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028 茶番取引と政治的姿勢

 

 私はサキュバスの美少女奴隷を手に入れた!


 テッテレー!


 ……あれ? これなんの世界だっけ?


 ジャンルが迷子になりながらも粉々になった領主の館でみんなを回復しながら動けるようになるまで待つ。


 私以外満身創痍だ。流石のギルヴィードおじ様も疲れてる。



「な……っ なんで、オレ、生きてんだよ……!!?」


「リルムちゃん!」


 目覚めたリルムはフィンスターに抱きつかれたのを受け止めながらも驚きをあらわにしていた。


 カムイも復帰して私の横に控えている。鎧はズタボロだが、本人自体は回復魔法で怪我一つない。




「私が守って怪我も治しました。リルム、これからは自害は禁止です。絶対やめてね」


「はっ!? んっ は、はい…… !?」


 自分の身体の異常に気が付いたのか、ガバッと胸のあたりを見ると印が記されていた。


「あっ その印見えなくできるらしいからあとでちゃんと見えなくしておくからね」


 隷属の印が見えてるのはなんか可哀想だし、消せるなら消してあげたい。




「~~~~~~~~~~~っ!!!!!」


 叫びが声になっていない。


「ふざっ こ、 これ!」


 リルムはパクパクしながら私に向かって声にならない声を上げる。


 なるほど、ご主人様にあんまり舐めた口きけないようになってるのかな。



 ふんふんと観察しながら


「とりあえずお話出来ないから登録させてもらいました。本当は私がする予定じゃなかったんだけど……とにかく、ここはもう目立つから、屋敷に戻りましょう。村人の魅了も解いて」


「……っ はい……っ」


 くっ と悔しそうなリルム。そういうのが男の嗜虐心をくすぐるんやで……



「ここにいたら騒ぎを聞きつけて他国の者が来るかも。早くとんずらしましょ」


 メンバー全員私の能力は知ってるので(リルム以外)さっさとズラかる為に転移でベルドリクス屋敷近くまで戻ろうとするが「待ってください」と、フィンスターに止められる。



「リルムちゃんは誰にも見せないようにしてもらってもいいですか。人の口は止められません」


 流石に大陸中から狙われるサキュバスを守ってきた神獣。警戒心も半端なかった。


「そ、そっか。わかった」


 先にリルムとフィンスターだけ屋敷内に送り、待機してもらうことになった。



 転移でリルムとフィンスターを連れてベルドリクス領の屋敷の私の部屋に戻る。


 転移魔法は便利なように見えて結構限定的な場所にしか転移ができない。


 街の近く、ダンジョンの近くなど、ゲームの設定ではセーブポイントがあった場所だ。


 行った場所にならなんとか転移も出来るのだが、軸がぶれやすく、安定しない。



 だが魔法研究の一環としてギルヴィードおじ様が私の魔力の波長に合わせた転移用の魔法陣を作成してくれた。


 それにより軸がぶれずにどんな場所からでも屋敷内に楽々帰宅が可能になったのだ。


 持つべきものは優秀な魔導士の伯父である。



 ベルドリクス領の屋敷の私の部屋や入用な場所には転移用の魔法陣をおじ様に設置してもらって、転移ポイントとして機能するようになっていた。


「な、なんだここ!? なんで転移……」


「ちょっと黙っていてね」


「!!? !!!???」


 リルムは転移は初めてなので混乱していた。


 大声出してバレたらヤバイから余計なことは喋らないようにしてね。


「リルムちゃん落ち着いて」「大丈夫だから」となだめているフィンスターに任せておこう。



 ギルヴィードおじ様がさっきまで話していた場所に簡易の転移魔法陣を作ってくれたので、戻ってこれた私はもう一度カムイとギルヴィードおじ様をつれて屋敷入口まで転移し屋敷へ戻る。



 帰ってきたボロボロの私たちを使用人たちは大慌てで出迎える。


「こう見えて誰も怪我しなかったの。だから救急道具は必要ないわ」


「は、はい」


 驚いた様子のメイドさん。だよね。カムイとか明らかに装備や服がボロボロなのにぴんぴんしている。


 どんだけ身体が丈夫なんだと思われてしまいそう。カムイ最強伝説がまた幕開けしてしまうな。



「カムイ、疲れているところ申し訳ないけどお風呂の用意と私たちの着替えと……二人の服もとりあえず適当に見繕ってきてくれる?」


「かしこまりました」


 激しい戦闘でギルヴィードおじ様さえみんな汚れている。私は埃をかぶって髪がぼさぼさになったくらいだが。




 というわけで! 新しい服が用意されるまで、お風呂タイム! お風呂回ですよ!


