046 チーターと推測
私達はベルドリクス領の約束の鍛錬期日が終わり、カーグランド首都へ帰って来た。
転移があるので移動は楽チンだが、移動時間は計算しないといけない。
一日二日は移動している事にして家でじっとしていなければならない。
というわけで休暇だ。
リルムをギルヴィードおじ様にお返しする為におじ様の部屋に向かった。
ギルヴィードおじ様の部屋はいつも通りで、フィンスター(影)と二人でいたが、いつもの執務机の方ではなくポーション作りだったりの魔導研究台の方に居た。
「あっ! MPポーション飲んでる!」
魔導の研究をしていたんだろう。目敏く数本の空になったMPポーションの瓶を見つけたリルムは食べ物を取られた子供のような恨んだ目を向けていた。
「いねえんだから仕方ねえだろ」
頭をポンポンと撫でていなし、私に目を向ける。どうも上機嫌のようだ。
「おめえを調べたおかげで色々と研究成果が出てな」
「まず回復魔法だが……こりゃあ無理だな。おめえ以外には使えるヤツはそうは居ねえんじゃねえか」
ですよね。『聖女勇者』のヒロインの価値を上げるため他回復者はナシの方向が決まってましたから……
「んで、支援魔法だが、おめえ相当応用が使えるな。既存のじゃなくてもっと自分で考えたら色々使えんじゃねえのか?」
確かにこの前の『能力強化』なんてものはなかった。
ゲームマスターのチートがゲームからその一部になってシステム通りじゃない動きに変な方向で使えるようになってるのもあるのかもしれない。
「それとマリアの転移能力を解析したら、なかなかに面白くてな。原理がわかった」
「え?」
「おめえほどじゃあねえがオレも自分だけならいける場所に飛べるようになった」
そういった瞬間ギルヴィードおじ様が目の前から消えて
「ほらな」
後ろに現れた
これ!! 制作陣が懸念していた『後ろにシュンッと移動する敵』じゃん!!
うそ……ギルヴィードおじ様ゲームに無いスキル会得しちゃったの……?
私が驚きのまま見ていると、ギルヴィードおじ様はまだ続ける。
「それと、お前の〈害意のあるものを防ぐバリア〉だが……」
ギルヴィードおじ様はスッとリルムに近付き頭を触り魔法をかける。
「改造が出来た」
「は……ええ!!!?」
「試作でサキュバスの護身用として〈性的意思があるものに攻撃をするバリア〉にしてみた」
「ふぁあ!!?」
えっ!? ゲームマスターコード読み込んで改造したの!?
こんなんチーターやん!!!!
驚きで声が出ない私をよそにリルムに対し、ギルヴィードおじ様が
「おめえちょっと脱いでみろ」
とセクハラ発言をかまし
「なっ、なんでだよ!」
と正当な文句を言いつつちょっと脱ぐリルム。
脱いじゃうのかい!
「もっとガバッと脱げ」
「ひやぁあっ!!」
上半身の服を奪い取られ腕で胸をおさえたリルムは顔を真っ赤にしながらギルヴィードおじ様を睨む。
公の場では強気な女王様だし本人も女ヤンキーみたいな性格してるんだけど更なるインテリヤクザの前だと負け犬みたいになっちゃってるよね……リルム……。
「マリア、コイツを「犯す」ってつもりで煩悩こめて抱きついてみろ」
私かい!!
いやまあ「乳首めっちゃピンクだった……」とか煩悩まみれにみてたけどさあ!
「ま、マリア……」
うるうるしてるリルムをみて、私は真顔で手を挙げた。
「いきます」
「マリア!?」
うおー! リルムたんペロペロ!!
そう触ろうとした瞬間バリアと共に雷撃が走った。
その雷撃は私に向かって飛ぶが自動バリアで弾かれる。
「!!!?」
「よし、成功したな」
服着ていいぞとリルムに言うギルヴィードおじ様。
「バリアが発動するついでに性的意思に準じた攻撃が飛ぶようにした」
チート更に改良してますやん!!
