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018 選ぶ為の力

 

「お祖父様やギルヴィードおじ様はよくこんな界隈のなかでやっていけるなと思いました」


 私は貴族社会の率直なめんどくさいという感想をおじ様と二人話し合っていた。



「オレはゼルに付いてくつもりだったからな。大きな役職には付けんだろうし、魔導士として認識されていたから気楽なモンだったぞ」


 魔導士は適性がないとなれない、レアな職業だ。


 貴族でも平民でもMPを持った上に魔法が放てるという人間はなかなか存在しないらしく、そちらを優先しても許されるらしい。


 いいことを聞いた。


(私も魔導士の端くれだし、いざとなったら魔導士として生きてこう)



 私はギルヴィードおじ様の部屋で〈聖女の力〉を調べたいというおじ様に協力していた。


 原作にもあるギルヴィードおじ様の魔導マニアな探求心だ。


「ただしエッチなことはダメですよ!」といったら絶対零度の冷たい顔で見られた。


 ぐすん。ゲームではあり得る話なのに……



 まあ10歳の子供に30代アラサーが手を出すって現実に考えると正直無いよね。


 いやあったとしてもそんな攻略キャラクター嫌すぎる。没だ。


 この年齢で出会ったからギルヴィードおじ様とはいい関係が築けてる気がする。



 少しでも聖女の力が解明出来れば回復魔法が世に広まるが「ヒロインの力は何者にも替えられないものであるべき」と開発チームが決定した決定事項なので、力を持つのはヒロインのみなんじゃよ……ごめんな……


「子供は生まれ持ってる設定にする?」って話も出たんだけど、美少女ゲームに毒された開発スタッフたちが「そんなの苗床エンドじゃないですか!!」と口を揃えて言ったのでそれも無くなった。


 初期はアダルトゲームだったしバッドエンドとしてそれでも良いんじゃ? って意見もあったけど女性向けの内容じゃないと却下されてる。却下されてよかった……。



「姫、お茶をお淹れ致しましたのでよろしければ」


 護衛兼使用人のカムイも側に控えている。


 内緒話しながらお茶とか色々出てくるのはとてもありがたい。



 私の身体の周りに検査用の魔導具やら魔法陣やらが張り巡らされ、なんかX線検査を受けてる気持ちになる。


 ギルヴィードおじ様の分もデータのメモを見ながら用意してある紅茶を飲んでいる。



 特に話すことがなかったので「あ」と、先程ソフィア嬢と会話していた時に思ったことを相談してみた。


「戦争を見据えて動かないとなので、王太子争奪戦の混乱に乗じて有能な人材をシグルド殿下からもらって無能を押し付けたいんですよね」


 クックッと笑いながら私の魔導配列データをメモしているギルヴィードおじ様。上機嫌だ。


「こんな平和な世の中で戦争の気配を感じている奴なんてこの国では父上とおめえくれえだろうよ」



 だって本当に起きるんだもん。


 企画上の設定は三国志や戦国時代と同じ群雄割拠。



 この国には『人の悪意や怨念という魔から生まれる魔物』という私たちが良く討伐している魔物が存在していて「それが出てくるのは国がたくさんあっていがみあっているからだ! だから統一すべきだ!」っていう大義名分を掲げて天下統一をする為にみんなが戦争するのが端的なストーリーになる。


 そんな中でヒロインの聖女を召喚する事に成功した国が現れる……というところが冒頭となる。


 ラフィちゃんに「魔物消せない?」と聞いたら設定として魔物を作っているのはラフィちゃんを作った私たち外の世界の創造主(制作スタッフ)でありその根本を容易く消すことは不可能だということだ。


 消したら物語が全くなくなるし設定総崩れでこの世界も崩壊して消滅しそうでもあった。


(恋愛攻略とかは置いといてもストーリーの大筋である「魔物を消してクリア」することは絶対やらなきゃいけないストーリーラインだと思うんだよね)







