103 きみのためなら死ねる
キャラクターとは三つの要素で表せるような性格にするとわかりやすいと聞くことはあるが、それにしても限度というものがある。
レオンハルトが帰った後、レヴィンをリーベの護衛にしたのはレオンハルトという話や、レヴィンを鍛えまくった為レヴィンがこれだけ強くなったという話を聞いていた。
「ジェノスも兄さんには頭が上がらないみたいでね、やんちゃ期にコテンパンにされてから凄い良い子になったんだ」
「竜を服従させるって……」
憧れの兄の自慢話を満面の笑顔でするリーベだが、レヴィンとジェノスは無言であった。
硬い表情をしている辺り、ブラコン兄によって大変な苦労をしてきたとお察しする。
そういえば、小屋の外にいて番犬の役割であったジェノスはレオンハルトが来ても騒がず静かに伏せをしていた。
このポーズは竜でいう服従のポーズかなんかなんだろうか。
「武闘大会ではジークベルトさんには敵わなかったけど、それ以外には負け無しだったよ」
同じく魔導大会でもノアストティには敵わなかったらしいが、二番手というより万能な印象が強い。
特化型ほど秀でている点はないが、全てにおいてバランスが取れた上で、全てにおいて平均より上なんて実質最強なのではないだろうか。
(そんな師がいたから、レヴィンは万能型タイプの戦士に育ったのかな)
リーベに教える時も理屈が通ったものが多かった。
レヴィンがここまで立派な護衛になったのはレオンハルトのおかげだと、憧れの兄を自慢するリーベはとても楽しそうだ。
ゲームではその後死ぬキャラであった為、リーベは無駄にレオンハルトを持ち上げていたが、今こうやって見ると兄弟仲が異常に良過ぎる。
「平民や貴族関係なく人に接する博愛の精神を持っている兄さんを僕は尊敬しているんだ」
キラキラの笑顔で言うリーベだがレヴィンの表情からは不正解という感情が読み取れた。
大方リーベが平民でも困ってる人を見過ごせず、そんなリーベの願いを叶える為に施している感じなんじゃないだろうか。
結果的に平民からも慕われているらしいから、兄弟バランスまでも見事な兄弟である。
「これはレオンハルト、リーベの為に死ぬだろうな……」
設定で『リーベを庇って死ぬ』とあったが、むしろ『リーベを庇って死ぬ以外にレオンハルトが死ぬビジョンが浮かばない』レベルである。
そりゃあ敵対貴族は無理にでもリーベを誘拐するだろうよ。
◆
数少ない設定を忠実に守ったチートキャラ、レオンハルトと共闘することになった次の日。
「みるみる傷が治っていく……聖女様! 本当にありがとうございます!」
「ザックベル兵達の勇姿がなければ、カーグランドは凄惨なこととなっていたでしょう。わたくし達こそ、我がカーグランドの為に戦って下さり……ありがとう」
ザックベルの民達に声をかけながらリストアップされた人達の怪我を治していく。
ここで3村目、今日のラストだ。
「あの……聖女様……、実は昨日の夜子供が木から落ちて怪我しちまって……その……」
どこに行ってもこの手の追加患者が出てくる。
「まあ大変! すぐ連れていらして」
今回は無礼講ということで、少し余計に治しても大丈夫……だけど、公平性が無くなる為、カムイと一芝居打つことにしたのだ。
「姫! 回復魔法の使い過ぎは姫のお身体に障ります!」
最初大根役者だったカムイも数をこなしてなかなか見れるようになってきたじゃないか。
そのせいか周りの民達もざわざわと不安の声が上がる。
「わたくしは大丈夫です」
「大丈夫ではありません!! この人数でもギリギリな筈です! 使いすぎれば命に関わります!」
勿論嘘である。
「カムイ、これはわたくしの使命なのです。貴方の気持ちは嬉しいけれど、わたくしに出来るのはこれくらい……」
