031 万能バリアと闇商人
「でねっラフィちゃん! カーグランドの貴族ったらホント邪魔ばっかで……あっいや私が貴族向いてないんだろうけどさ、なんか腹立ってきちゃって~っ!」
私は鬱憤を晴らすようにラフィちゃんの翼に抱きつきモフモフしたがラフィちゃんの特大の六枚の翼はビクともせず、安心してもふった。
「腹立つ……とは」
さして気にした様子もなく意味を聞き返してきた。
そっか~腹立つってなんだろう……
「なんかこう~……、例えば私が誰かに酷いことされてたら」
「心配だ」
「その原因を取り除かないと笑顔にならないとしたら」
「存在を消そう」
ラフィちゃんは私以外に一片の興味がない。
私はああ〜……とそうくるか……となっていた。
「そんなものがいるのか?」
「いや違う違う! なんて言えばいいのかな〜」
だめだこれは。力関係が違いすぎてラフィちゃんと人では怒りにもならない。
「ラフィちゃんは直ぐに消すことが出来るけど、そういうのはダメだよ」
「そうなのか」
怒りっぽい創造主とかおっかなすぎる。
「そうそう。怒ってもそれを許す寛大さが必要なの」
「必要なのか」
でも貯め込み過ぎたら疲れちゃうからちゃんと発散もしないといけないんだけどね~とも続ける。
ラフィちゃんは考え込む。
なんかスケールが違いすぎて自分の怒りが小さく見えてきたな。
そういう意味ではラフィちゃんに愚痴るのはめちゃくちゃ効果的……って愚痴ってばっかはラフィちゃんの教育に良くないな。気をつけよう。
コツコツとポーションを作って下級ポーション30個、中級ポーション5個が完成した。
カムイにちょっと切って使ってもらったら無事治ったので完成と言って良いだろう。
たくさん入る魔法のバッグに入れてバレないようにしておく。
魔法のバッグは魔道具の一つで、貴族や裕福な商人くらいなら買えるくらいの比較的お手軽な魔道具だ。
いくらになるかな~とリルムとほくほくとしゃべっていた。
リルムはちょっと微妙な顔だったが……原料が原料だし当たり前か。
私が部屋全体に察知不能のバリア魔法をかければリルムはこの部屋は好きに動ける。
リルムは久しぶりに羽でフワフワと楽しそうに部屋を飛び回っていた。
最近は出来るだけリルムに会いに行くようにしていた。
ギルヴィードおじ様の執務の邪魔になるかなと思ったんだけど、おじ様はお祖父様の代わりに王宮に行くことが増えてる。
フィンスターがいるからリルムが見つかる心配は薄いし、バリアのあるベッドから出なければ猶更。
男勝りで元気な彼女がいつも天蓋付きのベッドの中にしか居ない状態を見てると籠の中の鳥みたいで胸がギューっと痛くなる。
籠は守る為にあるものなんだけどね。
リルムは同じ女という事でか、奴隷とご主人様という関係になってしまったのにとても懐いてくれている。
会うと必ず「マリア〜!」っと抱きしめたりしてくれるのだ。嬉しい。
「オレ、普通の女友達って初めて出来たから嬉しい」
普通かどうかは定かじゃないけど……人間の中に擬態して生活している時とかはサキュバスはみんなバレないように必死で、こんな和やかなムードでもなかったし、他者とあまり深く関わり合いにもならなかったようだ。
本の感想を言い合ったり「その服カワイー」とか話したり、私には女子力というものが欠けているのでご期待に添えているかは不明だが……基本的に女子同士キャッキャッするようなことを希望している気がする。
お世辞にもあまり得意とはいえないが、外を歩けるようになったら一緒に可愛いお菓子とか買い食いしたり、ウィンドウショッピングに付き合ってあげるくらいなら出来るだろう。
私としてもリルムは癒しだ。美少女が私を慕ってくれるのもそうだけど、すれてないところとか純粋で真っ直ぐなところが見ていて可愛い。
もし私がラノベ主人公だったらリルムはヒロインだったぞ! って思ったけど、私も毛色は違うがヒロイン枠だった。……もしかしてギルヴィードおじ様が一番のラノベ主人公?
