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029 秘密の多い家

 

 リルムは話し合いの結果、まだ隠し続けることになった。


 いきなりそれっぽい女の子がベルドリクス家に入ってきたらバレるだろう。



「リルムにはまだ不便をかけてしまうけど……」


「いや、隠れて暮らすのは慣れてる、ます」


 話合いでリルムは随分と恭順的になった。



「口調まで違うんだけど、ギルヴィードおじ様何したんですか」


「生意気だったんで高い鼻をへし折っただけだ」


 軍人貴族なだけあって、調教はお手の物。


(そういえば『聖女勇者』では鬼畜キャラだったな……)



 なんにせよ丸く収まってこちらとしては有り難い話なのだが……つい遠い目になってしまう。


 強制にはなってしまったが一応合意の元素材と引き換えに匿う――安全を保障する約束をすることが出来、一方的な搾取じゃない状態は彼女にとっても破格の取引だったのだろう。



 ギルヴィードおじ様は索敵魔法を遮断する魔法陣をベッドの下に敷き、ベッド周りの範囲だけだが関知しずらくすることができた。


「俺は魔導具は専門じゃねえが……作る奴がいねえからな」


 本当はマリアが魔法陣を使えればいいんだが、とチクリと言われる。



「うう……魔導研究者でもないとそんな複雑なの出来ませんよ……」


 魔法陣は簡単にいうとプログラムや数式みたいなもので、そんな複雑なこの世界特有のものを勉強するなど私には土台無理なものだった。


「しかし姫が居るときは更にバリアを張りリルム殿の行動範囲も拡げられることが出来ますから」


「カムイ……フォローありがとう……」


 あいも変わらずとにかくバリアを張ってなんとかするゴリラ聖女な私だった。



「マリアがバリアを張った時以外はこのベッド下の魔法陣から出るなよ」


「わ、わかった……」


「あァ?」


「わ、わかり、ました……」


 いつの間にかギルヴィードおじ様とリルムの上下関係が確立していた。



 サキュバスのリルムはスピンオフ作品にて『ずっと処女だった反動で快楽に弱くなってしまい、サキュバスなのに退化し主導権が握れなくなっている』というご都合設定がある。


 それに『聖女勇者』の鬼畜軍人キャラをかけ合わせることにより、私とリルムより断然主従関係のようになっていた。


 フィンスターはにこにことそれを見ていたので、計画通りということなのだろう。


 すまん! リルムちゃん!!





『食事』の都合と、リルムは近くにいるだけでMPが自動回復するスキル持ちという都合で、ギルヴィードおじ様に預かってもらうことにした。


 MP切れに悩まされているおじ様にぴったりである。


 あとリルムは没キャラとはいえ仲間キャラだったので戦闘面でも期待できるね。


 仲間が増えるよ! やったね。



「隷属は、もう必要ないよね。外そうか?」


「いや、隷属したままだと重ねて隷属をされねえからそのまま置いとけ」


 リルムに聞いたんだけど……ギルヴィードおじ様が返事をした。



 印は見えないように消しているので、リルムが奴隷になっていることはパッと見わからない。


 私が命令したりしなければリルムは自由に出来る。


「確かに、リルムを隷属させたいなら私を殺さないとリルムは手に入らなくなるし、私が所有者のままのほうが安全か」


 チートなバリアがあるので私はそうそう死なないから、適任っちゃ適任だ。


 ……でもそんなの無しで隷属させてるようなギルヴィードおじ様がいるとまったく説得力がないんだけど。



「マリア……っ」


 奴隷が継続するという状態に喜び感動するリルムの境遇を憂いた。


 平和の道は遠い。



「でもあんまり主人とか考えないで、なにかあったら私に言ってね」


 女の子にしかわからないこともあると思うから、と心配したらリルムは涙ぐんで


「マリア、好き!」


 と抱きしめてくれた。


 リルムは18歳くらいの外見だが私は10歳、ちょうど胸に顔が埋まる。胸の弾力がすごい。





 そしてフィンスターも『表面的には』ギルヴィードおじ様の従者としてつくことになった。


 追われているのは神獣の姿なので、普通に使用人として周りに紹介され、ニコニコと従者に勤しんでいる。


 フィンスターの情報収集能力を一番活かせるのはおじ様だろうし、いい采配だったと思う。


 カムイは感動茶番しか知らないので(見た目の)歳も近いし、従者同士仲良く協力し合っているようで、時々フィンスターの話をしてくるが、恐ろしくなるくらい上手く溶け込んでいる。



