表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/104

037 マネーロンダリング計画

 

「魔族だが、マリアの護衛はオレに任せてくれ。武器は双戟を使う」



 カムイの代わりの護衛として、今度はこの『黒騎士』が私の護衛に就任したと使用人のみんなに説明した。


 使用人部屋もないのにいつの間にか私の隣にスッといるような、周りからみたらちょっと怖い護衛だろう。



 魔族は魔人連邦ガノンにより多様化されていて、パッと見だともうどんな魔人かわからないレベルにキマイラ化が進んでいる多国籍国家なので、そこ出身ということにさせている。


 リルムの父親は強い騎士だったらしいと聞いてサキュバスだが攻撃力が高いリルムに合点がいった。



 声を聞いたら女とわかるが、試しに紹介の時に完全武装で使用人たちに紹介したら、思惑通り大体の人は鎧効果で男だと勘違いしてくれていた。


 しかし屋敷を取仕切るメイド長や執事の前でだけ、着脱式の兜を脱いでみせたら「女の子だったんだ」とびっくりしていた。


 何人か信頼出来る人に先に女の子だと知らせておいた。フィンスターがいるとはいっても、何かあった時に知ってる人がいればリルムとしても助かるだろう。



 リルムはとても可愛くて目を引くので、このタイミングでいきなり登場したら注目されてしまう。


 だからパッと見で目を引かなければいい。


 どんどん周りを慣らしていって女の子だと徐々にバラしていき、溶け込ませる。


 そういう人間の感情操作はフィンスターの得意とするところだから、フィンスターは二つ返事で任せて下さいといつもの笑顔をした。なんか怖いよ。



 カムイの前例があるので「またどこからかお嬢様が探してきた逸材」として片付けられ、仕事のプロである使用人が多いベルドリクス家では比較的早く受け入れられていた。


 本当はギルヴィードおじ様の近くに置いとくのが一番だと思ったんだけど、このタイミングが一番リルムを馴染ませやすいという配慮と、純粋に私の次の護衛候補がいない。それと私の近くだとバリアが出来るという理由もあった。



