101 レオンハルトチャレンジ
若干の不安を感じながらもレオンハルトと合流すべく、私たち4人は竜のジェノスに乗り国境線近くへ向かう。
「今も近くにレオンハルト様の隊は見えるんだが、まだ少し遠いな」
こういう時、魔物を生み出す能力のある魔人連邦ガノンの攻略キャラクターであるグレンのような召喚士が居れば上手く誘導できるのだが、魔物を生み出すなんて行為は連合国で禁止されている。
魔物は人間の負のオーラから出来た存在であり、災厄であると教会の教えにある通り、召喚士の存在を公にしているのは魔人連邦ガノンだけだ。
公にというのは、この世界、ほぼ全ての国で『突然どこからともなく表れた魔物に殺される貴族』が後を絶たず「実は召喚士を隠れて飼ってる国、絶対あるでしょ」ってことだ。
といってもほぼ全国で禁忌とされてる術だし、世に知れ渡っていないものなので、その術が使える人なんてそうそういないのだが……そう考えると攻略キャラクターのグレンは相当希有な能力を持ったキャラクターと言えた。
よくよく考えればなんて使い勝手の良いキャラなんだグレンは……
……って、グレンを仲間に出来ていないのにそんなこと考えても仕方ない。
私は現実に頭を引き戻し、竜に乗った上空から少し遠くのレオンハルト隊を眺めた。
「レヴィンは魔物をどう誘導してたの?」
「やってみせますか」
そう言ってレヴィンは手綱をリーベに預け、カーグランド側にいる魔物に向かって竜から飛び降りる姿に私はつい悲鳴を上げてしまう。
「わーーーっ!!」
「大丈夫、レヴィは身体強化があるから落ちても怪我しないよ」
そうとわかっていても心臓に悪い。あんまり無茶しないでくれ……。
初めて竜に乗った、身体強化が出来るカムイも「なるほどそんな使い方が」とか学習しないの!!
レヴィンは軽く戦闘を繰り返し、つかず離れずを保ったままヴァンデミーア側に魔物を誘導していく。
倒してしまわないように力加減を調整しながらずっと敵の攻撃を避ける、防御しなければならないのでこれは怪我をしても仕方ない。
私はレヴィンに防御を上げる強化の支援をすると眺めていたカムイが無駄のない動きを褒めながらも「これは防御特化の自分の方が危うくないかもしれませんね」とつぶやいていた。
レヴィンは万能型でバランスが良いのでなんでもソツなくこなせるのだが、特化型であるカムイがいるならば確かにカムイ向きである。
「でもやっぱりレオンハルト隊からはまだ遠いね~」
随分と誘導で移動してヴァンデミーア近くに迫ってはいるものの、レオンハルト隊のキャンプ地までは遠い。
「この距離ではあちら側からも認識可能な距離でしょうから、監視はされているでしょうが……」
魔物退治でこっちに来てしまっているというのは理解されているからか厳戒態勢で武器を向けられているとかはないようだ。
「もう少し近くに寄れたらいいんだけど……」
そう歯痒そうに見つめるリーベと同じく難しい顔になりながら私も頭を悩ませた。
「ここでレオンハルト隊の近くにも魔物が出現してくれたら加勢するフリが出来るんだけど――……そんなウルトララッキーなことなんて……」
……ん?
はた、と動きが止まった私をリーベは不思議そうに見つめた。
「どうしたんだい? マリア」
そう綺麗な瞳で見つめてくるのは『幸運王子』と名高い、運ステータスナンバーワンのリーベ。
(私の支援魔法で、リーベの『運』の値を上げたら……どうなる?)
回復とステータス上昇しか能が無い聖女の私ではあるが、その二点においてはかなりの性能なハズだ。
防御や攻撃や速さなどの値が上げれるんだから、幸運値も上げれるのでは?
