048 開戦と友情
ベルドリクス領に動きがあった。
隣国ザッグベルが国境近くの都市より兵5000がこちらに出撃してきたという報せがはいった。
遂にきたか……という感じだ。
私たちは城壁から双眼鏡を覗いていた。
「全っ然間に合いませんでしたね」
「こればっかりはしょうがねえな」
ザッグベルの謎の不穏な動きから数か月しか経っていない。
完全に二分した内部揉めの中、全てを把握して対応するのはいくらフィンスターやギルヴィードおじ様でも無理だろう。
シグルドが首謀者なのかもわからず、こちらとしても証拠のない話で矛を収めてくれとは言えない。
和睦するのと同時に戦になったときの作戦もお祖父様と立てていた。
「とりあえずは……ウチの領土を荒らす以上、どんな背景でも容赦はしねえ」
ギンッとギルヴィードおじ様は威嚇するようにザッグベルの方を睨んだ。
おじ様は戦意十分だけど私は緊張と恐怖で今にも死にそうだ。
そんな私を見てか、ギルヴィードおじ様はやる気満々のリルムの方を見て指示を出した。
「おい、おめえは今回マリアの近くに居ろ」
「えぇ〜〜!!?」
リルムはこの日の為に高度な察知バリアの装飾品をシャルルに作ってもらっていた。
「おめえな。替えのきかないサキュバスを戦場のど真ん中に出す馬鹿がどこにいる」
「で、でも……」
突撃する気十分の、一人でお出かけする気まんまんの子供みたいになってたのだ。
「マリアにとっては今回が初めての対人戦になる。精神も不安定になるだろう。おめえが支えてやれ」
そう言われて項垂れながらも「わかった……」と了承した。
「い、いいよリルム……! 私のことは心配しないで……!!」
「いや! オレがマリアを支えてやるから!! まかせな!!」
リルムはグッと肩を掴んで力強くこたえてくれた。
リルムに感動するが、ん? と私は思い直し、リルムに小声で言う
「……もしかしてギルヴィードおじ様がリルムを心配してここに残したいんじゃないの?」
「へっ!? はっ!?」
リルムは顔が真っ赤だ。
「そ、そんなわけねーだろっ! も、もう! マリアからかうんじゃねーよっ!!」
バシン! バシン! と背中を叩かれる。痛い。
だって側にいるなら今回一番やる事がないであろうフィンスターでも良いわけだし、出さないにしても安全な戦場に出せばリルムは強いし、便利だ。死にはしないだろう。
聴こえていたのかいなかったのかギルヴィードおじ様は「おめえら戦場なのに楽しそうだな」と呆れていた。
敵がすぐそこまで来ている。
お祖父様は兵たちに対し士気を上げる為の演説をする。
「ザッグベルが襲ってきたのは謀によりカーグランドを憎ませ我が領を貶めようとする者の計略である」
兵たちがざわざわとざわめく。お祖父様言っちゃっていいのか。
「なのでこちらとしても本意ではないが……だからと言って我が領が侵されてもいい謂れは一つもない! 我が故郷を守る! それだけを考えよ!」
「おおおおおおお!!!!!!」
兵たちはお祖父様に呼応するように雄叫びを上げる。
ザッグベルは憎むべき敵じゃない。でも守らないといけない。それくらいは戦う人に知る権利はあるよね。
私は一歩歩み出す
「わたくしから、戦地に向かう勇敢なる皆さまへわたくしからの祝福をお送りさせてくださいませ」
慣れないお嬢様言葉を使いながらも支援魔法で一通りを上げる。
「身体に力が漲る……!」
「こんな大人数にこんなものをかけれるなんて……!」
ゲームマスターの力です。
ざわざわと騒がしくなった兵たちにお祖父様は「各兵、配置につけ!」と命令し「はっ!」という声で一斉に去っていく。
今回は防衛線が主だ。扉を守る者や壁からの侵入を防ぐ者、色々いる。
街門の上には魔導士が控え、この世界では砲台の代わりとなる。
「バリアが出来る者も今回はしなくていい。全てマリアが担当する」
「はっ」
「マリアはどんなことがあっても気だけは失うなよ。おめえが倒れたらその分こっちの兵が死ぬぞ」
