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002 こ、これ乙女ゲームだし……

 ◇



「おい、ゼル。ここから先は二人じゃ危ねえ」


「だーいじょうぶだってヴィード。俺とお前なら最強だろ」



 獣道をざくざくと進む男二人。


「いくら万全つっても最悪の事態を考えられるようになれ。相手はグレートウルフだぞ」


「そういうのはヴィードに任せる。俺が行く道をお前がなんとかする。ほら完璧だ」


「ったく……」


 辺りを警戒しながらも獣の足跡を追いかける。



 ゼルと呼ばれた男は野生味溢れる冒険者に見えるが、どこからか気品が感じられた。


「確かに厄介っちゃやっかいだよな、正面から行きたくないからって罠張る時間も囮もないし」


 ヴィードと呼ばれる男は癖になった眉間のシワを更に濃くし、冷たそうな印象を更に深める。



「すばしっこいのに力も強い。頭が弱いところを狙いてえところだが……」


「これ以上周囲に被害は出せん。この方向……なんか獲物でも見つけたか? 大変だ、急ごう」


「ああ」









 ◇








 ――少しゲームの話をしよう。


 今大ブレイク中の乙女ゲーム『聖女勇者』


 普段美少女ゲームを製作している〈スターズソフト〉初の乙女ゲームで、その経緯からか乙女ゲームとしては少々異色。


 美少女ゲームを作る会社らしいゲーム性に富んだ内容になっており、設定としては異世界から召喚された主人公兼ヒロインが仲間を支援魔法や回復魔法で支援する『聖女』として仲間と共に、魔物と戦ったり他国からの侵略を防いだりする。



 各国ごとに攻略キャラクターが配置されており、一緒に戦う開始するイケメンを選び、イケメンを奪って天下統一をするという歴史シュミレーションのような国取りゲームになっている。


 女性向けゲームで難易度を調整する為に、魔物を倒してレベルを上げれるRPG的な要素も(軽くではあるが)搭載されており、更にそこで好感度も上げれて全員の好感度上げも簡単な『逆ハーレムゲーム』である。


 美少女ゲームによくあるハーレムゲームの逆パターンだね。




 ただ、題材が『戦争国盗りゲーム』なだけあって話は乙女ゲームにしては重く、キャラクターもそれぞれ戦争により暗い過去を持つ。


 そんな重厚な話が話題となり一躍人気となったわけだが、キャラクターたちが幸せになってほしいユーザーの声に応えるIFの世界が求められ、こうして新作を作るに至った。



 外の世界で数ヶ月、毎日『聖女勇者』の可能性について模索し、スタッフ達と意見を交わし考えてきた。



 ヒロイン、相手役のキャラ達が……もし違う出会いかたをしていたら。


 味方にならなかったキャラをもし味方に出来るのなら。


 もしヒロインが、もっと昔から存在していたら――








「だだだから主人公兼ヒロインがチート持ちっていうのもアリだと思うのね……ッ!!!」


 震える声で自分を正当化するこのヒロイン。いつか悪役令嬢に成敗されるぞ。



「ガァアアアア!!!」


「きゃああああああ!!!!」


 ガキンッと私の周りに円状の結界が出たことに、私も魔物も戸惑った。


 何度魔物が襲い掛かっても私に攻撃が通る様子はなかった。



 これが私に対して攻撃を無効化するチートである。


「チートがなかったらもう50回は死んでた……」



 竦んで足も動かない。


 平和な世界の平和の下で生きてきた。



 大きな犬といったら鎖に繋がれて当たり前。


 そんな感性の――しかも今は幼児である――自分が、普通の狼より数倍大きい魔物に捕食者の目で睨まれたら勝機など一つもなかった。



「しかもヒロインって攻撃魔法ひとつも持ってないし……」


『聖女勇者』のRPG画面の戦闘は完全支援型のヒロインを守る様にして戦う。


 攻略キャラが戦闘するわけだが、戦闘不能になると好感度が落ち、ヒロインが戦闘不能になるとゲームオーバーとなる。


 平和な世界から来たか弱い女の子というだけあってヒロインはめちゃくちゃ紙防御。すぐ死ぬ。



 なので管理画面のチートモードで〈ヒロインに害を与えるものを総て弾く、無効化するバリア〉というものが搭載されていた。


 つまり戦闘で絶対にゲームオーバーにならない仕様になることでサクサクプレイが出来るというわけだ。



「乙女ゲームだもんね! 戦闘重視なわけじゃないし! ね! シナリオありきみたいなピンチを救ってくれる攻略キャラクターがご都合よく来てくれるわけじゃないから!! これは良バランス!!」


 自分を擁護してないと正直、正気を保っていられない。


 その理由はバリバリとバリアをなんとかはがそうと躍起になっているグレートウルフ2体。




 どんな強力な攻撃でもかすり傷すら当たらない。


 この世界の創造主すら創った創造主のプログラムである。この世界の誰もが敵わないだろう。


 そうは頭が理解しても



「ギャウウウウ!!!」


「ひえぇぇ〜〜〜〜〜〜っ!!」



 爪でバリアを削るように張り付きながら、よだれをダラダラとたらした殺意しかない巨大な狼を見て、とても平静ではいられない。


 しかも仲間を呼んだのか3匹に増えた。もうダメぽ……


 私は大パニックに陥りながら小さくうずくまっていた。



 戦闘システム的に主人公は回復などの支援のスペシャリストで、戦闘が出来ない。


 なので一人で戦う時点で詰みなのだ。



 だからといって平和ボケもいいとこな私が戦ってこの恐ろしい魔物を倒せるとは思わない。


(戦うヒロインにしなくて良かった……)