「リーベ、ちょっとレオンハルト隊の近くに魔物が出現するよう願ってくれない? 心から!」
「え? う、うん。わかったよ」
「私の魔法でリーベが願ってることを叶えれるか、試させてね……」
目を瞑り見た目からも真剣に願っているリーベに全力の「運が上昇する支援魔法」と念じて魔法をかける。
そう魔法をかけるや否や、レオンハルト隊キャンプ地の近くから黒い渦が出来始めた。
「姫! あれは……!」
「え、SSR……!!」
「えすえすあーる?」
ガチャ大当たりのエフェクトを見たような感覚になりながらも、魔物が生成される様子をジェノスに乗って上空から眺めていた。
レオンハルト隊も異変に気付き、戦闘態勢を整えている。
ガクン、と高度を下げるジェノスに驚いた束の間、地上でいつの間にか魔物を倒していたレヴィンを拾って再び空へ舞い戻った。
「お嬢さん、またアンタなんかしたんですか」
「いや、えーと、したというか、運が良かったというか……」
「はあ?」
簡単に言うとリーベの運値による運ゲーに勝った。のだが、どう説明していいかわからないままでいたらリーベが興奮したようにレヴィンに説明していた。
「レヴィ、マリアは願いも叶えられるんだ。凄いな」
「えぇ……坊ちゃん、どうしたんですか」
「いやっ、あのね、それはちょっと語弊で」
「姫、魔物が誕生しそうです!」
カムイが慌てた様子で言った方向を見れば、思っていたよりも、これは……
「結構巨大なのが出たね……」
昔、ギルヴィードおじ様が大魔法で一瞬で殺していた一つ目タイタン種族だ。しかしあの時の青色ではなく、より強い赤色タイタン。
その他にも部下のように狼のような魔物も一緒に沸いて出ている。
「巨人型の魔物だな。あれは倒すのに骨が折れる」
高火力かつ高レベルのギルヴィードおじ様だから出来る瞬殺法ではあったが、正攻法で戦うとなると速さのある狼型と力のある巨人型が組んで出るのは難易度が高い。
「加勢しましょう」
そういうとレヴィンは花火のような道具に火を付けて上に掲げるとこれまた花火のように大きな音と綺麗な緑色の光が上がった。
その後緑の煙を出し続ける花火の残骸をポイと捨てる。
「これは助勢の合図として使われてる。信じてもらえるかわからないが、ないよりはいいだろう」
「なるほど……!」
感心しているとレヴィンは「ボーっとしてるなよ」と注意を施しながらジェノスに手綱で合図を送った。
ジェノスが魔物に向けて文字通りの飛び入り参加をしに飛行すれば、リーベは一番射程の長い魔法ライフルを構える。
「兄さんの隊の射程に入る前に魔物に当てれば少しは信じてもらえるかな」
遠いといっても巨人型は動きも遅く的も大きい。
リーベの射撃性能なら余裕で頭に命中し、巨人をよろめかせた。
「ごめん、目を外した」
目に当てる気だったの!?
「目は一つ目タイタンの弱点ですから、相手も相当警戒してますし仕方ありません」
何度かタイタン族を相手にして避け方の特徴を覚えないと目は難しいなどと慰めていて、次元の違う会話に私は黙るしかできなかった。
「これなら俺は降りて大丈夫でしょう。カムイは二人の護衛を頼めるか?」
「はい。お任せください」
カムイは変装をしているが戦ったら戦闘スタイルなどで正体がバレるかもしれない。一応現在私と一緒にザックベルに滞在中の予定なので、私とリーベの護衛に徹してもらう。カムイ参戦は危なくなったときの最終手段だ。
レヴィンだけが前と同じく一つ目タイタンの上から勢いよくダイブし剣を振り下ろしていた。
「私たちはこの混乱に乗じてレオンハルトを探しましょう」
レオンハルトにリーベを会わせることが私たちの真の目的なのだ。
上空からリーベが魔物を攻撃しながら、私たちはレオンハルトを探す。
と言っても私とカムイはレオンハルトをよく知らないので総大将っぽい群れのところを探すだけなのだが……。
「兄さんの隊だからこの竜はジェノスだってわかってるだろうし、攻撃はしてこないよ」
確かにレヴィンは敵になろうといきなり攻撃を仕掛けるような男じゃないと知っているレオンハルトがこちらを攻撃することはないだろう。
「姫! この陣形ですと、右手最奥が一番安全になります。その辺りではないかと」
「ジェノス聞いてた? 右折でお願い!」
人の言葉を理解出来るジェノスは言った通り右折し、陣の上を悠々飛んだ。
これだけ近づいても驚きはされるが攻撃される様子はない。
身体強化を目に施したカムイが双眼鏡で見るように辺りを見渡している。
「姫、リーベ殿、あちらにリーベ殿と同じ髪色が」
「! きっと兄さんだ! ジェノス」
リーベの声に呼応するようにジェノスは小さく唸った。
それにより兵のみなさんがびっくりしてこちらを見る。ごめんね。
『変装していてもレオンハルトならわかる』とのことで、リーベは変装を解かないままひょこりと顔を出し、バレたらまずい私たちは逆に頭を低くする。
「ねえカムイ、本当にレオンハルトはリーベだってわかるのかしら」
「かなり難しいと思いますが……お二人があれほど自信満々に言い切るのですから、幻術耐性などが強いのかもしれません」
「兄さんは凄いから大丈夫だよ」
そう笑顔でリーベは言い切るのだが、レオンハルト様って一体どんな人なんだよ!?
