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104 ゲルベルグの弱点 

 今日のゲルベルグ邸訪問にはカムイは同席していない。


 私は力を使いすぎて休んでいると言い訳が出来るがカムイがザックベル内で姿を消せる理由があまりないのだ(昨日は私が慣れない土地で気が休まるように好物を買いに行くなどしていたということにしていた)


 今は私が居ない部屋の前で護衛として扉番をしてくれていることだろう。



 その為、紅茶は従者の心得のあるフィンスターが三人分淹れてくれ、一緒にソファに腰かけ三人でお茶会をする。


 後ろに控える人のいない空間は気兼ねない雰囲気で私はなかなか嫌いではなかった。




「それにしても使える人材だけ引き抜くつもりが、また随分と規模が大きくなりましたね」


 フィンスターは自分が淹れたお茶を飲みながらゲルベルグさんが用意していたお菓子に手を伸ばす。



 ――レヴィンを雇い、リーベを引き抜きに行き、レオンハルトを救出しに行ったと思えば、次はヴァンデミーア国自体を救うことになっている。


 まるでわらしべ長者のような感覚に襲われながらも、私は現在のヴァンデミーアの状況をもう一度整理してみた。



 ・敗戦による戦争賠償、国規模の借金


 ・貴族同士による戦犯の擦り付け合いに殺し合い


 ・民は圧政に苦しみ反乱を準備中



 ……聞けば聞くほどヴァンデミーアは『詰んだ』状態である。


 ほぼ100%確実に自滅するコースをじわじわと辿っている段階だ。


 私だって色々考えたけど「全部は救うのは無理だから出来るだけ救おう」とリーベとふわふわな協力関係を結んだくらい無茶な状況だ。


(私ですらわかるそれを当の本人(ヴァンデミーア貴族)たちが気付いてないのが不思議なくらいなんだけど……まあ渦中にいるとわからなかったりするよね)



 そうヴァンデミーア貴族達の視野の狭さに悩ましく思っているとフィンスターはカーグランド側の見解を教えてくれた。


「カーグランドとしてもヴァンデミーアは崩壊すると読んでいます。その後、他国に盗られる前に取り込むタイミングを上層部は話し合っていますね」


「……それ、言っていいやつなの?」


 カーグランド上層部の結構な機密情報をペロリと口に出すフィンスターに少し驚いた顔をすれば、いつもの食えない笑顔を送られた。


 どうやら本当にギルヴィードおじ様より私についてくれる気らしい。



「レオンハルトの計画に乗るとなるとこちら(マリア側)の降伏作戦が失敗した時のデメリットのほうが大きいですからね。マリアさんも上層部の動きを知っていた方が楽でしょう?」


 国を運営する側の人間は国民にリスクを負わせるようなギャンブル性の高い決定はしないのが殆どだ。


 今回も確かにこちらの方が失敗した時(国のマスコットキャラクター的な私が失脚するなど)色々困った事態になる。



 そんなことになったらやっと安定した幸せな暮らしを手に入れられたリルムちゃんがふりだしに戻ってしまうのは困る……といったところだろうか。



「確かに助かるけど、軍隊規律としてどうなの、それ……」


 他国情勢はともかく自国の最重要計画は言うなって言われているんじゃ……とは思ったが、裏切り行為はお互い様である。


 それに人間のお偉いさんよりも神獣の方が格は上であるし、命令できる立場でもないのを『リルムがいるからやってあげてる』という契約でやっているわけだ。


 私に横流ししたとしてもスパイとして世界最高峰のフィンスターの替えなど居ないのだから多目に見るしかないだろう。



(私もフィンスターも、結果より規律やルールに拘るタイプの王なら発狂ものの問題児だな……)


