027 対サキュバス戦
「グリッセンへ討伐……ですか?」
カムイは脈絡の無い話に戸惑いながら聞き返した。
「えぇ、この前の魔物事件はその魔族を捕まえるためだったみたいなの。こちらが先に保護するつもりなんだけど、抵抗されると思われるからその抑えをお願いしてもいいかな?」
「なるほど。そうでしたか。姫が申されるのであれば如何様にも」
色んな濃いキャラクターに振り回されてるとカムイが本当に癒しだよ……。カムイに裏切られたら一番ショックかもしれない。
「この件は国事が絡みます。内密なものなので3人パーティで挑むことになりますが、大丈夫ですか?」
「はい! このカムイ、粉骨砕身姫をお守り致します」
うん。ギルヴィードおじ様を守ってね。
ベルドリクス領最北端の村グリッセン。
特になんの変哲もない、のどかな村だ。その入り口に立っていた。
グリッセン遠征を決め向かおうと用意をしていたらスッとフィンスターが出てきて「今からくるんですね! リルムちゃんにも伝えておきますね」と予告される。
つまり『リルムちゃん』もこっちを殺す気で用意してくるということだ。
こんなところでドンパチやりたくないので出来れば決戦のバトルフィールドが欲しいところ。
しかしおかしいところがある。
「誰も……居ませんね……」
村人が一人もいない。
何事もなく領主の屋敷にたどり着いてしまった。
「村人は全員避難させた。アンタらの目的はオレだろ。かかってきな返り討ちにしてやるぜ!」
全身を黒い甲冑に身を包み双戟を持ち勇ましく佇む姫騎士……いやサキュバス。露出は全く無い。
完全に男勝りという言葉がぴったりな『リルムちゃん』がそこにいた。
「姫、あの女騎士が件の魔族ですか!」
やっぱり女騎士に見えるよね。
「そうよ。話し合いが無理そうだから隷属させてでも話を聞いてもらうつもりです」
カムイに支援魔法をかけながら話す
「誰が隷属なんてするか!! ぜってー殺す!!」
完全に頭に血が上っているリルムの横で暗器のように狼の爪を出し戦う構えをみせているフィンスター。
少年の姿になっているので、こうやってみると仲の良い姉弟のようだ。
「フィン! 無茶すんじゃねえぞ!」
「うん。リルムちゃん」
全く裏切っている感じのない、二人の強い信頼関係。
フィンスターも今ある中での最善手を尽くしているわけだから、裏切るというのも可哀想か……
そんなわけで2vs3のパーティバトルが始まった。
リルムは没設定だとサキュバスだが前衛の素早いアタッカー、フィンスターは遊撃。
影からにょんにょん出てきたり分裂するフィンスターが明らかに邪魔。
いつの間にかリルムの範囲に移動させられて一撃をもらってしまう。アイツこっち勝たせる気あんの?
