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032 王太子と悪だくみ

 


『死の商人ゲルベルグ』に会う由の手紙を返信し、早朝に使いを出した。



「そういえば、ゼルが久しぶりにお前にも会いてえって言ってたぞ。オレは今から王宮に会い行くけど行くか?」


「いく!!」


 王太子に立候補してからゼルギウスさんはすっかり遠い存在になってしまった。





 ギルヴィードおじ様について馬車に乗り王宮へ向かう。


 王宮へは最初の挨拶と王様の呪いを調べたときと、後に説明しに行ったきりだ。


 あの時は行きかう人もスルーって感じだったが、今回は違った。



「あれが……ベルドリクスの……」


「マリア=ベルドリクス……」


「ほう……これはなかなか……」


「あの歳でギルヴィード殿と同じく魔導の才があるなんて」


「11歳であれとは楽しみですな」



 そうっとう見られてる……めちゃくちゃ値踏みされてる……



「なかなか出てこない珍獣だからな。珍しがりもするだろう」


 珍獣て。


 仕事中である王宮では仕事が捗らなくなるので、用がある者か自分より高い身分の人しか話しかけてはいけない暗黙のルールらしい。


 王族やら侯爵やらが来ないようひたすら祈りゼルギウスさんの部屋についた。





「おっ! 久しぶりだな~~!! でっかくなったな!」


 変わらない人好きする笑顔で迎えてくれるゼルギウスさん。


 でも風格というか、精神的な意味でたくましくなった気がする。なんだか顔つきが変わった。



「なんだか大活躍みたいじゃないか」


 楽しそうに笑うゼルギウスさんに私は困り顔で言う。


「私はただ自由にやってギルヴィードおじ様たちがなんとかしてくれてるだけですよ」



「わはは! マリアもそっちのクチか! そうそう! ヴィードにまかせときゃなんとかなる!」


 ゼルギウスさんはやっぱり相変わらずみたいだ。



 私は防音や視界遮断バリアを張って会話を続ける。


「全然聞いていないんですが、そちらのほうはどうだったんですか?」


「ん? 特にこれといっては起きてないな」


 ゼルギウスさんは大事以外に結構無頓着なので細かいことに目が行かない。


 それだけシグルドがどうでもいい細かいことしかやってないと言ってるようなものなのだが、本人は兄を立てているつもりのようだ。雑だ。



「今日はこれを持ってきた。ウチで調べたもんだ」


 例のフィンスターが持ってきた派閥の有能無能表である。


「へえ、良く調べてあるな……ってうおっ えっ こいつ裏切ってんのか?」


「出所は確かだが必要なら証拠も揃えさせる」


「いやいーよ。お前を信じる」


 二人のさりげない信頼関係がところどころに表れてる。



「この〇と△がついてるヤツを出来るだけこちらに引き込みたいんだが」


「ディヒストラーはダメだろ。兄上のじいで今の教育係だ」


 ちょっと待て……とそっちでもシグルド陣営の派閥構成をメモしていたらしく紙を取り出す。



「この△のは無理だな。かなり上層までいっちまってる。この〇のは調略次第じゃいけんじゃねーか? ヴィードそういうの得意だろ」


 二つの紙を添わせながらどこを一番に引き入れるか話合いは続いていく。


 私はオレンジジュースをちゅーっと飲みながら話半分に聞いている。バリア要員みたいなモンである。



「逆にこっちが勝つ前にやばそうな人あっちに押し付けたり出来ないんですか?」


「味方を減らすっていうのは考えてなかったな」


 数の暴力というものはある。しかし後々の動きやすさを考えると今のうちにいらないものは押し付けときたい。



「多分ゼルギウスさんがそっちの敵を味方に引き入れはじめたらシグルドさんもやり出すと思うんですよね」


『真似っこ』大好きだし。


「だからその時に渡す貴族をあらかじめ×から厳選してその辺から引き取ってもらうんです」


 花いちもんめ計画だ。


「おめえ簡単にいうけどなあ……。まあゼルがウチの〇の離したくないやつだけ可愛がって不満を煽れば可能だろうが、家格の勢力がガクッと落ちるのはやべえぞ」


 ×には上位貴族もいる。そういうのは権力だけはあるのだ。



「うーーーーん、権力だけでやってること真っ黒で能力ないって一番やっかいですね」


