010 マリアの独白
「ふう……」
マリアは日課になっているタスクの確認をして、一人考えていた。
貴族としての教養、ゼルガリオン活動、仲間の捜索、戦争が始まる証拠集め……ほぼ伯爵令嬢と関係ない忙しない日々で半年経とうとしている。
ゼルガリオン活動は未だにじわじわと人気を増やしている。
生で見たことがない人もマリアが作ったヒーローもののテンプレのようなゼルガリオン本を読んでファンになる子供たちが多いようだ。
年齢層が高い人や、男性向け、女性向けも作っているが、その場合内容は中身がイケメンで仲間と共に闘う友情だったり恋愛物語だったりする。
イケメン魔導士ダークヒーロー、ギルガリオンが居たらもっと売れそうなのに。勿体ないことだとマリアはため息をついた。
マリアは自分が下手に目立つのは良くないと、ゼルガリオン関連は孫のマリアが欲しがりお祖父様が孫可愛さに作ったら人気が出た。という話にしてもらった。
後ろ盾の祖父ブリザベイトの名声も補強されるし、恩も売れるしマリアとしては願ったりだ。
孫馬鹿というのはなかなかに使い勝手が良いらしく、情報を引き出そうと話しかけられても孫馬鹿のフリをして孫の話しかしないことが可能だとかで悪い笑顔をしていた。嬉しそうでなによりだ。
怖そうなインテリ軍人のお祖父様の孫バカ腹芸とは……想像もつかない。
マリアは複雑な顔をしながら日々の日課である日記を記していた。
貴族のマナーレッスンは祖母、シルメリアからまだ合格点までもらっていない。
貴族に馴染まないとベルドリクス伯爵家に泥を塗ることになりかねないので頑張ってはいるのだが、舌戦やポーカフェイスがどうにも向いていないらしい。
持ち前の優しげな顔と儚げな印象で、弱そうな令嬢を演じて周りから「守らないといけない」空気を出すようにシフトチェンジを指示された。
うるうると涙をためる練習をしているが、現実でそんなことしたこともないので苦戦している。
だが平和主義でなあなあな日本人としてはこっちの方がボロが出ないのかもしれない。
中身は結構色々思ってるし、自分の大切な人が傷付けられたら猫被りも関係無く怒るが、基本平和民族なのである。
(こちとら帰ってほしいときは笑顔でお茶漬けを出す民族なんだぞ。察してちゃんだ)
貴族は民の税で生きているわけだから強くあらねばならない……政敵と戦う事も仕事ではあるのだが、回復魔法で許してほしい。
マリア、9歳児にして気付く。
(貴族向いてねえ……)
祖母シルメリアも孫が出来たことで、孫のいるコミュニティに参加できる様になったらしく色んなところに顔が繋がり、その分情報も増えた。
孫コミュニティとしてマリアもお茶会に参加させられる時がある。
その時は他の孫達に合わせて遊んだり、『シルメリアお祖母様が大好きで、お祖母様に教えていただいたテーブルマナーを一生懸命に実践する、鼻につかないレベルでちょっとおりこうに見える程度のお祖母様自慢のご令嬢』を演じて、祖母も『孫が可愛くてしかたのない穏やかなマダム』というていの理想的な世界を二人で作り上げた。
「正直わたくし子供は苦手で、孫も興味がありませんでしたの。でも騒がないし暴れもしないし話していても可笑しいくらいに聡明な、マリアが孫で嬉しいわ」
普通だったらマリアみたいな子供らしからぬ子供おっかないだろうが、祖母はそこが好きと言ってくれているのでベルドリクス家では全て素でいさせてもらっている。
使用人達もプロで他人が来た時に猫を被るマリアにも顔色を変えたりもしない。
どこかの子供や貴族の方がマリアの部屋に遊び来たい、見たいなどと言ったりしかねないので、あの質素な部屋だと変に思われそうだと祖母に見繕っていただきたいとお願いしたら「お茶会を開いて良い家具や雑貨の店を聞く」としたり顔でネタに使っていた。
家族仲はなかなかに良好……だと思う。
仲間の捜索はなかなかに難航している。
国の王子や貴族などは絶対に無理、そもそもマリアと同じ歳くらいとなると、まだ子供だ。
カーグランドにはもう仲間になるキャラはいない。
ゼルギウスは攻略キャラじゃない。そしてこれから国王になる予定なので一時的に仲間になるキャラとして考えていた。
メインメンバーが魔導士のギルヴィードと後衛支援のマリアで、前線で戦えるキャラがいないので前衛が出来るパーティ向きの子をフラグも折りつつ探したい。