しかし無限に回復は出来ないアピールをしておかねばドンドコ患者が来てしまうし、治したくても治せないという姿勢を示すのは大切だ。
現に今周りの民達は「回復魔法スゲー! ヤッホー!」みたいな笑顔から一変、私を心配そうに見つめる目に様変わりしている。
「貴女さまは替えの効かない存在なのです。貴女さまが今、無理を押して力を使うより、長く生きて沢山の民を救う方が、世界の為になるのです」
「……それはわかっています。しかし、今回の子供だけは」
「……承知しました」
好感度上げのようで申し訳ないが『国の為に命を削って力を使う少女』くらいの方が気軽に頼み辛いだろうし、回復を断る説得力は出る。
連れて来られた子供を治して皆の前から退出する間カムイには仏頂面でいて貰わねばならないのが、なんだかヘイト役にしてしまったようで申し訳ない。
そう思っていたら同行していたカーグランド兵らがカムイを騎士の鑑だと褒め称えていた。
「我々のような国の騎士では国の友好関係にヒビを入れかねない、不利益になるような行動は御法度ですが、カムイ様は聖女様の騎士ですから、聖女様の不利益になることに対して何を敵にまわしても戦わねばならないのです」
国に忠誠を誓う騎士と個人に忠誠を誓う騎士で昇進に差がつくと言うのはこういうことなのか。
効率的に見れば貧乏くじを引かされてるカムイは実に誇らしげで、騎士達もカムイを見る目がキラキラしていて、騎士道というのはいやはや難解なものである。
事前に国同士の摩擦や私のブラック業務の芽を潰してくれたカムイはまさに国を影ながら守る盾として大活躍だ。
この調子で芝居を入れつつまわるとしよう。
ザックベルの政務を終わらせた後、あの場に唯一居なかったヴァンデミーア作戦協力者のゲルベルグさんへ報告しに、カーグランドへまたこっそりと帰っていた。
まったくカーグランドを離れている感覚がないのだが、信心深い国民からは私――聖女が長期間別国に行くのは良くないと訴える声が上がったり、わざわざ私がいる間ザックベルへ滞在するなど、色んな動きがあったらしい。
(大切にしてくれるのは有難いが、少し窮屈だな……)
クレルモンフェランが信用できないと思った信徒の新たな拠り所になっている感が拭えないのだが、私に実害がないことだから無視しておいたほうが良いだろう。
私の行動ででは無く『存在』という幻想が好きな相手に合わせることは出来ない。
キャラに対して様々な想像を働かせるオタクという人種の人間からしたら『最高に自分好みの存在だと勝手に想像し心の支えとすること』を否定は出来ないが、自分の都合で行動は規制しないでいただきたい。
(いずれ私は国を出るだろうし、今後の課題だな)
大富豪となり爵位をもらう予定まであるゲルベルグさんのお屋敷は、前来た以上に厳重な警備でかためられている。
下手な貴族より金を持ってるゲルベルグさんはカーグランドに金を献上してくれたり、国の財産となり得るシャルルの研究への出費と、カーグランドに無くてはならない存在となっていた。
そんなゲルベルグさんを狙う敵国も想定しての厳重警備なのである。
そうは言っても私は私専用の転移陣があるのでスイスイと誰に見つかることなく訪問出来ちゃうのだが。
「も〜〜っ! なんで私が居ない間に話進んじゃうんですか〜〜!!」
約束の時間通りに転移でやってくれば、転移陣の前でゲルベルグさんがスタンバッていた。
その後ろにはフィンスターがいる……が多分、本人の姿をした影だろう。
「マリアさんがレオンハルトともう会っちゃったって拗ねてるんですよ」
「もう知ってるの!?」
その話を今しに来たんだけども!
