040 ジェラルド=カーグランド
※ジェラルド視点です
◇
カーグランド国の第一王子シグルド=カーグランドの息子、ジェラルド=カーグランド。14歳。
彼は日々に憤慨していた。
彼の父、シグルド=カーグランドが弟のゼルギウスの策略により、どんどんと王の座から遠ざかっているのだ。
周りの者はゼルギウスに嵌められた、ゼルギウス派が罪を擦り付けたと言っている。
確かに最近の功績はゼルギウス派ばっかりなのだ。そんなのおかしい。
こっちが邪魔されているとしか思えない。
そして臣下の功績を献上させて自分のもののように扱うのだそうだ。
弟のクセに兄を貶めるなど……ゼルガリオンなどと正義ぶっているがやっていることは飛んだ悪者だ。
ゼルギウス陣営の侯爵家にて大きな社交界が開かれるそうだ。
その社交界に父のシグルドも参加なさるという。
シグルドは王族だから侯爵家といえど断りはできない。
「父上、敵の社交界になど何故参加なさるのです?」
普通は敵の社交場になど行かぬという話を聞いた。
「ジェラルド、時には正道とは違う奇策というのも大事なのだ」
成る程……敢えて敵の社交場にまで行く理由があるということだ。
「ゼルギウス陣営は、主にベルドリクス伯爵家が支えていると言ってもいい」
ベルドリクス家……我がシグルド陣営の一番の敵だ。
我が国一番の軍事領であり、ベルドリクス伯爵家は代々にして軍の才があると教わった。
「そのベルドリクス家と対決するのですか?」
「いや違う」
「ベルドリクス家をこちらに引き入れる」
「なんと!」
ベルドリクス家ギルヴィードはゼルギウスと同じ年で生まれながらの側近として育った存在。
ゼルギウスも一番の信頼をギルヴィードに置き、勝利をもたらしているようだ。
「あれが我が陣営にいれば我が陣営は勝てる!」
敵を褒め、敵を憎まず味方にしようなどなんと父は器が広いのだ……。
他のシグルドの臣たちは自分たちの場所が無くなるからと一番の敵はギルヴィードと声大きく発言していたらしいがシグルドはそれを一蹴したらしい。
「ゼルギウスの無茶ぶりや傲慢さに耐え功績を捧げ続ける我が国の忠臣だ。ゼルギウスがいなければ、俺が親友として隣にいたかもしれないものを……」
シグルドは運命のいたずらを呪った。
「ベルドリクス家には当主が溺愛する孫がいる。ちょうどお前と似合いの歳だ」
貴族の繋がりで大事なのは縁の繋がり。婚姻が一番簡単な方法だ。
「ゼルギウス陣営には子供がいない。ゼルギウスとギルヴィードには縁など何もないのだ。今のうちに娘、マリアを抑えればベルドリクス家をウチに引き入れることは可能であろう」
ジェラルドはしびれた。シグルドの策謀にだ。
「ベルドリクス家を救えるのはお前だけだ。ジェラルド」
そう言われ、はいと答えたが、ジェラルドはあまりベルドリクス家が好きではなかった。
シグルド陣営の憎き敵なのだ。
マリア=ベルドリクスは巷では「カーグランドの聖女さま」と呼ばれて調子に乗っているようだ。
なんでも一年前のベルドリクス領での魔物の大量発生の際に小手先の支援魔法で兵を延命させたらしい。
尾ひれが付いてそうなっているんだろうがそんなもの11歳の子供が出来るものか。
未来の王であるジェラルドより年下のクセに功績を作るなんてそんなことあってはならない。
そんなのと政略結婚するのも王子としての務めなのだろうが、地位は伯爵で、シグルドは救うと言っているがあっちの陣営でバリバリ働いているのなら慈悲などかけるべきではない敵なのではないか?
こっちが身分が上なのだ。普通はこっちに頭を下げてお願いして婚約者になるべきだ。
これで醜悪な女だったらどうしてくれようとジェラルドは馬車に乗った。
ルイーズ侯爵家の屋敷はなかなかだな。と見聞しながら参加していたがみんな反応がおかしい。
いつもはうざったいくらいに周りが寄ってくる社交場に、一切人が来ない。
ゼルギウス陣営だからといっても失礼ではないのか? シグルド父様は同じ王太子候補なんだぞ?
ゼルギウスばかりを取り囲んで! 嫌味のようにこちらに見せつけている。
こんな子供の自分がこんな醜悪な大人の場にいなくてはいけないことに理不尽を覚える。
そう憤慨していたらふとそれが目に入った。
そこには明らかに、場違いなほどに清らかな子供がいた。
「父上、あれが……」
「そうだ、あれがマリア=ベルドリクスだ」
そこにはまだ幼いながらも、本当に『聖女』がいた。
おっとりと優しそうな慈愛に満ちた目に長く縁どられた睫毛。
髪は透けるように美しいプラチナブロンドの髪を緩く結んでいる。
ドレスもまるで神への信奉者のように真っ白なドレスを嫌味なく着こなしている。
ボーっと見つめていたら彼女がこちらを向いた。
こちらを向いたんだ!!
これは何かの俺へのメッセージに違いない!!
その時ジェラルドは今まで描いていた『醜悪なマリア』がスコンと飛び落ち、滑り込むかのように『ゼルギウス陣営によってそちら側につかされた可哀想な聖女』にすげ変わってしまった。
マリアとの結婚は父のシグルドにも認められ、
推奨されたものであり、
最初いやいやだったがジェラルドは今、マリアを好きになった。
マリアを幸せにしてやれる。
だからマリアは俺と結婚すべきだ!