私はごくりと唾を飲み頷いた。怖くてつい近くにいるリルムに抱き着く。
こういうときだけは12歳の少女でよかったと心底思う……誰かに抱き着いてないと怖くて耐えられない。
リルムはしっかりとマリアなら大丈夫だと支えてくれた。
ピリピリと殺気が立っている中、ザッグベル方より宣戦布告という名の勧告が届く
「カーグランドの者による甚大的被害によりザッグベルの民たちはカーグランドに対し憤怒している! その報復をここにすることを宣言する!」
正々堂々とした脳筋国らしい宣言だ。だからこそ自分たちが正義であると決して疑わない効果もある。
「こちらはそちらの問題には関知していない! まず話し合いを設け、適正な処置をしてはどうか!」
「白々しい! カーグランドがザッグベルを攻撃しているは明白! 一戦せねばこちらも気が収まらん!」
設定としては悪い国ではなかったが、脳筋ゆえ話を聞かないところがあった。
そしてこれが最たる例だな……。
「突撃ー!!!」
ザッグベル兵が一斉にやってくる。
「迎え撃て!」
壁に張り付かれる前にベルドリクス軍魔導士の攻撃が始まる。
「いくぞ」
ギルヴィードおじ様も今回は初っ端からフルバーストで行くようだ。魔法陣がたくさん周りに浮かんだ
私とギルヴィードおじ様は目立つ為、城壁上の中でも建物のようになっている室内で隠れるように待機していた。
「オラァ!!」
ここまで爽快に魔法をぶっ放すギルヴィードおじ様をみたのは初めてかもしれない。
一撃が重いギルヴィードおじ様は数を減らすため出来るだけ小さな魔法を一斉に発射させているようだ。
さながらミサイル……
これだけの魔法陣が展開されてる場所があったら即行バレそうなもんだけどなあ。
「マリア、見なくていいからな」
言いつけられているのか私の顔をぎゅっと胸に押し付け見せないようにしてくれる。
ここは一応室内なので窓から見なければ何が起きてるのかわからない。
さっきのギルヴィードおじ様の魔法で何人の敵兵がやられたのかわからない。
しかしそういう世界である。
「ありがとう、まだ心の準備が欲しいからバリアの展開が必要になったら教えて」
「任せろ!」
私が気を失ったら終わり、と考えると安易に「大丈夫! ちゃんと見る!」なんてかっこいいことは言えない。
だって怖いもん!!!
それに『外の私』のグロ耐性も耐えられるかわからない。
その時私は消えるのか死ぬのかわからないけど。
つくづく曖昧な存在である私とこの世界だが、まだみんなと一緒にいたかった。
自分の大切なものは守りたいから、力があるから、仲間に支えてもらってなんとか立ってる。
鮮やかな光が見えて窓をみたら敵からの大きい魔法がひとつ飛んできていた。
「バリアを……っ!」
「いや、周辺に張っとけ」
ギルヴィードおじ様は今度は大きめの魔法陣を展開させると大きな魔法にぶつけ撃ち落とした。
周辺に散らばる火花はベルドリクス軍は私のバリアで消滅したがザッグベルのほうは被害が広がっている。
「ギルヴィードおじ様そんなにぶっ放してMP大丈夫なんですか!?」
「大丈夫だ」
あっそうかMPポーション……とふと思い出したらおもむろに私を抱いていたリルムを抱いてガッツリ唇を合わせた。
「!!!!?」
「よし、もう一発いけるな」
ギルヴィードおじ様はペロと口元を舐めまた窓の方へ向かい、魔法を放つ大型魔法陣をまた形成する。
リルムはあまりの衝撃に口をパクパクさせている。
今、わかった。
そうかリルムは強力な固定砲台の簡易装填係なわけか。
MPポーションより効率が良い。下手にリルムを防衛に回すよりよっぽど実用的だ。
ギルヴィードおじ様は魔法を放ってはリルムでチャージするというリルムの恋心をまるで無視した効率重視な行動を淡々と何度もやってのけていた。
おかげでギルヴィードおじ様の超強力魔法が連発だ。これは相手も辛いだろう。
しかし、確かに部屋のようになってる街壁の上の室内なら何やっても窓からしか見えないだろうけど、ここがあまりに戦争っぽくないピンクな空気になってしまっている。
