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005 家族という運命共同体

「聞きたいこと……」


 そりゃあ沢山あるだろうな。


 世界に聖女しか使えない筈の回復魔法が使える幼女。


 外の世界でもそんなビックリ人間出てきたら大ニュースだよ。



 原作『聖女勇者』だと「召喚して呼ばれた聖女様」っていう肩書きがあるからハッキリしてる。


けど、今の私は世界にいない筈の回復術師、出生も全て謎。これで良くギルヴィードさんは後ろ盾になろうと即断したよ。青田買いも良いとこだ。


 しかし椅子に腰掛けてギルヴィードさんが一番最初に聞いてきたことは、そんな話ではなかった。



「まずその姿は何か呪いでもかけられたのか? それとも若返りが成功でもしたか?」


「へっ!?」


 まさかの質問が飛び出し思考が停止する。



「おめえの受け答えは明らかに幼児がするモンじゃねえ。貴族から没落したと言っても判断が大人びすぎている」


 ギルヴィードさんは続けて理由を説明する。


「しかし危機感は薄い。回復魔法は恩返しとしても、逃げ延びて隠さなくてはいけない能力ならオレたちに防御支援(バフ)やヘイト操作、バリアは見せずに逃げるべきだった」


 何者だ? とギルヴィードさんは鋭い目を向けてくる。



「………………」


 どう説明すればいいのかわからずだんまりを決め込んでいると、ギルヴィードさんが息を吐く。



「……いいか、オレはおめえさんをのことを全く知らないがおめえさんの可能性を高く買っている。わかるか?」


「はい……」


 正直『扱いきれない』と秘密裏に殺されてもおかしくない。中途半端に見せてるなら尚更。


 ヒロインは国に担ぎ上げられ皆から守られていたから成立していたのだ。他国から見たら殺したいNo.1だったはず。


 それを断片だけで嗅ぎ分け、引き入れようとしている。万が一私が毒だったとしても毒を食らわば皿までを体現する気なのだろう。



「伯爵家におめえを入れたらオレはおめえと運命共同体になる」


「はい」


 最初伯爵家に入れるなんて言われた時はなんのことかと思ったが、ここに来てこの重みがわかってくる。



 流石『聖女勇者』きってのキレ者、ギルヴィード=ベルドリクス。


 じわりと汗ばむが、嫌な汗じゃない。


 自然と笑顔が溢れる


 だってこれは、『絶対に裏切らないから話して』ってことなんだ。


「貴方を信じ、お話しようと思います」


 その言葉にギルヴィードも怖い顔でニヤリと笑った。その顔怖いよ。









「異世界から飛ばされてきた元は大人ァ?」


 怪訝な顔をするのは最もなんだけど、事実なんです……。



「確かに辻褄は合うが……」


「元の世界でこの世界と似た話があって、それで世界観や地形なんかもだいたい把握してます」


 ふむ……と幼女のお伽話のような会話を真剣に聞いてくれる。パッと見いいパパだ。


「この世界でも童話で本の世界に閉じ込められ冒険する話はあったが、おめえさんの感覚では其れが近えのかもな」


「ああ! そんな感じ!」


 ギルヴィードさんは持ち前の頭脳で的確に解析していく。頭やわらかいなあ



「似た話には色んな分岐点があって、色々な終わりがあるんです。主人公もこんなに幼くも無かったんです。だからズレていっているので正解な未来予知みたいなことは出来ません」


「ふーん……オレに匿われるのもズレの一つか?」


「……はい……」


 本当に頭いいなこの人……。



「……でも私は二人と出会って、放っては置けなくて……」


 ギルヴィードさんの顔色が少し変わる。


「……オレたちに何かあるのか?」


 ンンッ!!