俺がマリアを救ってやらねばならない!!
「俺がお前を救ってやる! 俺と結婚しろ!」
少年の思考は加速度的に幸せなハッピーエンドへ向かって行っていた。
◇
えーーーっと……
「大丈夫だ。この結婚には父上も了承していらっしゃる。お前は何の不安もない」
不安しかないんだけど。
なんでシグルドがOK出してればOKだって思ってるの???
「え、えっと……」
だからといって私は生粋の日本人。『ベルドリクス領の聖女な孫娘』として下手なNOは言えない。
一国の政敵の王子の息子にいきなりプロポーズされた回答なんかないよ!!
「戸惑うのはわかる。しかしお前の為ならば俺と共に行く方が幸せになれる! だから俺を選べ!」
流石王子。告白が堂に入っている。
と、冷静になるほどには戸惑っていた。
「あの……わたくし……貴方のお名前も知りませんのですけども……」
「俺はジェラルド=カーグランドだ! 後の王子となる」
敵陣営ど真ん中で良く言い切ったねそれ。ソフィア嬢がピキピキしてるぞ。
しかし身分は、この良くわからない子の方が上だから下手に断れない。
それを狙っての公の場での婚約の強要なんだろうけど……
流石にこの場を止められるのはゼルギウスさんしかおらず、止めに入ってくれ私とジェラルドの間に入り私を隠してくれる。
「ジェラルド、マリアは戸惑っている。いきなりの強要は良くない」
「ゼルギウス!! そうやってお前はマリアを俺に渡さぬつもりなのだろう!!」
さんを付けろよ。ジェラルドは私の手を掴もうと手を伸ばしてくるので更に後ろに逃げた。
「渡さぬもなにもマリアは物ではないんだぞ。ジェラルド」
「マリア! 今はわからないかもしれない! けれどお前は俺と結婚したほうがいいんだ!」
この子何言ってるかわからない……どうしてこうなっちゃったの……。
「あの……仰っている意味がよくわかりません……。わたくしはベルドリクス家でとても幸せなので……」
とりあえず派閥に触れないセリフでお断りしたけど伝わっているのだろうか
「ベルドリクスが幸せなだけじゃダメなんだ。ゼルギウスじゃなくて俺たちと行こう! マリア!」
ざわっと声がする。完全なる派閥発言である。
えっ これ私が返答するの? ベルドリクス家のことだよ?
シルメリアお祖母様を見ると助け船を出そうと近寄ってくれる。
「ジェラルド様……」
「お前には聞いてない!!」
いや家のことだよ! 発言権あるよ!!
シグルドは「王族の要請を断るのか?」という顔だ。
完全に私にプレッシャーをかけて言質を取ろうとしてきてる。
普通の子供だったら王族に逆らうなと教えられて育って絶対に頷いてしまう。
それで『マリアは婚約を了承した』で孫を溺愛しているというお祖父様を使ってベルドリクス家とゼルギウスの切り離しをして行こうという考えだろう。
「私は……ベルドリクス家を愛しています。ベルドリクス家が荒れる要因になるような婚姻を、ジェラルド様が望んだということ、大変悲しく思います……」
「えっ あ……っでも、それが」
「ジェラルド様はわたくしの事を考えてと仰りましたが、もう一度、考えては頂けないでしょうか。わたくしの愛するベルドリクス家のことも……」
「そ、それは」
しかし私は普通の子供ではない。帰ってほしい相手にお茶漬けを出す日本人なのだ。
「考えたら結婚してくれるということか?」
考えたら結婚になんねーから帰れって言ってんだよお茶漬け!
のれんに腕押し状態になってしまったところでゼルギウスさんがまた間に入った。
「ベルドリクス家は俺と歩むと約束をしてくれている。それは兄上がどう工作しても変わらない」
「何……?」
今度は完全に矢面に立ってくれるようだ。シグルドと対立する。
確かにこの場でシグルドに対抗できるのはゼルギウスさんしかいないのだ。
兄と喧嘩したくないのは凄く知ってるだけに申し訳ないけど、頼むよ。
「兄上は昔から俺となんでも同じことをしようとしていたが、流石の俺も親友だけは渡せない。ベルドリクス家からは手を引いてもらおうか」
「はい、ゼルギウス殿下。わたくしベルドリクス家はゼルギウス殿下と共に在ります」
シルメリアお祖母様が宣言する。
「私、ルイーズ侯爵家もです」
ソフィア嬢の父、ルイーズ侯爵も宣言に乗る。
それに合わせ「私も!」「うちも!」とゼルギウスに賛同すると宣言する祭が起こった。
「く……っ! そう宣言したこと! ゆめゆめ忘れるでないぞ!」
シグルドは大勢が悪いとわかったのか、悔しそうに去っていくシグルド陣営。
会場からは拍手や指を鳴らす音が聞こえる。
なにかまた勘違いされたら嫌なので私はジェラルドを見ないようにしていた。
「ゼルギウスさん……」
「もう仕方がない。ベルドリクス家を出されたら俺も戦うしかないな」
ゼルギウスさんはニッと笑ってくれた。
しかしこれで完全に派閥争いが表沙汰になってしまった。もうガチバトルで場所替えはできない。
引き入れたい貴族全員引き入れ出来てたらいいんだけど……。
なんだかドッと疲れた社交界だった……。お祖母様も疲れ果て「こんなこと他に類を見ない」と言っていた。
今家でのんびりしてるであろうギルヴィードおじ様に「上手く逃げやがって……」という気持ちだけが湧いた。