『聖女勇者』はヒロインに快適な暮らしをしてもらうため、かなり現代日本の生活に近い要素が多くある。


 お風呂もその一つで、ルートによっては攻略キャラと2人でラブラブお風呂イベントなるものをするキャラクターもいる。



 まあウチには無縁なのでずっと一人風呂だったんだけど、この度! 親友(暫定)のリルムちゃんと一緒に入ることになりました!


 リルムはスゲー嫌がってるけど。命令です。


 親友への道は遠い。



「女の子二人だけで入るから大丈夫だよ」


 と笑顔でなだめる。


 中身は男性大人向けゲー制作者だが見た目は聖女の私の微笑みにリルムは少し肩の力を抜いてくれる。


 気丈にしながらも若干震えた手でギルヴィードおじ様のロングコートを脱いだリルムをつい、美少女を愛する者としてまじまじ見てしまう。



 す、すごい……。



 流石サキュバスというべきか、美少女ゲーのヒロインというべきか、男を誘う身体をしてやがる……。



 まるで蛮族のような発言を脳内でしつつ美少女大好きの私は、流石に三次元ではしなかったけど、目前にこんな美女が私の奴隷として裸でいるんだから『合法的に触れる!』と「髪の毛あげてあげる」とか「背中洗いっこしよう」など、ひたすら女の特権を満喫した。脳内がおっさんである。



 私は乙女ゲーヒロインなので全般に好まれる健全で淑やかな聖女な見た目なのだが、リルムは違う。


 サキュバスと美少女ゲーヒロインという男の欲望の塊をかたちにしたような存在である。


 肌も柔らかいし、弾力もあって吸い付きたくなる肌ってこういうのを言うんだ……いつまででも触っていたくなる……



「な、なぁ……」


 ハッ しまった! 怯えさせてしまったか!?


 奴隷になった瞬間こんなやつに絡まれたらそりゃ不安にもなる。



「な、なんでアンタはオレにそこまで良くしてくれんだ?」


「え? ……わ、私が、したいから、かな」


 ちょっと良さげな風に言い繕ったけどやってることは変態と変わりない。


「………………」


 身体を洗っていたのをやめ、お風呂に入ろう!と誘う。強引だったかな……


 もちろんリルムは従うしかないのでついてくる。



「……オレは、どうなるんだ」


 まだビクビクとしてると思ったら、この後の予定に怯えていたらしい。


 まあその為に追いかけまわされて隷属させられてしまったら、すぐ考えることって言ったらそれだよね。



「私個人としての意見だけど……私は、あなたに幸せになってほしいと思っているの」


 驚いたような顔をするリルム。ごめんな、でも素材は頂くんだ。


「リルムは私の奴隷になったからいうけど、私、回復魔法が使える聖女なの」


「な……っ!」


「内緒よ?」


 そう言われたからかリルムは声を出せなくなり呆然と私を見つめる。



「回復魔法が使えることがバレたらリルムと同じく政治の道具にされてしまうだろうけど、私は運良くここで匿われてる」


 あんまり希望を持たせると悪いので出来るだけ曖昧に言っておく。



「まだ詳しい話を聞いていないから、あなたたちはどうするか決められないけど、うちの部下として匿うかたちにしたいと思っているの」


 フィンスターから殆どは聞いて処遇も決まっているが『フィンスターとは初対面』という約束なので合わせておく。


 未だに呆然と、肩の力が抜けたようにしているリルムに私は出来る限り優しく言う。



「今まで怖かったよね。話も出来ず抵抗してきたのは仕方ないよ。みんなわかってるから、それについては誰も責めもしないし、あなたが仲間になってくれて私、とっても嬉しいの」


