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エピローグ。夢からさめても。


 大きくなったら、お姫様になりたい。

 その夢が叶わないと知ったのは、いつの頃だったか。大人はお姫様になれないのだと。子供だけがみる甘い夢なのだと知ったのは。


 ――夢は、叶う。

 大人になったら、目を開けて夢を見ることができる。


 ■


 加木(かぎ)裕一(ゆういち)は、面会に現れた瑠奈(るな)を見て、言葉を失った。


「裕一さん――! やっと会えた、会えた、良かった……」

「……う」


 愛しい人の名前を呼びたかったのに、五日間何も話していなかった乾いた喉は、掠れて声が出なかった。

 ガラスの隙間から、瑠奈はこちら側に指を差し入れてくる。その手を取る資格があるのか、裕一は迷った。


 あの日、仕事に出たところで、警察に同行を求められ、咄嗟に裕一は逃げようとしてしまった。逃げようとしたのは、自分がこのまま警察に連れていかれたら、鎖で繋いだままの瑠奈が困ると考えたからだ。裕一は拘束され――それからずっと、自分の罪を告げられ、責められた裕一は、思考が停止していた。

 お前は彼女を好きだったつもりかもしれないが、やったことはただ彼女を傷付けただけだと、言われ続けた。――どこかで恐れていたことを突き付けられ、裕一は息の仕方さえ分からなかった。


「……んね、……めんね、……ぼくは……」

「大丈夫。裕一さんさえいれば、私は……」


 だって、愛してる。


 その言葉で、裕一の、喉の奥につかえていた栓が消えた。


「裕一さんさえいればそれでいい。もうあの素敵なマンションで暮らせなくても、綺麗なドレスを着せてもらえなくても、美味しいケーキがなくても、裕一さんと一緒に暮らせる日のために、私頑張るよ。そのためなら、私は何でもするよ」

「でも、僕……は、君を……」

「だって、裕一さんも私のためにそうしてくれたもの。愛してるの。愛したいの。裕一さんは、私のこと、愛してる?」

「……ルナちゃん……」


 裕一は、必死に頷いた。世界中にどれだけ責められても、彼女さえ許してくれるなら、裕一は生きていける。

 震える指を絡め合う二人を見て、警察官の一人が、ため息をついた。


 ■

 ■

 ■


 内藤(ないとう)拓也(たくや)は、息をついて空を見上げた。

 黒いスーツは暑いので脱いで手に持つ。ネクタイをやや緩め、息をついた。少し下りて歩いたところにコンビニがあるから、そこで何か買って来て――と言われて葬儀場から歩いたが、少しどころではないじゃないか、と内藤は車で来なかったことを後悔していた。


「……ん?」


 内藤はふと違和感を感じて振り返る。さっきこんな公園の前を通っただろうか。寝不足で疲れているのだろうか、道を間違えたらしい。

 参ったな――と思っていると、目の前を、シャボン玉が横切った。


 シャボン玉が飛んできた方を見ると、小さな女の子が、公園でストローを手に、ふうふうとシャボン玉を飛ばしている。ピンクのワンピースを着た女の子は、多分この近所の子供だろう。内藤と目が合うと、女の子はにっこりと笑う。内藤も笑い返した。

 すると、女の子は内藤に向かってシャボン玉を飛ばしてきた。風にのってシャボン玉は思ったより早く飛んできて、内藤は喪服に泡がつかないように、少し身を引く。


「こら、裕奈(ゆうな)、シャボン玉を人に向かって飛ばしちゃダメだよ」


 すぐに父親らしい男性が来て、女の子に声をかけた。父親は、内藤に向かってすみません、と声をかける。


「ああいえ、気にしないでください」


 答えながら、内藤はこの男性をどこかで見たような気がしていたが――思い出せないので、気のせいだと思うことにした。


「……だって、シャボン玉きれいなの、おじさんにあげようとしたの」

「ダメなんだよ。ほら、おじさんに、ごめんなさいして」

「……ごめんなさい」


 女の子は素直に謝った。内藤は本当に気にしなかったので、いいんですよ、と答えた。父親は、彼の喪服を見て、そこの葬儀場から来たんですか、と声をかけた。


「ええ……妻の親戚の葬儀で。この辺は初めてなんですが、大通りに戻らないといけないんですかね?」

「そちらを曲がって、裏に階段があるので、上っていくと早いですよ。駐車場の裏手に出ますから」

「ああ、なんだ……」


 妻の言っていた道はこっちのことか、と内藤はようやく合点がいった。

 内藤は礼を言うと、手を振る女の子に照れながらも手を振り返し、その場を後にした。可愛らしいな、と素直に思う。しばらく歩いたところで、女の子の嬉しそうな声が聞こえた。


「ママ!」


 振り返ると、母親らしい女性が来ていて――女の子は両親のそれぞれと手を繋ぎながら歩いていくところだった。内藤は何だかその様子が気になって、立ち止まって見送る。

 少し歩いたところで、家族は立ち止まって、何か話していた。すると、父親が女の子を抱き上げた。もう片方の手で、妻の手を握って、また、歩き出す。


 幸せそうな家族だな。

 内藤は目を細めた。


あとがき。


私が恋愛ものを書くとき、時折テーマにするのが「思いは伝えないと伝わらない」ということです。

これは別に恋愛に限った話でもないと思いますが、思っているだけのことが相手に伝わるはずもなく、むしろ言ったところで、よくて一割くらいしか伝わってなかったりするんじゃないかなー、と。


ヤンデレとは「強く愛情表現されたい」ということの憧れからくる萌え属性であり、それが醍醐味の一つらしいとどっかで読みましたが、愛情というのも、これでもか! というくらいに伝えないと伝わらないのかもしれません。


人間はそもそも認められ愛されるために生きているという説もあるくらいで、そうなると、うん、ヤンデレっていいよね! という、ま、個人的な好みが暴走した結果の小説となります。


これヤンデレかな? と書いてて疑問にもなりましたが。ひたすら自分の好きな風に書いてみました。

書いてて楽しかった。


お読みいただきありがとうございました。

ちょっとだけオマケして完結します。


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