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004 カーグランドスタート

 

「籍って……伯爵家に!?」


 帰りの道中の森の中で絶叫が響いた。


 私もゼルギウスさんも驚きで目を見開いている。



「め、メイドとかですか?」


「雇用の関係じゃ能力がバレた時に匿えねえ」


 メイドで雇うとかではなく伯爵家の名を冠しろと言っている。



「伯爵て……」


 ギルヴィード=ベルドリクスは『聖女勇者』きってのキレ者だけど、思い切りが良すぎないか。


「ヴィード、流石に平民が歴史ある伯爵家に「はい入ります」なんて養女でもサラッと入れないぞ」


 そうそう。ゼルギウスさんはもっともだ。



 ギルヴィードさんはさも気にした風ではない様に


「この嬢ちゃんの力は嬢ちゃんもわかっているように普通じゃねえ。この事がバレたら各国はこいつを取り合うだろうし、勿論ウチも知った以上看過はできねえ」


 だから私を引き入れて保護すると。



「…………」


 私の能力は有用かもしれないけど、カーグランド国が私の能力を上手く扱うにしても小国すぎて逆に狙われる対象になるため、ただの荷物でしかない。


 しかし他国に行ってハラハラ見守るよりも保護しておいたほうがまだマシ……ってことだろう。



 子供だからと言葉巧みに操って、私の能力を利用してやろうという気も……少しはあるかもしれないけど、計略や暗殺など裏で意のままに暗躍するタイプの冷酷無慈悲なギルヴィードおじ様がちゃんと腹を割って話してくれてる……。


 ゼルギウスさんがまだ生きてるっていうのもあって、まだ歪んでないのかもしれない。


 あ、あとさっきゼルギウスさんを助けたのが効いてるのかも。



「てめえが断っても俺はてめえに間者をつける。今が俺に出来る精一杯の譲歩だ。しかしおめえさんがこっちに付くっつうなら俺が後ろ盾になってやる」


 最強おじ様が後ろ盾……かなり魅力的な響きだけど……



 数年間後、世界は大戦乱になる。


 その中で弱小国のカーグランドにつくのは如何なものなのか……。







 このゲーム『聖女勇者』は、攻略キャラが各国に分かれており、最初に国を選択することでそこからスタートすることができる。


 今いるカーグランド国もその候補国の一つなのだが……ここが一番の鬼畜難易度。



 いや、鬼畜なんてもんじゃない。かなりの確率でゲームオーバーになる国だ。



 ここを選んだ場合、普通初期攻略キャラクターとなるギルヴィードおじ様はまさかの攻略不可能。


 もちろんゼルギウスも亡くなっており、前記の理由で能力は低下のまま。


 全く旨味がないスタート地点なのだ。



 ベリーハードモードを楽しみたい方用……みたいな。


 〈スターズソフト〉の会社ファンだったりする、いつもは美少女ゲーやってる男性ファンとか、鬼畜縛りプレイとして実況動画があがったりする感じのネタお遊び国なのだ。


 難易度はかなり高めでリセット前提の運やAIを利用しなければ出来ない。



 制作者公認の潰れる国をわざわざ選ぶか? と聞かれると正直悩んでしまう。




「………………」


 ギルヴィードさんは黙って此方を見守っている。


 ゼルギウスさんも空気を読んで佇んでいる。






「――まず婚約者や妾は嫌です」


 ギルヴィードさんは攻略キャラクター。普通は攻略不可能となるルートだが前提が違う今、どうなるかわからない。


「俺もあらぬ性癖と勘違いされそうだから御免被る」


 いくら攻略キャラでも今の出会いが9歳くらいの幼女と30代のアラサー。犯罪臭がすごい。


 攻略キャラなんだけど正直この年齢だと数字の暴力がえぐすぎる。


 20代と50代になると分別のついた大人同士、気が合ったってことで片付けられるかもしれないけどこの年齢では「光源氏か!」って感じで、おじさまが完全にロリコンにしか見えない。



「それに婚約や結婚じゃなんかの理由で破棄や離婚に持っていったらただの他人だ」


「それより平民と伯爵で結婚はかなりの無理があるぞ」


 二人の言葉を聞きつつ原作ゲームでのギルマリは『あの時期の、聖女だから、攻略出来た』っていう希少な例だったんだな……と漠然と思った。



「…………」


 多分ギルヴィードさんには私が小国に味方することに難色を示しているのはバレているだろう。


 流石にギルヴィードおじさま闇堕ちやゼルギウス王子死亡は知られてないとは思うけど。


 どういう行動をするつもりだったとかは特に決めてはいなかったが、手堅い国を選んで出来るだけ平和的に全員仲間にして幸せにさせるつもりだった。



 でも私は二人を知ってしまった。


 命をかけて助けてくれたし、正直ゼルギウスさんには死んでほしくない。


 ゼルギウスさんは十分王としての素質があると思うし、ゼルギウスさんが死なずに王になるならギルヴィードおじ様も本気でカーグランドを守る――……。



 ――あれ? これ、ワンチャンある?



