025 神獣と取引
強兵ベルドリクスの名誉は守られた。
カーグランドの精強さを示したとして陛下はお祖父様に褒美を与えると言って下さってるとのことで、軍費を上げるようお願いするらしい。お祖父様グッジョブ!
お祖父様、やっぱり自分が若い頃より軍が弱くてガッカリしたんだって。
領内が不穏なので私たちはすぐ帰る予定を中断。
暫く居座ることで話が落ち着いたが、お祖父様は陛下に報告があるので一度私とギルヴィードおじ様を残してカーグランド首都に戻って行った。
私はギルヴィードおじ様の部屋へ行き、第二回犯人談議をする予定でいた。
カムイがお茶や昼ご飯をこちらに持ってくるというので、それまで二人で軽く話した。
「この前のガノンっつうのは知ってんのでも居たのか」
「あ、あー……えっと、魔人連邦ガノンに凄腕の召喚士がいて……あの規模ならその人かなって……」
「成る程。名前は」
私が思い出しながら名前を伝えようとした瞬間別のところから声がした。
「グレンですよ」
「!!」
部屋にある影から黒いものがヌッと出てきた。
両手を上げているので戦う気はないらしい。
ギルヴィードおじ様は私の前に庇うように立ち、構えている。
私バリアあるから多分後衛のおじ様が下がるべきだと思う。
そんなゲーム脳を振り切り影から出て来た人影を見ると、黒髪に眼帯、そして金色の目。
「あっ! ヤード先生が言ってた! グリッセンの!」
っていうか……この子は…… えっ? なんで縮んでるの???
攻略キャラクターがショタ化していた。
間違いが無ければ、この子(?)は攻略キャラクターのフィンスター。
以前言っていためちゃくちゃ欲しいキャラ、通称『ヤンデレくん』だ。
えっ? なんでここに居るの???
「僕はフィンスターと言います。話を聞いて欲しくて来ました」
礼儀正しい挨拶をする少年。ギルヴィードおじ様は警戒を解かない。
「おめえはこの一連の騒動の真相を知っているのか」
「はい」
真っ直ぐに見つめる少年。その瞳に邪気は無いと判断したおじ様は構えを解く。
「あっちょっと待って、カムイに言っておかないと。いきなり知らない人が居たら斬りかねないよ」
「大丈夫です。彼なら暫く戻って来ませんから」
私とギルヴィードおじ様の空気が変わる。
「何をした」
フィンスターはニコリと笑うとぐにゃりと姿を私に変えた。
「カムイ、ごめんなさい。私お昼に急にカムイの作ったヒューガ国食が食べたくなっちゃった! 作ってくれない?」
続けてぐにゃりとカムイに変形した。
「お任せください姫! 少々お時間を頂きますが姫のご満足いただける様なものを作って参ります!」
ぐにゃりとまたニッコリと微笑む黒髪の少年の姿に戻る。
凄い。これはわからない。声まで同じだ。
「僕が見てる範囲だと誰も居ないんだけど、話すなら危ないから防音魔法かけてもらっても良いですか?」
フィンスターを見つめ数秒、チッと言いながらギルヴィードおじ様は指示を出す。
「マリア」
「は、はい」
私は防音魔法をかける。
「本当に凄いですよね。何も漏れないです」
フィンスターは感心する様にキョロキョロとする。
「テメエの能力はわかった」
ギルヴィードおじ様は戦意を削がれたのか椅子にどかっと座り直す。
「で? テメエは何しに来たわけだ?」
私もそれが気になってた。
昔、2年前くらいか、ちょっと手を加えた時があった。
原作ではフィンスターはまだ重傷のまま森にいるはず。
それでシナリオがぐちゃぐちゃになってるのだとわかった。
だとしたら、私が狙った通りになっているかもしれない……
「僕の知っている話をお話します。その代わり、僕と取引して欲しいんです」
「手を組むっつうならなんかしてほしいことがあるんだろ? 言え」
私の思惑通りなら……
「僕たちを保護して欲しいんです」
椅子に座りなおして向かい合う。
「僕は神獣、フィンスターです」
「神獣っつうとあれか、クレルモンフェランんトコの……生きてたのか」
「はい」
フィンスターは神獣、ラフィちゃんの加護を受けた獣だ。つまりペットである。
神獣といっても見た目は真っ黒で、この世界の創造主ラフィエル様は真っ白なので「神に使えるものといえば白!」という習いがあり真っ黒のフィンスターはあまり神獣っぽくない。