そんなことを思っていると、ラノベ主人公ギルヴィードおじ様が微妙な顔をして帰ってきた。
「えっ 嫌なことですか」
私はギルヴィードおじ様の顔をみて嫌な顔をした。
「いや……嫌というか……」
おじ様は言葉を濁らせる。
リルムはなんだかんだギルヴィードおじ様が帰ってきたのが嬉しいのかおじ様に寄っていく。ラノベ主人公め……。
キャラたちを生み出した私としては仲良くなってくれて嬉しい、と、どうしても母親目線になってしまう。
シナリオという鎖から放たれて、自由に生きてる姿を見ていると、なんだか親鳥から羽ばたいたような眩しい気持ちになった。
そんな思考の海の中にダイブし始めたあたりで、ギルヴィードおじ様が一言発した。
「シグルドが国を挙げてサキュバスを探しはじめた」
「ええ!?」
「えっ や、やべーのか?」
イマイチ状況が掴めていないリルムにギルヴィードおじ様は説明する。
「いや、ヤバくはねえ。シグルドっつーのはこの国の第一王子で、ウチの政敵なんだが……なんつーか争う気も無くすな」
ギルヴィードおじ様は話の姿勢に入る為に椅子に座ろうと歩いていく。
それにパタパタとついていくリルム。
指摘したら否定しながらやめるんだろうけど、無意識におじ様にベッタリだ。
「ゼルギウス陣営のベルドリクス家が軍事で一歩前へ出たからシグルド王子も軍の功績が欲しいんだと思います」
従者をしていた影のフィンスターはリルムをお世話していた本体のフィンスターの影に入り、融合する。
こうすることによって情報が本体に入り、整理が出来るらしい。
知らないとはいえ横に居るサキュバスを!? ただでさえ少ない国税どれだけ吹っ飛ぶの!? まあサキュバス捕まえたらプラスになるからって心積もりなんだろうけど……。
「サキュバスってどの国もバレないように秘密裏に探してましたよね……」
「周りも他国出し抜くのに必死だからな」
ポーションを独り占めできる権利が得られるのだ。
ポーションはかなりの価値があるので他国に居ても誘拐出来ぬよう、秘密裏に捜索、捕獲するのが普通だろう。
「……まあシグルドの件は悪ィことだけじゃねえんだ。このシグルドの行動に焦ってウチも探すと他国が国中大捜索になっててな」
「あ……他の国の軍用金も減りますね!」
「サキュバスという金策が出来る存在が見つかれば国の産業になるし、独占すれば軍事でも回復が出来るという他国の一歩前へ出れる。おつりはたんまり帰ってくる」
ゴールドラッシュならぬサキュバスラッシュだ。
「それにしてもギャンブルな……」
手堅い小心者の私からみたら豪胆さに恐れおののく。
「な……なんかスゲーことになってんだな……」
当のサキュバスもあまりの事の大きさに恐れおののいている。
ギルヴィードおじ様はニィと笑う。
「ここで金を使うだけ使わせた後、ひっそりと闇市で売ったらどの国が捕まえたかわかんねえなあ?」
「!! すごい! おじさま悪の天才!」
「褒めてねえぞソレ」
「シグルド陣営の金や求心力も減らせそうですね。しかし良く『カーグランドにいた』って以外なんの情報もないのに決心しましたね」
よくわからない、という顔でキョトンとしているフィンスター。
「『真似っこシグルド』だからね」
と私は笑う。私たちが軍を動かしてサキュバス捜索してて、その秘密をしっちゃって自分の功績にする為、公にして探し始めたのだろう。
ゼルギウス陣営が失敗したことを成功させたらギャフンと言わせられる。
勝算ではない、対抗心だ。
「まぁ、ここが正念場だな。コイツを絶対に気付かせるな」
ギルヴィードおじ様はクイッと親指をリルムに向ける。
「はい」
フィンスターは真剣に答え、私も頷きカムイも頭を下げる。リルムは顔を強張らせている。
「こうなったらやっぱりもう一グレード高い察知バリア魔導具が欲しかったですけど……」
「マリアさんに出来るだけ一緒に居てもらって察知バリア張るのが一番見つかりませんよ」
フィンスターは事もなげにいう。そうか、フィンスターすらも看破できないのは私のバリアくらいなのか。
今も部屋にバリア張ってるけど、これで包めば良いのか。
じゃあリルムって私と一緒なら外出歩けるじゃん!