 聖女と神獣という権力を十二分に使っている自分を思い返し……いや、返さないでおこう。振り返ってはいけない。うんうん。



 リルムちゃんの幸せの為ならその当のリルムもギルヴィードおじ様も平気で裏切るのは相変わらずのようだ。


 逆を言えばリルムを抑えている(奴隷にしている)私はフィンスターを一番制御出来る存在であり、裏切られる可能性が低い。



 愛が大正義の乙女ゲームの世界で強キャラの想い人を引き入れる行動が最強行動だとしみじみ感じる。


 リルム、リーベという心臓を握られたチートなフィンスター、レオンハルトが此方を裏切る事がないと自信をもってわかる『乙女ゲームという世界の定義を知っている』私も随分チートキャラであることを棚に上げ、今後の展開を考えた。




 それにしてもレオンハルトはあの気位が高いヴァンデミーア貴族たちをどうやってカーグランドに追従させるつもりなのか。


「もしフィンスターがレオンハルトの立場だったら今の状況、どうしてた?」


 なんとなくレオンハルトに似ているフィンスターに聞いてみると、少し考えるしぐさをしながらもブレない回答が帰ってくる。



「僕はリルムちゃんだけが大事ですから安全な国に亡命一択ですね」


「えっ ヴァンデミーア国は?」


「放置します。特に潰れても困らないので」


 自分の身の丈をよく理解しているフィンスターは物騒ながらも出来る範囲の最善を探すとこうなるのだろう。



「国や領民が好きだとしてもリルムちゃんだけでも嘘を並べて逃がします」


 と実にフィンスターらしい答えが返ってきた。



「リルムの両親が領から出ないって言ってるとしたら?」


「どんな人物かにもよりますが、邪魔になるなら内緒で殺しておくかもしれません」


「ひえ」


 この神獣容赦ねえ



 一番の大国クレルモンフェランからも逃げ遂せたフィンスターほどの情報力があれば、確かに亡命後もどこかの国のスパイとかとして働けるだろうし……


 ――というか今のカーグランドにいる状態がまさにそんな感じだ。



 今の問答でわかったのはフィンスターは『リルムが悲しんだとしてもリルムと共にいられる』ことを大切にしていて、レオンハルトは『リーベが「こうしたい」と言ったことを叶えたい』という方向性の違いだ。


(ヤンデレと溺愛の違いか……)


 ずっと一緒にいたいヤンデレ系フィンスターのようなレオンハルトなら、まずリーベを安全なところに置いて自分だけ死地に行くこともなく二人で逃げるだろうし、似ていても考え方までは同じとはいかないようだ。



「うーん。更にレオンハルトの考えが読めなくなってきた」


 悩める私の横で、涙で顔を濡らしたゲルベルグさんがやっと一言、会話に参加した。



「……それよりも私は、レオンハルトがレヴィリー(レヴィン×リーベ)をどう考えているのかが知りたいです……っ!!」









 ◆









 フィンスターはこのまま二重スパイを続けてくれると約束を貰い、ここで別れた。


 ゲルベルグさんの心の傷が深すぎて会話にならなかった為「とりあえず落ち着こう」と癒しを求めて生レヴィン×リーベ――通称レヴィリー――を見に行くことになったのだ。



 魔通信機でレヴィンに許可を取ってから転移で私とゲルベルグさんで向かうとレヴィンとリーベの他に『今のタイミングでは』最悪の来客者が来ていた。



「あっ、マリア! ちょうどよかった。今日は兄さんが転移魔法で遊びに来てくれたんだ」



 れ、レオンハルト……!!



「ああっ! ゲルベルグさんが固まってる!」



 ゲルベルグさんの心の傷の元凶、レオンハルトが現在進行形でゲルベルグさんの神聖なるレヴィリーの聖域に土足で踏み込んで来ていた。


 それにしても、昨日の今日で!?



