039 聖女さま初めての社交界
「こちらが今日のお嬢様のドレスになります。ギリギリまでこだわりぬいた逸品だそうです」
私は今日出かける社交界のドレスをまじまじと見た。
は、派手!
いや、どんなのが来るかは知ってはいたんだけど、実物見ると、なんというか……迫力が違う……。
今後バレた時に備えて聖女推しで行こうとのお祖父様の考えで聖女らしく白を基調にした、神々しい金縁の飾りも付いているけれど子供らしく愛らしいドレスだ。
子供のドレスに何ベルかけてんだお祖父様……。
「まぁ! とってもお似合いですわお嬢様!」
「髪型はいかがいたしましょう!」
キャイキャイ騒いではやし立ててくれるメイドさんにありがとうとほほ笑みながら色々準備してもらった。
まだ子供なのでコルセットとかはないけど今から憂鬱だ……一体どんな苦しさなんだろう……。
「まぁ素敵! いいじゃない。とってもかわいいわ」
「有難うございますお祖母様」
シルメリアお祖母様に褒められ、スカートの裾をつまみお礼を言う。
「ちょっと今のはソツが無さすぎて子供っぽくないわね。もう少しはにかむといいわ」
おっとダメ出し。
異様に大人びた変な子供なのになにも聞かず大切に育てて下さってシルメリアお祖母様には感謝しかない。
未だに何かあった時の連座回避の為に教えていないのか、もう知っているのか。どっちなんだろう。
どっちだとしてもシルメリアお祖母様は変わらずにいて下さるような気がしていた。
「ギルヴィードにも見せていらっしゃい」
フィンスターから謎だったシグルドの目的はまさかの『ギルヴィードおじ様の勧誘』という情報が飛び出してきて、私たちは困惑。
なにがあるかわからないのでギルヴィードおじ様は急遽「仕事が入った」と不参加にするそうだ。
敵陣に乗り込んで敵参謀の勧誘って凄い発想だよね……。
ゼルギウスさんとギルヴィードおじ様の仲みたいな親友を作るんじゃなくて、ギルヴィードおじ様を親友にするって真似っこ発想はちょっと想像できなかったよ……。
ああでも原作ではゼルギウスさんが死んだ後、ギルヴィードおじ様を親友ポジみたいに側に置いて宰相にしてたんだからあり得る話ではあるのか。
そう思いながらギルヴィードおじ様の部屋に入るとバリアのあるベッドの上にフリフリのかわいいドレス姿のリルムが座っていた。
「あ! マリア! マリア! あっ可愛いな! バリア張ってくれ!」
私を見つけて嬉しそうにバリアを頼むリルムのご要望通りにバリアを張るとベッドから出て近寄って来てくれ、「ドレスすごい可愛い! 聖女さまみたいだ!」と抱きしめてくれた。
抱きしめた後にしわになってないかも心配してくれててちょっと粗雑なところがリルムらしい。
「ギルが買ってくれたんだ!」
リルムは、リルムも社交界に行くの? っていうふわふわのリボンのついた可愛いドレスを嬉しそうに着ていた。
前に社交界へ行く私を羨ましそうにしているのに見かねたんだろう。流石にアレは私もシンデレラ然しててきつかった。
でもなんていうか、可愛いんだけど、リルムっていうともっと胸元が開いててセクシーな感じなイメージだったし、前装備でも「露出が少ねえ」って文句言ってたからそういうの頼むと思ったんだけど……と思った瞬間気付いた。
私はすすす……とおじ様に近付きボソッと囁く。
「へえ……これ、リルムが良く読んでるロマンス小説の挿絵のヒロインが良く着てる感じの可愛いドレスですよね……。リルムの好み買ってあげたんですか?」
おじ様やるじゃん……とほくそ笑む。
「オーダーじゃなくてゲルベルグから吊るしを適当に買っただけだ。オーダーならもっとエロいのを作らせる」
素っ気なくおじ様が返してきた。おっと、これは本当に偶々なのか嘘なのかわからないぞ。いやでもギルヴィードおじ様だからな……。
しかしやっぱりエロいドレスのほうが好きなんだ。まあ美少女にもよるけどリルムみたいなナイスバデーには素材を生かしたのを着てほしいよねぇ。わかるわかる
「ギルヴィードおじ様も今日着る用の正装がありましたよね? 一緒に着てあげたらどうです?」
「えっ!? そんなの持ってるのかよ! 言えよー!」
ギルヴィードおじ様に着ろと催促しに寄るリルムをいなしながら余計なことを……という顔でこっちを見ているが私はしてやったりとほくそ笑む。
「そしたらダンスとか踊るんだろ?」
「おめえダンス踊れんのか?」
「あっ 踊れねえや!」
そうリルムは笑いつつも「これじゃだめか」とギルヴィードおじ様の手を繋いでまわる。
フィンスターは眩しそうにその様子を笑顔で見守っている。
リルムの心が欲しいと言っていた割に、随分と冷静に二人を見ている。
この子は本当によくわからないなーとちらりと見ていたら、話しかけてきた。
「……正直、あの時の取引はリルムちゃんの心が死なないことが僕の中の最善ラインだったんですけど」
あの恐ろしい取引はしたくてしたというわけでもなく、あの環境の中でのレベル15の自分の最善手だったようだ。
確かにあの時フィンスターはレベル15とは思えない程とても恐ろしく見えたものだ。威嚇してただけだったのか。
「ペットどころか『家畜』として扱われるサキュバスのリルムちゃんが今こうやって、普通に生きて、普通に恋していられるのが、とても嬉しいんです」
