴァンデミーア!
私は顔を引きつらせた。
ヴァンデミーアは宗教大国クレルモンフェランと魔人連邦ガノンと同じくらいの国力を持つ三大国の一つだ。
魔人連邦ガノンは「魔王国」だったらヴァンデミーアは「貴族主義の人間版敵国」というコンセプトで作られた国……響きからお察しではあるだろうが、とんでもなくドロドロしている。
一応ヴァンデミーアにも攻略キャラもいてスタート地点にはなるが、引掛けというか初見殺しというか……、カーグランドほどではないが他国推奨な国になる。
敵にするとどんどん領土をひろげて前進していく強くて恐ろしい国だ。
特に怖い『零番隊』が居て、そこがめちゃくちゃ強いし名前ありのサブプレイアブルキャラが二人もいる。
敵なのに『聖女勇者』では魔人連邦ガノンと並んで一番人気と言ってもおかしくない強い国だ。
存在が殆ど敵陣営ということで主要敵キャラが存在しており、攻略は不可能。
それ故に零番隊はいわゆる『腐女子』に大人気になった。
ヴァンデミーアの零番隊が『聖女勇者』の火付け役と言っても過言ではない。
「ヴァンデミーアは一体なんの目的で……」
「まったくわからんな」
ガノンの時と同じくなにかあるんだろうか……
「ヴァンデミーアの件は繊細な問題だ。証拠も足りねえ。このままヴァンデミーアに言っても突っ返されるだけだろう」
だが……とギルヴィードおじ様は続ける。
「それを伏せておくにしてもシグルド陣営がやったことは事実だ」
ゼルが勝利宣言という名の証明断罪してたぞ。と愉快そうにいうおじ様。
「陛下は三日後、可能な限りの貴族を集めてパーティを開くとのことだ」
近いうちに開くとは公言されていたので皆用意はしていた。
「本当にゼルギウスさんには気を付けておいてくださいよ……」
毒殺される危険性があるんですから……私は心配そうにおじ様に言った。
私のエスコートの手紙は文字通り山になる程きたのだが、ギルヴィードおじ様にお願いすることにした。
自分も相手がいないくせに嫌な顔をするおじ様に私も嫌な顔をした。
「こんな山の手紙がくるほどモテモテな令嬢にお願いされてする顔じゃないですよ」
私だってお願いしたくてしたわけじゃないです。win-winの関係になるからです。
あとリルムが悲しまないしね。
リルムはなにか会った時の為に場内警護に回るそうだ。ドレスとか着たかったろうな。
フィンスターが心配していたが、リルムは最近大好きだったロマンス小説を読むのをやめたらしい。
「こういうの見るの、あんまりよくねえと思ってさ」
その代わりギルヴィードおじ様がいるときには隠さずベッタリいるようになって、フィンスターは大人になってく娘を見ていくような感覚で眺めていた。
ゼルギウスさんの一件が終わるまでは婚約する気ないって言ってたおじ様だけど、これが片付いたらどうするんだろう。
お祖父様とお祖母様みたいに程よい距離感のつくれる頭の良い正妻でも迎えるのかな。
男は大体おなじような服でいいらしいんだけど、女のドレスは前と同じだと軽くみられるらしいので今回はまた違うドレスを作ってもらっていた。
今回はプラチナブロンドが映える水色系のドレスにしてもらった。
女の子は変身願望があるとは言うが、残念ながら私には然程ない……けども、確かに新しい服や髪型をしてオシャレをすると防御力というか、強くなった感じがする。
折角美少女になったわけだし、もうちょっと楽しみたい気分ではあるので、モデルの仕事は有難いのかも。
長身のおじ様と幼女からギリギリ少女になったくらいの私では背が足りず、手を繋いで歩くような感じになる。
これは恥ずかしい。
とりあえずギルヴィードおじ様の営業用の貴族オーラで伸ばされた手を優雅にとり、ギルヴィードおじ様が私の背に手を回すような姿勢でエスコートするとちょっと様になった。
さすがおじ様。ソツがないな……。