原作では完璧超人で憧れの兄だけど、最初は低予算ゲームだったのもあり『リーベを庇って死ぬ』くらいの設定しかないので性格に関しての設定が全くない。
イラストも超イケメンな立ち絵一枚(表情差分なし)しかない。
ので、どんな人物なのか私ですらサッパリなのだ。
総大将の元へ竜が近くなり慌てる兵たちを見ているとやはりあの先の人物こそがレオンハルトなのだろう。
だんだん近づくと、一枚だけ存在する彼の立ち絵と同じ美青年が見えてくる。
ヴァンデミーア貴族は公式美形なので、顔の整っているのが遠目でもエグいほどわかった。
そのレオンハルトの目はジェノスに釘付けだ。そこからリーベが顔を覗かせ、レオンハルトに目線を送った。
兄さん、などとも呼ばず本当に目を合わせるだけ。
そのまま上空を通り過ぎ、空に上がった。
(これで本当にわかるの……?)
そう思いながら後ろを振り向くと、レオンハルトがバッと通り過ぎた方向に振り向いてきた。
何かに気付いたような。そんな反射的な振り向き。
「…………」
……多分、リーベだと気付いた、んだと思う。
「…………まじ?」
「……凄いですね」
言葉を失くす私たちの隣で「ね。すごいでしょ」と言わんばかりのリーベが微笑んでいた。
◆
魔物を殲滅した後、敵の雇われ傭兵であるレヴィンとその仲間たちである私たちは対話することなくジェノスに乗ってそのまま飛び去った。
転移してきた最初の小屋に帰り、レヴィンに私が祝福的なものをしてリーベの幸運値を上げたあらましを説明した。
「リーベ坊ちゃんの『幸運値』を上げることで魔物の生成率を上げるなんて、そんな器用なこと……」
「私も出来るとは思ってなかったよ!」
呆れ気味なレヴィンに言い訳するように私は言った。
「そんな眉唾な……願いが叶うなんてのは俺は好きじゃないんだが……実際に起きたわけだしな」
しかめ面で頭をかくレヴィンに私もなんだか申し訳ない気分になる。
私もスピリチュアルすぎるものはあまりあてにしたくはないが、出来たものは出来たのだ。
「完全に運だから、あんまり実用性は高くないと思うな」
そもそもリーベの幸運値が異常に高いから出来た芸当だろうし、あとこの世界に運を図るなんて装置もない。
「これが広まったら運にすがりたい人間が押し寄せてきそうだ」
「それは困る!」
運ゲーに負けて私のせいにされたらたまったもんじゃない!
「そ、それよりも……あの魔物、なんだか既視感があったのよね」
「既視感?」
話題を逸らそうと強引に魔物の話をすればリーベが食いついてくれ、更にカムイも頷いてくれた。
「そうですね。いきなり発生した野良の魔物にしては編成が整いすぎていました。そしてあの一つ目タイタンは昔、ベルドリクス領に向かって仕向けてきた召喚術のような……」
「そうそれ!」
カムイの発言に力強く同意する。
あの時はグレンが数百の魔物を召喚し街を襲わせるという事件だったけど、今回のレオンハルト隊を襲った魔物は数は少ないながら力の強いタイタンと素早い狼のガチ編成で私たちが居なかったら被害は甚大だっただろう。
「……貴族の暗殺として重用されている魔物召喚……大国ヴァンデミーアなら召喚士を飼ってる貴族がいてもおかしくはない」
納得するかのように言葉にするレヴィンにリーベは不安そうな顔を浮かべた。
「まさか、さっきの魔物は兄さんを……」
その先を言葉にすることはなく、少しの沈黙が訪れた。
重苦しい空気を破るように、窓の外から伝書鳩が飛んできて、コンコンと窓を鳴らす。
カムイが窓を開けてやるとリーベの腕に止まり、手紙となって消える。
「僕宛かい?」
魔伝書鳩は個人個人それぞれ違う魔法の紋……――簡単に言うと指紋のような、スマホの電話番号のようなものだ――を交換し合うことで送り合える。
魔伝書鳩のデメリットとして、送った後に鳩についていけば簡単に居場所が特定出来てしまう点がある。だから特定の人以外受け取らないと遮断する人が多い。
リーベのもとに無事辿り着くということは、リーベが認めている人の手紙ということになる。
と、言うことは……
私たちが見守る中リーベが手紙を開けると、最初に差出人の名前が飛び込んできた。
「兄さんからだ」
「ま、マジか〜〜!!?」
本当にあれだけで識別した!? 超人か!? ああ公式設定では超人なんだった……。
魔伝書鳩は距離とMPが比例するので遠くすぎるとMP消費がかさむのだ。
近くにいるとわかっての魔伝書鳩なんだろう。
「お兄さんなんだって?」
「ええと……」
リーベは少し困惑したような顔をして、小屋の外に出る扉に向かって歩く。
「ん?」
私たちが見守る中、リーベが小屋の扉を開けると……
「!!!?」
「なっ!?」
「兄さん!」
ヴァンデミーア一流貴族、マーカチス侯爵の嫡男レオンハルト=マーカチス――その人がリーベと同じ……いやそれ以上の眩しい後光を背負いながら立っていたのである。




