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034 野生の公式とブレない取引

 

 作品にハマったファンたちが、愛情を込めて作品への愛を描く、ファンアートというものがある。


 愛のカタチは多岐に渡りイラストから漫画、小説や動画、イメージグッズなど様々な方法で愛が紡がれている。



 その中でも神がかった作品愛を描く『神』と呼ばれる存在がいる。


 原作で描かれなかったことや、無念なバッドエンドをファンアートで気持ちよく消化してくれ「ああ~~~~それそれ~~~~」という気持ちに補完してくれる。


 ファンがファンを呼び作品が更に愛される。


 そんな連鎖をつくる人がいる。



『聖女勇者』はスピンオフが売れ、健全向けに直したものも出て、アニメ化が決まり、大人気となった。


 しかし、最初は売れない大人の女性向けゲームだったのだ。



 そんな昔の時から『聖女勇者』のファンアートを描き続けていてくれたファンの人がいたのだ。


 乙女恋愛ゲーにも関わらず、攻略キャラクターたちをくっつける恋愛(BL)に夢中になっていた人であったサークル名『回転木馬』のペンネーム『モブおじ』さんだが、絵も勿論、心理描写などすべてにおいて巧みで、本業の方なんじゃないかと二次創作してくれているファンに喜んでいた制作陣たちは噂していた。



『聖女勇者』の人気が爆発し、大人気となったとき、当たり前のように『回転木馬のモブおじさん』は大人気サークルになった。



 嗚呼……懐かしいな……あの夏……。


 いつも即行で買えてた『回転木馬のモブおじさん』のサークルに炎天下二時間並んで買った本……最高だった……。


 特に本人さんが最推しと公言してるシャルル=カルーセル本は最高にエロくて……………………



 ――ん?







「……シャルル?」


 そう一言攻略キャラの一人の名前を呼ぶと、ゲルベルグ――さんは顔を手で隠し埋めるように前かがみになって叫んだ。




「……はい! シャルルたんは!! 私の!! 最推しなんですっ!!!」





 周りのみんなはゲルベルグさんのいきなりの乱心に構えるように距離をとった。



「ちょ、ちょっと待ってみんな!


 ちょっと…………



 ……二人で話させてもらってもいいかな…………」




 私はこれまでにない真顔でみんなに尋ねたら、たじろぎながらも頷いてくれた。




 防音魔法を私とゲルベルグさんだけ覆うように展開した私は「今二人しか話聞けないようにしたから」と『モブおじ』さんに言った。


「有難うございます……」


 少し落ち着きを取り戻したゲルベルグさんは静かにお礼を言ってくれた。



「待って、あの、『モブおじ』さんの本、いつも本読んでました。好きです」


「えっ!? あっ は!? あ、有難うございます!!!!」


 こんなこと言ってる場合ではないのはわかっているのだが、まず言わねばならない。



「私、常日頃から『モブおじさんになりたい』って考えてたんですけど、そう思って気付いたらこうなってて!」


 この人はシャルル=カルーセルをこよなく愛する、主に『モブおじさん×シャルル』のドギツイえろ本を頒布していたサークル名『回転木馬(カルーセル)』の、モブおじさんだ。



「まさかの大好きな『聖勇』の世界で!「これはチャンスだな!」って思ってモノリスでシャルルたんに貢ぎまくってたんですけど、全然振り向いてもらえなくて!!」


 見た目ゲルベルグだからな。美しいもの好きなシャルルから見たら完全に金づるだよ。



「もーーー色々漫画作って売ったりしてお金稼いで貢いだんですよ!?」


 シャルルたんの為に漫画つくってたんかい。



「そしたらシャルルたんに粉かけ始めた令嬢が出てきて、調べてみたらヒロインそっくりだったんで……」


「自分と同じ境遇なのか調べたくなったんですね」


「まさかのカーグランドスタートだったし、ゼルガリオンとか色々やってることすごいので気になっちゃって……」


 だよね……私もまさかのスタートだったよ……



「あの……やっぱり逆ハーエンド希望なんですか?」


 周りの三人を見て攻略済だと思ったらしい。



「いえ、むしろ逆ハー打破エンドに向かっているので、この中の誰も攻略してません」


「えぇ!? 夢女じゃないんですか!?」


 夢女というのは乙女ゲーに自分を重ねて夢見る女性のことを主に指す。



 良く勘違いされているが、腐女子というのが男同士の恋愛を嗜む女性という意味合いを持つ用語で、自分と推しキャラがあたかも付き合っている、そう夢見ている女性は主に夢女と呼ばれることが多い。