 思考の海に投げ出されていたところをギルヴィードおじ様が引き戻してきた。


「おめえは貴族の仕分けをしてえって簡単に言ってるが、無能か有能かどう見分ける?」


「そうっ! そこなんです」


 その問題があった。



 ひよこよろしく有能無能鑑定なんて規格外大天使ラフィちゃんでも無理だろう。


 そもそもとして性格設定のないラフィちゃんは感情の機微にも人間に関心が無さすぎる。


 『こいつはこんなところが得意』なんて針穴に糸を通すような行為をラフィちゃんが出来るとも思えない。



 私がお手上げで黙っているとギルヴィードおじ様は話題を変える。


「戦争は先に用意した者が有利だ。本当に戦争が起きるなら我が国はかなりのアドバンテージを手に入れていることになる。周りを囲まれた小さい国なら尚更」


 機械的に私の魔法の流れをメモして考えるのは後でやるつもりなんだろう。


 同時に二つのことを最低限でこなす。頭の良い人とはこういう人なんだなというのを見せつけられまくっている。



 ギルヴィードおじ様はこちらを見ず、馬鹿にしたように私に苦笑をした。


「おめえは血が苦手なくせに戦争準備だけは一人前だな」


「血が嫌いだからこそ防衛準備をしっかりするんです」



 カーグランドは世界地図を見るとプチっと潰されてしまうくらいに小さい。


「戦争なんてない方がいいんです。回避できるならそっちを選ぶに決まってます」


「確かに。力がなければ選ぶことも出来ねえ」



 私たちの会話をカムイも真剣に聞いていた。


 自分に重なるところもあるのだろう。



「力があれば……カーグランドだけでなく、他の国も、救えるかもしれないと思うんです」


「そりゃあ大きく出たな」


 今ベルドリクス伯爵家に匿われている身で身分不相応な発言だとは思うけども。



『私』が一番求めているのはきっと、私の生んだ愛しいキャラ(子供)たち全員のハッピーエンドというIFだと思うから。











 自室に戻った私はギルヴィードおじ様との会話を思い出していた。


「……はぁ……」


 どうやっても人が死ぬ。


 自分で考えた物語なのにひどく悲しい。



 私は外の世界で確かに『創造主』だった。


 名の無いモブなどストーリーの都合でご都合主義に殺していったし、それに感慨を覚えるわけでもなく戦争フェイズもバランスを見て減っていく兵の数字を調整した。



 多分ラフィちゃんも同じ視点なのだ。



 ただ、私の事だけは自分を作った者として大切なものと認識してくれてる。


 唯一の同じ視点の仲間だ。




「ラフィちゃん」


 私はラフィちゃんを呼ぶと光がここに集まってくる。



「マリア」


 無機質な瞳をしたラフィちゃんが私を見つめる。


 私は微笑む。



「今日はラフィちゃんと一緒に寝ようと思って!」


 おいで! と自分のベットの横をぼふぼふ叩く


「寝る……?」


 良くわからないながらも私の横に来たラフィちゃんを横たわらせる。翼が布団から飛び出してる。



「こうやってね、目を瞑って、人間は休むのよ」


 私も一緒に寝てラフィちゃんを抱きしめる。



 ラフィちゃんも目を瞑る。


「暖かいな」


「暖かいでしょう。これが人間の幸せなのよ」


 私は良く知った子守唄を口ずさんだ。



 ラフィちゃんは寝る概念がないから寝る感覚はわからないかもしれないが、静かに横たわっている。


 私には子供はいなかったけど、もし子供がいたら、こんなことしてあげたのかな。




 この世界を創る神様が、私と同じく、人を知って愛してくれたら


 少しは、幸せになるんじゃないかと思った。










 私を起こしにきたカムイの叫び声で目が覚めた。


 なんだなんだと集まる使用人にバレない様に扉を閉じてやり過ごしたカムイはナイス判断だ。


「マリアは気絶しているようだった」


「それが眠るだよぉ……人間はね……これが気持ち良くて大好きなんだぁ……」


 寝ぼけながらもラフィちゃんに説明する。大好き、おふとん。



 まだ眠くてラフィちゃんに寄りかかりながらぐだーっとする。


「大好きなのか。不便ではないのか?」


 マリアがいらぬのなら無くすという創造主



 これをなくすなんてとんでもない!



