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003 序盤のお助け攻略キャラ

 

 あの後私に注意がいった狼たちはあれよあれよと魔法使いのお兄さんに討伐された。


 元々すばしっこいのと群れ行動が難しい敵だったみたい。


 狼の死骸をみるのもつらい……血が……うわっ 目が合った! 夢に出る!!



「やった……な……っ!」


「ゼル!!」


 ワイルドな前衛お兄さんは傷口を抑え座り込む。



「……っ!」


 お兄さんの服がみるみるうちに赤く染まっていき、ゲームではない生々しさを増した。


「ゼル! しっかりしろ!」


「……」


 肩で息をして顔も白い、私はさっきの魔物とは違う恐怖に襲われた。




 人が、死ぬ。



「……っ!」


 ゲーム気分でいた私はあまりの衝撃に頭を打たれたように眩暈がし、心臓の鼓動が早まり息を吸えないような、呼吸が出来ない。胸が苦しい。


「ゼル!!」


 友人なのだろう、魔導士のお兄さんの真剣な声が響く。


その声だけで危機的状況なのは理解出来た。



(ひ、ヒロインには回復魔法能力がある……!!)



 ……なのだが、この世界には回復魔法が使える人は居ないと言っていいほどのレア能力。


 外の世界でも科学で医療をする世界で魔法でなんでも治せちゃう聖女なんて現れたら大騒ぎだろう。そのくらいの異例な存在だ。


 しかもヒロインの希少性を高める為、ポーションは超のつく貴重品とされ、あるのはあんまり効かない薬草だけ。



 そんな世界で人に回復魔法を使ってバラすという危険性は重々承知している。



(でも、私を助けようと命を張った人を救える力があるのに救わないのはありえないよ……)



 すぐに私はお兄さんの傷が治る様に祈った。


 お兄さんの身体が光る、魔導士のお兄さんは何をする気だと私を険しい顔で見たが、見るだけで止めはしなかった。


「これは……」


 見る見るうちにお兄さんの傷は塞がり、顔色も良くなる。


 喋れるくらいに回復し、元通りだ。



「…………!?」


 その光景を見ていた魔導士のお兄さんは驚いた様子だった。


 無知な子供ならともかく魔導に精通していそうなお兄さんだ。


 私の回復能力がどれだけ希少な存在かは知っているだろう。



 妙な間が生まれる。当たり前だ。


 私も顔が強張る。目も逸らしてしまった。



「…………」


 ああもう! 最初から何から何までメチャクチャだよ!


 『聖女勇者』の世界に来たはずなのに何もかも未知のシナリオだった。



 傷が治ったお兄さんは手をグーパーして驚きながらこっちを見る。


 思わず私はビクリと怯えた。


「……わざわざ使ってくれたんだな。ありがとな!」


「……い、いえ」


 多分、このお兄さんも私の能力が他にはない有用な存在だと身をもって理解しているだろう。


 それなのにケガが治ったお兄さんは人懐っこい笑顔で感謝をくれた。



 ……なんていうか……凄い人だな……レア能力なんか見たら見る目変わっちゃうだろうに、普通に接してくれる。


 大怪我も一瞬で治せる魔法を持った人なんて私でも普通に出来るかわからない。



「俺は恩を仇で返すつもりはない。安心してくれ」


「…………」


 私こそ助けられた恩があるのだが、秘密を守ってくれるというのなら返事はしない方が良いだろう。



 誠実そうな真っ直ぐな瞳に見つめられては信じたくなるのが人心というものだ。


 まあ騙されてもバリアあるしね……! なんとか逃げ切れる……という打算もしつつ、このお兄さんを信じてみたいと思った。



 ずっと座っている私に手を差し伸べてくれ、手を取るが……立てなかった。


「あの……こ、腰が抜けて……」


 リアルに腰が抜けるなんてあるんだ……震えで足に力が入らなかった。



「あっはっはっ! お嬢ちゃんには怖かったか。よく頑張ったな」


 そういって私を持ち上げガタイの良いお兄さんは肩に座らせてくれた。



 バリアは〈害意あるものを弾く〉はずだから、さっきの発言はきっと本心からのセリフなんだろう。なんだか嬉しい。



 神経質そうな後衛のお兄さんはやっぱり怖い顔をしながらこっちを見ていた。


 ビクビクしていたら意外にも優しい言葉をかけて頭を下げてきた。


「……ゼルを助けてくれて感謝する」


 友人を助けてくれた――というより少しだけ主従みたいなかっちりとした感謝の礼だった。


 意外と礼儀正しい人……なのかな?



