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051-052 ブラックなエンジェル

 


 今回のザッグベルの件の犯人がわかるまで私たちは普通の日常だ。


 ブロマイド写真が好評だったので第二弾や他グッズも作りたいとゲルベルグさんが言っていた。



 シャルルには今回の件で急遽、装飾品でつけれるリルム用の察知バリアを作ってもらったり、ギルヴィードおじ様も頼み事をしていたりとやることが多くまだ私が頼んだものは作れていないと謝ってきた。


「私たちが急に依頼を増やしてしまったんですもの。納期に間に合わないのは仕方がないわ」


「エンジェル……!」



 今頼んでいるのは攻城兵器などの精密兵器だ。そう簡単にはできないだろう。


 今後の戦況を見てから作っていたら間に合わないので先にシャルルに幾つか作ってもらっている。


 こういうマッドな発明は一番肌に合うらしく何か(ゲルベルグさん)への怒りをぶつけるように恐ろしい兵器をいくつも作っていた。


 ……シャルルたんちょっと根暗なとこあるよね。




 シャルルは私のことを「エンジェル」といたく気に入っているが、私に変なことをする気はないみたいだ。


 出会った時期()が少女というのもあるんだろうが、大人向けなことにならなくてよかった……。



 シャルルは高飛車でプライドが高いという設定の原作より随分と大人しく、偉そうでもなかった。


 大人向け乙女ゲーム『聖女勇者』では研究品や道具で好き放題してくるキャラだったが、ゲルベルグさんにより、逆にシャルル自身の作った道具で好き放題されるという『モブおじ』さんが作ったエロ同人みたいな目に遭ったみたいなので、その被害者の彼がもう加害者になることはないだろう。


 シャルルは黙っていれば美人なのでエンジェル、エンジェルとキラキラした笑顔を向けてくれるのは凄い眼福だ。



 ただしゲルベルグさんがくると私を抱きしめて「oh神よ……!」とか祈って怯えるので、本当にあんまりいじめないであげてほしい。


 シャルルの前だとゲルベルグさんも気持ち悪さ三割増しでさすがの私もうわってなる。



 しかしシャルルがゲルベルグさんによって高慢な奇人変人具合が減り、普通の綺麗なお兄さんになっているのは私にとってはとても良い傾向だ。




 なのだが……、


 最近見かけたシャルルはなんだか一段と儚くなっていた。


 高慢な奇人変人という面影はもはやどこにもない。ひたすらか弱い……それこそ桜に攫われそうな程、弱っているように感じた。



「シャルル、大丈夫?」


 私はシャルルの研究所を訪れ、シャルルの様子を聞くと、はらはらと泣き出した。


「え、エンジェル……っ、わ、ワタシは……」


 弟子もギョッとする中、こりゃまずいと私は二人きりになれるシャルルの部屋へ連れて行った。



 どうもゲルベルグさんは私が言ったゲルベルグ対策以外の、法の抜け穴みたいなやり方で追い回され、精神的にきているらしい。


(二次元なら良くある設定で済むが、三次元だと強姦に脅迫にストーカーの役満……アウトです!)



 一応少女である私に説明する内容では一切無く、しかし涙をポロポロと流し説明してくれた。


 もう私に話せないなんてそんな原作の山より高いプライドも粉々に砕け散っているのだろう。キャラ崩壊してる。


 ゲルベルグ(モブおじ)さんが「高飛車キャラのプライドを粉々にするのが好き」と豪語しているだけのことはあった。



 ここは二次元(ゲームの世界)だし世界観的に亡命してもう平民になってしまったシャルルを、財力があり、シャルルの生活を裏で支援しているゲルベルグさんがどうしようと、財力で事実を闇に葬れるだろう。