「ただコイツのMPが尽きたらバリアも消えるところがネックだが……まあ対策にはなるだろ」
なにこのチーター……怖い……
リルムは「お、オレの為に……考えて……」と感激しているようだ。
先程手荒に上半身を脱がされたというのに脳内が完全に乙女になってしまっている。
ひたすら呆然とする私にフィンスターが「はい」と手を上げる。
「その機能……僕、無効にしてもらわないと死ぬと思います……」
少年、素直でよろしい。
そう思いながら私も無効にして下さいと手をあげたのだった。
チーターがセ○ムを過剰防衛にしている他にカーグランド首都で変わったことはなかったか聞いてみる。
「ゼルがやっと動き出したくれえかな」
ゼルギウスはシグルド陣営の他国に情報を流している者、汚職をしている者の証拠を押さえ、陛下に直訴した。
ゼルギウス陣営からシグルド陣営に行った膿も一緒に告訴し一掃を計ったという。
シグルド陣営からはゼルギウス陣営から引き取った者たちが告訴されてることに「陰謀だ」「なすりつけようとしている」と反発しているが、
「ウチはそれを調べ追い出したがそちらはそれをつきとめられず受け入れた。そちらの調べをする者は国を運営するに足る人材なのか?」と追って追及している。
正直ゼルギウスさんがシグルドさんにそこまで真っ向から戦いを挑むとは思っていなかっただけにびっくりした。
国の為に覚悟を決めたのだろう。
「ただこれから本当に暗殺だけは気を付けないといけませんね……追い詰めすぎてます。シグルド陣営の残る選択肢がもうゼルギウスさんの暗殺くらいしかありません」
国民も家臣も誰もついては来なくなるが残るやり方が暗殺だけになってくると本当に危なくなる。
「あぁ。状態異常を弾く装飾品はつけさせたがそれ以上の毒を盛られたら終わりだ。シャルルにももうちっとマシなモン作れねえか聞いてみるか……」
今ゼルギウスさんが付けてるのはギルヴィードおじ様お手製らしい。それも強そうではあるけどプロのシャルルのほうが確かに効果が高いものは作れるだろう。
ギルヴィードおじ様はみんなの方を見て
「今回はゼルがやったがシグルド陣営を一番追い詰めてるのはウチだ。宣戦布告の原因になったのもな。オレたちも暗殺の対象には入ってる筈だ。気を付けろよ」
まぁおめえは心配してねえけどよ。と私を見て軽く笑う。
暗殺の対象になって一番危ない人は誰かと聞かれると、一番に狙うのはお祖父様とギルヴィードおじ様だろうが、狙いやすいのは私とお祖母様だろう。
でも私は軍を鍛えられるほどの力を持ったリルムが護衛にいるという噂になってるし、ギルヴィードおじ様も凄腕の魔導士と評判だ。
そんな家にいる社交界のマダムだけを暗殺してもなんにもならないので、シルメリアお祖母様は誘拐さえ気を付けていれば比較的安全な筈だ。
それに知られてはいないがフィンスターが家の影の警護をしているので侵入者は通さないし、カーグランド首都の私たちは大丈夫だとは思う。
が、屋敷に入られたりしたら使用人たちが危ないので使用人には「最近物騒になってきたから人の出入りや入れる人間には気を付けるように」と厳命した。
お祖父様の方が心配なので、出来るだけカムイと一緒にいるようにお願いした。
カムイなら護りのスキルが充実しているので護衛もそこそこ出来るだろう。
そして、ギルヴィードおじ様は転移魔法が使えるようになったことを公にするつもりだそうだ。
それを言うことによって私も転移魔法を使えると言いやすいし、ギルヴィードおじ様から教わったといえば「マリアはこのベルドリクス家の中でも最弱……」と、私の性能を低くみせることが可能になる。
あと便利なので公の場で使いたいよね。楽だし。
「それと転移してて思ったが、個々の魔力に応じた着地点を作れば転移できる場が確定出来た」
「ギルヴィードおじ様どんだけ世界の法則乱す気ですか」
魔導研究が趣味とか言ってるけど、趣味の枠じゃないよ絶対。
それとリルムが兵を鍛えている中に混じって行ったレベル上げが功を奏し、隣国ザッグベルの情報を掴んでフィンスターの影が帰って来た。
こっちとしては全く身に覚えがない話だが、「最近ザッグベルで盗賊被害や詐欺被害が頻発しているらしく、それが調べてみると全てカーグランドの者による嫌がらせ的な行為であり、けん制のため戦を仕掛ける」というものだった。
考えられることは三つある。
一つ、本当にこちら側の誰かor他国の何者かが嫌がらせをしてベルドリクス領を攻撃させたい者がいる
二つ、嫌がらせは口実でザッグベルがカーグランドに侵攻したいだけ