 スピンオフ作品での悲惨なエンドも見ているせいか、リルムが怖い目に遭う恐怖を感じるのはありありとわかった。


 あんなことをされないために逃げていたのだ。



 リルムは私が聖女という秘密を聞いたことが効いたのか、私の前で泣いてくれた。


 もう沁みついているのか泣き方も男らしい。



 スピンオフ作品の純愛ルートの様にリルムのトラウマが解消され、幸せになれるように少しは応援してあげたい。


 ……フィンスターっていう爆弾を持たせてしまったけれど……。





 男性陣もお風呂から出ていたようだ。さっぱりして新しい服に着替えている。


 部屋の中にいるのは私、ギルヴィードおじ様、カムイにリルムとフィンスターの当事者五人だ。


 まずリルムには『この五人は味方です。攻撃はしないように』と命令した。



 カムイはなにも聞かれずに五人分のお茶を用意している。この中で概要を一番知らないのは彼なはずなのに文句の一つも言わない。


 私に命令されたことを、必要なことをただ忠実にやるという武士執事スタンスを築き始めている。



 リルムは顔を強張らせながらも静かに座っている。


 カムイにお茶を出された時は「奴隷にお茶とか出すのかよ」とビックリしていた。



 防音魔法を張り会話を始める。フィンスターの話は重複が多いがしょうがない。聞いたことがないという取引なのだ。


 まるで怯えながらも勇敢に話すようなフィンスターは何も知らないものがみたらリルムを必死に守っている純粋な少年のソレだ。


 知らなかったら普通に感動していただろう。リルムも感動してた。騙されてるよ!!