『人々を影ながら見守ってくれるありがたい神獣』とされていて影を伝いモノを見たり、分裂したり、姿を変えたり出来る。完全に隠密向きだ。神っぽくはない。
教えの一部で魔物とは邪の害獣とされており、一定数見た目が魔物に近からず遠からずな魔族に厳しい目を向けている人はいる。
宗教戦争にてその過激派が『フィンスターは神獣ではなく邪悪なる魔物と同じ物である』と宣言しフィンスターは攻撃を受け大怪我を負ってしまう。
「大怪我は負いましたが神獣なので。傷は自動回復します」
「マジかよ」
そうなの。スキルにもついてる。ヒロインいるから死にスキルだけど。
「それから人々に見つからないよう密やかにフィーネの森で回復していました。しかし僕は追われているので……そこで出会った女の子を保護してほしいんです」
そうそう。フィンスターはずっとボロボロに怪我して痛みに耐えながらも見守ってきた人間に裏切られたことを絶望してて、ヒロインはそんなところに現れてフィンスターを治癒し、一目惚れして仲間になるんだよね。普通だと。
二年前の思惑通り、フィンスターと親友ちゃんは合流して二人で協力して生き抜いてくれたんだ。
私がホッと安堵をしていたら、横にいるギルヴィードおじ様はその話を不信がった。
「神獣本体が狙いだったらクレルモンフェランしかウチにはこねえ」
「あっ、確かに……」
悪役キャラになってしまった親友ちゃんがどのような存在か知っていたのに私はフィンスターの口車にすっかり乗せられていた。
フィンスターは図星を突かれたのかわからないような笑顔を貫いている。
「……最近出歩いてる他国の連中はお前が守ってるヤツを追ってるわけか」
そんな大層な神獣が付いていてもなお、保護しきれねえものっつったらかなりのモンだろう。とギルヴィードおじ様が言えば、フィンスターも曖昧に笑った。
一介の極小国の伯爵家が保護できるような存在かちゃんと説明しないあたり、そういうことなのだろう。
『人々を影ながら見守ってくれるありがたい神獣』フィンスターは、神格が高い神であると同時に人々の酸いも甘いも知り尽くしている。
詐欺めいた取引だって笑顔で簡単に出来るというわけだ。
「――怪我をしていたところに彼女はやってきて、ずっと一緒にいてくれたんです」
私でもわかる。今フィンスターは『人間の情に訴えかけている』
他にもう手が無いのだと、少年の姿だと更に痛ましく見える。私一人だったら絶対に引っかかっている。
そんなフィンスターをまるで気にせずギルヴィードおじ様は「他国が追い回す、神獣でも守りきれねえ……」と条件を一つ一つ上げていった。
「……つまりおめえの守って欲しい相手っつうのは、『サキュバス』のことだな」
フィンスターは諦めたかのように「……はい」と頷く。
話は変わりますが、
ゲーム制作会社〈スターズソフト〉初の大人向け女性ゲーム『聖女勇者』には製作男性陣からの熱い支持によりスピンオフがある。
親友キャラとして出すはずだったが容量の都合で仲間にならず、イベントボスとして終わってしまった悲しいサキュバス……。
『聖女勇者』では名前は出てこないが、名前はリルムちゃんと言います。かわいい名前でしょ。
名前はかわいいのにそれが嫌なのかコンプレックスなのか、勝気で言葉遣いが荒い。
見た目も黒のピッタリなレザースーツを基調にした強そうな女王さま然な女の子だ。
ちょっとヒロインよりは大人びてみえる同い年くらいの見た目、というコンセプトで作られた。
「ヒロインは成人!」という合言葉で女子高生並の容姿で作られるのは乙女の夢なので、リルムの見た目年齢は18、19あたりだろう。
ん? ていうことは私、成人しても見た目女子高生並なのか? そんなチートが隠されてたなんて……
この世界のサキュバスは近くにいる好感度が高い(つまり仲間)キャラのHPMPを回復してくれる能力がある。
えっちなことをすると更に『癒してくれる』
そのサキュバスの体液がポーションに使われる原料となる。
ので、人間に狩られ、追いかけられ、リルムは絶滅危惧種のサキュバスの生き残りだ。