 因みにカムイの代わりの私の従者はフィンスターの影がまた私が拾ってきたとし、勤めている。


 主にリルムのお世話をして、ついでに私のお世話をしてくれるのだが、ついででも完璧にこなすので文句のつけようがない。




「あっ ラフィエル様じゃないですか。おはようございます」


 神獣であるフィンスターはラフィちゃんを見ても驚かなかった。


「…………」


「横になってたからちょっと寝癖ついてますよ。はい、カーテン開けますね~」



 神獣だから神様のラフィちゃんを敬愛しているのかと思ったら、人間に追われて傷だらけで過ごした絶望の日々の中で


「神は死んだ」


 と目のハイライトの消えた目で思ったらしく、敬愛は吹き飛んでいるらしい。


 そんな哲学者みたいな……。



 彼の中ではそんな日々を救ってくれたリルムこそがこの世界の存在意義なのだそうだ。


 でも敬愛してないからといってラフィちゃんが怒るわけでもなく。


 ペットの犬の中にある自分の家庭内順位が下がったくらいしか思ってないだろう……。


 ……いや、思っているのかすら怪しいな……。



 そう思っていたらフィンスターにラフィちゃんが声をかける。


「あの娘と出会えたのか」


「え」


「よかったな」


 どういうことなのかとフィンスターが私を見るが、ラフィちゃんに初めて頼んだフィンスターとリルムのことだと私は「あっ」と思い出した。



 ラフィちゃんはあの頃、情操教育が全く出来ていなくて、神獣フィンスターであっても物と同じ扱いだった。


 隔離された世界で精神が空っぽだったからフィンスターに対しての感情なんかも全部設定がないので当たり前である。



 今は『昔マリアが引き合わせた二人がちゃんと共に無事生きれている』と理解する程には成長していた。


「……あの不思議な蝶は、マリアさんとラフィエル様が……」


 フィンスターが驚いたように私たちを見た。



「フィンスターが怪我して動けないのはお話の世界で知ってたから、ほら、ね!」


 リルムに押し付けたとも言えず笑って誤魔化した。



「……いえ、有難う……ございます」


 自分の心の支えであるリルムと会わせてくれたことに、驚きながらも深々と頭を下げた。


 いつもにこにこと読めない顔をしているフィンスターだが、今回ばかりは真剣な感謝の気持ちが伝わってきた。



 リルムちゃんのオアシスポジ争奪戦での私に対しての当たりも弱くしてくれると嬉しいんだけど。



 そんな感じでカムイのいないベルドリクス家の日常は比較的平和に過ぎていっていた。










 ゲルベルグさんより闇市にてポーションの販売が開始されたと連絡が来た。


 やっぱりというか当然というか、闇市から広まり国中で話題騒然らしくサキュバスを誰かが捕獲したという噂は瞬く間に広がった。


 ポーションだけなら誰かの貯蔵を話題時に出したということもあり得るが『サキュバスの体液』なども競売にかかり始め、サキュバス捕獲は確定的に。



 サキュバスの捜索はどこの国も捜索隊を打ち切り、シグルド陣営も断念して国税を無駄に使ったと民からの大批判をくらい支持を下げている。


 シグルドの株が落ちた今のタイミングで、ゼルギウス側は人材確保のスカウトに一気に攻勢をかけているようだ。


 しかし派手にやるとシグルドが怒りそうなので、逆にこちらの無能を押し付け「こちらの引き抜きに必死になり足元が見えてない」と見せかけてあちらに不満を抱かせないようにしているらしい。



『サキュバスの体液』はポーション以外にも他の素材の原料としても使える大変貴重なものだ。


 サキュバスは『家畜』として扱われているのが周知の事実となっており、扱いが鳥や牛や豚と一緒。






 ……話を変えよう。


 いきなりだけど、この国の通貨は『ベル』。この世界はゲーム『聖女勇者』なので、金貨とかではなく日本式の通貨法になっており、小銭と大きくなると札束でRPG風に100ベル、1000ベルと数えていくことになる。


 物価は国によってまちまちだが食べ物はパンが10ベル、一世帯一月の食事代はおよそ5000ベル。


 日本の物価に一桁下がったみたいな換算が多い。


 ゲーム的には見た時の数字は出来るだけ簡単にしたいので一桁下げて作っていた。



 武器防具はやっぱり2万ベルはくだらない。性能が良いと4万、5万ベルと上がっていく。



 そんなこの世界での下級ポーション一個の代金、一つ10万ベルだ。




「!!?!?!?!?」


 私は値段を見て飛び上がった。日本円で言えばおよそ100万円だ。


 ヒロインの価値を上げるため、確かにヒロインたちですら3つくらいしかポーションをゲットできなかった気がする。


 でもそこまで高くはなかったはずだ。


 闇市オークションで値段が跳ね上がったのが原因だとゲルベルグさんは言った。



 今は3本売ったがどんどん出していくのなら値段は下がっていくので、それを抑えて希少性を出す為に徐々に市場に出していくと言っていた。


 そういうのはプロにお任せするのが一番なのでゲルベルグさんに一任させていただくが、計30万ベル……約半分以上が取り分になるので、少なくとも計約15万ベル以上相当が一瞬にして稼げてしまった。



 冷静になるとカムイ代は50万ベルをポンと出したので決して数字だけ見たらめちゃ高なわけではないのだが、『下級ポーション一個』とつくとこのゲームの回復需要の異常さが如実に出てしまっている。



