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023 もどかしい聖女の悩み

 

 不安に怯えている住民に領主自ら勝利が宣言され、安堵した住民たちからは町の面前で繰り広げられた大激闘の勝利に喝采が送られていた。


 これから魔物の回収作業や負傷兵の手当てに取りかかるのだが、どこかの領想いの息子さんがめぼしい素材焼き尽くしちゃったのよね。


「いえ、あの量をまともに相手したらこの程度の損害では済みませんでした。素材より皆の命です」


 良い上司だ……でもビンボー軍にはキツいだろうな。やっぱりどうにかして金策をしてあげたい。せめて売れたであろう戦利品の魔物の素材をギルヴィードおじ様が全部灰にしなければ……


 しかしそのおじさまはシレッとした顔で戦後処理に加わっていた。ツラの皮が厚い……。




 召喚士は一体何者で、なんの目的があったんだろう。


 攻略キャラクターにも召喚士はいる。し、…………やりそうなキャラでもある。


 でも目的が……



 思考の中に入っていたが、ふと匂いの気配を感じると、フラフラの兵士たちが何人か。


 明らかに顔色が悪く、鉄の匂いが充満している。



 ドクリ


 気付いたカムイが「ここは姫にはよろしくありません。移動しましょう」と提案してくれる。



 しかし、私は。



 回復はまだ使っちゃダメなのはわかってる。


 回復魔法はレア魔法で、バレたら取り合いになり、今日のような戦闘が毎日のように起きるかもしれない。



 私のせいで開戦が前倒しにもなりかねないし、なにより私の取り合いが戦争の原因となるなど耐えられない。


 でもっ! 他に! 他になにか!!




「バフ! わ、わたくし、状態異常治癒と防御強化の心得なら多少御座います! それを役立たせて下さいませ!!」


 ここに居る全員に『止血』『貧血回復』『防御強化』『体力増加』他にも患ってるかもしれないから状態異常治癒もかけた。



「……お……おぉ……」


「すげえ……ちょっと楽になってきたぜ」


「マリアお嬢様! ありがとうございます!」



 ごめんなさい、回復魔法がかけられれば……


「良かった……! ギルヴィードおじ様に習いましたのよ」


 話題をずらす


「流石ギルヴィード様だ!」


「ああ、あの魔法もとんでもなかった!」


 明るく話す兵士さんたちに私は少し救われた気分になる。



「マリア様……良ければ他の仲間にもかけてやってくれませんか?」


「もちろんです!」


 召喚士に関してはとりあえず後だ!




 案内された部屋は、さっきよりも死臭が酷くて。


 大量の血、失われた人体


 ドクリ


 と、音が鳴った。頭から血が無くなって行くのがわかる。


 クラリと身体がよろけるのをカムイが支える。


 隣にいるカムイが「11歳の姫をなんてところに連れてくるのだ!!」と怒っているのが遠くに感じる。



 頭にモヤがかかったように前が見えない。


『外の私』のグロ耐性が追い付いていないんだろう。


 耐えられない世界になると世界が歪む。初めての世界が消滅しかけるような感覚に恐怖を覚えた。


 そんな中状況を少しでも良くしようと前が見えないままエリアで支援バフと状態異常治癒と止血と貧血を治した。


 すると少しではあるが歪みは収まり、匂いの洗浄魔法を唱え目を閉じればじわじわと世界が戻ってきた。


「わ、わたくしに出来ることは、こんなことしかないのです。無力なわたしを許してください……」



 この悲しい世界、私が作ったんだよ。


「でも、どうか、生きてください」


 とひたすらに願いながら言った。





「他の部屋も、まわらせてください」


「ダメだ」


 お祖父様に頑なに拒否された。



 カムイも「御身体にさわりますから」とやめるよう懇願された。


「でも、回復は出来なくてもちょっとは和らげられるから……」


 ギルヴィードおじ様に泣きつくとハアとため息をつかれた。



「支援魔法は壁を貫通できる、隣の部屋からやるようにすればいい。ただしお前はさっきの少人数の部屋を見ただけでも倒れかけたんだからな。大部屋は絶対に見るな」


「ありがとうございます……」


 怖いのや痛いのを見るのは苦手とずっと主張してきたが、初めて恥ずかしくなった。



 そりゃあ向き不向きはあるから仕方がないが、こんな中でこんな配慮をされるのだ。


 したくてしたわけじゃない怪我に苦しんでるみんなに申し訳ないと恥じた。




 私は怪我人部屋に行くまでに将軍職はありそうな大柄な騎士さまたちに囲まれて、周りの視界を遮られ、ギルヴィードおじ様に防音の魔法をかけられた。


 ……そんなにひどいことになってるんだ……。


 隣の部屋に待機した。私は何も聞こえない。





 ◇




「ベルドリクス伯爵のお孫さまのマリアさまが、ギルヴィード様同様、魔導の使い手になられたらしく、好意によりしばらくの体力と防御の支援と止血と貧血回復、状態異常治癒をかけてくださるそうだ。」