 私は頭を抱えた。


「まあ悩み始めたモンをずっと悩むのも良くない。ちょっと気分転換してからまた考えるよ。この情報は有難く使わせてもらう」


「あぁ、そうしてくれ」


 リルムの尊厳という代償を払っているからね。




「あ!」


 リルムで思い出した。


「シグルド王子が兵を出してサキュバス大捜索してる件ですけど」


「あぁあれか」


 ゼルギウスさんは笑う。


「最初は見つかったらやべえなって思ったんだけど、戦ったヴィードが『捕まらない』って断言したから流したよ」


 ゼルギウスさんの、ギルヴィードおじ様への信頼がパねえ……



「どうもこうも、各国が探しのプロの密偵出して大捜索してたサキュバスを兵で公に探して見つかるとは思えねえ」


「確かに。俺がサキュバスだったら宣言された瞬間国出るな!」


 ウチに居るんですけどね。



「功を焦ったんだろ。これが失敗したらまた失策が重なるし税の無駄遣いだと非難される。国がやる博打じゃない」


 シグルド陣営も皆止めたらしいがシグルドが強行したらしく、諦めムードらしい。


「まともな奴はこっちに移るか失敗した後の対策案考えてるみてえだな」



 そうギルヴィードにバッサリ言われてほっとしたのか伸びをするゼルギウスさんに私は質問した。


「……ゼルギウスさんは、もしサキュバスを捕まえたらどうするんですか?」


「え? んん~……難しい質問だな」


「王様になって決定権があったらどうします?」


 私の質問が不自然だったのか、なんだかんだと鋭いゼルギウスさんは聞いてくる。



「なんかあるのか?」


 やべっと思ったが私はなんとか聖女の顔を作り持ち直す。


「……なんだか私と重ねてしまって……私は聖女だけど、こうやって保護されて隠されて自由に生きさせてもらってるけど、サキュバスの彼女は国中に追いかけられて、捕まったらどうなるのかって……」



 質問の意を得たゼルギウスさんは成る程と納得し


「まあ確かに特産物にはなるし素材は高級だからなんとか確保したいとは思うだろうけど……」


 攻めてこられそうだなとか防衛の話じゃないんだろ? と返される。


 ゼルギウスさんは考え込むポーズをするように前かがみに下を向きちょっと生えてきた髭をじょりじょりとする。



「そーだな~……深く考えたことなかったけど……ウチの聖女サマが言うなら、正義のヒーローとしても、どうにかしたいとは思うかな」


 その後私を見直してくれ、目を合わせて


「まっ 匿う場合はなんとかしてくれるだろ! ヴィードが!」


 と、いつもの笑顔で器大きく笑ってくれた。







 この国は君主制なので、王太子争いの最終決定は王にある。


 次に意見が取り入れやすいのが王妃や有力貴族たち。


 そして功績が決め手となる。功績が少ない王は舐めてみられやすい。


 民衆の声は変が起きない限りはお飾りみたいなモンである。ただ、人気があるというのは良いことであり、王の吟味材料に入る。




 シグルド陣営の王妃や昔から付いてる有力貴族を味方に引き入れる作戦は実に堅実。


 民衆人気は無いがあとは決め手の功績だけあれば民衆も納得し十分に挽回できる。


 だからこそのサキュバス捜索なのだろうが、やることが博打だ。




 対して我らがゼルギウス陣営は全く一からの派閥作りスタート。


 と言ってもセルギウスの人柄や才能に目をつけ最初から其方についていた者も多く、熱意はある。


 本人は未だに否定しているがゼルガリオン効果で功績はバッチリ。



 直属配下のベルドリクス家の活躍も目覚ましく、かなりの追い風を吹かせることに成功しているようだ。


 民衆の人気も高い上、完全にゼルギウスムード。


 ギルヴィードおじ様が地味にやったシグルドの失敗を吹聴する嫌がらせ(間違いを言っていないのも事実だが……)により民心は完全にゼルギウスさんにあり、シグルドが無理矢理王座につくためにゼルギウスを亡き者にしようとなどしたら確実に荒れるだろう。



 因みに、フィンスター情報ではシグルドは一度、ゼルギウス暗殺を仄めかしたことがあったようだ。


 シグルドのじいであるディヒストラーが「今ゼルギウスが死んだら民衆からは確実に貴方が犯人と思われ確実に荒れます」と進言し、収めたことがあったということだ。ギルヴィードおじ様ファインプレー。