リルムの男勝りな性格は強くいないと逃げ切れなかったんだろうという基準で作られた。
両親や仲間たちが捕まり、隷属させられ回復や体液を入手するために陵辱されていく姿を見てきたため、大の男嫌いでエッチなことも大っ嫌いだ。
サキュバスは男の性を食べ物にしていて、普通ならwin-winの関係が築けるが、副食として普通の人間のご飯でも生きていける。
性欲を食欲や睡眠欲で誤魔化す感じとよく似ている。
ただ主食>>>>(越えられない壁)>>>副食なので、お腹いっぱいにもなれないから上手く力も出ない。
それだけでリルムがどれだけ無理しているかわかる。
しかし勝気な、サキュバスというよりかは姫騎士に近い何かを持ったリルムは鋼の意志で処女を守っていた。
種族的に一番得意なのは魅了で、人を操るのが得意。
イベントストーリーもキャラたちが何かに操られ同士討ちをするところから始まる。
その時一番好感度が高いキャラだけが魅了にかからず守ってくれ、その後すぐに攻略キャラたちが正気に戻る。
ヒロインが状態回復魔法かければ良かったんじゃね? というのは言わない約束だ。親友降格は急な仕様変更だったんだよ。ぐすん。
「まさか! サキュバスの魅了が効かないなんて!」と現れたリルムを討伐。
アイテムには必ずポーションが落ちるので、金策イベントや好感度確認イベントって感じに見られている。
さて、先程にも話したスピンオフだが、ここから始まる。
ヒロインたちにやられたリルムは命からがら逃げ、力尽きたところでスピンオフ主人公に拾われる
ゲーム名は『サキュバス! 育ててリルムちゃん』――……これくらいわかりやすいほうが敷居は低くて良いのかもしれない。
とにかく拾われたリルムをどうするかで物語がガラッと変わる。
主人公は街に一人で住む薬師で、貧乏だ。
とてももう一人養える金はない。
そんな時、リルムがサキュバスだと気付きリルムの血で薬を作ったらポーションが出来てしまった。
リルムの体液からポーションを作って売りお金に変えていくゲームで、月末に出て来る支払いの月払う家賃とか生活費などを払えれば何をしても良い。(払えなくなったらゲームオーバー)
そこから主人公の選択肢が現れる。
リルムを保護する純愛ルートか、気を失っている今隷属させて調教する闇堕ちルート。
男性向けゲームではヒロイン一人のゲームも存在する。その場合、ヒロインが一人だからこそ出来る多彩なマルチエンドがみれる。
リルムのトラウマを優しく解きほぐし、イチャイチャラブラブになるもよし、
もう見てるのも可哀想になるプレイをされまくる目のハイライトが消えたリルムに育てたり、
嫌なのに感じちゃうサキュバスのリルムに快感を与え続け快楽堕ちにすることも出来る。
まあそんな感じのゲームなのだが、言いたいところは、このスピンオフ設定が追加されているなら!
リルムでポーションが作れるようになるということだ。
そして、(スピンオフ主人公と同じ発想で申し訳ないが)かなり簡単に金が得られる。
そしてそして回復需要の低下!!
私が聖女として回復要員をやってもポーションがあるからと、ちょっとは防波堤になる。
なんて夢が広がる……っと思っていたのだが
「悪ぃがサキュバスだと『保護』は約束出来ねえぞ」
「………………」
そう、ギルヴィードおじ様だけが即決できる問題では無くなる。
フィンスターはサキュバスだと隠した上で保護の約束を取り付け、「でも契約しましたよね?」となんとかしてもらうという詐欺行為を働くつもりだったのだろう。
それをギルヴィードおじ様に看破された……と。
「成る程……通りでウチの周りウロチョロしてるヤツが増えてたわけだ」
サキュバスは特大の金の成る木、どの国も喉から手が出るほど欲しい。
……なんていうか、ギルヴィードおじ様に拾われなかったら聖女である私もこうなってたんだな。
フィンスターは一呼吸置き、私たち二人に向き直る。
「わかってます。その上で『個人として』僕の考える譲歩で、取引に乗ってもらえませんか」
つまり国には内密に保護しろと言っているのだ。
フィンスターも覚悟はあるのだろう。真っ直ぐに見つめてきた。