 原作ゲーム『聖女勇者』での攻略キャラの時のフィンスターはヒロインの心をひたすら欲していた。


 ヒロインが好きだから「好きなことを現すには人間は交わるんだよね」という、神獣ゆえ人間の求愛の仕方を知らずいきなり襲い始めるという流れのアダルトなルートだったが、「そういう行為をやるくらいなら死ぬ」というリルムの発言を聞いてシフトチェンジしたんだろう。


 今は思惑通りリルムの心の支えとして弟のような、一族が絶滅したリルムの家族のように一緒に居た。



 なんにせよ、私の夢のスキルトライアングルが完成したわけだ。









 上手いところに収まった、というところだが、これからが問題だ。


 この二人をどう隠し、活かすか。


 リルムはこの前まで見ていた通り大陸中から狙われるし、フィンスターもクレルモンフェランに生きているのが見つかったら大怪我させておきながら「ウチのモンだ。返せ」って言ってきそう。



 宗教大国のクレルモンフェランは悪い国ではないんだけど、この大陸で一番大きい宗教を取り仕切ってる国だから、ちょっと制御が出来てないんだよね。


 クレルモンフェランを選んでゲームを始めると内戦のドロドロが結構大変で、それを公明正大な攻略キャラクターたちと頑張って正していくストーリーになる。







 それはそれとして、対策なんだけど


「全くのノープランです!!!!!!」



 私を膝に乗せて抱きしめているリルムは困ったように、フィンスターはいつもの笑顔を張り付けている。


 リルムはどうもサキュバスとしての性質上ベタベタと触れ合うのが好きらしく、だが男性が苦手なので矛先は全て私だった。


「マリアぁ……大丈夫なのか、それ」


 捕らぬ狸の皮算用も良くないけど、しないのも考えものだね。




「僕の方は」


 フィンスターはぐにゃりと伝説の神獣、黒狼の姿に変わり


『神獣に攻撃した愚かな国には帰らん』


 いきなりフィンスターの声が低い威厳のある声になった。


 ビリビリと威圧を感じる。



「って言えば大丈夫だと思います」


 元に戻りいつも通りにっこりと笑うフィンスターにちょっと乾いた笑いを送る。



 神獣こえええええ!!