「僕は神獣ですから隷属は出来ません。ですが、貴方たちがリルムちゃんを保護してくれるのであれば僕はあなたたちを裏切らない、絶対の味方になります」


「フィン……! お前……」


「いいんだ……リルムちゃん。僕は、リルムちゃんの為なら……」


 感動できる場面な筈なのに、茶番だ……。


 しかし内容を知らないカムイは目を潤ませて聞いている。



「神獣フィンスターは諜報に向いた最高の人材だな。こちらとしても旨味が多い」


 私とギルヴィードおじ様は死んだ目になりながらも取引通りのシナリオを話す。



「但し、サキュバスを保護する以上サキュバスの素材は欲しい。素材は採取することになるぞ」


「っ! ……わ、わかった……けど……」


 リルムは顔を赤らめた。


 サキュバスの素材は『体液』なのでスカ的なものも含まれるのだ。


 これを考え付いたスカ大好き男性スタッフ荒井はみんなから「変態」と褒められていた。



 リルムは恥ずかしいのか顔を涙目で真っ赤にしている。


 私だって外の世界での病院の検尿すら恥ずかしいので、気の強いリルムの羞恥は幾ばくばかりか……




 次は私の番だ。


「私が心配しているのは、リルムだよ。彼女はサキュバスであり、人間とは少し性質が違うから」


「性質……とは?」


 フィンスターが戸惑……ってるようにみせながら聞き返す。



「サキュバスの主食は男性の生気のはず。人間食では辛いでしょう」


「それは…… ……っ」


 リルムは戸惑ったように下を向く。



 多分ずっと飢餓状態のはずだ。


 スピンオフ作品では処女の時は粗食で我慢出来たが、処女でなくなった後はあまりの主食の美味しさに大嫌いな筈なのに求めてしまうというほど飢えていた。


「なのでリルムの幸せを願うなら、ちゃんとサキュバスとしても暮らさせてあげたいと思ってる」


「で、でも……っ そ、それは おとこと……」


「普通のサキュバスと人間はwin-winの関係になれる筈なのよ」


「でも……っ!」



 しどろもどろにパニックしているリルムにイライラしたギルヴィードおじ様は立ち上がりリルムを担ぐ。


「男を知らねえから怯えんだ。ったく……」


 おじ様面倒になって色々省いたな。


「なっ! やめろ! 離せ!!」


 ジタバタとおじ様の上で暴れるが一番最初に『攻撃してはいけない』という主の私が命令を出しているので攻撃ができない。



「ふ、ふざけんなっ やめ や やだ!」


「フィンスター付いていってあげて」


「はい。……大丈夫だからリルムちゃん。僕が付いてるから」


 ギュッとリルムの手を握るフィンスター


「フィン~~っ! マリアぁ~~~っ!!」


 おじ様は予め予定されていた通り『何故か』近くにあったベッドに持っていく。


「リルム、悪い様にはしないから。ちゃんとギルヴィードおじ様の言う事聞くのよ」


「……っ!」


 可哀想だが、主の命令として荒療治させてもらう。



 なるほど……これは処女をもらう人はリルムの憎悪と恐怖の対象になる可能性が高い。


 フィンスターはリルムの心が欲しいわけだから身体なんてどうでもいいわけか……。


(ここからリルムの信頼を取り戻すのは大変そうだなあ……)


 私は内心ため息をついた。



「さっ、行きましょうカムイ」


「ひ、姫、よろしいのですか?」


 私は爽やかな笑顔でそう言った。愛憎に巻き込まれたら厄介だ。


 いうて中身は成人女性だし、男女の営みでオロオロまではしていられない。





 ちなみに私はグロやホラーは駄目だがエロは二次元でも三次元でも余裕でエンタメ類は見れていた。


 美少女ゲー制作ともなると普通に三次元のエロ画像の写真で「こういう構図がいいと思う」とか話し合うし、ゲームの完成度の為なら男女関係なくAV鑑賞会もやったりする。


 流石に痛いのとか辛いのとかは無理だったけど。あと三次元児童はダメです!! 犯罪だから!


 美少女ゲー制作女性陣も勿論そういうノリがダメな人もいるが心がおっさんな人も多いのだ。



 ああ〜〜!! このエロ耐性の半分くらいグロとホラー耐性にいってればな〜〜!!!



 などと関係のない事を考えながら最近では見なかったオロオロするカムイをよそに私は涼しい顔で退出した。








 数時間後、ギルヴィードおじ様とフィンスターたちとまた改めて会議をひらいた。


 リルムはギルヴィードおじ様の横でちょこんと静かに座っている。


 心なしか……というか、かなり大人しくなったような気がする。


 ポーッとギルヴィードおじ様を見て目がハートになってる。



 あれ、思ってたのと違う。


 やっぱり乙女ゲーム攻略キャラは伊達ではないということか……。


 よく考えたら『大人の女性向けゲーム攻略キャラ』×『大人の男性向け攻略ヒロイン』のクロスオーバー。


 理想と理想のぶつかり合いだ。


「イヤッでも気持ちいい……っ!」が、お互いwin-winで成立しちゃったのでは?


 まあなんにせよ幸せならOKです。っということで議題に移る。





「そういえば、今他国がグリッセンの戦いも調べているようなのでなにか上手く誤魔化したほうがいいと思います」


 影の密偵フィンスターの報告を受ける。


 もう彼の能力は有力に活躍し始めていた。



「ああ~~~なるほど……」


 私は頭を抱えた。多分私たちがボロボロになって帰ってきたのもバレている。


 そして村人は朦朧状態で覚えていない。


 ――まるで魅了にかかっていたように。



「ウチの兵には悪ぃが兵を総動員させてあるはずないものを捜索してもらうしかねえな」


『カーグランドもサキュバスに気付いて攻めたけど逃がしました。でも弱ってるので大捜索します』という政治的態度だ。



「名目上は他国の者が出入りしているのが不審なので先の件もあり調査するって感じですね」


「他国への抑止力にもなるな」


 派手に動いたらサキュバスもまたどこかに逃げたと皆思うだろう。これで少しはベルドリクス領が平和になる。


「今すぐ『不審な者を見つけたら連絡しろ』と通達します」


「有難う、カムイ」


 カムイはスッと部屋を出た。



「これで他国の密偵が捕まったら笑えますね」


 ころころと可愛い顔で笑う神獣フィンスター。


 ほんと、可愛い顔で恐ろしいよ。

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