 こんな感じの両者の睨み合いが続いているが、有力貴族を抑えられている今、ゼルギウスができる『決め手』を考える。



「有力貴族はもう少し入れたいところだな。発言権がないし、王になった時に優遇する上位貴族がいないのはマズイ」


「使えねえ有力貴族は後の政策の邪魔になる。せめて黒くない忠誠心の高いヤツをひっぱる感じにするぞ」


 毒にも薬にもならない中立貴族あたりは特に望ましい。



「あとゼルガリオン以外のゼルギウスさん本人のパッと言える功績がほしいですね」


「兄上陣営の内面図がどうなってるのか気になるな……」


「わかった。次はそれを調べさせることにする。」


 ゼルギウスさんはヒュー! と感心する。



「随分と良い密偵を手に入れたんだな」


「まあな」


 ニヤリと自慢するかのように笑うおじ様。本当に神獣さまさまだ。



「あ! この売国奴な貴族をシグルド陣営に放り込んだ後バラして捕まえればあっちの足を引っ張れるのでは?」


 いきいき私が言うとゼルギウスさんがギルヴィードおじ様を咎めるように見る。


「オレぁなんも教えてねえぞ」


 と無罪を主張していた。



「ならコッチの膿を全部出してからだな。ウチに入ったままスキャンダルにされても困る」


 淡々と計画を立ててくわたしたちにゼルギウスは満足そうだ。



「お前らいると楽でいいな!」


「おめえも考えんだよ」


 机の下から足を蹴るギルヴィードおじ様に笑うゼルギウスさん。



 本当にこの二人は仲の良い兄弟のようで、お互い足りないところを補って良い関係を築いてきたんだな……


 そりゃあ……あんな本も作られちゃうよね……



 そこまで考えて頭の中にいつか見た薄い本を思い出しパタパタと消した。


「「?」」


 ごめんな二人とも……フ女子の夢は無限大なんだ……。






「ベルドリクスのマリアが来たって王宮で噂になってるだろうから帰りは話しかけれるヤツは絶対来るぞ。言葉には気をつけな」


 という忠告通り、部屋から出た瞬間に偶然を装い話しかけられた。


 今の今まで此処で張ってたと思うと「貴族って暇だな……」と思ったけど、商人だって売り時の商品を手に入れる為には必死だろうし、私も売り切れ確実のゲーム機ハードには並びに行った。そういうことだと思えば少しは微笑ましい……


「マリア嬢とはウチの息子が歳の頃もピッタリで……」


 なんてなるかーーーーーい!!!




 自分の人生をモノ扱いして言質とろうとしてくるヤツなんて敵じゃ敵!! 民主主義で育った民舐めんな!!


 私は困った様に笑い全部をギルヴィードおじ様に任せた。



 裏道を通るも虚しく走ってきたのか息を切らして呼び止めてくる侯爵や伯爵たち。息子を急遽連れてくる人もしばしば。


 みんな走ってきたからか赤い顔をして話しかけてくる。



 時には29歳までいたけど歳近いって、私11歳だけど、結婚適齢期ならセーフって冗談?




「わたくし、ラフィエル様を敬愛しておりまして、ラフィエル様のような方が好きなんですの」


 と夢見る乙女ぶったかぐや姫も真っ青な好みのタイプを返信しました。ラフィちゃんは私の好みを詰め込んだ存在なので嘘ではない。



「姪はラフィエル様に心酔してまして、教えた支援魔法もラフィエル様の加護だと言い張る始末なのです」


 はははとギルヴィードおじ様は今後の伏線を張ってきた。



 いまだにギルヴィードおじ様の貴族用のキラキラ笑顔に慣れない。


 普段のギルヴィードおじ様と社交用のおじ様はあまりにも違いすぎるのだ。



 まず口調が違う、笑顔が紳士、仕草が優しい。


 紳士たる者かくあるべしみたいな紳士になってしまうのだ。


 そりゃ年齢がいっててもモテるだろう。



「まあ! おじ様! そんなこと言ってはラフィエル様に失礼でしてよ! わたくしのような平凡な者が大層な魔法を覚えられたのは全てラフィエル様のおかげですわ」


「私が教えておりますのに、形無しです」


 はははと今後の回復魔法の布石に挨拶に来た全貴族、聞き耳立ててる貴族に伝わるように吹聴して行った。


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