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暢気小娘と全身甲冑のマイペース生活記  作者: へび
第一章 パンツは文明
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臨時拠点のお宿を探そう

 キルレットの街の中、比較的治安の良さそうな所で宿を探す。しばらくぽてぽて歩いていると宿街ともでも言うべきエリアに出たのか、それっぽい所を見つけた。建物の表面に窓が等間隔に並んでおり、一階には窓がないのだ。こういう構造の建物は一階と二階以上で使用目的が大きく違う。もしもこんな建物を現代日本で見かけて、しかもこれが三階から五階建てのビルとかだったら雑居ビルと思うだろう。だが、生憎この世界に雑居ビルにいくつもの小会社を詰め込むなんてスタイルはない。ということは、これは二階以降に個室もしくはそれに準ずる部屋が多い建物、つまり宿屋ってことになる。

(まあ単純に見慣れた東○インのビルに雰囲気が似てただけなんだけども)

 あのチェーン系ホテル店、何処行っても大体建物のデザインが同じだからな。大阪や札幌や仙台や名古屋であったイストワールのリアルイベントに行くために青く光る巨大看板を目印にしてお世話になったのはいい思い出だ。

 体感的には一週間も経ってない数日前の前世の世界を懐かしく思いつつ、店の前にいた女性に声をかけてみた。手に持っているのは箒だ。ぱたぱたと掃き掃除をしている所である。

「すみません」

「あ?」

 うっ柄が悪い。

 よく見ると、女性は年配の方だった。皺の入った顔。布を被った頭。そこから見える髪は半分くらいが白い色になっている。纏っているのはくすんだ色の服。前川圭子の感覚だと多少汚いとなるが、洗濯はこの世界の標準レベルではしているのだろう、アメリアの常識からは「汚い」とは感じなかった。

「ここは宿屋であっていますか?」

 内心を隠しつつ丁寧に尋ねる。おばさんは手に持っていた箒を動かすのをやめ、私とロキシーを見ながら「ああ」と頷いた。

「そうだよ。『兎の巣』ってんだ。お嬢ちゃんは字が読めないのかい?」

 そういって指さすのは看板だ。素直に見上げると、確かに何か書いてある看板があった。だが残念ながら私にはわからない。だから文字の知識がないんだってば。

「生憎田舎育ちなもので。あなたは読めるのですか?」

「もちろん。商売にゃ必要だからねぇ」

「それはすごい。あっ一部屋で二人泊まりたいんですけど、いくらでしょうか。日数は……うーん、大体十日くらいなんですが」

 ちら、とロキシーを見上げて、とりあえず十日という日数を出してみた。この十日の間にやりたいことは生活するにあたっての旅支度とでも言うべき細かな荷物を用意することと、できる限りのこの世界についての情報収集だ。先程のギルド長の言葉から、この地には少なくとも「領主」という存在がいることがわかっている。アメリアの「御貴族様に逆らっちゃいけない」という情報と組み合わせると、この地には貴族や領主といった概念のある「封建制度」が息づいていると思われる。

 ならばどこかに行くには行き先を治める人間が誰かを知っていたほうがいい。国があるなら国を知っていた方がいい。余計なトラブルを招かぬように、世界の歴史なんかも知っておきたい。色々と知りたいことがあるのだ、私には。

「相部屋かい? なら一日大銅貨五枚。飯付きならさらに中銅貨三枚だ」

「ではそれでお願いします。十日で大銅貨五十枚と中銅貨三十枚ですね」

 ふむ。この世界には銅貨は銅貨でも「大」のつくものと「中」のつくものがあるらしい。ならば「小」のつくものもあるのだろうか。金貨や銀貨にも同じような種類分けがあるかもしれない。

「そうだよ。でもお嬢ちゃん持ってるのかい?」

 これはかなりのまとまった金額らしい。少なくとも、荷物を持っていないように見える私が払えるようには見えないのだろう。いぶかしげな顔をしたおばさんに私は頷き、金をもってもらっているロキシーを振り返った。