「このまま売り続けたら少しは値段が下がるとしても完全な黒字産業ですよ……え……すごい……」


 ほぼ元手タダみたいなものが300万円になったわけだ。


「『原液』も同額で落札されていってます」


「ひえー!!」


 サキュバスに欲が眩む国が良くわかる結果だ。


「これは国も躍起になりますね……」


「だから言っただろうが」




 今ここにいるのは私とゲルベルグさん、ギルヴィードおじ様とフィンスターだ。


 ゲルベルグさんはそんな人ではないと私はわかっているが、ギルヴィードおじ様やフィンスターはまだ信用できていないのでリルムの場所は隠されている。


 今回の額を見てその気持ちも分かった。欲が出る商人など普通にいるだろう。




「これでベルドリクス軍の支援が出来ますね」


 お祖父様は軍を強くするため、まだベルドリクス領地に残っている。


 なので私たちのするべきことは支援金を集め、支援する役目だ。



「しかしこの資金が手に入るようになり金巡りが良くなれば、ウチにリルムちゃんがいるのがバレてしまいます」


 フィンスターは心配そうに言う。


 そう、これで支援金は任せて! と言いたいが、表立って渡せる金がない。



「何か資金洗浄して足がつかねえように表に出せるようにしねえとな」


「マネーロンダリングかあ……」


 私は考える。あんまりそういうことには詳しくないけど、ネタとしての薄い知識はある。



「ウチのゲルベルグ商会との取引で若干のかさまし取引は可能だとは思いますが、額が額なので限度がありますな」


 ゲルベルグさんはモブおじさんとしての知識がありつつもゲルベルグの記憶も融合しているらしく、知識チートが出来る。


 とんでもない変態だが、中身は腐女子だから標的は私(ロリコン)じゃないので心強い味方だ。



『モブおじ』さん……昔サークルで買って本人さんを見た時ギャルめな、凄い可愛い人だった覚えがあるんだけど……元が可愛いとこんな奇行に走れるようになってしまうんだろうか……永遠の謎である……。


 なんでもこれはかなり『作った気持ち悪さ』らしく、気持ち悪いおじさんのイメージトレーニングや体重管理もしっかりやっている、計算された気持ち悪さらしいので、キモいは誉め言葉らしい。


 こだわり始めたら止まらないという彼(彼女?)のプロ根性に感動しつつも商談は進む。



「ウチでも何かうまい商売して資金操作して、かさまし利益を出して隠れ蓑にしてくしかねえな」


 なんかうまい商売を考えろ。という顔をされている。


「そんないきなり言われても……パッと思いつくのは一個くらいしか……」


「あんのかよ」


 本当に利益になるかわからないし失敗するかもしれませんよ!? と聞くがそれでもいいからやってみろとベルドリクス家長代行のギルヴィードおじ様からGOサインを出される。




「んん~……じゃあゲルベルグさん、シャルル=カルーセルとはどうなってます?」


「未だに進展はありませんが交友は深めてます!」


 サキュバスの原液を落札したと言ってシャルルにプレゼントしたら今までで一番喜んでくれたと惚気(?)ていた。


 完全に金づるだよ……。



「じゃあシャルルに頼みたい魔導具があるんですが、仲介を頼めますか?」


「もちろんです!」


 シャルルたんに会いに行く機会をくださり有難うございます! とまでいってきた。


 これで恋だけしていたら可愛いオッサンなのかもしれないが最終目的が犯罪行為(モブレ)なのでなんとも言えない。



「じゃあこれと、これと……できればこんな感じの施設も作って……」


「あぁ! なるほど! これですか!」


 現実世界を知っているゲルベルグさんはすぐにわかったらしい。


 ギルヴィードおじ様とフィンスターに説明をしたらよくわからないと微妙な顔をされたが、問題がなさそうなら構わないと許可された。



「ゼルガリオンの時も思いましたが、この世の中に足りないものは『娯楽』です! どんどん打ち出していきましょう!」


「おお~!!」


 娯楽と共に生きてきた私とゲルベルグ……もといモブおじさんは新しい娯楽に貧欲だった。







 そんな人材配置やマネーロンダリングの準備をしながら、私とギルヴィードおじ様、フィンスターは次にヤード先生を呼び、世界の情勢を確認することとした。


「お疲れ様です……」


 一番お疲れなのはヤード先生なのではないだろうか。


 正直平民には重い役を担いすぎている。


 ちょっと婚約とか良い縁談を探してあげてほしいとシルメリアお祖母様に頼んでみるか?



 ヤード先生がひたすら描き続けたたくさんのグラフを見比べて、対策を考え始める。


「緩やかだがクレルモンフェランの物価が上がっているな」


「図を見る限りやっているのは魔人連邦ガノンでしょう。ガノンの同盟国もクレルモンフェランに対しては若干抑えめな交易をしているわ」


「クレルモンフェランは一番の大国ですからね、じわじわと切り崩していかないとなかなか攻勢には出れないんでしょう」



 宗教国クレルモンフェランと魔人連邦ガノンは宗教での一部魔族アンチ派と魔族で関係がこじれている。


 国としては魔族も創造主が作った生きとし生けるものの一つとして講和を主張をしているが、どこにでも過大解釈の過激派というものはいるものである。上手く統率が取れていない。それがクレルモンフェランにいる攻略キャラの悩みでもあった。