「確かオレが名前を言った時に驚いた顔してたな」


 話していいのか!? ギルヴィードさんは完全に疑ってる。だから顔怖いよ……。


「…………」


 ギルヴィードさんは協力者だ。必要のない嘘はつきたくない。



「……あの……………………ゼルギウスさんが……」


「!!」


 ギルヴィードさんはガタッと席を立ち私もすくみ上るがすぐに冷静さを取り戻し座り直す。


「……大体の目星はつく。今引き止めなかったってことはすぐじゃねえんだろ」


「多分……でも具体的なことは……なにも……すみません……」


「いや、有り難い情報だった。良かったらあとでまた詳しい話、聞かせてくれ」


 ギルヴィードさんは椅子に座り直すが若干狼狽していた。


 親友であると共に主従なんだな……ゼルギウスさんの話になると普段より怒りも優しさも感情に出る。



「それとマリア。おめえの能力についてわかる範囲でいいから教えてくれ。ある程度知っておかねえとお前の対策が立てられねえ」


「対策って……」


 共闘の約束と、乙女ゲーの攻略キャラだしヒロインに惨い仕打ちはしないだろうという希望的観測でキチンと教えることにした。


 疑い始めたらキリがないし、今この世界でギルヴィードさん程信用できる人は他にいないのだ。協力者は大切にしたい。


 その高速回転する頭脳を貸してもらおう。



 効果を時にはギルヴィードさんにかけて実証しながら説明していくと魔法オタクの血が騒ぐのかどんどん愉快そうな顔になっていった。


「聞けば聞くほど眉唾ものだな」


 カラカラと笑いながら紅茶を飲む。



 そりゃもちろん、乙女の夢を詰め込んだ乙女ゲームですから! ヒロインは超優遇ですよ。


 まず世界観だが、この『聖女勇者』の世界は魔法と言えば攻撃魔法。


 支援魔法なんてかなりの高位魔導士でないと使えないが、それもそこまで有用なわけではない。


 だがヒロインの能力は『この世界で習得するのが難しい』と言われる支援技のオンパレード。



 まずヒロインのみが使える回復魔法、状態異常も治せるし、逆にかけることも。


 味方の攻撃力、防御力、素早さなどを上げる支援魔法(バフ)


 敵のステータスを下げる支援魔法(デバフ)


 バリアも味方に張れて……ヘイト操作もできる。



 とにかく支援特化だけど支援ならなんでもござれ!


 ゆとり仕様として追加されたオーバキルの一撃もらっても1残るとか即死回避とかもある。



 あと移動は転移魔法を使ってた設定なので転移も使えるし、瀕死の仲間の息を吹き返す魔法も使える。


 ゲーム永遠の謎だけど『死んだ仲間を蘇らせる』って現実になるとどういう仕様になるんだろう。


 イベントで死ぬ仲間は蘇らないから瀕死って解釈したけど、本当に死人を蘇らせれるとしたら、さすがに……もはや神の領域だ。



 そしてヒロイン能力と別に、『ゲームマスター仕様』のチートはMP使い放題と、初期状態から全魔法使用可能、能力値の限界突破に――例の害意のある者からの一切の攻撃を受けないバリア……


 把握しているのだけでもこれだけある。



「……能力は低めに見せておくのがいいだろうな」


「ですよね……」



 回復術士ってだけで大騒ぎではあるが、どこまでだったらギリギリ大騒ぎで済むかを確認しあう。


 まあどれであってもゼルギウスさんのような反応は常人は絶対にしないとのこと。



 回復魔法は伝説上の魔法。


 ポーションは存在しているので回復といえばポーションらしい。しかしポーションの原料が狩り尽くされもう殆ど出回っていない。


 ――ということにしとくとヒロインの価値が上がるよねっていう『聖女勇者』の設定だ。


 なのでヒロインたちがゲットするポーションも少ない。ヒロインのMPが足りないときに使うか、売ったら高いから換金用だ。



 状態異常治癒は使えるものはちょっとはいるという。


 が、かなり気休め程度で二日酔いが治るとか馬車酔いが良くなるとか。


 ヒロインは勿論、全部治せる。

 こちらの効く薬も、もちろん高価。



 状態異常をかけるのは通常でもよくある手で、痺れ薬や毒薬などはある。効果は値段によってまちまち。

 しかしヒロインはサラッとかけれる。恐ろしいヒロインだ。


 致死量を超えさせたら状態異常が唯一の攻撃法となるかもしれない。しないけど。



 バフ・デバフとバリア、ヘイト操作はこの中ではよくある効果だがヒロインの効果は段違いに高い。


 転移魔法も滅多にいない。けどいるはいる。


 ヒロインだけの魔法にしなかったのは敵が「シャッ」って出てくるシーンが必要になったときにやばいからである。



 オーバーキルされてもHP1だけ残る即死回避魔法はヒロインだけ。敵にやられても萎えるので。


 これはゆとりプレイのためにつけられた魔法なので世界に存在も知られてないヒロインだけの新しい魔法だ。


 なので魔導に関心のあるギルヴィードさんは興味深そうに話を聞いていた。



 瀕死から復活は回復とどう違うんだ?と聞かれたけど「死にかけの場合は回復でも追いつかない」と説明しやりすごした。



 この世界の一般常識は魔法といえば攻撃魔法が普通。


 化学の代わりに魔法が進化した世界って感じだね。


 才能は人によってまちまち。


 魔法が使えなくても剣や弓の道も全然ある。


 自分自身を『身体強化』するというスキルがあったりする。これには魔力も使わず使える。設定としては気力や精神力を使って強化している――という設定だった。


 そういう剣士や弓使いは鬼強だ。攻略キャラにもいる。



 そんなわけで支援特化は本当に珍しい。


 珍しいから匿うというセンで父親も説得する気らしい。


「……ギルヴィードさんのお父様は、その、信頼できる方なんですか?」


 秘密を共有する以上聞き辛いけど聞いて置くべき問題だろう。うう胃が痛い……



「マリアの能力はかなり低く報告するが……1を聞いて10を知る人だ。馬鹿なことをする人じゃあねえよ。味方にしといたほうがいい」


 ギルヴィードさんがそういうってことは相当な手練れか……ヘマしないか恐怖しかない。



 ギルヴィードさんは優秀な魔導士だけど、ベルドリクス家は代々軍人の家系らしい。


(確かに原作の『聖女勇者』のギルヴィードおじ様も冷徹キャラだからか軍人っぽい感じはする)