「リルムはサキュバスとして顔覚えられてるの?」
「いや……仲間にかばってもらったからな……その時の気配で探されてるだけだと思う」
痛々しい表情で言うリルムに思い出させてごめんねと謝る。
「でも私と一緒が一番安全っていうならバリア張って外出しても大丈夫ってことよね?」
リルムがちょっと嬉しそうな表情をするが、すぐ引っ込めてギルヴィードおじ様の顔色を伺う。
上下関係がしっかり構築されているようだ。
「……おめえがバリア張ってるならいいんじゃねえか。ここより安全だろ。正直サキュバスと一戦したウチが一番疑われてるだろうし、こっちも捜索してるフリはしたほうがいい」
「でも一応今街中はやめといたほうがいいとは思います、遠いとこへ転移してレベル上げとかなら大丈夫でしょう」
ただし『マリアがちょうど今新しい女の仲間を入れた』っていうのは何かに感づかれるかもしれないので変装はしたほうがいいとのこと。
二人が加入してからまだパーティは組んでなかったのだ。少しわくわくする。
まずリルムとカムイの装備を整えてないとかな。
カムイも大きくなったし、あと前の戦闘でかなりボロボロなんだよね。
胸を躍らせている私に「あ、そうだ」と思い出したようにフィンスターが言う。
「ポーションを売る闇商人を探してるんですけど、奥様が追い返している者の中に何人かその商人たちも来てるんです」
お祖母様そんなことしてたの? 本当にお祖母様にはお世話になりっぱなしだわ……なにか贈り物しよう。
「今ベルドリクス家は景気がいいと思われている。金に敏感なヤツらなら来るだろう」
本当は私が散財して結構無いけどね。
「その中で一人『商売ではなくマリア様に一目お会いしたい』と何度も来訪している闇商人がいるんです」
「私に? なにそれこわい。私闇商人に知り合いなんていないよ?」
「そうなんですけど、すごい会いたいみたいですよ」
フィンスターが気になるというのはなにか違和感があったんだろう。
「どんな人なの? 名前は?」
「今はモノリス国に拠点を移している、ゲルベルグという商人です」
ゲルベルグ……ゲルベルグって!
私は目を見開いた。
戦争の中で武器を売り、戦争需要で大儲けする『死の商人』
『聖女勇者』屈指の悪役キャラじゃん!!
見た目は成金っぽい恰幅の良い、悪そうなオヤジ……
自分が大儲けする為に武器を売るのは職業批判にも繋がるから言及はしないけど……「儲かるから戦争が永遠に続けば良い」とか人が死ぬのをなんとも思わないところが私は嫌いだったし、そう思われるように作られたヘイトキャラクターだ。
ヒロインたちの敵で様々なところで現れては裏で邪魔をしている悪役キャラ。
絶対関わって良いことないじゃん!
「でも……私に一体何を話すの?」
嫌そうに言う私にケロッと言うフィンスター
「あるとすればゲルベルグはマリアさんが良く手紙を出している魔導具師、シャルル=カルーセルを懐柔したいらしく、それ絡みかと」
「うわ……」
まさかのバッドイベント踏んじゃったの?
「一度会っておいた方が良いかもしれませんね」
私はあからさまに嫌な顔をした。
「フィンスター、姫が嫌がっているのにそのようにすすめては……」
同僚だからか珍しく割って入り、苦言をこぼすカムイ。
「ゲルベルグはマリアさんに会う為にコネを使ってでも無理矢理にでも会おうとしていますから、素直にこちらのホームグラウンドで会っておいた方が危険が少ないと考慮してのお薦めです」
「………………」
正直会ってもなんの得にもならない悪役キャラクター、むしろ会ったら目を付けられたりマイナスなことが起きる可能性はある。
けれど、今は物語が始まる数年前の話になるわけで、私は今のゲルベルグを知らない。
「ねえフィンスター、そのゲルベルグってどんな人?」
「家は古くから続くかなりの豪商です。表の商売もしつつ、闇の仕事もかなりやってますね。大きい商会で幅広いのでポーションが流れたルートはバレにくいでしょうし、昔からのコネもあるし強い家なので候補の一つに入れていました」
私は考える。目を付けられた以上何かされたら危ないし、シャルルから手を引くと素直に言えば収まるかもしれない。
「……会ってみましょう。ただし勿論会うだけよ。どんな人だか確かめるだけ。かなり危ない人だろうから、みんな警戒は怠らないで。リルムの部屋には近づかせないけど、十分に気を付けて」
「はっ」
「わかりました」
闇商人交渉はギルヴィードおじ様に押し付けるつもりだったのに!
思わぬ仕事が回ってきてしまっていち小市民としては今からドッキドキだ……。




