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041 名産品と対抗試合

 

 大波乱の社交界の話を家でのんびりしていたギルヴィードおじ様にして笑われつつ、その横でベッタリとしていたリルムには「やっぱり王子からプロポーズってあるんだな!」と間違った知識をつけさせてしまっていた。


 ジェラルドはシグルドに言われ、やっぱり私を通じてベルドリクス家の切り崩しを狙っていたようだが、何故か本気で私を好きになってしまったらしい。



 彼の頭の中では何故か私と婚約していることになっており(婚約者でもないのに婚約者と言い張っているのもおかしな話だが)勘違い男の牽制により私への婚約希望がグッと減ったのは不幸中の幸いと言うべきなのか……。


 とにかく別派閥だし、王族からの要請だろうとそんな事実はないとこっちはつっぱねさせてもらっている。


 攻略キャラから逃げてたはずなのに名前も出てこないただのモブに目を付けられてしまった。




「そんなことより派閥が表面化したんです」


「大丈夫だ。抑えたいところは全部とれた」


 膿も出したぞ。とニヤリと笑うおじ様に私はホッと安堵した。間に合って良かった。



「もう動かす文官や武官の配置も決めてある。今は試運転中だな。実力主義だから上からは若干不満もあるがそこは調整しつつ、なかなか良好だ」


 おじ様は上手くいっているらしく上機嫌にリルムを侍らせ座っている。どこぞの覇王か何かか。


「金が入ってきたからゼルギウス陣営への支援が出来る。新しく入った文官たちには実力を計るといって失敗してもいいから許可出した政策は全てやらせてる」


「お金があると大胆な政策も出来ますね」


 シグルド陣営はサキュバス捜索で使ったばかりだからカツカツだろう。



「ベルドリクス隊にも新しい武器や防具が届いて訓練も順調のようです」


 ベルドリクス隊への金の支援もしているが、こちらはベルドリクス家の貯蓄を切り崩していると思われているようにしている。


 本当は思いっきりポーションの利益なのだが、マネーロンダリングが追い付いていないので使える綺麗な金がないのだ。



 ゲルベルグさんとのポーションのマネーロンダリングは、主に適当なベルドリクスの名産品を取引してはそこを水増しして金を受け取っている。


 それと武器や防具もゲルベルグさんから買って改ざんさせた偽装取引をしているが、ずっと武器を買い続けるわけにもいかない。



「もうちょっとベルドリクスにも名産品がないとゲルベルグとの関係が怪しまれるな」


 ゲルベルグ商会を御用達商人として優遇するにしても、ちょっとウチの領には名産品が薄いのだ。



 ゲルベルグさんとしてはウチの全く売れない名産品を買い取ってもリターンが来るほどの利益が入っているので、とにかくなんでもいいから商人が買う言い訳のような名産品がほしいという。


 隠れ蓑になるような名産品なら市場がわからないような皆が手を出したことがない品がいいよね。


 …………なんていうか……聖女の考えることではないな……。


「じゃあ名産品作りの土壌づくりでもやりますか」







「よし! リルム! 出来るだけキリッとしててね!」


「おう! まかせろ!」


 私は『名産品作り』の前準備にゼルギウスさんの元へリルムと向かった。



 ◇



 ――ゼルギウス陣営。


 第二王子ゼルギウスは会議室に武官達を集め話し合いの場を設けていた。


 みな勇猛果敢、強さを追い求め隊略を突き詰める者たちだ。


 そんな中、ゼルギウスに呼ばれ入ってきた少女と護衛騎士がいた。



「か、可憐だ……」


 カーグランドの聖女と呼ばれる少女、隊神ベルドリクス伯爵の孫娘、マリアである。


 穏やかで美しい顔に別世界のような神々しさを放つプラチナブランドの髪を見て求婚が殺到したのも頷けた。



 その後ろには見たことのない護衛が控えていた。


 マリアの護衛は精悍な顔立ちの若武者と聞いていたが、ベルドリクス領グリムロール防衛戦の功績により取り沙汰され、ベルドリクス伯爵直々に将として育てられているとの噂だった。


 なので凛々しい騎士が新しい護衛なのだろう。と皆が思った。

 