「ロキシー。銅貨と、あと念のため銀貨を出して頂戴」

「わかった」

 答えてすぐにロキシーが虚空に手を突っ込み、革袋を取り出してくる。中々の重さを感じさせる大袋におばさんの目が見開かれた。

「っ! お嬢ちゃん、中にお入り!」

「おっと」

 言うが早いかドアを開けられ、中に連れこまれる。なんだなんだと思っていたら、私は、というか私とロキシーは、入った先で何故かおばさんに説教されてしまった。

 曰く、道ばたであんな大金を突然取り出すんじゃない、と。

 曰く、おばさんの目に、目の色が変わった者達が見えた、と。

 曰く、

「あんたら暢気すぎるよ。どこの生まれだい?」

 おばさんは不審者を見る目で私達を睨んだ。でっすよねー。そこ気になりますよねー。

「仰る通り暢気な遠村の生まれです。家族がおらぬ身で村にいても肩身が狭い故、二人で助け合いながら新天地を目指そうとしていた所で……」

「嘘を吐くならもっとマシな嘘をつきなさいよ」

 嘘じゃないぞ。暢気な遠い所の生まれであることも、家族がいない(ただしこの世界に)ことも確かだし、村にいても(私が蘇ったようにしか見えないから)肩身が狭いのも事実だし、二人で助け合いながら新天地(快適な生活)を目指しているのも事実だ。

 うそじゃねーもん、と開き直ってぶすっとすると、おばさんは相も変わらず胡散臭いものを見る目で私達を見つめたが、やがて諦めて首を振った。

「しゃあない。お尋ね者とかじゃないならいいよ」

「失礼な。犯罪を犯す時間など、私にも彼にもありませんでしたよ。この身は清廉潔白です」

 ここに来て数日だしな。犯罪なんて犯してません。犯す時間もありません。

「そうかい。ああ、金をお出し」

 おばさんは面倒くさそうに言うと建物の奥に向かっていった。

 ここで建物の内部の説明をしよう。見える範囲の一階は広い部屋になっていた。あちこちに円形のテーブルがあり、その上にひっくり返された椅子が置いてある。開店前のレストランみたいなかんじだ。奥には上に向かうためと思われる階段と、厨房っぽいエリア、それと事務手続きもろもろをするためっぽい机があった。

 おばさんが向かったのはその机の所だった。よっこいしょ、と言って座り、どこからか大きな冊子を取り出す。帳簿だろう。私は着いていって机の上に革袋を置き、中身を広げながら大きめも銅貨を五十枚、小さめの銅貨を三十枚……出そうとして、そういえば、と思い出した。

「ロキシー、そういえばあなた食べないんだっけ」

「うん。でも、創造主が食べるなら僕の分も、どうぞ」

「おばさん、食事は一人分ってできる?」

「そんな面倒なことはしないよ。出す分は一人分にしても取る金は相部屋分さ」

「がめついな~。まあいいや」

 まあマニュアル通りって考えたらマニュアル外のことをしたがる私達が悪いのだ。とやかく文句を言うのも浅ましい。そういうわけで大きくも小さくもない中途半端な銅貨を三十枚数えて出した。

 そのまま部屋に案内してもらって辿り着いた部屋は、虫と同居状態だったアメリアの自室よりはマシだが、あんまりよい部屋ではなかった。だってベッドが藁だ。もうね、その時点で虫の存在をベッドから感じて私はアウト。全身ぞわぞわしてしまう。木の箱を並べただけのベッドよりはマシって知識もあるけど、ごめんどっちも無理だわ私は。

 でも部屋に入れたのはいいことだ。なんでかって? これで漸くしたくてたまらなかった作業ができるからだよ。

「ロキシー。なんかこう、ここいら一体を綺麗にできる魔法ってある?」

 尋ねつつ指し示すのはベッドの脇にある木の箱の上。申し訳程度にものが置けそうなそのエリアを指して問うと、彼は頷き、行動で答えた。

 片手を持ち上げ、掌を木箱に向ける。そして僅かに力を入れると、掌のすぐ前にぷくりと水の玉が現れ、直後膨れあがったそれが木箱……どころか、部屋全体を包み込んだ。器用なことに私とロキシーを避けて。二人だけ水の中にある空気の玉の中にいるような感じだ。

 そんな状況は数秒で終わった。スイッチを切るように水がぱちんと弾けて消える。後に残ったのは、饐えた匂いを失い、何故か濡れてすらいないベッドと木箱。明らかに洗浄され清潔になっている。

「……すごいね?」

「えへ」

 誇らしそうにロキシーが胸を張る。よしよし、という気持ちを込めて甲冑表面を叩いた後、私は買ったものを広げつつ、ベッドに座って宣言した。

「それでは、改めまして、パンツを作りましょう」

 死活問題解決作業の開始宣言を。

 いつまでパンツにこだわる気かって? おばかちん。下着って大事なんだよ。パンツって聞いて心躍らぬ人間がはいないでしょ? そういうことだよ。

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