 そしてナチュラルにアニメやゲーム、漫画などをそのまま愛する女性は女オタクという言い方に分類される。



 わが社の男性陣は女のオタクを一括りにして腐女子と呼ぶことが多く、訂正をしてもあまり理解が出来ないようだった。違う世界の知識だからあんまり興味ない人もいるんだろうな。


 特撮オタクと女児アニメおじさんくらいに違うのだが「どっちも子供向けじゃん」みたいなところなのだろう。





「いえ、私は……なんて説明すればいいのかな……」


 私は端的に、自分が制作者のゲームディレクターで新作を考えてたらここに入り込んでしまった。と説明した。



「だから『モブおじ』さんも、同じく入り込んでしまっただけで、多分本体は―……」


「す、すごい!! あの聖勇ゲームディレクター様ですか!? こんなところで『聖勇』を作った神に出会えるなんて!!!」


「神!?」


 ゲルベルグ……いや『モブおじ』さんは猛烈に感激していた。



「あっ 今はマリアさんでしたよね! マリア神!! 神さえ良かったら私も仲間に入れてください! 商会関係だったらちょっとは顔が利きます! あとシャルルたんをください!!!!」


 感動して私の手を取るゲルベルグさんを、話の内容を聞いていない三人は警戒しながらも見守っている。あんまり近付くと危ないから!



「私としても仲間が増えるのはとても有難いです。でも……これをどうみんなに説明すればいいのか……」


 頭を抱えた。





 私はひたすら遅い頭を回転させていた。


 攻略キャラのこの三人とリルムとは信頼できる仲を構築したつもりだし、今後も継続していきたいと思ってる。


 だからみんなが混乱しない程度には話したい。


 けど、どう説明すればわかってもらえるんだろう??




 ――というか、てっきりこの世界は『私の妄想の産物』だと思ってたんだけど、他の人と思念リンクとかするの!?



 ラフィちゃんの言ってることが正しければ、私たちは奇跡的に同じ設定、同じ展開を考えていたことになる。


 ゲルベルグさんに何を考えてここに辿り着いたのかと聞くと、裏付けされるような返事が返ってきた。


「確かに次の新作について考えてました。どんな切り口でくるのかって、ワクワクしてその展開でモブシャル本を出したいなって……」


 ゲームディレクターの私の新作の考案と、公式も顔負けの巧みな二次創作を描く『モブおじ』さんの解釈が一致するのは、なんというか……これが俗にいう、野生の公式である。








 私は異世界(?)から飛ばされたけど(正確にはヒロインの身体に乗り移った)『モブおじ』さんはゲルベルグの身体を乗っ取ったかたちだ。


 そして私はみんなに『異世界から飛ばされてきた聖女』という公式設定しか、ほぼ話していない。


 