多分手を抜いたって後で思われたりしたくないんだろう。なら早々に退場してもらう。
「カムイ! あっちの遊撃は打たれ弱いはずだからまずそっちを倒して!」
「はい!」
カムイは力を貯め影から出てきたフィンスターが逃げる前に捕まえ滅多切りにする。
フィンスターはもろに食らってしまってしまい、吹き飛ぶように飛ばされ動かない。
「だ、大丈夫!?」
思ってたより弱くて焦った。
「フィン!!!」
リルムが必死な声を上げフィンスターに駆け寄る。
「っカムイ! もういいから!! 死んでしまったら大変!!」
「はい」
カムイは指示通りフィンスターとリルムから若干の距離を置いて様子をみる。
リルムも全然力が残ってる感じはない。
多分逃げてるうちにすり減っていってもうないのだろう。
「フィンスターもリルムの意思無視で保護先を探す訳ですね……」
二人とも満身創痍の状態で戦っている。
ギルヴィードおじ様も未だに温存状態だ。
なんかめちゃくちゃ弱いものいじめしてる気になってきた……むしろ弱って死なないか心配になる。
(リルムをオーバーキルしないようにこっそり魔法かけとくべきだな)
「テメェら……よくもフィンを……!!」
やばい、完全にこっちが悪役だ。いやこれから隷属もさせるし完全に悪役なんだけど。
「リルム、話を……」
「うるせえ!! テメェらは絶対に許さねえ……!!」
リルムが怒りに任せて最後の力を解放していく。
ドゴン!!とリルムから解放による爆発が起こり土煙が立つ。
その土煙に紛れてカムイが攻撃され、リルムの双戟に弾き飛ばされる。
「カムイ!!」
カムイが気を失って倒れている。回復は出来るので命に別状はなさそうだ。
私は安堵で息を吐く。
しかしこれは……
「相手もなりふり構わなくなってきたな」
ギルヴィードおじ様が本を構える。
リルムはイベントボス『サキュバス』の貫禄をもってこちらを向いていた。
イベントボス『サキュバス』はレベル48。
26付近のカムイでは身体強化やバフ使ってなかったら即死だっただろう。よ、よかった……
「マリア、いくぞ」
「はい! おじ様! 支援します!」
ギルヴィードおじ様と初めての二人共闘だ。とりあえずおじ様に全支援をかけて底上げをする。
普通五人で来るボス戦で二人は不安しかないけど、なんとかするしかない。
「おい女、女ならもちっと淑やかになんねえのか」
「オレは! そういうコトいう奴が! いっちばんデェっ嫌えなんだよ!!!」
リルムがギルヴィードおじ様に向かって全力パンチをお見舞いしようとしてくる
「バリア!」
私のバリアでリルムの拳を弾いた。
おじ様! そうやって煽って攻撃させるのやめてください! 心臓に悪いです!
普通魔導士が前衛無しの一人でタイマンはるとかないんですからね!
「っそ!」
近づいてきたリルムの腹に手を当てて
「わりぃな」
風魔法で空気砲を作り放つ
「っう"!!」
腹に思いっきり入ってめっちゃ痛そう。えっなにあれ。私だったら死んでる。
内臓器官にダメージがいってくらくらしているのかふらふらしつつも
「まだだ……!!!」
と立ち上がるリルム
「うおおおおおおっ!!!」
リルムは大きな戟を持って攻撃を仕掛ける。
魔法のバリアを自力で作り、その後アイスランスを空に複数出しリルムに飛ばす。
気合でリルムはかすめつつ最小限で避けまた近づいては攻撃をしかける。
私はリルムが来るタイミングでおじ様にバリアを張り魔導士と物理職のガチンコバトルが出来るように支援する。
バリアをミスったら打たれ弱い魔導士は致命傷だろう。私も気が抜けない。
そんな攻防が暫く続いているのを私は
(イベントボスと無双おじさまの一騎打ちこええ~~~~~)
と改めて最強おじ様の強さに震え上がった。
私がチートなバリアで無効化してるからこそ出来る2人パーティの芸当ではあるが、普通イベントボスとタイマンで戦って互角とかになる??
ボス級か?