 どうせ回復持ちとして行く当てもなく指名手配のようにコソコソ生きるなら知力も強さも最強おじ様に匿ってもらった方が良い。



 鬼畜難易度カーグランド国から最高のハッピーエンドを目指す。それが出来たら()()()


 面白ければこの世界が有用だと『外の私』の頭に残り生き延びるチャンスも生まれるだろう。




「……なら一つ、条件があります」


「なんだ」


「ゼルギウスさんをこの国の王様にしてください。それが不可能ならこの国を出ます」


「はあ!?」


 もちろんゼルギウスさんが死んだ時も含む。



 現実問題、闇落ちして歪んだギルヴィードさんと一緒にいられる自信はない。


 もし出来るなら闇堕ちする前にギルヴィードさんも連れて国外逃亡……無理だな。


 ギルヴィードさんは私には御せない。



「交渉成立だな」


 ギルヴィードさんは二つ返事で快諾した。もしかしたら元々王にするつもりだったのかもしれない。



「なっ!? おまっ こんなの兄上にバレたらヤバいどころじゃないぞ!!」


 対するゼルギウスさんは明らかに狼狽している。


 兄に殺される運命だが、ゼルギウス本人は兄を嫌ってはいない。


 むしろ血を分けた実兄弟、仲良くなりたいとすら思っている。



 設定では元々ゼルギウスは王座に就く気もない、シグルドを支えるつもりだった。


 だから嫌われる所以(ゆえん)もないと思っているが、臣下や民からの信頼や人気は明らかにゼルギウスの方が高く、兄には嫉妬で殺すには充分な理由があった。


 謎でもなんでもない正義のヒーローなんてやってるからそうなるんだよ……。







「でも現実問題、平民が伯爵の娘になるってどうするんですか?」


「俺が平民オンナを引っかけて出来た子っつーのがまあ妥当か」


 私は高く見積もっても9、10歳。ギルヴィードさん達は多分30前半あたりだ。


 まあギリギリ可能な数字……ではある。



「いや結婚してないのに子持ちを大々的に公表するのはヴィードもベルドリクス伯爵家にも傷が付くだろ」


「確かに、それにその扱いじゃコイツが悲惨な目に遭いそうだな」


「えっ やっぱりあるんですかそういうの」


「当たり前だろ」


 平民の女から生まれた伯爵令嬢……聞くだけでいじめられそうな予感しかしない。


 ゼルギウスさんが至極真っ当なツッコミを入れたことにより、父のベルドリクス伯爵と話し合って養子に出来るか相談することに決まった。



 とりあえず街に帰ったらギルヴィードさんの父と対面することになった。


 ギルヴィードおじ様の父とか勿論設定などあるわけない。


 設定にないアドリブ事ばかりで今から胃が痛いよ……。






 着いた街では約束どおりご飯を奢ってもらった。


 ゼルギウスさんオススメの大衆料理店だ。


 この世界の料理はとても美味しい! という設定だっただけに本当に美味しい!


 現実世界と違って魔物の肉が使われてたりするけど、それがまた美味しい!


 美味しい設定にしておいてよかった〜〜!!



 ちなみにさっき三人で倒したグレートウルフもそこそこ美味しいらしく印をつけて村の人たちで回収出来るようにしておいたらしい。


 私は恐ろしくて見れなかったけど血抜きとか素材とかにちょっとは解体したりしてたらしい。


 なんというか、ほんとギルヴィードさんソツがないよね。



 もりもりとご飯を食べていると、ギルヴィードさんはジッとこちらを見つめつつ、時折この食器を下げて欲しいときはフォークをこう置く、とか軽くマナー講座をしてきた。


 私はふんふんと聞きながら見様見真似で真似をした。


 育ちが良いとそういうのも気になるんだろうか……と思ったけど、隣で王族が肉にかぶりついてると全く説得力がないな……。



 食事も終わり一旦ゼルギウスさんと別れる。


 姿を見せないと心配されるらしく、出かけてたのがバレる前に滑りこむようだ。


 ……兄の監視の一環なのかなぁ……とか思うとなんだか悲しくなる。




 そんな私はギルヴィードさんの御屋敷にご招待されたわけだが……


「で…… かっ」


「ゼルの家はもっとでけえぞ」


「ひえ」


 スタスタと入って行くギルヴィードさんを追いながらも田舎者丸出しでキョロキョロする。



 寝返り前提の攻略キャラだし、カーグランドで始めても家に招待されるほど仲良くなれない。


 なのでギルヴィードおじ様のお屋敷は完全初見だ。



「俺の客人だ。丁重に頼む」


「は、はい」


 いきなり30前半のクールな青年が幼女を客人として連れてきたらビックリだよね。



 庭も広い! 屋敷も広い! 伯爵家にしては物が少ない気もするし花を生けることもしてない。そういうのが無駄に感じるのかな。


 申し訳程度に絵画はあるが、パッと目を惹くようなものでもない。


 でも品は絶対に落とさないような、厳格な屋敷だ。


 ダークオーク系の木を使った黒めのベルドリクス家屋敷は格調高く、しかし冷たそうな印象を与えた。


 屋敷だけで結構人柄って見えるんだな……。



 廊下とあまり雰囲気の変わらない応接間に案内される。


 と、共に盗聴防止の防音のバリアが張られる。


 攻撃魔法ばっかのこの世界でこういうのも使えるとは……最強魔術師伊達じゃない。



「父とは夕方に時間をもらった。それまでにおめえには聞きたいことがある」


 そんな尋問みたいな雰囲気で言わないで……怖いから……

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