 軍人と言っても様々で、作戦立案などを担当する頭脳派軍人(インテリヤクザ)……屋敷の怖そうな雰囲気はそこからきているのかもしれない。



 執事やメイドもよく訓練された軍隊のように一糸乱れぬ整列が綺麗だったし、立ち方が綺麗。


 もうめちゃくちゃ厳しそうなイメージしか湧かない。


 怯えていたらコンコンと小気味よくノックが鳴りメイドさんより旦那様の時間が空いたとの連絡が成された。


「ひえ……っ」







 ――このお屋敷にきて一番豪華な扉だ……。


 私は意識を無にしてその場に立っていた。


 いくらギルヴィードさんが私を青田買いしてくれても伯爵様が「えっそんな得体の知れない争いの種になる奴こわい。殺そ」って言ったら私は死んでしまうのだ。


 いやバリアがあるから死ねないから幽閉? 餓死? とにかく恐ろしい。



「父上、入るぞ」


 決意を新たにギルヴィードさんと部屋の中に入る。


 大きな黒めの執務机が真ん中にどどんと置いてあり、他はやはり簡素だった。



「……それがお前の客人か」


(ひええっ!)



『聖女勇者』の『ギルヴィートおじ様』を更に渋くさせ、鋭い目つきのひたすらに恐ろしいおじさま……。


 かっこいいことには違いないのだが、重々しい厳格な雰囲気に押しつぶされそうだ。


 なんとかスカートをつまんで挨拶する。


「はじめまして、マリアと申します」


「…………」



 ブリザベイト伯爵からの返事はない。


 冷たそうな右の目元にはモノクルが付けられており、迫力が増していた。


 モノクルはものにもよるが眉と頬あたりの深い彫りにレンズを嵌め、表情を動かすと取れてしまう。


 それを付けられる紳士はポーカーフェイスがメチャクチャ上手なクールな男性ということだ。



怖い。



 もう帰ろう!という目線でギルヴィードさんを見ると涼しい顔でブリザベイト伯爵へ進言した。


「彼女を我がベルドリクス家に囲い込む為、籍を用意してもらいたい」


 ブリザベイト伯爵の眉がピクと揺れる。



(ひえ〜〜〜〜)


「……其れを囲い込んで何かあるのか」


「まだ弱えが、回復術師の片鱗が見られた」


 ブリザベイト伯爵の眉間にハッキリとした縦皺が並ぶ。


「其れを見たものは」


「オレとゼルギウス殿下のみだ」



 ブリザベイト伯爵が立ち上がると私もピギィ!と身体を震わす。


 近くに飾られたサーベルを手に取りブリザベイト伯爵自らの手で腕を切った。


「治してみよ」


 私はいきなりの流血に真っ青になるが、ギルヴィードさんに背中を押され、必死にブリザベイト伯爵の傷を治るよう祈る。



 祈りと共に傷も癒え元どおりになったブリザベイト伯爵はなんの抑揚もなく口を開いた。


「……『ギルヴィードには病弱で引きこもりがちな妹がいた。その妹が子供を産んだが両親は不慮の事故で亡くなった』面倒はギルヴィードに一任する。姪を立派に育てよ」


「えっ えっ」


()()は養女では駄目だ。血が同じ血族にしなくてはすぐに持っていかれるぞ」


 ブリザベイト伯爵の答えは簡潔ながらもとんでもなく重いものだった。



 聖女ヒロインとして活躍するはずだった私はギルヴィードさんの方を見た――ら、今までに見たことのない営業スマイルを張り付けて笑っていた。


()()()()()()()()()()()()()()()、マリア」


 多分外交用の顔だろう。貴族のようににっこりと微笑むギルヴィードさん。



 どうやらこれは、『ギルヴィードさんには実は妹がおり』私の母は『ベルドリクス家の娘』で『生まれたときから伯爵の娘だった』ということになったらしい。


 多分ギルヴィードの妹も不慮の事故もなかったんだろうが、ベルドリクス様が白と言ったら黒も白に変わるのだ。そういうことだ。



 たった一人、心細い異世界で初めての『家族』が出来た。


 素晴らしい話……なのに……


「は、はい。ギルヴィードおじ様……」


 私は真っ青な顔をひきつらせ笑うことしか出来なかった。



 奇しくも私は原作の愛称『ギルヴィードおじ様』を本当に呼ぶことになったのだ。



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