「こ、こちらこそ助けて下さりありがとうございました! 私攻撃は一切出来なくて……」


「攻撃できないのか! そりゃ通りかかって良かった」


 元気に笑う怪我をしたお兄さん――ゼルさんは私を思いやってか安堵した顔をしている。本当に人が良さそうな人だな。



 魔導士のお兄さんは先程のしおらしい態度は引っ込み、淡々と周辺の地図を確認しながら街への道を先導していた。


「ところでオレたちは討伐の証をもって周囲の村を回るが、オメエはどうする」



 不思議そうな顔をした私にゼルさんは説明をしてくれた。


「さっきの魔物はこの周辺一帯で悪さをしてた群れだから、報告して安心させてあげないとな」


「成る程……」


 だから二人がすぐ駆け付けてくれたのか。私は運が良かったのか悪かったのか……。



「見たところ食料も持ってねえ様だし、メシくらいは食わせてやる」


 装備品も武器も鞄も何もない状態の丸腰な私を見て察してくれたのだろう。


「えっ あっ 是非! ありがとうございます!」


 た、助かった~~~~!!



 私が有難そうに喜ぶと、ゼルさんは自分のことのように自慢した。


「顔は怖いけどヴィードはこういう細かいところ気が付くんだよ。ヴィードに任せとけばなんとかしてくれるから、お嬢ちゃんも頼りにするといいぞ」


 ニコッと人好きのする顔をするゼルさんの後ろで後衛お兄さん――ヴィードさんは溜息を吐いてる。



 ……うう〜ん……これは、人を上手く使って丸投げする、上に立つ人って感じだな……。


 器の違いを感じながらも森を抜けるため歩きながら自己紹介がてらに雑談をする。


 私は二人を良く観察しながら聞いていた、見知っているが見知らぬ世界でどれだけ信用していいのかと必死だ。


 どこまで話していいのか、まだよくわかっていない。



「あの……色々ありがとうございます。私はマリアといいます」


「ただのマリアか? 家名は?」


 この世界では貴族にだけ家名が許されている。異世界から飛ばされてきた私にはもちろんそんなものはない。



「あ、ありません……平民なので」


「真っ白の服って事は修道着か。見習いかなんかなの?」


 この国にも宗教は存在している。



 土地を豊かにしたり魔法の力を授けて下さる精霊様や土地神様など色々いるが、全ては創造主ラフィエルに帰結している為、一括りでラフィエル様がお造りになられた全てに感謝を捧げる宗教だ。


 確かに創造主ラフィエルは存在してる為、殆ど全員が同じ宗教に属しているが、解釈戦争などはある。



『聖女勇者』の宗教国はお決まり通りに一部上層部が真っ黒なシナリオもあるので、下手に組織に入っているとは言いづらい。



「えっ えっと、教会の者ではないのですが、着るものが無くて、頂いて……」


 苦しい言い訳だが嘘はついてない。


「そうか……」


 ゼルさんは少し話ずらそうにしながらもしっかりと私の目を見て口を開く。


 目には純粋な善意だった。



「年齢から見ても喋り方とか、教養が平民のソレと違うけど、もし厄介ごとに巻き込まれてるなら力になるぞ?」



 ああ〜〜!! そこでバレるのね!!



 着るものを恵んでもらうほど追い詰められた丸腰で身分のないレア能力者。


 ――……確かに追手に追われてるようにみえるかもしれない。



「あ、ああ〜……えっとぉ……」


「やめとけゼル」


 ふむ……と値踏みする様な目で私を見てくるヴィードさん。



「まだ腹ァ割って話してねえからな、まだ信頼できねえのは当たり前だ。それでいい」


 そう言った上で森の中で衝撃の自己紹介をされる。



「オレの名はギルヴィード=ベルドリクス。ここの小国の伯爵の嫡子だ。困ったことがあるなら頼れ」



 ゼルさんは驚いた表情でギルヴィードさんに詰め寄った。


「ヴィード!! お忍びっつったのはお前だろ!? 言っちゃうのかよ!!」


「機を見るに敏。臨機応変だ」


 言い争う二人をよそに、かく言う私はひたすらに目を丸く見開いてた。



 ヒロインが小さければ、そりゃあゲーム開始より前、年表からみて昔の可能性だってある。



「ギルヴィード=ベルドリクス……」


 冷たい、強面な顔の涼しげな青年……



 若っ!!!!!!



