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022 初めての戦争フェイズ

 

「動き出す」と、威勢よく言ったはいいが、まだ私はベルドリクス伯爵家に匿われている身。


 下手して聖女とバレてはいけない。



 そんな制約を煩わしく思いながら、下見としてとりあえずベルドリクス領を視察することにした。


 が、何かあった時の為にとお祖父様とギルヴィードおじ様が付いて来ることになった。



「お祖父様もですか?」


「ああ。最近戻っていなかったからな」


 そんなんだから孫バカって言われちゃうんですよ。



 有能な文官を揃えることに成功したベルドリクス伯爵家の初めての留守ということで、文官たちは張り切っている。


 監視役にお祖母様がいるから下手な事にはならないだろうが、下の身分の者が多いので変な貴族に無茶ぶりされないか、そこが心配だ。



 そういえばシグルドは手堅く上位貴族を抑えていってるらしい。


 有能な人がいたら残念だが、戦争になれば身分などほぼ関係ない。頼れるのは個々の能力だ。


 ……ちょっと発想が世紀末すぎるかな……。



「では、出発しまーす」


 従者のカムイは当然として、身軽に4人旅だ。一瞬だけど。


 転移魔法で馬車ごと一気にベルドリクス領まで飛んだ。


 一体どんな領土なのかな。良いところだといいなあと小市民らしい感想を抱いた。





 ベルドリクスはカーグランド首都からは比較的遠いほうだ。


 前線基地と首都が近かったら困るので当たり前だが、小さな国なのでせいぜい馬車で1、2日で着く。



 今転移で飛んだのはベルドリクス領の領主館のあるグリムロールの近くの街道。


 転移する前に一度、私だけで転移してちゃんと周りに人がいないのを確認して飛んだ。ので。大丈夫。なはず。多分。



 グリムロールは領内で見て中心よりやや首都寄りの場所にある。


 ヤード先生が言ってた北部のグリッセンも気になりはするけど、私はそんな設定知らないし怖いので関わらない方向で。




 馬車の御者をするのはカムイと、補佐にギルヴィードおじ様。


 そういえば私の知らない間にカムイが16歳になっていた。



 冬生まれらしいが、カーグランドはほぼ気候は変わらない。


 しかしヒューガは日本と同じく春夏秋冬がある。


 現実世界での設定会議では「隣接してるのにおかしいじゃん!」とか色々紆余曲折あったのだが、魔法地盤の影響という設定に落ち着いた。




 馬車に揺られながら『聖女勇者』の設定を懐かしんでいたら、もうベルドリクス屋敷に到着だ。


 領主の館には前々から連絡はしておいたので、屋敷の前では使用人がズラリと整列している。



「旦那様、おかえりなさいませ」


「うむ。大事なかったか」


「はい。しかし数点お耳に入れたいことが……」


 こちらの館の執事と思われる男性とお祖父様が話している。



 その横でお行儀よく待っていたらお祖父様から皆へ紹介をしてくれた。


「マリアが我が領土を見たいというのでな。今回はあまり長居はしない」


「皆さまはじめまして、ベルドリクスお祖父様の孫のマリアです」


 お淑やかに礼をして年相応で大人しそうな令嬢を演じる。



「何人かは覚えていると思うが息子で付き添いのギルヴィードだ」


 ギルヴィードおじ様も軽く目をくべる。



「マリアは先ずどこから見たいのだ」


「わたくし、ベルドリクスが誇る騎士達を見てみたいわ!」


 今後の戦争フェイズでカギになるだろう存在。


 素人目になるからわからないだろうけど、やっぱり見ておきたい。




 騎士の訓練場に足を運んだ私たち一行。


「ようこそいらっしゃいました」


 一番偉いのであろう騎士さまがお出迎えしてくれた。



 領主様直々の視察だ。みんなど緊張だろう。ごめんな。


「我が国の精鋭たちを孫に見せてやってくれ」


「よろしくお願いします」


「はっ」



 お祖父様を待って用意していた兵たちが見えてくる。しっかりと整列し、ポーズをとっている。


 ベルドリクス軍 壮観だ。



 ベルドリクス軍は約1万いるらしい。


 今並んでいるのはグリムロールで服務している兵だけなので、1万には全然足りない。


 ほとんどは国境前の前線基地ゼイベスに居るんだろう。



 カーグランド貴族は約42家、兵役についているのは全部で約12万。


 カーグランドで兵1万を持っている貴族は他に居ない。



「凄いです……」


 私は兵というものと、数というものに圧倒されていた。


 数というのは本当に凄い。自分がちっぽけに見えてくる。



 この軍の偉い人なのだろう……が、真面目な顔で話しかけてくる。