 たしかに締め切り前とかマスターアップ前とかは眠気なくなったら24時間戦えるのにとは思う時はあるけど、普通に休まなかったら寿命縮んで死ぬだけだからあんまり変わらないと思うんだ。


「ラフィちゃんは万物の知識は持ってるだろうけど、知識としてのじゃなくて、もっとラフィちゃん自身が人間を理解して感じたところを私、見てみたいの」


「マリア……」


 ラフィちゃんは無表情だ。よくわからないときはこの顔をするのかもしれない。



「――マリアがそう言うのなら、そうしてみようと思う」


 うん、やる気はあるけどやり方はわからないってことかな。


「私も考えてみるから今日はお帰り」


「わかった」


 そうしてラフィちゃんはいつものように光になり帰っていった。





 カムイは『創造主ラフィエルに気に入られている』とは聞いていたが、実際に見たのは初めてで「さすがは姫……!!」と感動しきりだった。


 が、「俺も姫にお仕えする身として姫の才気に一々驚かぬ胆力をつける努力を致します」と決意を新たにされた。


 私はあくまでも普通であってラフィちゃんやチート能力が凄いんだよ……ヒロインほどの才気は求めないで……








 身支度をして朝食にお勉強。



 勉強はカムイと一緒に一科目45分。


 15分で予習復習。


 各教師は45分に要約しなくてはいけない。



 という授業方式を家庭教師たちにやらせてみた。


 初めての試みだが、その分のお給料も私のポケットマネーから払ってるので、みんな頑張って時間をうまく使って説明する。


 もっと深く調べて勉強を教えたいというやる気のある先生にはどの本や資料が欲しいのか聞き、必要があればウチで購入して貸し出した。


 頭の良い先生方がオススメする資料はベルドリクス家の知財になるだろうし、貢献よ貢献。



 学校を取り入れてるので、上手く授業みたいにまとめてあったりわかりやすく起承転結な授業作りをした先生には、まだ孫バカを演じてくれているお祖父様に「先生はこうこうこういうところが凄いんですの!」と具体的に褒めて暗にチップを頼む。


 お祖父様のお眼鏡に叶えばチップをもらえるのでwin-winだろう。


 逆にちょっと向いてないなっていう先生にはコッソリお祖父様に言って申し訳ないが外してもらう。



 判断基準は現代日本の小学校から授業を受けてきて目の肥えた私と、一般的なカムイの理解度。


 二人で「あそこはなかったよね」とか言う嫌な生徒だ。



 科目は国語、数学、地理、歴史、貴族図、ダンスにピアノ。あと他国史もちょっと。


 日によって習う物が違う。飽きないようにね。


 時間割は私が作った。



 我ながら嫌な生徒だなと思っていたのだが、金払いの良さか、自分の欲しい資料をタダで貸して読ませてくれると評判になったらしく、教師役が殺到しているらしい。


 なので時間割に『挑戦者枠』を設けて自分の得意な知識や技を披露してもらうことにしたら? と言ったら何故かお祖父様とギルヴィードおじ様に好評で、保護者として観に来ている。


 勉強が始まった時から導入してたけど最近やっと軌道に乗ってきたかな? って感じだ。









 お昼を食べて、午後は外でレベル上げ。


 私は頭が並なので、一気に詰めてもそんなに覚えられない。


 4時限目は体育ってことで身体を動かす。



 体育って言っても動くのはほぼカムイで、私はあまり死骸を見ないようにギルヴィードおじ様とこんなことを授業で習ったと復習ついでに話す。


 ギルヴィードおじ様は元々知識欲が高いので「その文法の使い方は間違っている」とか教師のミスすら指摘してくる。逆に知らなかったことなどがあると結構食いついてきて教師の名前まで聞いてきたりする。