 ギルヴィード=ベルドリクスは『聖女勇者』の攻略キャラクターで、魔導を極めた冷徹な伯爵で、国を影で取り仕切っているインテリヤクザな宰相……


 知力も魔力もバツグンに高くRPGパーティに入れるも良し、戦争フェイズでも猛威をふるう、仲間にしておきたいキャラナンバーワンの『おじさまキャラ』だ。


 そう、おじさまなのだ。


 えっ 今何歳? ここからかなり老けた様に見えるけど、苦労したんだね……。








 女の子向けゲームって難しくしすぎるとユーザーつかないから、難易度調整には色々悩んだのよ。


 その結果、直ぐ攻め落とせる小国に超絶強キャラを置いて、どの国からプレイしてもゴリ押しクリア出来るっていう……いわゆる『お助け攻略キャラ』を作った。


 それがこのギルヴィード=ベルドリクスおじ様だ。


 もちろん他の攻略キャラもモブと比べたら鬼強にはしてあるんだけど、その攻略キャラを攻め落とさないとだから簡単に手に入る強キャラが必要だったんだよね。



 そのせいで「おじさま無双」とか「おじさま勇者」とか言われていた。


 強キャラは人気集まっちゃうけど、おじさま枠は人気がちょっとマニアックだから一強にはならないかなと思っての人選だったんだけど……


 今のギルヴィードおじ様みたら人気爆アゲなんじゃない……? 良い感じに瑞々しくなったイケメンじゃん……。




「ごめんな、びっくりしたろ?」


 心配そうに話しかけてくれるゼルさん――


 ――……ちょっとまって。



 彼がギルヴィードおじ様だとしたら、彼は……


 ジッと彼を見つめていると悪戯っ子が悪戯がバレたかのように


「もしかしてバレた?」


 と聞いてくる。



 もちろんだ。ギルヴィードのストーリーには切っても切れない大親友、ゼルギウス=カーグランド。



 カーグランド国の王子、王族だ。



「なんで……っ王子殿下が、こんなとこに……」


「この辺を荒らす魔物がいるっていうからヴィードと倒しにさ」


 正体がバレた正義のヒーローみたいな、バツの悪い笑顔を作ったゼルギウス。



 この人が……死ぬんだ。






 ゼルさんたちは森から出て集落をまわって、人の味を覚えたグレートウルフを倒したからもう安心だと触れてまわる。


「3匹もですかい!! 流石ゼル坊ちゃんだなあ〜〜」


「ゼル様凄い〜〜!」


「ちょっと! 俺は坊ちゃんでも様もないちょっと倒しにいった若者だから!!」



 わいやい言っている周辺から少し離れたところからヴィードさんと二人で見ていた。


「バレバレですね」


「当たり前だな」


 男の子はやはり謎の正義のヒーローに憧れるのだろうか。







 ――少しゲームの話をしよう。


 ゼルギウス=カーグランドはこの国の中では一番小さいカーグランド国の王族。


 同じ年に生まれたギルヴィードとゼルギウスは兄弟のように育ち、お互いを補い合う良い主従となった。


 ゼルギウスは明るく快活で、カーグランドを愛していた。


 しかしカーグランドにも内部で諍いはあり、王位継承の争いで信じていた兄にゼルギウスは毒を盛られ、倒れる。


 ゼルギウスが弱っていく中、ギルヴィードに「カーグランドを頼む」と言い残し、息を引き取る。



 ギルヴィードは友を殺したカーグランドを憎みながら、友の為にカーグランドを守るのだ。



 なので敵対して戦うときギルヴィードおじさまの能力はかなり減少している。


 ゼルギウス(親友)殺した人間に仕えるなんてやる気ないのは当たり前か。


 カーグランドへの呪縛を解き放ったヒロインの聖女の力に興味を持ち仲間になるが、高位の魔術師故か聖女の力が気になり解明したがる。


 歪んだ性格なのか元々の性癖なのか調べ方がとんでもなく鬼畜でエロくて……っていうアダルトなルートに入ってくんだけど、凍った心を溶かしていく描写が繊細で……シナリオさんいい仕事してた……涙無しでは語れない枯れや渋さが出た良シナリオでした……。


 って作品レビューは良いとして、


 あっ ほら感慨に耽ってたら二人ともちょっと困った顔してる!


「マリア、大丈夫か?」


「はい! 大丈夫です!」



 ギルヴィードさんは胸ポケットにしまっていた懐中時計で時間を計り、ゼルギウスさんに呼び掛けた。


「そろそろ城に帰らねえとバレんぞ」


「そうだな! そろそろ帰るか!」


 村の人達との交流を楽しむゼルギウスさんにしっかりと舵取りをして主を導くギルヴィードおじ様(……おじ様って歳じゃないか)


 その二人の笑顔にも結末を知ってると胸が痛くなる。


 落ち着いて自分に回復魔法を使えばいいと気付き、腰から下にちゃんと力が入るようになって自らの足で歩けるようになった私は歩幅的にどうしても二人の後ろになってしまい、その二人の後ろ姿を見ながら未来を憂いた。





「ほら、城が見えてきた」


「わあ……!」


 小高い丘から街を一望する。



 初めて見る街だが、やはりよく見知った雰囲気があった。


 カーグランドは中世ヨーロッパ風のとても綺麗な街並みの設定だった。



 感動ではしゃいでいると抑揚のない冷めた口調でギルヴィードさんは質問してきた。


「それで、おめえはどうするんだ」


「どうする……とは?」


「見たところ何の後ろ盾もねえんだろう。幼児が一人で歩いているなんて比較的安全なカーグランドでも褒められた行為じゃねえぞ」


「ひえ……」


 そうだ。今の私にはお金もなければ仕事も住むところもない。


 原作は聖女召喚して大歓迎だったから何ももってなくても許されたのだ。



 ギルヴィードさんは困っている私へ目線を合わせるようにしゃがんだ。


「一つ提案がある」


「てい……あん?」


「ああ」


 私に向ける瞳は幼児に向けるソレではなく、取引のような殺伐とした雰囲気があった。



「ウチに籍を置かねえか」

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