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同棲37日目。私達は幸せだ。


 私の名前は瑠奈(るな)


 目を覚ますと、彼の寝顔が目に入った。今日は私が先に起きたみたいだ。眠くないけど、このままでいたくて、私は目を閉じて彼に頬擦りする。


「ん……ルナちゃん?」

「……起こしちゃった?」

「ううん……」


 半分寝ぼけたまま、彼が私を抱き込むように手を回して、髪を撫でてくれるのを感じる。空いた方の手を握った。


「ルナちゃん、おはよう。……今、何時?」

「……もうちょっとこのまま寝てようよ。だって今日は、お仕事ないでしょ?」

「……そうだね」


 ふふっ、と笑う彼の声が聞こえる。彼――加木(かぎ)裕一(ゆういち)さん。私のことを大好きな人。私を愛してくれる人。

 彼と私は、一緒に起きて、一緒にご飯を食べて、一緒に映画を観て、一緒に眠って。

 私はこの人と、一緒に暮らしている。


 ■


 内藤(ないとう)拓也(たくや)は、警察と共に、中条(なかじょう)瑠奈が以前暮らしていたアパートの大家に話を聞いていた。警察が見せた免許証の写真のコピーに、男性は頷く。


「ええ、多分、この人に間違いないと思いますよ」

「引っ越し業者はどこだか覚えていますか」

「ああ、何だったかな、ウサギのマークの会社で……テレビにも出てる……」


 それだけ聞けば十分だ。会社を割り出して照会すれば、彼女の荷物が運び出された場所も分かるはずだ。

 大家に礼を言い、内藤は大きく息をついた。


「もう決まりでしょう」

「……ええ」


 内藤は警察に礼を言い、何かあればすぐに駆け付ける旨を伝えた。


 同僚の中条瑠奈が、急に仕事を辞めて一ヵ月が経った。あまりに急な退職を不自然に思った内藤は、彼女の元を訪ね、引っ越しの理由が会社に伝えられた内容と食い違うことに気付き、彼女の身に何かあったのではないかと疑った。


 まず大家から、彼女の荷物を運び出していった、兄と名乗った男の特徴を聞いた。

 それから会社に再びそのことを伝え、会社を通して警察に相談。事件かどうかもはっきりしないことに警察が動いてくれるかは心配だったが、案外警察は柔軟に対応してくれた。

 警察と一緒に彼女の親類である叔母の家に行き、話を聞いた。その叔母は、姪が行方不明になったことを聞くと不愉快そうに答えた。


「まったく親子揃って人様に迷惑をかけて……。言っておきますが、一度も連絡を貰ったことはありません。こっちは何も知らないんで、もう関わらないでもらえますか」


 行方不明と聞いても少しも心配する様子のない叔母に、内藤は怒りを爆発させそうになったが、二つのことを確認した。彼女が仕事を辞めるような実家の事情はあったかと、兄がいるかどうか、だ。叔母はその二つについては、はっきりと否定した。


 事件性が増してきたため、彼女の家付近と、会社付近の防犯カメラが調べられた。最近は街中でも知らないうちに防犯カメラが増えていることを知り、内藤は驚く。

 最後に内藤が中条と会ったのは金曜日。この日、遅くまで残業していたことは会社の記録から明らかだと伝え、それ以降の時間で絞り込んで調査が進められた。


 結果、彼女は自宅付近の防犯カメラに映ったのを最後に、消息を絶っていたことが判明した。


「……徒歩で移動していて、このカメラに写って、次にこの地点のカメラに写らないのはおかしい。中条さんはこの範囲で車で連れ去られた可能性があります」


 その後警察が聞き込みをしたものの、深夜の人通りが少ない時間帯のため、目撃証言は得られなかった。しかし、人通りが少ないということは車通りも少なく――彼女が消えた地点を通った車もまた限定的だった。その車のナンバーから持ち主を探すと、レンタカー会社に辿り着き、借りた人物も明らかになった。


 加木裕一。都内のシステム会社に勤める、会社員だ。


 レンタカー会社から借りた免許証のコピーを大家に見せたところ、荷物を運び出したのと同一人物だと判明した。もはや間違いない。警察は明日に手続きを済ませ、踏み込むという。


「……中条さん、無事でいてくれ……」


 内藤は祈った。


 ■


 二人で過ごしていると、時間はあっという間に過ぎてしまう。さすがにお腹が空いて起きた。


「もう昼近いから、朝御飯はブランチにして、パンケーキにしようか」

「嬉しい。フルーツいっぱい乗せたいな」

「うん。ルナちゃんの好きな苺、昨日届いたから」


 ホイップもつけようか? と彼が言ってくれるので、私は笑顔で頷いた。


「私も手伝うね」

「ルナちゃんは待ってていいよ」

「いいの、一緒に料理したい」


 彼と並んでキッチンに立つ。彼がボウルで材料を混ぜ合わせている間に、私が苺を洗ってヘタを取る。彼がパンケーキを焼いてくれる間に、私がお皿を並べて紅茶を用意する。


「あ、生クリーム、取って」

「わかった」

「……。」


 彼に冷蔵庫から出した生クリームを渡すと、彼は一瞬泣き笑いみたいな顔をした。


「……どうしたの?」

「……いや、なんだか、……こういうの、幸せだなって」


 少し目を伏せて彼が言う。私は、たまらなくなって彼に抱き着く。くっついていると温かくて、安心する。


「わ、ルナちゃん」

「私も、幸せだよ」

「……うん」


 今まで恋人なんていたことなかったけれど、恋人ってすごいな、と思う。こんな日常の些細なことだけで、たくさん幸せになれる。

 私達は幸せを感じると、どこか胸の奥が寂しくなってしまう。幸せのはずなのに。そんな時は二人で手を繋いで、お互いに愛してるって言いあう。


 夢みたいに幸せな日々。


「……ん、ずっと……こうしてたいけど。パンケーキ、焦げちゃうね」

「そ、そうだね。……でも、ご飯食べたら……、また、くっついててもいい?」

「……もちろん」


 彼は私のことを好きでいてくれる。たくさんたくさん、愛してくれる。

 ずっと一緒。

 彼と二人きりで、ずっと一緒。


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