 自分の身になってつくづく感じた。



 この状態は精神衛生上大変よろしくない。絶対夢に出る。


 しかもこのままだと詰みで消される可能性すらあった。


 でも恐怖で完全に腰が抜けてる。


 どんだけビビりなんだ……私は……いやでも戦争も味わったことない平和ボケな日本人ならこんなもんだろう。



「ファンタジー完全に舐めてたわ……」



 そうボソリと呟き、この狼が飽きるまでじっとしてるか、またラフィちゃんを呼んでどうにかしてもらうしかないのかな……とさめざめ縮こまっていたら



「おい! 無事か!!」


 ガサガサとそれなりに身なりの良い青年二人が駆けつけてきた。



(発言からして救援……! 神様ありがとう! って神様は(ゲームマスター)とラティちゃんか!)


 見た目からして山賊じゃないことに安堵しつつ、二人に助けを求めた。



 大きい狼はお兄さん二人に距離をとり臨戦態勢を整えた。


「おいゼル待て。相手は三匹だ。報告より多い。オレたちで倒せるのはせいぜい一匹か二匹だ」


 神経質そうなお兄さんは旗色の悪さを感じ取ってか顔が更にキツくなっている。



「そうは言ってもお嬢ちゃんをみすみす見殺すなんて出来ないだろ!」


 しっかりと鍛えられた身体のお兄さんは好人物のようで正義感が強いらしい。


「……チッ おめえの言い出したら聞かねえとこ、直した方がいいぞ」


 そう言われた神経質そうなお兄さんも本を取り出し共に戦ってくれるようだ。



「あ、ありがとうございます……!」


 そんな二人のナイスガイを見て感動をした私は明らかに旗色の悪いこの状況、何か出来ないかと考える。


 私は一人では何も出来ないが、支援だったらプロフェッショナル(のはず)だ。


 どうやって発動するのかはわからないが、とにかくお兄さん達が守られるようにと必死に祈ってみる。自分を助ける為に人が死んだら嫌だ。



「っ! こりゃあ……」


 神経質そうな青年が微かに驚いたような仕草をしたが熱血漢な青年は気にせず飛び出して行った。


「行くぞ!」


 戦闘が始まったが狼三体と前衛一人じゃ完全に劣勢……てかあの怖そうなお兄さん、本から魔法出してる……! 凄い!!


 さっきの祈りも効いてるのかわからないし、もっと効果的な作戦を考えないと……



 後衛のお兄さんはやはり魔法使いか危ない一撃には簡易バリアを的確に張り、前衛のお兄さんも守ってる。


 この世界はヒロイン上げの為に支援魔法が使える人はかなり稀という設定になっていた。


(なのにバリアが貼れるということは相当な腕の人だ……!)


 二人の連携はオンラインゲームのスーパープレイを見てる様に鮮やかで、この人達相当強いんじゃないだろうか……



 しかしそうこうしているうちに前衛のお兄さんだけでは相手しきれず後衛のお兄さんにも被害が出始める。


「あ!」


 後衛のお兄さんに気をとられた前衛のお兄さんに狼がかぶりついた!



「ぐあああああっ!!」


「ゼル!!」


 どうしようどうしよう!



 前衛のお兄さんから血が大量に出ている。信じられない光景だった。


 それだけで目眩を起こしそうな身体を必死に支える。



 考えろ、考えるんだ! 人の生き死にが今目の前で起ころうとしている。震える手を握りしめる。


 先程のバリアを見る限りゲームマスター機能が正しく機能しているならヒロインがもてる全てのスキルを習得しているはず。


 その中にこの状況を打破出来るもの……!



「………………!」








 ◇







「っクソッ!」


 正直かなり危ない状況だとゼルは理解していた。


 一匹だけならともかく三匹もいるとは……グレートウルフは群れの方が強い、頭は悪いが仲間意識が高いのか連携も上手く一匹を集中して倒すと言うことが出来ない。


 血が無くなり頭もクラクラと身体がいうことを聞かない。



「これじゃジリ貧だぞ」


「わかってる!」


 少女だけでも逃げろと言うべきだった。しかし見たところ腰が抜けて動けないだろう。


(くそっ! 何か手は……)



 そう思っていた矢先、そのくだんの少女が光輝き始めた。









 ◇









 私は祈りながら狼の注意を自分に引きつける……ヘイト蓄積スキルを使うってこれでいいんだろうか。


 普通のプレイではメイン盾キャラに使ってダメージコントロールのヘイト操作をするんだけど、今回は私に使っている。



 狼達は三匹とも標的が私に移り、またバリアをバリバリと攻撃してきた。


「ひえ〜〜〜〜〜〜!!」


 成功だ!



「わ、私が敵を引きつけます!! お兄さん達はその間にやっつけてください!」


「!!? 君は……」



 急にあの二人のお兄さんの間に連携の中に入ったら邪魔になってしまう。


 本来ヒロインの体力は最低で防御もペラッペラ。普通に考えて悪手であるが、でも私には最強チートバリアがある。



 絶対に攻撃を受けないチートバリアとヘイトスキル、最強の組み合わせを発見してしまった……(ただし攻撃はできない)


 唯一の難点と言えば……


「ガウウウウウッッ!!」


「ひえええええっ!!」


 めちゃくちゃ怖いということくらいだ。






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