 だが私は三次元(現実基準)のつもりで生きている。



「辛い話だったろうに話してくれてありがとう」


「え、エンジェル……!」


 聞いた内容は性被害にあった女の子のソレだ。


 もはや攻略キャラとして見れない。



「大丈夫。私がどうにかするからね」


 天才発明家が死を選ぶ前に自分に言ってくれて良かった……と内心安堵しつつ、私は対策を練った。







「というわけで、シャルルたんのメンタルが限界です」


 ゲルベルグさんも外の世界の良心が残っているのか、ちょっとは反省したようだ。


「ついゲルベルグの精神に引きずられちゃってました」


 ゲルベルグさんは元の人格と融合してる存在だからか、ゲルベルグさんは悪役商人としての残虐性が高く、シャルルへの欲望でフィルターが振り切れてしまっているようだった。


「でもシャルルたんが自殺しちゃったら元も子もありませんからな! 気をつけます!」



 シャルルへの愛はキチンとあることにホッとした。


 きちんとあるどころか実は亡命したシャルルの生活費も研究費も家も実は全てゲルベルグさんが賄っている。


 まあでも……それを知ったら死んでしまいそうだからまだ本人には伝えていない。



「気をつけるといいつつシャルルとは仲良くしたいんですよね?」


「シャルルたんはおじさんの生きる源なんです!」


 みなもと追い詰めるなよ……と思いつつ私は提案をした。



「なら、せめてシャルルが死なないように心の余裕をあげませんか?」


「余裕……ですか」


 私は続けて説明する。



「まずそのワザと気持ち悪くしてる喋り方や笑い方とか禁止」


「えぇ!?」


 ゲルベルグさんはショックを受ける。楽しいのはわかるけどそれ本当に気持ち悪いから敢えてやるもんじゃないからね。



「シャルルはメンクイっぽいところがあるし、わざと太るのもやめて。健康にも悪いしダイエットした方がいいです。極力!シャルルの嫌がるようなことをしないように!」


 ゲルベルグさんは外の世界では可愛いギャル娘だ。体重管理だってバッチリ出来る。


 この太って気持ち悪くしているのはわざとなのだ。



「あと盗撮やストーカーもしてもいいけど、その場合は絶っ対にバレないようにして」


 真実はともかくシャルルの心が自由になれればいいのだ。


 全てを三次元基準にすることは出来ない。妥協が大事。



「心を入れ替えてシャルルと接してあげてください」


 ゲルベルグさんは不満そうだ。



「でもそしたらシャルルたんとイチャイチャ出来ませんぞ」


「いや今から一から口説き落とせばいいじゃないですか……ここは乙女ゲームの世界ですよ」



「シャルルは攻略キャラなんですから。ゲルベルグさんが『ヒロインのシャルル』を落とせばいいじゃないですか」


 と言ったらゲルベルグさんが目を瞬かせた。



「そ、その発想はなかった……!!」


 新たなオモチャを見つけたかのように輝くゲルベルグさん。


「心を入れ替えたら少しは見直してくれるかもしれませんよ」


 時には引くことも大事です。と言ったら「さすがマリア神!」とゲルベルグさんは感動していた。



「とにかくシャルルはウチの大事な生産ラインなんですから、殺さないように!」


 と、シャルルが聞いたら倒れそうなブラックな聖女(エンジェル)がそこにいた。










 第二弾ブロマイドや雑誌用の写真集の素材をとっていくことになった。


 ズラ―っとならんだ衣装はすべてその為にゲルベルグさんがデザインしプロが制作したものだそうだ。


 この世界にない先進的なあっちの世界のアイドル服に似たソレは、かなり派手で奇抜に映るだろう。



 今回参加しているメンバーは私、リルム、カムイだ。


 まあアイドル路線は私たちだけだし、ゼルガリオンはゼルギウスさんだから流石に呼べないもんね。



 最終的にやはりリルムはぶっちぎりの購買率で『リルムちゃんファンクラブ』なるものまで出来創めているそうで、なんとかリルムちゃんに近付くためにベルドリクス家の使用人になろうとしたり兵に志願したりと青年たちに夢を与えているようだ。