三つ、聖女やサキュバスの存在を知りカーグランドを潰させたい者がいる、もしくはザッグベルが知ったか
「二つ目だったら牽制どころではなく大軍を寄越して潰しにかかるだろうな」
「ザッグベルは正々堂々が好きなお国柄ですから、同じ数くらいで潰しにくる可能性もあり得なくはないですが……」
「そんな馬鹿と綺麗ごとが好きな指揮官だったらありえるかもしれんが、普通なら被害を抑えるために数で押すのが定石だ」
ギルヴィードおじ様とフィンスターは吟味するように可能性を考える。
リルムはこういう作戦にはてんで疎いのでサキュバスだってバレてないといいなと(私がバリアかけているから外に出ていて大丈夫なのに)ベッドの上でソワソワと私に抱き着いているだけだ。幼女はいい抱き枕だろう。
私は(おっぱいやわらけえ……)と雷撃を無効になったことをいいことに性的なことを考えていた。
「どの線もありえそうだしなさそうだし、難しいですね」
おっぱいでIQの下がった私はのんきにそう言った。
「可能性を潰していって残ったヤツがそうなんだろう。その可能性を潰すにもイマイチ判断がつかねえな」
フィンスターを世界各国に影を向かわせているせいで情報が薄いそうだ。やっぱり要レベル上げだな。
「とりあえず三番は潰しませんか? ウチみたいな弱小国に聖女やサキュバスがいたら殺しかねない戦争より政治的に支配するとか降参させるとかしたほうが頭良いですよ」
私だったらそうする気がする。
「今も内が二分して揉めてるくらい平和ですもんね。つけ込む隙がありすぎます」
むしろ内が混乱してるからこそ「この国はサキュバスどころじゃねーだろ」と軽く見なされてる気もする。
「まあ確かに本当を知っていたら今のカーグランドは旨味だろうな。攻め落としはしないか」
キュッと三番目を横線で消す。リルムはちょっとホッとしたようだ。
「そう考えると一つ目が一番腑に落ちますね。前の魔物の召喚士の件もザッグベルじゃなかったですし」
『ザッグベルは卑怯な手が嫌いだから魔物を呼び出して間接的に攻撃をしない』って言ったら本当にしていなかった。
「そんな国が間接的にこっちからの嫌がらせ受けてたら腹立つだろうな」
リルムは至極当然のことを言った。
「他国からベルドリクス領を攻撃される所以は前も言ったがまったくない筈だが」
隣接した国が血気盛んなだけの、のどかな領である。
「写真販売前から国境線は不穏でしたもんね」
私はザッグベルが不穏になり出した時期を逆算しはじめる。
「確かザッグベルの動きが怪しくなってきたのは国中がサキュバス捜索中辺りでしたよね」
そうそう、ヒューガ国のヤマシロ領に飛ばしたんだった。
それはいいとして
私はリルムに話しかけた。
「シグルド陣営は無茶なサキュバス捜索をシグルドが強行してたよね?」
「そうだな」
「その時まともな奴らは九割九分捕まらないと思うよね?」
「そうだろうな」
「そしたら代替え案として相手を引きずり落とす方を考え始めるかな? ゼルギウス陣営で一番功績あげて陛下からも覚えが良くなってきたベルドリクス領を攻撃することってあるのかな?」
リルムはよくわからずキョトンとしている。
ギルヴィードおじ様は考えるポーズをしながら
「……確かにその頃ベルドリクス家は魔物を撃退した後でカーグランドの為に強さを誇示した」
カーグランドは安全な交易ができる平和な国アピールだ。
「軍人伯爵で鳴らしている、魔物にも勝って調子に乗っているそのベルドリクスが戦で負けたらゼルギウス陣営にとっては相当な痛手だ。下手したら伯爵も死んで立て直しに完全に弱る」
おじ様が肯定してくれる言葉にストップをかける。
「待ってください。それって『カーグランドの交易がボロボロになってもいいからベルドリクスを弱らせたい』ってことですよね? 愛国心とかどうなんですか」
「シグルド派閥には『愛国心』ゆえに戦争否定派や軍人廃止派の『平和派』が多くいる。ベルドリクス家など無くなってもやっていけると思っているんだろう」
私も散々平和ボケの人間だと思ってたけど
戦争は悲しいこと。だから無くそうっていうのは理解できる。
平和派が悪いわけじゃない。みんな平和がいいに決まってる。
「……戦争を否定して戦争を起こさせようとしてるなんて……」
「軍人伯爵は大喜びだろうと思ってるんだろうさ」
ハッとギルヴィードおじ様は鼻で笑う
軍人伯爵家だって、平和がいいと思ってるんだよ……
「……マリア? 大丈夫か……?」
そんな理由の為に一生懸命に生きている人が死ぬのかと目の前が真っ暗になった。