「実は先程近くに大量の魔物の群れが現れたようで、今から一個大隊を動かしてそれを退治しに行く予定なのですが……観に行かれますか?」


 600人ぐらいの戦闘なんて完全に戦争フェイズだ。



『聖女勇者』も、チュートリアルの初戦やイベント戦などで魔物の集団と戦争フェイズに移行するときがあった。


 それに似てるシュチュエーションではある。


「しかし、その……なにぶん荒事ですので、ご令嬢にはいささか刺激の強いものだと思いますが……」


 配慮して心配してくれている。



 こんな人数が戦うのだ。ほぼ確実に死人は出るだろう。


 魔物は何度も死骸を見たが、人はまだ見たことがない。



 怖い。


 人が死ぬのが怖い。


 言葉に出来ないけれど、知らない人だけれど。


 大悪人なら、憎い相手なら違うのかもしれない。



 でも、そんな人でも死骸を見たらどう思うかわからない。


 ゲームなら、液晶から冷めた目で見れた。


 でも今この目の前にいる、兵士さんの誰かが今から死ぬ。



 本当は、行かなくていいならいきたくないし、目を逸らしていたい。


 でも、逸らしたら、私の大切な人たちがいつか死ぬかもしれない。



 それに、この戦争ゲームは私が作ったものなのだ。




「行かせてください。お願いします」



 私は覚悟を込めて言った。



「マリアは私と護衛が守り危なくないところで控えていますので」


「ギルヴィード様がいらっしゃるなら心強い。助かります」


 ギルヴィードおじ様はベルドリクスの嫡男にして凄腕魔術師なのはやっぱり知られているのか。


 私はふうと深呼吸する。


 多分一生慣れないし、ちゃんとは見れないとは思うんだけど。



 薄目くらいの勇気でも許してくれないだろうか
















 私達はグリムロールの城壁の上にいた。


 魔物達はかなりのスピードでグリムロールに向かっていたらしく、もう街に近づいてきて居るのがわかる。


 モンスターの博覧会ってレベルに多種多様な魔物が並んでいる。




「思っていたより多いですね……」


 さすが600人ほどの大隊を動かすほどの騒ぎ。


「凄えタイミングで来ちまったモンだな。狙ったのか?」


「そんなわけないでしょ!」



「ここまできちまってたら城門前で戦うのは良い策だな」


 城門の上に魔導兵士たちが等間隔に配置されている。


「成る程。強力なアタッカーの魔導師に攻撃視点(ヘイト)がいっても遠方への攻撃手段がない魔物は手出し出来ないということですね。師匠!」


「師匠はやめろ」


 カムイも沢山学んでおりこうになってきたねえ



 ……魔導士はそこまで数が揃えられないから貴重っていうのもあるんだろうけど、打たれ弱い魔導士が攻撃受けづらいのは良いよね。



 陣形を組んで魔物を待ち構える。


 まずぶつかって巻き込む前に魔導士達が魔法を撃ち込み始める。


 そこそこ小さい魔物は減らせてるかな?



「それにしてもこんな魔物の異常発生の仕方……」


 ゼルガリオン活動しててもこんなこと無かった。



 基本は1種族が群れで暴れてるのが殆どだけど、今は色んな種族が好き勝手暴れてる。


 こんなの群れじゃない。



「いきなり何百もの魔物が召喚されたみてえな騒ぎだな」


 ギルヴィードおじ様も何かを感じているらしい。



 ただの大量の魔物は兵士によって収まりが見え始めていた。


 大量の魔物が死屍累々で若干気持ち悪い。



 そこに兵士の屍が見えていないだけ、まだマシか……


「なんとかなりそうですね」


 ホッと胸をなでおろしたその時、


「!! いや!来るぞ!」



 土から現れたのは巨大な、一つ目巨人。


 それにブラッディマジシャンが複数体、それを守る魔物も土からボコボコ現れた。



「これは……魔物召喚!?」


「……やっぱり、誰かが故意にやってるっつうことか……」


 ギルヴィードおじ様の額がピクピクいってる。


 こりゃあ完全にキレてる……元の顔がインテリヤクザだからカチコミいくソレな顔になっちゃってる。あかんやつ。



 兵士たちはいきなりの事態に混乱し慌て陣形を崩している。これはやばい!


「大量の召喚士がやっていてもこんなレベルの魔物を出してるってことはもう総力戦です! MPは無いはずです! 落ち着いて対処すればいけます!」


 私がいくら叫んだところで大騒ぎの戦場には届かない。



『落ち着け!!』



 いきなり脳内から喝が飛んでくる。


『これよりこの戦場は私、ブリザベイト=ベルドリクスが指揮をとる。指示に従え!』


 そうして脳内に次々と指令が飛んでくる。




 お祖父様『大将軍』のスキル持ってるの!?