「ふ、ふわ……」
現にリルムの目がハートになってる。
「! 細かいのがいくつかきたな。マリア!」
「はい!」
ギルヴィードおじ様に指示され私は街門全体を守るバリアを展開する。
兵にも街にも守りきれたようで被害はないみたい。
「あんな巨大なバリアみたことねえ……」
「さすが聖女さまだ……」
「こりゃ勝てる……勝てるぞ!!」
兵の士気も上がったようだ。よかった。
「飛び出してきそうなやつがいるから一発父上に喝入れ直してもらわねえとな」
ちょっと出る。と外に出るギルヴィードおじ様があまりにも普通で戦争してる感じがしない。
多分この部屋の中にそう言う空気を出させないようにしているんだろう。
その気持ちはありがたいが、バカップルの空気で充満させるのはやめてもらえないだろうか。
ポーっとしていたリルムはギルヴィードおじ様が部屋から出た後、我に帰って私の心配をし出す。
「マリア!? 大丈夫か!?」
「うん。よかったね」
生暖かい空気になってしまっていてなんと言っていいのかわからず、こんなセリフになってしまった。
「よ、よかったとかそーゆーのじゃねえよ! あ、あのやろうオレを便利なチャージ要員にしやがって……」
ぶつぶつ言いながらも顔が赤い。
「戦況はどんな感じ?」
私は見れないのでリルムに戦場を見てもらおうと尋ねると、リルムは窓から顔を出し戦況を見てくれている。
「んー……さっきのバリアで敵の勢いがちょっと落ちてるけど、魔法対戦が終わって接近戦が始まってきてるな」
「そ、そっか……」
せっきんせん……対人……殺し合い……なんだよね……。
「カムイも頑張ってるぞ。えっと、マリアの言ってたなんとかっていうのと戦ってるんじゃねーか? アレ」
エリウッド、やっぱりいたんだ。
「強そうだなアイツ!」
リルムは感心したようにいいながら、強そうな姿にちょっとわくわくした様子だった。子守でごめんよ。
「カムイは? 大丈夫?」
窓の方をみてリルムは難しい顔をしていた。
「うーん、とりあえずは……。そいつに張り付いて釘付けにしてるぜ」
リルムの軽い言葉で聞いてると軽く感じるけど命のやり取りだ。心配になる。
私はぎゅっとリルムをつかんだらリルムは優しくなでてくれた。
「大丈夫だって。さっきもマリアがたくさんのヤツらを守ったんだぜ?」
「うん、ありがとう……」
近くに聞こえるワーワーという声の力に震えそうになりながらリルムに抱き着いていた。
ギルヴィードおじ様が帰ってきて「そろそろ第二波がくるぞ」と言ってくる。
あまりにも普通に言ってくるので私だけ変な夢を見てるみたいだ。
次は敵の外壁を崩すための攻城の魔法対戦のようだ。
バリアを張れても弱いことが殆どなので魔法をぶつけ合って撃ち落とすのが主流らしい。
それじゃかなりの精度がないと無理でしょ……。
なので全部私任せにするようだ。
「来るぞ、バリア展開」
「はい!」
どこに来るかわからないので全面にバリアを展開できるのはMP無限チートの強みだ。
恐怖で戦場が見れない上に本人が完全に引け腰なへっぽこというのを差し引いても魅力的ではあるだろう。
バリアに当たった感触と魔法音が鳴っただけでも「ひい!」「ホントに来てたあ!」と怯える程に弱腰である。
ギルヴィードおじ様はここまで防げるとは思っていなかったようで
「まだ壊れねえのか」とか「どこまでバリア張ってんだ」とキョロキョロみていた。戦争に集中して。
それを何回か繰り返していると下に動きがあった。
「なっ! あれは……馬鹿!」
ギルヴィードおじ様が驚いて叫ぶ。
リルムもなんだ? と窓を覗いてもらうと「あ!?」と叫んでいた。
「ど、どうしたの?」
「あれは、えーっとギルの友達が来てる」
そんな、家に友達が来たみたいな。
拡声器のような魔導具を使っているのか、大きな声が私にも届いてくる。
「俺はゼルギウス=カーグランド! 友の為に援軍を連れ駆け付けてきた!」