 そう思っていたのは私だけのようで、リルムは「さっきのカッコイイ!!」とウキウキしていた。


 リルムに褒められたフィンスターは「えっ!? そうかなぁ~っリルムちゃんがそういうならずっとあれでいようかなぁ~!」とかデレデレしている。やめてください。


 リルムと出会った時はさっきの黒狼の姿だったようだが、子犬のように弱り切っていたのであんまり威厳はなかったらしい。


 威厳があるのが好きなんだ……と心にメモを取るように呟くフィンスターは、一見すれば純情な少年なんだけどな……。




 人数が増えてワイワイした会議にため息をついてギルヴィードおじ様が発言する。


「とりあえずは秘密裏に裏ルートでポーションを売りさばくルート開拓だな。あとポーション作りが出来る口の堅いヤツが必要だ」


 スピンオフ作品の設定でポーション作りはMPが必要にはなるが、かなり簡単で魔術士や薬師、魔導具師など色んな職業の者が作れるというのがあった。


 今のところ私もギルヴィードおじ様もフィンスターも作れるので困ってはいないが、雑事は他に任せたいところだ。



「裏商人なら僕が選別してきましょうか? その中で気に入ったのを選んでもらえたら裏切らないように見張ります」


 なんかサラッとすごいこと言ってきたこの神獣。


「ほー、そりゃいいな。リストアップしてくれるか。どんな奴がやってんのか見てえ」


「はい」


 知識欲が満たせると聞いておじさま大満足だ。



「うーん……ポーション作りなら適当な調合のバイトとか言って、雇った人をリルムの魅了でどうにか出来たり出来ないかな?」


「あー……オレ、魅了、苦手なんだよ……」


 サキュバスに全く見えない攻撃戦闘バリバリキャラなので魅了は出来るがなんというか、雑らしい。



「グリッセンでも解けないように強くしたら違和感出たりして、他国の追っ手から怪しまれないように僕が周りを見ていました」


 確かにヤード先生からは不自然な程リルムを持ち上げていたと聞いた。


 ヤード先生にはバレても障りなかったのでそのままにしておいたらしい。



 魔法に詳しいギルヴィードおじ様が


「あの完全装備の露出の少ない恰好じゃ魅了なんか効かねえに決まってんだろ」


 アレで出来てたのがおかしいくらいだとツッコミを受け


 二人が「そういうものなのか……」と驚いていた。


 神格が高い故に変なところ清らかな神獣と男嫌いサキュバスだからこその盲点だったわけか……。




 ちなみに、召喚士グレンがグリムロールを襲ってきたのは、リルムがグリムロールにいると見せかけた偽装にかかり、勘違いしたかららしい。


「……ってことはここ(グリムロール)にいるのヤバいじゃん!!」


「そうですね」


 ただ今グリムロール中に密偵がうじゃうじゃいるとのことだ。




「リルムちゃんがここにいるのは使用人すら知らないですし、ここに忍び込んできてる者は撃退しています」


 忍び込んできてるんだ!?!?!?


 攻略キャラの中では弱いとは言っても他と比べたらフィンスターは強い。


 驚きで声にならないが、本当にフィンスターを仲間にしてよかった……。暗殺者とか怖すぎるよ。



「ベルドリクス領をこのままにしとくのはあぶねえが、ここにいるのもマズいな」


「お祖父様が帰ってきたらお祖父様に任せて、私たちは帰りましょうか」


「それがいいかもな」


 ごめんお祖父様。








 お祖父様が帰ってきたら兵を総動員させている騒ぎにどういうことだと説明を求められる。


 当たり前だよね。


 防音を張った部屋に私とお祖父様とギルヴィードおじ様。



「他国の密偵がウチにまで忍んできたからシメたらウチに『サキュバス』がいるんだと」


「!! 成る程。だからか……」


 全てわかったかのように一言呟くお祖父様。親子そろって頭の回転が速いよ……。




「とりあえずベルドリクス領が攻撃された動機がわかってホッとしましたね」


「そうだな……」


 まだ思考の海の中にいるお祖父様にそれとなく聞いてみる。



「……もし『サキュバス』を手に入れたらお祖父様はどうするんですか?」


 お祖父様は渋い顔を更に渋くさせて


「陛下に相談するしかあるまい」


 と答えた。そうなるよね……。




 お祖父様は幼い頃より軍人伯爵の跡取りとして陛下……というか国に絶対の忠誠を誓っていた。


 軍人として裏切り行為は厳罰と教えられてきた為、どうしても国を優先してしまう。(国にとってはなによりの味方なんだけどね)