 が、安全の為兜を外させると、皆から息を呑む音が聞こえた。


 その女騎士も護衛として機能するのかという危うさをはらんだ美貌と妖艶さを持ち、むさ苦しかった武官会議の場が一様に華やかになる。



「ゼルギウス様、この度は武官会議の末席に加わることを許して下さりありがとう存じます」


「ああ、マリア。何か案があるんだってな? 是非聞かせてくれ」



 場がざわりとする。



 幼くとも軍人伯爵ベルドリクス家の一人、マリアの案。


 皆がほう……とお手並み拝見という高見を決め込んだ。



「はい。わたくしにゼルギウス陣営カーグランド首都にいる全兵2000の強化練習をさせて頂きたくお願いに参りました」


「隊の指揮だと!?」


「素人が!? ふざけている!」


 声を荒げる武官を見、黙ったところで穏やかに会釈をする。



「この護衛の者は本来はギルヴィードおじ様の武官です。今は急な人事移動により護衛任務についてもらっておりますが、本来なら大隊を動かすことに長けております」


 子供の戯れ言……だが、マリアが見出した元護衛、カムイの武勇伝は最近の武官の中ではピカイチのものであり、その引き継ぎの女騎士。実力を見てみたい者は多かった。


「実力がわからなければ反対なさるのも当たり前です。よろしければ今いらっしゃる武官の皆様にも兵を貸し出して頂き、皆様の知略隊略を競う場を作ってはいただけないでしょうか」