 そんなことを話していたらカムイの動きに違和感が生まれ始めた。


「……っ!?」


 なんだか不自然な動きになっている。



「カムイ? どうしたの?」


「姫、あの……その、どうにも身体から力が漲ってくるような……」



 戸惑っているカムイにギルヴィードおじ様が近付き腕を掴んだ。


「スキルが発動してるな」



「スキルが!?」


「まさか!!」



 カムイが念願の身体強化に目覚めた!


 15歳の快挙である。



 私たちは魔物狩りを中断し家の魔導具でカムイを調べた。



「『身体強化』……バッチリ表記されてる! ほら!」


 見て! と私は大喜びでカムイに見せた。


 カムイは驚きのまま固まりつつその文字を見つめていた。



「何!?」


「本当なの!? マリア!」


「そうよ! 見てお祖父様! お祖母様!」


 カムイのステータスが念写された紙を見せる。



 そこにはしっかり『身体強化』と書かれた文字がある。



「今日はお祝いね!」


 にこにことしている私に周りのテンションは付いてこなかった。


 私は嬉しくて周りに寄ってきた使用人達にもカムイの断りなく見せてまわる。が、皆ぽかんとした表情で驚いたままだった。


 ……あれ? 


 信じられてないのかな? と


「ギルヴィードおじ様に身体強化の基礎知識やらは全部叩き込んでもらってますから、今から実践してもらってもいいですよ!」


 ねえおじ様! とギルヴィードおじ様に振るといつものように「そうだな」と返ってきた。


 しかし私たち二人が異端みたいな空気は変わらない。



「あっ! そうだ、身体強化のご褒美にカムイの刀と防具を作ったのよ。育ち盛りだからすぐ大きくなってしまうだろうけど、やっぱり大切だと思うの」


 そう言って私は収納していた魔法のバッグから用意していたカムイの鎧を取り出した。


 カーグランド風にアレンジされてるけど、和洋折衷ななかなかにイカした鎧だ。


 ゼルガリオンの影響か製作元だからかスタイリッシュな和風騎士みたいになってる。



 刀と防具を放心状態のカムイに向けるが皆時が止まった様に動かない。


(んん~~……??)


 私は周りの空気が全く読めていなかった。



「ま、まさか、本当に……?」

「でもこれは紛れもなく……」

「えっ?! レベル19!?」

 ザワザワと騒然とする場


「えっ? えっ??」



 ――前から「カムイは身体強化が出来る!」と私が豪語していたのだが、お嬢様のお気に入りへの可愛がりだろうと誰も信じていなかったらしく、家族も使用人も驚いていた。ということらしい



 マジかよ。



「ひ、姫のおかげで、俺は……っ ……っ!」


 カムイもホッとしたのか泣き出している。



 知らない土地で売られるようにして少女に連れてこられ、身体強化が出来ると言われ続け、周りからは夢見がちなお嬢様に付き合わされてと哀れまれ……



 地獄かよ。



「ご、ごめんね、誰も信じてないなんて思っていなかったの。さぞずっと居づらかったでしょう。私のミスです」


「い、いえ……っ! それを言ったら、俺も、姫を信じきれておりませんでした……姫の仰ることなら、本当のことと、当然の顔をせねばなりませぬのに……っ!」


 いやいや15歳には酷だよそんなの。



「心と別の行動をされても嬉しくないわ。カムイ、これからも素直な心のまま、真っ直ぐに私を支えてね」


「は"い"……っ!!」



 今日の夕飯はご馳走にしてもらったし、

 使用人たちもカムイに謝罪やお祝いをしたようだ。


 カムイが本当の意味でやっとベルドリクス家に馴染んだ日なのかもしれない。


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