「マリアさんの行きそうなところには予め影を配置しているんです」
「怖っ!」
そんなことしなくても連れてくから言っといてよと言うと情報収集も兼ねてまわっていますからと、人々を影から見守る神獣は言った。
「でもレオンハルトとの会話内容は影が死んでしまったので入ってきてないんです」
森の中だったから小回りの利く兎にしたんですが、食べられちゃったかなと困った顔で言うと先日リーベがプレゼントした銃でレオンハルトがぶっ放していた兎を思い出した。
「――あの兎、フィンスターだったの!?」
レオンハルトは気付いてやったのかなんなのか……
フィンスターもレオンハルトも、この世界はおっかない男ばっかりだ。
気を取り直し、私は協力者であるゲルベルグさんに謝罪した。
「ごめんゲルベルグさん、レオンハルトとの合流が予想より早くて……」
あんなの予測しろというほうが無理な話だ。
忙しいゲルベルグさんに毎回御足労していただくわけにもいかない。
それは理解しているだろうが、特にヴァンデミーア箱推しな彼――彼女は是非あまり出たことのないリーベの兄を生で見て見たかったようだ。
「あっ! でもレオンハルトには今後会えると思うよ!」
「どういうことですかな?」
私はレオンハルトを逃す手伝いに行ったのに、レオンハルトがヴァンデミーアを鎮静化させる為に乗っ取りカーグランドに差し出す計画を立てている由を説明した。
展開を説明していく毎にゲルベルグさんの顔は暗くなっていく。
座ったまま前傾姿勢で机に手をかけて頭を下げて明らかに落ち込んでいる。
今までで見た事のないゲルベルグさんに少々心配になった。
「えっ、ごめん……。そ、そんなにレオンハルトに会いたかったの? ネタバレ駄目派?」
「いえ、そうではなく……」
少し身体を起こすが肩を起こし、ゲルベルグさんは叫んだ。
「レヴィン×リーベだと思ってたのにまさか兄の方がリーベLOVEだったなんて!!」
解釈違いです!!
と机に突っ伏し、泣いているようなポーズを取り出した。
…………ああ……。
オタクにとって新キャラの投入による相関図の変化はかなりナイーブな問題であった。
恩人のリーベに過保護なレヴィンという構図から、リーベの為なら死ねるとかいう激重兄が出てきて、レヴィンが過保護なのはレオンハルトの影響かもしれないということになれば、根底を揺るがす大事件なんだろう。知らんけど。
「……とにかく、ヴァンデミーアが平和的に恭順してくれるのは、今までのふわっふわな『救えるだけ救いたい』って作戦より断然現実的だよね」
傷心のゲルベルグさんを放置し、私はフィンスターと会話を続けた。
「そうですね。ギルヴィードさんがなんて言うかはわかりませんけども」
あの敵に情け容赦ないおじ様なら「立て直した後属国撤回するかもしれないしヴァンデミーア貴族は全員殺せ」とか平気で言いそうである。
シグルドとの派閥争いの時から危険な芽は全て取り除いておきたい派だった。
「……もうちょっと、ギルヴィードおじ様には内緒にしといて……」
文句が言えない程計画を進めてしまえば黙るだろうと期待して、おじ様に邪魔されないよう秘密裏に行おうと決意する。
「契約がありますから聞かれたら答えますけど、自分からは言わないようにしますね」
リルムの衣食住を確保する為にギルヴィードおじ様の元で働いているフィンスターであるが……
「リルムと結婚した今、フィンスターが契約しなくてもちゃんと面倒みるんじゃない?」
ていうかそうしてくれないと夫としてイヤだけど。
そもそもリルムは奴隷契約されていて、ご主人様は私であり、今現在の状況を見るに私を優遇する方が大切じゃないのと屁理屈を言えば、それもそうかとフィンスターは納得するように頷いた。
よし! おじ様が人の心を取り戻したおかげでフィンスター獲得レースで有利になってきたぞ!
と内心ガッツポーズをする私に
「まあ、リルムちゃんが幸せなら僕はどっちでも良いですけどね」
いい笑顔でどうでも良さそうに微笑むフィンスターと……レオンハルトが、見た目は全く似ていないのにとても被って見えた。