「おぉ……!」


「有難い……」



「しかし11歳のご令嬢には血臭が充満する場はお身体に触るので別室からの治癒となる」


「当たり前だ」


「こんなところお嬢様がみたらお倒れになっちまうだろ……」


 断末魔などが飛び交う負傷者部屋、母の名を呼ぶ声、まさに地獄絵図だ。


 蝶よ花よと育てられた幼いご令嬢には想像もつかないだろう。



 実際は成人済みであるのだが、だからこそ、その長い間こんな現場をみた経験もなく育ち耐性の無さに恐怖も大きい。




 ◇




 ギルヴィードおじ様に背中を押され、私は持ってる力が出せないもどかしさと、悲しみで少しでも良くなる様、ひと通りの魔法を送った。


 確認に行った騎士が無事効果が出ているとのサインをもらい少しホッとし、来た時と同じように病棟部屋から出る。


 ギルヴィードおじ様に「他におめえが出来ることはねえからじっとしてろ」と言われ、部屋に押し込まれる。


 カムイが着替えを用意して、メイドさん達が着替えを手伝ってくれ、その間にカムイはお茶を用意してくれる。



「姫のお心が少しでも休まる様、そのような効果があると言われるお茶に致しましたが、触りある様でしたらお申し付けください」


 本当に、私は大切にしてもらってる。


 この荒時に。


 私はポロリと涙を出した。カムイは慌てる。



「違うの、大切にしてもらっているのが有り難くて……」


 上手く言葉に出来ないけれど、無性に悲しかった。



 この国が荒れる原因になるからと厳秘され、本当は治せる苦しみからみんなを癒せない。


 でも今の為だけに好き勝手やったら癒した人たちを殺す場に駆り立てることになる。



 全部わかっているのだ。





「ただ、もどかしくて……整理がつかないだけ……」


 悲しい。


 悲しい。


 戦争とはなんて悲しいんだ。


 ()()を、この世界を作ったのは私だというのに。




 ゲームを作る際に大体のゲームのシナリオには大きなストーリーラインと、伝えたい裏テーマ的なメッセージ性を持たせていることが多い。


 それが無くてもいいわけだが、あると物語に厚みが出るので設定しているライターさんは多いだろう。



『聖女勇者』の伝えたい裏テーマの一つとして「戦争とは悲しいものだ」というメッセージがあった。


 だから攻略キャラそれぞれに何かしら争いで起こった悲しい傷跡がある。



 悲しい戦争を聖女のヒロインが癒そうとするが、その聖女もまた戦わなければならない。


 この結果はゲームの裏テーマがしっかりと入っている証明であり、ゲームシナリオではそこも評価されていた。




 ポロポロと涙が止まらず出していると部屋に光が集まりだす。


 ああ、この光は知っている。


「マリア」


 カムイは即座にひざまづく。


「ラフィちゃん」


「マリア」


 大丈夫かとか、心配になって来たとか。


 そういうことが言いたいんだろうけど感情が追い付かず、言葉が出てこないようだ。



「マリア」


 ずっと無表情だ。どういう顔をすればいいのかもわからないのだろう。でも必死なのは伝わる。




 そんなラフィちゃんに面白くなり私は笑った。


「そういう時は『心配になって来た』とか『大丈夫か?』とか言うんだよ」


「そうなのか」


 少し気が紛れた。有難いな。


 そう思っていたら身体が勝手に浮かび、ベッドに降ろされる。ラフィちゃんも続く。



「寝ると人間は幸せになるのだろう」


 ラフィちゃん最大の気遣い。


 でもなんかちょっと違う。



「でも、まあいいや。カムイ、私ちょっと寝るね」


「はい。ラフィエル様が付いていて下さるなら心強いです。おやすみなさいませ」


 カムイは笑顔で出て行った。マジで精神面強くなったな。そろそろ全身肝とか言われるようになるぞ。




 現実の、外の私と同じ視点のラフィちゃん。


「寝ようラフィちゃん」


「ああ」


 翼を消して横になる。慣れたものだ。


 ラフィちゃんはギルヴィードおじ様にも言えていない、私がこの世界を作った存在だと知って、だからこそ大事にしてくれている。



 でも私はもうこの世界を作った私じゃないし、ただのこの世界の一部だ。


 だから実は私がみんなを作ったんだよなんて気持ちもないし、言うつもりもない。でも



「……私が作った世界なのに、いざ中に入ったらこんなに悲しむのはおかしいかな?」


 ソッとラフィちゃんにすがるように寄る。ラフィちゃんはお返しのように私の頰に触れ返し


「触れなければわからないこともある」



 見つめ合う私とラフィちゃん。その時間は不思議と長く感じられた。


「俺はそれを、マリアから教わった」


 そう微笑むラフィちゃん。



 微笑みは、二人きりの世界で一番に教えた。


 好みの顔の笑ってるところが見たいという不純な動機もあったが、笑って欲しかったのだ。



 感極まってギューッ! とラフィちゃんに抱きつく。ラフィちゃんはちょっと驚いているようだ。


 前の私も今の私も全てを知って、それでも大切に思ってくれる存在が、とても有難く、肯定されているようで安心した。


 ラフィちゃんは戸惑いながら抱きしめ返し、上の方の翼も広げてふわりと包んでくれた。



「ねえラフィちゃん。前に言ってた天国ってもう出来てるの?」


「ああ」


 今日戦で亡くなった人たち、天国へいけるかな。



「今度みんなが生まれてくる日までに、平和にしたいな」












 『聖女勇者』は本当に素敵なゲームだった。


 私はこの世界(ゲーム)を愛している。


 この世界を素晴らしいものにすることが、きっとこの世界への恩返しになるだろう。


 その為に自分は生まれたような気すらした。



 罪悪感とは今後も付き合ってくことにはなるだろうが、その時はまたラフィちゃんを見て癒されよう。


 大丈夫だ。


 私はまた元気にこの世界の一部として生きていけば良いのだ。


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