 陛下は聞く感じちょっと危ういというか……あのお祖父様でさえ唸るほどという事はあまり期待出来ない感じなのだろう。


 元気になっても可愛い我が子たちの兄弟同士の跡継ぎ争いを放置しているあたり、サキュバスや聖女、神獣に対しての扱いもあまり良い予感がしない。


 なのでお祖父様にはリルムの存在は黙っていることに決まったのだ。


 愛国心の強いお祖父様を板挟みにさせて苦しめたくはないからね。






 お祖父様は暫くベルドリクス領に残るということで、元から短期滞在と言っていた私とギルヴィードおじ様はカーグランド首都に帰ることとなった。


 強い味方であるお祖父様だが、リルムの件に関しては立場上味方にはなってもらえないので今近くに居なくなるのは助かる。



 陛下にバレたら十中八九、他国同様サキュバスは『家畜』として手酷く扱われるだろう。


 なんとしても隠さなければ……。



「帰る際はまた転移で時間を短縮するけど、リルムはバリアの魔法陣ごと転移で屋敷に送ろうと思ってる」


 フィンスターはもうあっちでも使用人として紹介しているので普通に連れて行く算段でいる。


「しかしリルム殿一人残すのは心配ですね」


「なら……」


 フィンスターの影からもう一人のフィンスターが出てくる。


「MPを使いますが僕は分身できるので、分身を馬車に置いておきます」


 本体がリルムと行くのね。




 またもや御者はカムイでちょっと進んで転移をして足早に帰る。


「うん。誰も居ませんよ」


 フィンスターの索敵はホント助かるな。安全に転移できる。



 分身っていうから人形みたいなものかと思ったけど本物と全く変わらないし、同じく変形も出来るそうだ。


 ただ分身がスキルを使えば本体のMPが減っていくので多用は出来な……かったのだが


「僕にはリルムちゃんがいるので隠密はかなりやりやすくなりました」


 こんなところに更なるトライアングル効果が隠れていた。







 住み慣れたベルドリクス邸が見えてくる。


 使用人達はいつもと変わらぬ綺麗な整列で出迎える。


「父上が領が安定するまであちらに行くことになった。其れまでオレが代行する。母上はご健勝か?」


 執事にしては目の鋭い、軍服のように執事服を着こなした壮年の男性が執事長さんがしっかりと答える。


「シルメリア様は社交界にて質問責めらしく、ギルヴィード様とマリア様のお話も聞きたいとおいででした」


 私も???






「まあまあ二人とも! 待っていたのよ!」


 いつも笑顔なマダム、シルメリアお祖母様が少し疲れているのか荒だっていた。


「三人がベルドリクス領に行ったと思えば、いきなり魔物の大群に町が襲われたと聞いて……それだけでも生きた心地がしなかったのに、三人とも戦へ立ち活躍したという話ではないですか」


 シルメリアお祖母様の御心配ももっともだ。



「活躍の報が流れてわたくしは何も知らないのに、社交界ではわたくしに皆様寄ってたかって聞きにきましたのよ!」


「そ、それは……ご迷惑おかけいたしました……」



「ギルヴィードが魔術が得意でマリアに教えているのは知っておりましたが、まさか支援魔法が使えるなんて……」


 すみません……というかシルメリアお祖母様には本当に何も教えてなかったんだな。


 私が聖女とわかった時の連座の減刑の為だろうか。お祖父様の愛情はわかりづらい。



「とりあえず、そのままギルヴィードがマリアに教えていた話はしてしまったけれど、良かったかしら」


「ああ、助かる」


 にこりと笑うシルメリアお祖母様とニヤリと笑うギルヴィードおじ様。


 やはり似たもの親子だ。



「ウチの家系は『有能な魔導士が居て、もう一人育てている』という方向で広めてくれるとありがたい」


「うふふふ、息子や孫自慢が出来るのは有難いわ。そうしますね」


 シルメリアお祖母様に笑顔が戻った。




 少し話をして落ち着き、別れてリルムたちの様子を見に行ったりなんだりしていたらすぐに夕食になった。


 夕食では孫を愛する祖母の顔でシルメリアお祖母様は私を褒めてくれた。


「旦那様やギルヴィードに隠れているけど、マリアも護衛のカムイのことや、子供にして怪我人に支援魔法をかけたことも褒められていたわよ」


 ギルヴィードおじ様は支援魔法に目がいって居る貴族が居ると聞き目を鋭くさせる。


「母上、マリアに言及した者を覚えてたら教えてくれ。フィンスター、メモを」


「はい」


 後ろで給仕として控えていたフィンスターがお祖母様が言った人物をメモをしていく。


「タイミングがあるならオレも支援魔法が使えると話題を逸らしてくれるか? マリアだけが支援魔法の使い手と思われると変な縁談が来そうだ」


 シルメリアお祖母様は事態を把握したようで「マリアの話は別の話題で盛り上げることにしますわね」と微笑んだ。


 この家族は幾つかの説明を省いても伝わるから会話スピードが速すぎる。




 最近和食専門の料理人を雇って和食を食べ始めたら、お祖母様もなかなかにハマったらしく、珍しいしそれを振舞ってもてなしたりもしているそうだ。


 ヤマシロ領の米には罪はないので有難く使わせてもらっている。



 カムイが身体強化を取得した頃に即ヤマシロ領の現状を調べたが、やはり担保の現金は半分ほどはなくなっていた。


 一度目の約束の取引が終わり、連絡をつけたら担保を返すのを渋られた。


 半分なくなっているので返せないのだろうが「良い取引なのでまだ継続したい」と言われているのをそのまま継続して大量の米をもらっている。


 カムイの身体強化がバレてもお金は用意できなそうだしなんとか安心だ。


 担保の金が底を尽きて絶対取り返せない辺りで破棄され踏み倒されればカムイはもらったも同然……それまでは良い関係を築かせておく。




 他国に国内……そして秘密。みないといけないところは沢山あるが、強力な二人の仲間も加わったし、なんとか平和に生きていけたらいいな。

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