 何もしていないのに変な理由をつけて攻撃してくるクレルモンフェランの過激派はガノンにとっては完全なる敵であり、どうしても敵対心が育ってしまっている。



 なのでガノンは自分たちがクレルモンフェランに潰されない為に亜人の多い周辺国と同盟を結び、なんとか立ち向かっている現状だ。


 うちにほど近い、エルフが住んでいるカーグランドより大きな森、フィーネ国はガノンに恭順しているが、他一切の交流を断ち鎖国している。



 フィーネはクレルモンフェランに隣接しており攻められやすい場所にあるものの、エルフは人間に近く、亜人ではあるが魔族に見えない見た目の為にそこまで嫌われてはいなかった。


 ――これだけ聞くとクレルモンフェランの魔族過激派って言い分めちゃくちゃじゃんって感じだよね。


 それにフィーネの深い森は探査魔法すら効かず、迷いの森としてフィーネ国に行くことはエルフの紹介無しではなかなか厳しい。鎖国にはもってこいの立地だ。




 そんな同盟もあり勢力としては互角に睨み合っている形で、クレルモンフェランの流れを見てクレルモンフェラン派かガノン派か大体わかるようになっていた。


「やっぱりこうやってみるとどっち派か中立かっていうのが遠くからでも見えてくるものですね」


 へーっと初めて知ったグラフの使い道を感慨深く眺めた。




「しかしこれは周りからは見えないが、実際されてるクレルモンフェランは「ガノンが汚い手を使ってこっちを弱らせてきてる」と肌で感じてわかっているだろう」


 ギルヴィードおじ様は視点を変えて物事を見た。



「一応クレルモンフェラン側も対策に同盟国に声をかけたりしてるみたいですよ」


 フィンスターの情報収集能力が恐ろしい。影で一人でチームを組めるから密偵チームに裏切りがないのは本当に安心感がある。



「クレルモンフェランの同盟国は基本的には属国に近いので、クレルモンフェランが保護していたような国にまともな力はありません」


 ヤード先生は地理にも精通しているのでクレルモンフェランの経済状況の危うさをひしひしと感じている様だ。



「しかしクレルモンフェランは宗教国家。その教えを守るために活動し、他国もお布施に金を渡すのがあそこの一番の収入源です。経済圧迫したところであんまり意味はないですが……」


「まあ、嫌がらせだろうな」


 千里の道も一歩からと言うが、こうやって少しずつクレルモンフェランの牙城を崩していく算段なのだろう。



『でもどんどんこうやって締め付けていったらクレルモンフェランが怒ってガノンに総攻撃をかけて潰す可能性もありますよね、先生」


「ガノンはそうなってもいいと思ってるのかな」


 ヤード先生は腕を組んで悩みだす。



 この世界は余りにも争い合う人間への罰に『人間の悪意や憎悪により生まれる魔物』として創造主が魔物を作った。という話がある。


 創造主というかそれより上の制作陣がガッツリ作った設定なので創造主ラフィエル様でも変えられないもの。



 一応カタチのある動物なので素材や肉とかは食べられるが、強さにリターンが合わない。


 外の世界でももし『急に強いモンスターが出てきて平和が脅かされ、頑張って倒しても素材もなにも出ない』ってなったら『どうにかしてモンスターを出さない状態に戻せないか』って気持ちになるだろう。



「クレルモンフェランが『全ての争いを浄化してこの大陸を正す為』とか言って戦争を正当化しておっぱじめる可能性は否定できないな」


 戦争の正当化なんてそんなものだ。何百年前はウチの土地だったんだから返してもらうとか、そんなとってつけた言い訳を正論にして戦争をする。


 平和な世界な雰囲気だが、戦争ゲームの都合上、政治面は結構一発触発なのだ。



 この世界の全国で使える言い訳の設定は『魔物が出てくる争い消す為に天下平定する』という大義名分を作った。


 それで世界を平和にするために人が争うのでゲームでは天下統一後、人々の悪意や憎悪が集約した邪神と戦い魔物が消えハッピーエンドとなる。それが『聖女勇者』である。



 最後にRPG要素があった方が熱いよね! ということで邪神が出てくるのだけど、やっぱり出てくるのだろうか。



「他の国にもおかしな動きはある。まあ簡単に見ても、どうにもきな臭い動きは始まってるみてえだな」


 回避出来たら一番良いが、戦争の足音が近づいている気がした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