 二人だけの防音魔法を解いて「話は大体わかりました」という私。


「私が異世界の知識があるということは3人は知っていると思いますが……ゲルベルグさんも私と同じ世界から飛ばされてきたようです」


「まさかゲルベルグ殿も聖女……!?」


 そんな聖女いてたまるかい。



「いえ、ゲルベルグさんの身体に急に乗り移るように転生したようです」


 困惑する三人。当たり前だ。


 ゲルベルグさんは三人に説明するようにわかった経緯を順に説明する。



「先程見せた品は私の世界の品で、これで同郷の者か判断致しました」


「しかし何故、それを姫に……」


「私の世界に『大陸に降り立つ聖女の話』がありまして、それにマリア様は酷似していました。まさかと思い、お会いさせていただいたら……」


「私もびっくりしました……」


 本当に……。



「私たちは今、親密に契約できる商人を探していました。ゲルベルグさん以上に信用できる商人はいないと思います」


「それは願ってもないことですな」


 ゲルベルグさんは商人らしい顔を覗かせてこちらを見てくる。



「同郷でも、謀ったりする可能性は……」


 カムイは警戒心をあらわにゲルベルグさんを見つめている。見た目は公式悪役だから人相が悪いもんな。



「それは無いわカムイ。私はゲルベルグさんと面識はないけれども、知っていたの」


 それに私がゲームオーバーになったらこの世界が消えることも説明済みだ。裏切りは自分の死に直結する。


 自分の生死が見ず知らずの他人に委ねられている不安定な世界と聞いたら発狂しそうなものだが「公式は絶対ですので当たり前です」と頼れる一言で済ませていた。




「私も! 面識はありませんでしたがインタビューなどは必ず目を通してましたし、マリア神を尊敬しておりました!!」


「神!?」


 皆が不思議そうに言う言葉に私が補足をする。



「ゲルベルグさんは前は職人で……その製作の元を作ったのが私……というか……」


「はい! 流行る前からも流行った後も……変わらず大好きでした!!」


 本当にありがたいファンである。




「――つまりは、かなり信用できる商人っつうことでいいんだな?」


 最初に発言したのはいつも復活の早い、頭柔らかギルヴィードおじ様である。


「監視を付けて頂いても構いません。私は絶対に裏切りませんので」


 ゲルベルグさんは堂々と返す。商人の記憶がある為か、かなり堂に入ってる。



「今日は商談するつもりはなかったけれど……」


 というか、どの闇商人にするか決めても商談はフィンスターが変装した姿でやって、本元がベルドリクス伯爵家だと足がつかないやり方で取引するつもりだったのだ。


 しかしここまで信用できる商人を見つけたら話は別。協力プレーでやっていったほうが色々と都合がいい。



「ウチが今後卸したいのはポーションなんです。ものがものだから足がつかないように。出来る?」


「ポーション!? そりゃまたすごい」


『モブおじ』さんも神と呼ばれるレベルに重厚な話を描けるほど読み込んでいる重プレイヤー、設定は把握していた。



「ということは『リルム』もいるんですか? 今大捜索されてますよね」


 サラッと出てきた名前に、フィンスターがゲルベルグさんの背後に周り、首に爪を立てる。



「……ねえ……、なんで……その名前を知ってるの……?」


 今知られている情報は『サキュバスがいる』というだけで見た目も名前も一切判明していない。


 それを軽く言い当てたゲルベルグさんにフィンスターが警戒を露わにしている。



「フィンスター! ストップ! ストーップ!!」


 私は身を乗り出し二人を止める。


 氷点下のフィンスターにゲルベルグさんは真っ青で両手をあげて震えている。



「ゲルベルグさんがさっきも言ったけど私の世界の『大陸に降り立つ聖女の話』に『リルム』っていうサキュバスが出てくるの。神獣フィンスターもね」


 未だに表情の変わらないフィンスターに安心させるように追加情報を伝える。



「ちなみにゲルベルグさんの中身は女性だから、どうこうしようって気は無いよ」


「女性!?」


 更に困惑する三人。見た目は恰幅のよいモブおじさんなのだから当たり前だ。



 納得したのか気が抜けたのか、フィンスターは手を下げた。


 ゲルベルグさんはそっと私に近付き『えっなんで私フィンスターに殺されかけたの?』囁かれたので、耳の良いフィンスターにバレないよう防音魔法をつけて『ごめんヤンデレが怖くてリルムちゃんになすりつけちゃった』『マ?』と話した。



「ど、どうやら私の知ってる世界と結構違うようで大変失礼を……」


 冷や汗を拭きながらゲルベルグさんは言う。



「こんな風に色々知ってるけど害意はないの。わかってくれた?」


「色々知ってんなら逆に抑えておかねえとやべえ物件だな」


 ギルヴィードおじ様はさらさらと取引の契約書を書いていく。



「こっちの提示はこれだ。のめるか?」


 ギルヴィードおじ様はゲルベルグさんにポーションの分け前や絶対に卸元の此方をバラさない、販売先もそちらだと悟らせない等の契約書を見せる。


 紙を渡されゲルベルグさんは一読し、思案する。


「……足がつかないように闇市に流すのは我らの得意とするところ。しかし、あともう一取引お願いできたらと思います」



「ほう? そっちにも相当利はある話だと思うが……この取引では足りないと?」


「はい」


 ギルヴィードおじ様の目が光る。


「面白い、何が望みだ」



「ズバリ!」


 ゲルベルグはガバッと立ち上がった。




「シャルル=カルーセルたんを手に入れるの為の協力をお願いします!!」



 流れるようにスライディング土下座を決めるゲルベルグさん。




 初対面だけど、この人ブレないな!?

TS娘はもっと後半に出てきます……すみません……

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