この前の聖女事件で明らかに私への視線が凄いが完全に無視してずんずんと進む。
物凄い見られている……。それだけはわかった。
社交の場にきたらワッと溢れるように取り囲まれ、完全に動けない状態にされた。
マナーと貴族についてはたくさん叩き込まれたつもりだけど、他国も出てくるとわからない貴族も多く、対応に困った。
例えかなり縁がなくても相手を知らないのは失礼にあたる。
知らないのは当たり前と来てくれる人ならいいが知ってて当たり前という態度で来る人もいる。
「ラウセンバッハ卿ですね、これは遠いところよりわざわざ。お会い出来て嬉しく思います」
ギルヴィードおじ様がこの膨大な招待リスト全て覚えていたようでさらりと受け答えして助けてくれた。
「ラウセンバッハ領はチーズが絶品でね、マリアもよく食べているものだよ」
「まあそうなの。おじさますごいわ」
相手と話すのは危なすぎるので私はひたすらおじ様を褒めるだけの姪になっていた。
私は特に忘れたらやばい要人だけを覚えるのに必死でどうでもいい人は完全に覚えていなかった。
他国の伯爵とか何人いると思ってんだ……!
デビュタントもしていない鼻たれ小僧がたくさんいてパーティは無法地帯になっていた。
ところどころ躾がなってない子供が散見され、大変そうだ。
そんな鼻たれ小僧を私にピッタリとか言ってつれてくんじゃねーよ! 嫌がらせか!
鼻たれ小僧も私の腕を掴んだり手を引っ張ろうとすんな! くそー!
「そのような教養でよくぞ来られましたね」
ピシャリと笑顔で一刀両断し守ってくれるギルヴィードおじ様まじ神……。
おじさま……味方にすると心強すぎる……。良い家族を持って私は幸せ者だ。
全員私に会わせるために連れてこられた男の子たちなのだろう。
女の子も居たが、私の友人として取り入る為の娘たちかと思うと素直に仲良くできない。
親に言われてか必死にアピールしてきたり私を褒めたり遊びに誘ってきたりした。
私はおじいちゃんLOVEの孫のフリをして、孫馬鹿と名高いお祖父様とお祖母様から離れなかった。
二人も私を囲んでくれたし、ヤバそうな人はいつものべらんめえ口調をどこかに置いていった紳士なギルヴィードおじ様が対応していた。
各国入り混じってのパーティは実に華やかで、領地ではなく国の自慢話という規模の話が多かった。
「クレルモンフェランは神獣もいた聖なる土地でして……」
「まあその神獣さまは今どちらにいらっしゃいますの?」
私のうちだよ!!!!!!
「マリア様の護衛は魔族の娘のようで、魔族にも分け隔てなく接していられるとか。魔人連邦ガノンと良い関係が結べるのではと思っております」
「はい、リルムは良い護衛でとても感謝しております。人間も魔族も関係ありませんわ」
お前らが攻撃してきたサキュバスだよ!!!!!!
色々ツッコミたいところは多々あったがなんとか穏便に切り抜けていった。
場も暖まったところで王族の登場である。
やけに密集している私たちの方を見て顔をしかめながら王は皆に挨拶をする。
後ろにはシグルドとゼルギウスさんがいた。
「この度、この場を借りて皆に報告しておきたいことがある。長く続いていた王太子相続の件についてだ」
きたきたーーー!!
今日はこれを見に来たようなものだ。我慢して招待を受けて来た甲斐があったというもの。
これで内部の混乱が収まればカーグランドはやっと周りを見渡すことができる。
「二人とも甲乙つけがたく、王太子相続問題は長く続いた」
いやアンタが選ぶの遅かっただけだよ。
「今もどちらも王の器だと儂はおもっておる」
一つの決定でも色々配慮したコメントしないといけないって大変なんだな~。
「故に王太子をゼルギウスとし、兄のシグルドはそれを支え、その契りとしてシグルドの息子ジェラルドとベルドリクス伯爵家マリアの婚姻をここに決定する」
は???