 それでウチのリルムが優勝したら兵を鍛えさせてくれと。



 この発言には武官は皆燃えた。自分の才を発揮出来る場が出来た。


 今文官たちは『新人に実力でなんでもやらせてみる』という試みをされている。


 自分たちにも活躍の場が欲しかった。



 ゼルギウスは少し悩んだがすぐに頷いた。


「マリアが言うんだ。試しに100、ここにいる者全てに貸出し一か月訓練をして力試しをしてみようじゃないか」



 その決定に武官たちはおおおお!!と雄叫びを上げ『第一回ゼルギウス軍対抗試合』が開催されることになった。




 ◇




「さすが武官の人達はテンションが凄いなぁ……」


 正直めちゃくちゃ怖かった……。



「でも上手くいって良かったな!」


 にっこりとリルムが笑う。癒しだよ、リルムは……。


 別室のギルヴィードおじ様とゼルギウスさんもいる部屋で私はリルムとネタばらしをしていた。


「こっちとしては武官にもチャンスを与えろと言われていたから丁度よかったが、なにかあるのか?」


 ゼルギウスさんが即決したのはそういうことだったのか。



「このリルムって子、実は魅了が使えるんです。だからどこまで通用するのか見てみたくて」


 戦争フェイズだとリルムは魅了で仲間の士気を上げたり相手を混乱させたりすることが出来る。


 他にも理由はあるんだけど……魅了は使いようによってはかなり使えるスキルになるんじゃないかと考えていた。



 魅了は弱かれ強かれ踊り子や歌姫、天性の美貌で持っている者など結構いる。


 サキュバスの魅了はそれで生きてるようなものなので、下手と言っているリルムでも特に強力だ。



「だからあんまり勝つ気はないんです。とにかくリルムのお披露目が出来たらなって感じで……リルムは兵法とかも教えたことなくてさっぱりですし……」


「リルムは魅了ヘタだって言ってたし、あはは……」と笑っていたらギルヴィードおじ様が「なんだと……?」と鬼の顔をしてきた。


「テメェら、天下のベルドリクス伯爵家の者が自分で売った喧嘩にそう簡単に黒星つけていいと思ってんのか」


「ひえっ」


 私とリルムはすくみあがった。


「平和ボケした武官どもだ。勝つ方法ならいくらでもある。」


 お、おじさまがとても悪い顔をしてらっしゃる……。








「オレがこの隊を率いるリルムだ! オレの指揮下に入ったからにはビシバシ行くぞ!」


 普段のロマンス小説大好きな夢見る乙女は鳴りを潜め、余所行きの『女ヤンキーリルム仕様』でその場に立っていた。


 対抗戦が決まりリルム隊の兵100人が練習場に集まった。


 因みに、兵は作戦や連帯感が損なわれるとのことで、普段訓練している100人ずつの兵舎ごとの隊で分かれているそうだ。兵舎は厳正なるくじ引きで決まったとか。



 ぽっと出のリルムは「可愛いけど……将としてはちょっと……」みたいな感じのぶっちゃけハズレ枠らしく、今回で昇給しようとしていた者たちは意気消沈している。


 なので総じて「かわいいな」ってくらいでやる気が感じられない。


 この世界は乙女ゲームの都合上、「男主導で女は守られるもの」という文化が根強いので、狙っていたわけではないのだが男尊女卑気味になってしまっている。


 乙女ゲームなので戦闘ユニットも親友キャラのリルム以外全員男だ。ヒロインは戦えないので除外。


 しかもリルムは没キャラになってしまって戦いは完全に男の仕事となっている。


 戦うヒロインだったらちょっと世界観違ったんだろうけどね。



「チッ くそっコイツ等……」


 ヤバいリルムがちょっとキレ気味だ。暴れたら兵が普通に死んでしまう。



「待って、ちょっとギルヴィードおじ様の案やってみようよリルム」


「おう……やってくれ。こいつら全員こき使ってやる」


 リルムちょっとギルヴィードおじ様に似てきたよ……。



『支援魔法・能力強化』



 リルムは私の支援を受け、100人の兵士の前へ立ち


『魅了』


 ぶわっと辺りが一瞬ピンク色に見えた。


「オレのことは隊長って呼べよォ!? わかったな!?」


 100人は一斉に声を揃えて



「はい!!! リルム隊長!!!!!!」



 と、元気よく答えた。







 それからの兵たちは凄かった。


「リルム隊長の為に!!!!!」

「隊長に勝利を!!!!」

「お前ら!!!!リルム隊長に死ぬ気でついてこい!!!!」

「おおおおおおお!!!!!」


 凄い勢いで筋トレをしている。



「こんなにすげえ魅了オレ初めて出したよ……」


 リルムはぽかんとしていた。


 おじ様発案の魅了強化はかなりの威力みたいだ……。


 色んな魔法を組み合わせて新しい魔法を作る応用魔法……ゲームの世界だからと設定された魔法だけしか使わなかった私としては目から鱗だ。



 忠実すぎる下僕100人が出来上がり、リルム隊は他と比べても士気と忠誠心が段違い。


 全員が魅了によりリルムの為に鍛えているのだ。連携も一体感も凄い。


「リルム隊長についていったらレベルが3も上がりました!!」


 なんて兵も出てくる始末。



「サキュバスがエロい恰好してんのは魅了の効果上げる為なんだから、露出の少ねえおめえの魅了が効くわけねえだろ」という凄腕魔導士(ギルヴィードおじ様)から有難いご助言を頂いていたのだが、今リルムは露出の少ない私の贈った騎士服を着ている……


 それにもかかわらず、この威力だ。


 聖女の能力強化とサキュバスの魅了……あまりにも強力すぎる連携を見つけてしまったかもしれない。








 リルムは私の察知バリアがないと危ないので自動的に私も一緒にいることになる。


 なので


「みなさーん、お昼ごはんですよ~」


「うおおおおおおおおおおお!!!!!! マリア様のお昼ごはんだ!!!!!」

「聖女さまのお恵みだ~~!!!」


「水分補給は大切ですからね。はいタオル。お疲れ様です」


「あ、ありがとうございます!!!!!!! 聖女さま……!!」


「筋肉は適度に冷やして。休む時間も大切ですからね。筋を傷めないようにしてください」


「は、はい!!! マリア様!!! 聖女さまだ……!!」


 とマネージャーみたいなことをやっていた。



 あと厳しい訓練についていけない兵に疲労減少の支援をかけたり、強化かけたりして応援してた。


 おかげで聖女さま呼びがなんだかデフォルトになってしまっている。


「聖女さまがいらっしゃらなければ俺はこの厳しい特訓についていけませんでした……!」


「あ、あはは……」




「テメーらマリアに変な気起こすんじゃねえぞ!! ぶっ殺すからな!!」


「はい!!! リルム隊長!!!!!!」



 アメとムチな美少女に鍛えられて士気もダダ上がると同時に、まさかリルム隊があんなに楽しそうとは思わず周りはちょっと士気が落ちたとか。





 ◇



「なあ、聞いたか? あのハズレ枠のリルム隊……」

「あぁ……可愛い女の子二人がつきっきりで鍛えてくれてるんだろ……」


「くそっ! 誰だよあそこがハズレとか言った奴!」

「俺リルム隊に行った奴めちゃくちゃ馬鹿にしてたのにこの前会ったらスゲームキムキになってた……」

「マジかよ」

「リルム隊長に会って俺は変わったってリルム様についてスゲー語られた」


「レベル5上がった奴もいるって」

「は!? なんだよそれ!?」


「なんか落ちこぼれでついていけない奴にマリアさまが支援で応援してついていけるようにしてくれてるらしいぜ」


「聖女かよ……俺もリルム隊入りたかった……」


「しかもマリア様が毎日水分補給や昼飯用意してくれてんの見た……」

「ウチなんか水分補給も昼飯もないぞ!?」


「俺も美少女にタオルとか飲み物とか渡されたい! 応援されたい!」


「あんなの練習場の隣でやられてんの見ろよ! 気がおかしくなりそうだ!!」


「チクショー……やる気なくなってきた……」

「俺も……」


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