 私の方は静かなものだが、なんだか高尚な『マリア様を見守る会』なるものが結成され私の神々しさを議論する会が作られたらしい。


 カムイは純朴そうなところがマダムにウケていて是非ウチにほしいと娘をけしかけたりしているようだ。


 それぞれの購買層で売れているので良かった。


 攻略キャラクターになるくらいの美貌をもつシャルルたんの写真は売らないの? と聞いたら「シャルルたんはおじさんのだからね……」とニキョリ……と笑われた。きもい。







 私の撮影はひたすら聖女然としたものだった。


 立ってたり祈ってたりライトを当てたり。可憐であり神聖を全面に押し出している。



 あとは女の子が二人いると可愛いよね! という感じの私とリルムの写真である。


 ぎゅーっと抱き合ってたり一緒にポーズ決めたり。聖女然としている私の別の普通の少女みたいな一面が見れるのが高評価らしい。


 あと二人でパジャマパーティーみたいな写真をしたり……こんな可愛いこと伯爵令嬢になってもしてないわ……みんなこんな可愛いことするの? マ?


 友達のいない陰キャ令嬢極まってる私に縁のない撮影すぎてなんだか新鮮だった。



 カムイと私のツーショットもとることになった。


「なんで?」と思ったがベルドリクスの英雄と聖女として名高いので、そういう意味でほしい人もいるんだそう。


 なるほど……アイドルとかそういう俗世的なことしか考えていなかった自分を恥じた。







 やり切った顔でスタジオをあとにした私たちだが、帰ったらベルドリクス邸の前が馬車だらけになっていた。


「マリア嬢に一目でもお会いしたく!」

「ウチの息子を! 見たら気に入ると思うのです!」

「私はゼルギウス派閥です! 同じ派閥同士感じるものもあるかと!」

「どうかお目通しを!」


 私の聖女事件により私の婚約者争いが激化したらしい。


 ジェラルドが牽制していたらしい私への婚約だが「そんなこと知ったこっちゃねえ!」という上位貴族や耳の早い他国の貴族が押し寄せている大問題になっていた。




「ま、まじですか……」


 私は焦って部屋へ転移し難を逃れたが、騒ぎをカーテン越しから眺めていた。


 この部屋にいるのは私とギルヴィードおじ様、そしてフィンスターだ。


 カムイとリルムは門兵以外で何かあったとき用に正門と裏門に行ってもらっている。


 シャルルの察知バリア魔導具のおかげでリルムが一人で動けるようになったのは本当にありがたいよね。



「一番有力であろうゼルの家には似合いの男子がいないからな。聖女がポツンといたらこうなるに決まってる」


 ギルヴィードおじ様は白けた顔で外の様子を見ていた。



「私はベルドリクス家を出るつもりはありませんが……」


「中には婿養子でもいいと言っているところもあるぞ」


「お断りします!」


 攻略キャラからすら逃げてたのに、こういっちゃ悪いけどどうして良く知らないモブに求婚されねばならんのだ!



「私、結婚するつもりないんですけど」


 ぶすっと怒りながら言う。



「父上は結婚に出す気はないと孫馬鹿をこじらせた祖父のように周りには断言していたが、あれで収まるのもほんの一握りだろう」


 お祖父様……! 私は感動した。孫馬鹿のフリを貫き通して上手く立ち回ってくれているのだ。



「そうは言ってもお前は今は貴族だ。婚約が決まるのは時間の問題だろうな」


 平民だったら命じられて終わってたぞ、よかったなと慰めにもならない慰めをおじさまからされる。


 実は平民です! で逃げる手はもう無いということだ。



「せめて恋愛結婚がしたいです! 政略結婚は無理!」


 自由恋愛の国で生きてた人間がいきなり政略結婚になじめるわけなどない。


「なら互いを知る為に一人ずつお見合いでもするか?」


「無理~~!!!」


 こういっちゃ本当に悪いけれど乙女ゲームの攻略キャラや主要キャラ以外は有象無象なのだ。


 攻略キャラたちの顔面や能力レベルに見慣れてしまった私はかなり目が肥えてしまっているだろう。



 他国からも来てるということは他国の攻略キャラの貴族からも来てる可能性はあるが今まで色々考えて逃げていたのに「この中だったら攻略キャラのほうがマシ」で選びたくはない。



 私がひたすら悩んでいたらジェラルドが「マリアは俺の婚約者だ!!」と騒いで喧嘩になった貴族と門前で乱闘騒ぎが起き、馬車が引いていってなんとか今日は収まったようだ。


 どいつもこいつも……頭が痛すぎる……。




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