ざわっと声があがる
「王よ! 何故ベルドリクス家のマリア様でなければならないのか!」
「ベルドリクス家はゼルギウスとの深い仲だ。これによりシグルドも支えが盤石となろう」
それでもざわざわと声は止まない。
シグルドも納得がいっていない様でその場で反論をする。
「父上! 何故俺が王太子ではないのだ! なぜ弟を支えねばならない!」
むしろお前はなんで王太子になれると思っていたんだ。
私以外もそう思っていたようで、ゼルギウス派の貴族からヤジが飛んでいた。
「くそ……っ!!」
退出も許可されていないのにシグルドは踵を返し外へ出て行った。
シグルドの退出も気にせず、混乱しきった場を収める為王は続けた。
「それにジェラルドとマリアは深く愛し合う仲だという。お互いこれ以上にない相手であろう」
はあ??????
更に声はざわざわとざわめく。陛下はなにを思ってそういっているのか。
ジェラルドが一方的にストーカー行為をしているのはみんなも知る周知の事実。なんなら他国にも広まっているだろう。
王は何も関知しようとしていないのがその一言だけで分かった。
お祖父様が声を荒げる。
「陛下! お言葉ながらマリアとジェラルド様は社交界にて一度顔を合わせただけの仲! そのような事実は一切ございません!」
「なに? しかしジェラルドは」
「お祖父様! 陛下! 俺とマリアは愛し合っています!」
そうジェラルドは大きく言い放ち私に向かってくる。
「さあ! マリア! もうなにも怖くない! 俺の手をとれ!」
あっこいつやべー奴だ。
私は咄嗟に聖女のフリとかも忘れて自身の身の危険を感じた。
「いやっ! お祖父様っ こわい!」
「マリア! 何を言っている! もう怯えなくていいんだ!」
お前が何をいっているんだ。
陛下も驚きで困惑しきりだ。王様が情報弱者って駄目でしょ……
察した陛下はジェラルドを下がらせるが、自分の意思は曲げなかった。
「マリアが婚約をしなければゼルギウスの王太子相続は見送ることにする」
脅しだ。
私は言葉を失くした。
これにはさすがのお祖父様もギルヴィードおじ様もピクリと眉を動かした。
他国から私を寄越せとかなりの圧力を受けているのはフィンスターからなんとなくは聞き及んでた。
だからといってこんな強硬手段に出てくるなんて……。
「マリア、俺の事は気にしなくていい。マリアを優先してくれ」
ゼルギウスさんは真っ直ぐに発言した。
まわりから見たら完全に陛下は悪役だろう。
しかし、力があるものが強い、最終的に上手く丸め込められれば正義になることを権力者は知っている。
「………………」
私が婚約すればこの話はうまく収まる。
カーグランドにもいれるだろう。
ベルドリクス家にも王族の者が出て、格があがるだろう。
でも、相手がお茶漬けのモブの勘違い男!!
「マリア、どうする」
陛下は私を睨んでくる。国王が12歳児にやっていい顔じゃないよ。
完全にマリアとしてじゃなく『聖女』としての私を確保したいだけの陛下が怖かった。
絶対君主制の前には人権というものが存在していない。恐ろしいと感じた。
安全な世界で生きすぎて、ここに来ても即行でいいところに保護してもらえて、怖い目なんて合わなかった。
やばい。怖すぎて泣きそう。
「わ、わたしは……」
どっちもいやだ……
そんな声も出なかった。
私が今泣いて嫌がってもカーグランドの株を下げるだけ。
みんなで築き上げたカーグランドを汚したくはなかった。
涙が出る私を見守ることしか出来ず目を逸らす大人たち、その権力が怖い。
そんな中、私と陛下の間に稲妻が落ちた。
「なんだ!?」
「なんの攻撃だ!?」
その光の中から出てきたのは、創造主ラフィちゃん様だった。