仕方のないことだがシグルドにゼルガリオンの噂は届いているようで、お怒りではあるがゼルギウス本人は否定している噂だけの話なので面と向かっては怒れないらしい。
ゼルギウスのほぼストーカーなので伯爵家の特訓中にゼルガリオンをやってるのは(当たり前だが)見当がついているようで、伯爵家に行くのをやめさせるよう王に直訴までしたらしい。(だだっ子か)
カーグランド王はベルドリクス伯爵卿との「御子息をお預かりし強くする」というれっきとした約束とゼルギウスの了承、更に本当に強くなって傷一つなく帰ってくる。
なんの問題も起きていないものをやめる意味はない、と取り下げられていた。
王も現在進行形で国の景気を押し上げてるゼルガリオンはやめさせたくないだろう。
ゼルガリオンの経済価値がわかってきたギルヴィードは他国の地方営業にも精を出し始め、依頼もレベルが上がったことで裕福な商人や領主あたりの難易度の高い依頼を引っ張ってくるようになった。
その為ゼルガリオンに助けられた者たちがカーグランドに『聖地巡礼』をするようになり、ゼルガリオングッズも商人たちが素晴らしさを伝えたい、これは売れる! と他国に出回り始めた。
ゼルギウスは「ヴィードなら全部なんとかするだろ!」と全幅の信頼でゼルガリオン活動の全てを任せている。
(このままじゃ兄と喧嘩して王様になることになるんだけど……)
まあ器の広いゼルギウスなら許してくれるだろう。
(それにしても、持つべきものはキレる参謀だなぁ……)
王の兄弟への評価がまた一つ動いたはずだ。
派閥のほうでも動きがあるらしく、女性の社交界のゼルギウス派の祖母シルメリアとソフィア嬢に近寄る女性が出てきたとか。
政務への態度を真摯にしたゼルギウスを見て派閥変えの様子見勢も動き出している。
王妃は二人を産んでいるので一応長男派ではあるが、ゼルギウスも可愛がっている。
どっちになっても自分の地位は盤石としたものということと、カーグランド王が焦っていない様子から王妃自体もゆるりと切磋琢磨と兄弟喧嘩している程度に見守っていた。
(……正直のんびりしすぎだとは思うけど、邪魔立てしてこないだけ有難いと思っておこう)
シグルドが変な気を起こさないかだけが心配だが、シグルド陣営もゼルギウスに対抗して新しいことに取り掛かる準備をしているらしいので、今のところはこっちには害はないと思っていいだろう。
対抗と言ってもゼルギウスは好きなことやってるだけだったりはする。
ゼルギウスは今の充実した日々が楽しいらしく生き生きしている。ゼルガリオンで発散しているからか政務にも力が入っており、魔物も倒してレベルが上がって外見も逞しく、頼もしくなった。
自信も出来たのか風格もあり、戦闘ヒーローを見て育った子の模範のような、情操教育に成功した子供みたいになっている。
ただ、未だに王座は兄がつくべきだと思っており、いつか仲直りしたいとすら思っているようだ。
逆撫でさせるだけで逆効果だから諦めてほしい……とマリアは思っているが、国事なのでなかなか言い出せる問題ではない。
戦争についての情報は物流の動きでなんとなくの力関係は見えてきたが、まだ不確定要素が多すぎて王に報告できるレベルには達していない。
(やっぱり情報収集能力に長けた仲間が欲しい〜〜!!)
仲間にしたい二人は無事出会えたのだろうか。
身を寄せ合って暮らせていると良いな……とマリアは一年程前のことを振り返った。
いつかフィーネの森に行きたいが、フィーネの森は迷いの森と呼ばれる難易度の高いダンジョンになっているので、今のパーティメンツじゃ心許ない上、日帰りが出来ない。
RPGパーティーはヒロインを抜いて四人まで選択可能な五人編成パーティだったのだが三人(一人は王族なので許可もおりないだろう)ではどうにもならない。
転移もどこでもいけるとは言うが、そこまで使い勝手の良いものではなく、基本的にフィーネの森と転移したらダンジョン入り口転移とか、入り口転移が基本だ。
ゼルガリオン活動は人のいなそうなところに転移をするようにして、こっそりと行なっている。
ここから数年後になる原作『聖女勇者』では二人ともフィーネの森からも追い出されてもうちょっと簡単な場所に隠れてくれてるので手が出せるが、今はどう考えても無理。無謀だ。
ゲームマスター仕様、チート機能とはいうが現実思ったより万能じゃない。
結局亀のような歩みで計画を進行していくしかないのだ。
……マリアからして見たら。