二人がどんな風に出会って身を寄せ合って生き延びていたかはわからない。
ただ彼はリルムに救われたのだろう。
原作の彼とは随分違くて、彼の中でも色んな心境の変化があったんだろう。
リルムに対しての感情は恋愛だったり、家族愛だったり、今は母のような目で慈しむように見つめている。
「ありがとう聖女さま。その服、とてもお似合いですよ」
リルムに褒められ、フィンスターに褒められ、満足して私は社交界に向かった。
ギルヴィードおじ様からも「ガキっぽい」と褒められました。
中身がまったくガキに見えないガキの服だから大人っぽく見えても困るしね。
初めて参加する社交界はとても華やかで派手だと思っていた私のドレスが地味に感じられるほど華やかだった。
私がお祖母様と入ってきた時には話し声が一瞬しん……と止まり、密やかな声が聞こえてきた。
うう……身の置き場が……。
開催した侯爵家のソフィア嬢が挨拶に来てくれる。
「マリア! とても清楚で良いわね。そのドレス」
「お祖父様が作って下さいました」
お祖母様のダメ出し通り照れながら笑うと「とってもかわいい!」とソフィア嬢からお褒めいただけた。
「ギルヴィード様が来れないのは残念だけど、仕方がないわね」
ちらと扉のほうをみる。序列順に入場するのでシグルドはまだ来ていないのだろう。
「もう、単なる私への嫌がらせかと思ったら……まさか過ぎたわ」
ギルヴィードおじさま勧誘だとは誰も思わないって……ため息を吐くソフィア嬢に私はあははと笑った。
「このパーティには私の姪や甥も呼んでいるから、もし手持ち無沙汰だったらその子たちと遊ぶといいわ」
「お気遣い痛み入ります」
私はスカートをつまみペコリとお礼を言った。
連れ添いの孫は普通、ちょっと紹介したらすぐに「遊んできなさい」と離されるのが普通で、私もそれを予想していたのだが
「こちらがお孫さんのマリア嬢ですか」
「わたくしお祖父様とは旧知の仲でして……」
「マリア嬢のお噂はかねがね……」
「良ければこちらのご令嬢もご挨拶して頂いても?」
「マリアちゃん、わたくしの姪とも仲良くしてくださる?」
むしろ私目的の大人が多すぎてお祖母様やソフィア嬢が私から離れられない事態に陥っていた。
今日は私のデビュタントじゃないんだよ!
やっぱりウチの息子を……という言質系が一番多く、辟易した。
あと意外にご令嬢から「ギルヴィード様によろしく」ととりなしをお願いされたり、貴族の戦場とはこういう出し抜き合いが大事なんだなとこの一回だけでも痛感した。
場が暖まってきた頃、王族のゼルギウスさんとシグルドが別々にやってきた。
「ソフィア、招待ありがとう。嬉しいよ」
「ゼルギウス様! わたくしも、来て頂けてとっても嬉しいですわ」
社交場の余所行きのゼルギウスさんはちゃんと王子様していた。
しかしながら人たらしは健在でゼルギウスさんの周りにはたくさんの人が集まっていたし、
「マリアの支援魔法の練習にギルヴィードに付き合わされて訓練したこともあるんですよ」
「王子が!」
「どんな訓練をされたのです?」
「それがギルヴィードはあの通り厳しいので大変で」
「ゼルギウス様とてもお強くなられましたよね」
「まあ素敵」
と和やかな会話に混ぜてもらえた。
最初、ゼルギウス王子から私を婚約者にさせる言質を取ろうと群がられたが
「マリアに婚約者? 其方がか? 少々難しいのではないか?」
一刀両断された貴族を見、それからパッタリ変な貴族は側に寄り付かなくなった。
ありがてえ……とゼルギウスさんをみたらウィンクされたので、わかってやってくれてたのだろう。王子……!
シグルド陣営は招待を侯爵家に催促してきた者が何人かやってきたのだが、やはりその周りはちょっと空気がピリピリしているし、アウェー感が凄かった。なんで来てしまったんや。
そんなシグルド陣営がゼルギウスさんの元にやってくる。
「ギルヴィードはまた仕事か」
「御機嫌よう兄上。ギルヴィードはどうしても外せない仕事が出来てしまったようで……」
「お前はこうやってのうのうと遊んでいるのに、ギルヴィードには仕事をさせて、俺に会わせないようにしているのか」
「そんなことは……」
いや、おじ様多分今頃家でのうのうとイチャついてるよ。
「ギルヴィードに会えなかったのは残念だが……まあいい」
「今日はどうぞ楽しんでいってくださいませ」
ガッチリとゼルギウスの腕に抱き着きながら、ソフィア嬢がそう挨拶する。火花バチバチだ。
も~オタクのオフ会でも猫耳好きが集まる会で「猫耳地雷です」みたいな人がきたら何とも言えない空気になっちゃうじゃん。お互いの為に良くないって。
困った様に見つめたらずっと私を見ていたのだろうか、同じ歳くらいの男の子と目が合った。
やべっ目合っちゃった。気まずい…… と思ったらその男の子は一直線に私の元にやってくる。
えっ!? 何!?「しっ見ちゃいけません!」ってヤツだったの!?
と混乱していたら近付いてきた男の子が私に手を出して
「俺がお前を救ってやる! 俺と結婚しろ!」
とプロポーズしてきた。場が凍る。当たり前だ。
シグルドは何故かドヤ顔をしていた。
は????