「仕事とは、魔物退治は大丈夫なんですか!?」


「隊のみんなも連戦続きで疲れただろうってあの後街に戻って一度休暇を与えたんだって」


 特に昨日のあの戦いは大変だったからね……と兵を気遣える兄をまたもや讃えまくるリーベと、同じソファのすぐ横で優雅に紅茶をいただくキラキラな鉄仮面(無表情)騎士レオンハルト……


 ……多分、そんな優しさのつもりで休暇は与えてないと思う。絶対自分都合。



 原作すぐ序盤のレオンハルトの死をショッキングなものにする為に、リーベの兄自慢もなかなかにブラコン気味だ。


 だが発言は兄に憧れる弟と(ギリギリ)理解が出来る……が、レオンハルトののはずのリーベへの『激重感情』が、言葉はなくとも行動で全面に出てしまっているのが、この場を異質なものにしている。


 同じソファに座るリーベの腰に手を回し引き寄せており、それによってリーベもレオンハルトの方へ身体を預けており距離は近く……形容するならラブラブカップルのそれだ。


 ヴァンデミーアはスキンシップが激し目な国ではあるので、それ……で……? なの……? かな……?



 突然のイケメン達のカップルのような光景という不意打ちを喰らったゲルベルグさんが、これまで見たこともないくらい挙動不審になっている。


 初めて見るレオンハルトにひたすら小声で「顔が良い」と繰り返している。オタクの不審行動の一つだ。


 ラブラブな兄弟の後ろに控える護衛のレヴィンという三人のイケメンを交互に見ながら「脳が溶ける」と苦しみ始めた。



 いつも余裕の表情で強キャラ感すらあった中身が腐女子のゲルベルグさんの弱点はシンプルに顔の良い美形(のBL)なようで


「私は屈しない……!」


 などと女騎士めいた苦悶の表情も忙しく見え隠れしている。



「ヴァンデミーアからカーグランドまで結構距離も遠いけど、MPは大丈夫なのですか?」


 転移魔法は距離でMP消費が変化する仕組みになっているのだが、国境寄りと言えど日帰りでカーグランド首都へ転移旅行は負担が大きいだろう。


 そう心配すればまたもやリーベがにこにこと「兄さんは凄いんだよ」と言ってくる。


 その「凄いんだよ」が嘘でも身内びいきでもないのが困る。



「簡易陣より複雑な陣を敷くことになるけど、完全に連結させたそこだけの移動陣を敷くことでMP消費をかなり削減できそうなんだ。複雑で用意するものが多かったり、行きも帰りも固定の経路になってしまうから簡単な転移としては使えないんだけど……改良してけばもっと良くなるかもしれない」


『愛』の力が大正義の乙女ゲームでは不可能を可能にさせる。


 それは……魔術研究が趣味のギルヴィードおじ様が聞いたら大喜びな発明かもしれないが、私はただただ兄弟『愛』という偉大な力に恐れおののいていた。



 いつも以上にキラキラな花も綻ぶ笑顔で話すリーベは、最序盤の頃のふわふわ王子で、原作のリーベよりよく喋る。


 レオンハルトの死後もリーベは何かと「レオンハルトのようになりたい」と目指し、凛々しくなっていく。


 ゲームが進んでいく毎にどんどん落ち着いた話し方になるのは無言な兄の影響だったのか。



「転移魔法で多少はMPが減ってしまうけど、ゲルベルグさんからいただいていたMPポーションを兄さんにも渡しておいたから大丈夫だよ」


「おぅふっ!!」


「ああっ! ゲルベルグさんが息してない!」


 ポーション販売をしているゲルベルグさんは推しカプのリーベを猫かわいがりしており、魔法銃を使う時のMP補充のMPポーションをタダ同然で貢いでいた。


 その貢ぎ品をカプ違いのポッと出てきた男(兄)に横流しされた衝撃で完全にフリーズしている。



「こちらはゲルベルグさん。あの魔法銃を発明する出資をしたりしている商家の方なんだけど、とても発想が豊かでアーティスティックなんだ。このポーションもゲルベルグ商会より友好の証として頂いたものなんだよ」


「……そうか」


 そう一言口に出し、ソファから立ち上がりゲルベルグさんへ歩み寄ったかと思えば手を差し出した。



「弟が世話になったようで、感謝する」


「ふゃ、ふぁい……」


 キラキラな後光が差したイケメンに握手を求められ、ゲルベルグさんは完堕ちの表情で握手の手を握っていた。



 解釈違いすら顔で殴る。顔の暴力にゲルベルグさんは負けたのだ……。


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