 っていうか戦争フェイズスキルって使えるの!?



『大将軍』は将軍職キャラが持ってる戦争フェイズのスキルで、そりゃあ、めちゃくちゃ強い。自分の軍の統率と防御がアップし、混乱などの状態異常下でも命令が通せるようになる。


 しかも現実だとテレパシーみたいに場所ごとに送れてめっちゃ便利ねコレ。


 さすが軍人伯爵……


 ちなみに『聖女勇者』のギルヴィードおじ様も持ってたけど、ここでは流石にまだ未習得みたいだ。



 私はお祖父様に「兵の皆に強化支援しますので伝えてください」と言い、バフと、敵にデバフをかける。


 この辺りの魔法は使える人もいるし、バリアが使えるギルヴィードおじ様が近くにいるから許容範囲内だろうと出発前に話し合ってた。



 なんとか陣形を立て直してるが、一つ目巨人のラインが苦しそうだ。


 一つ目巨人はレベル30の魔物、レベル20もあるかわからない兵士たちではかなり損害が出る。



「カムイ! お願い、みんなを守って」


「お任せください」


 カムイは前へ走り出てグッと力を込め、翼が生えたかのように高く跳んだ。



「し、身体強化ってあそこまで出来るんだ……」


 一跳びで一つ目巨人に辿り着くカムイにもバフと敵の注意を一身に受けるヘイト蓄積をかける。


 相当効き目があるらしくみんなカムイに釘付けだ。



「父上、マリア、カムイに任せて兵を下がらせろ。撃つ」


 ギルヴィードおじ様の真下から大きな魔法陣が飛び出し、戦争フェイズ魔法を打ち込む気でいる。


 このギルヴィードおじ様の戦争フェイズの魔法は反則級の強さを誇っており最高に使い勝手が良いのだが、ゲームと違い味方には当たらないなんて仕様はないので、ちゃんと退避させないと味方まで強力な魔法の巻き添えを食らうことになる。諸刃の剣だ。



「負傷兵もいる。しばし待て」


 お祖父様は戦況を冷静に把握し、機会をうかがっていた。


 脳内で大パニックの私には到底できない芸当だった。







「参る!」


 カムイは一つ目巨人の棍棒の一撃を左手で防ぎ、力で押し出し巨体を倒す。


「でえええい!!」



「凄え! あの巨体を倒したぞ!」


「ありゃあ『身体強化』だ!」


「今のうちだ、早く!! 指示通り魔法に当たらないところまで退避するぞ! 怪我人は担いで運べ!!」



 カムイには他の魔物からの攻撃も集中しているが、持ち前の身体強化と私のバフで25レベルと30レベルの差を跳ね除けて戦えている。


 しかしカムイに向かってブラッディマジシャン達が一斉に魔法を飛ばしてくる。


 この世界の魔法は強力だ。当たったらひとたまりもない。


 しかしカムイは気にせずマジシャン達に突撃する。


 ちょっと!!



「そんなの当たったら、うちのカムイが!


 死んじゃうでしょうがーーーーっ!!!!」



 やめてよ~~~~~!! とカムイの前に強力なバリアを張り、一切を弾き返す。


 弾け飛んだ魔法の中からカムイが飛び出し、マジシャン達に斬りかかる。


「うおおおおおお!!!!」




「すげえ!! 今の何だ!? 敵の魔法が消えたぞ!?」


「あの小僧ただ者じゃねえ……!」



 ギルヴィードおじ様はため息を吐きながら私に忠告をした。


「マリアあの突撃バカにもう一回バリア張っておけよ。死ぬぞ」


「ひえっ、は、はい……」


 ギルヴィードおじ様が魔法撃つから退避しろって言われてるのに……テンション上がっちゃったんだな……。



 カチコミ顔のギルヴィードおじ様は光から現れた大きなガトリング砲のようなものを構え、

 魔物のいる方向へ向けて


「殺す……ッ」


 散弾のようにダダダダダと軽快な音を鳴らして無数の魔法を飛ばした。


 魔法の使い方まで極道だよ……。




 魔物は殆ど残骸が残らず地面は抉れ、炭になって消えていた。これがオーバーキルというやつか……。


 勿論カムイも渦中で巻き込まれている。私のバリアがなかったら間違いなく死んでる……。



 みんな間違いなくそう思ったが、堂々と生きて戻ってきたカムイに目を丸くして胴上げしていた。


 カムイは「神ラフィエル様のお導きです」と至極堂々と答えていた。



 ここで姫って言っちゃいけないのは理解してるらしい。





「チッ これで終わりか。マリア、探知とか出来ねえのか」


 自分の領土(シマ)に喧嘩を売ってきた人がどうにも気に入らないらしい。


「えっと、ラフィちゃんに頼めば……」


「それはやめろ」



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