二人の戦闘を見守りながらコッソリと先程滅多切りにされたフィンスターに近寄り無事を確認した。
一応敵同士ということなので、なにしてくるかわからないし回復はかけられなかった。
「……っう」
「大丈夫?」
神獣なだけあってタフな方なんだろう、自然回復スキルもあり大事には至っていなかった。
「っ! リルムちゃんは!!」
まだ戻りきっていない体力でガバッと起きてよろめく。
「ギルヴィードおじ様と戦ってるよ。今のところ計画通り」
今はギルヴィードおじ様が押してはいるが、長期戦になったらMP切れで負ける。
「リルムごめんね」
大変申し訳ないと思いつつリルムに大量の全能力下降のデバフをかける。
「……っ!なんだこりゃ……っ」
ガクンと重くなったリルムの隙をギルヴィードおじ様は見逃さず魔法で撃ち落とす。
「く……っ! は…………っ!」
素早さが下がった回避型のリルムは見事命中し、その場に倒れる。
「リルムちゃん!!」
フィンスターは焦って声を出すが立ち上がれない。
「終わりだな」
ギルヴィードおじ様はリルムに隷属の印を移しだすが、リルムはまだ戦意が残っているらしく苦しそうにもがく。
「抵抗が激しいな」
「やっぱり気を失わせないと厳しいんでしょうか」
フィンスターの方にいたので少し遠くにいたけれど、障害物はなく声が通った。
「……ン……な…… ことは……絶対…………っ!!!!」
口から血を吐きながらリルムはアイテムを持っていた。
発動すれば誰でも爆発魔法が使える簡易魔法だ。
「それは……!!」
私は慌てて杖を構えた。
「オレが屈服するときは!! 死ぬ時だッ!!!!」
爆発する!
目からは明らかな決意が籠っていた。リルムを甘くみていた。
彼女の過去をもうちょっと良く考えるべきだった。
隷属するくらいなら死を覚悟くらいは一人になったときからもう出来てたのかもしれない。
爆元のかなり近くに居た私たちは完全に巻き込まれる。
「おじ様! そこから動かないでください!!」
そう言っておじ様と後ろにいるフィンスター、カムイ周りにまとめて大きなバリアを張る。
比較的近くに固まっていてよかった。なんとかバリアで守れる。
爆風で周りが見えない。
フィンスターが必死にリルムの名を呼んでる声が聞こえる。
害意ある爆発から私の身を守る展開されてた自動バリアが解除され、周りを見たが近くのギルヴィードおじ様は無事だった。
「おじ様無事ですか!」
「あぁ、なんとかな。だが……」
ボロボロのリルムが映る。
「爆元を抱えていたんだ。命はねえだろう」
普通に生きたいと思っていただけの、サキュバスから抗った少女の壮絶な覚悟。
ギルヴィードおじ様も鎮痛な面持ちで続く言葉はない。
しかし
「予想はしていなかったんですが……実は保険をかけていたので……」
私はギルヴィードおじ様たちがオーバーキルするのを恐れて『即死回避』をリルムにかけていた。
オーバーキルでも1残るというゆとり仕様のヒロイン専用魔法だ。
全く予想外の使い方だが、役に立つことになるとは……
『回復』
そういって回復魔法をかければキチンと機能し、リルムが死んでいないことの証明だ。
「り、リルムちゃん……!」
生き返るリルムにフィンスターが涙を流している。
リルムは隷属してまで生きることを嫌がるだろうが、サキュバスとして生かされるなら死ぬとかいう理由ではやまらないでほしい。
私はリルムを……金策には使うが、幸せにするつもりだ。
リルムの身体は元の、傷一つない状態に戻った。
今は気を失っているがそのうち目が覚めるだろう。
ギルヴィードおじ様は爆発で服もぼろぼろで無くなってるほぼ裸のリルムに自分のロングコートをかけてやる。
けっこう紳士だよね。おじ様。
リルムの傷は治り、穏やかな顔で寝ている。
「おいマリア、起きたらまた死にそうだから死亡防止に隷属しとけ」
確かにまた絶対死のうとするだろう。
わ、私が…? と、ちらとギルヴィードおじ様を見る。
「オレのは焼けとんだからおめえがやれ」
「ま、マジですか……」
おじ様ならまたサラサラ描いて魔方陣作れるじゃん……。
多分男が怖いリルムへの配慮なんだろう。おじさま、ツンデレなの?
私としては隷属なんて恐ろしいことさせたくないが、次はどんな死に方をするかわからない。
隷属の印の紙をぺたとリルムに貼って写す。
「別に貼らなくてもいいんだぞ」
「そうなんですか」
弱って気を失っているリルムはスウ……と隷属の契約に屈服した。
手に入れようとしていた親友ちゃんが、奴隷ちゃんになってしまった。




