101滴の血
初めに言っておこう。
俺はこれから人生で最も痛い目にあう。
商店街を抜け彼女は食べ歩きに大層満足したご様子だ。
よくもまあ、そんな華奢な体で大食いが出来るもんだ。将来フードファイターにでもなったらどうだ。
大雑把に舗装された道路を歩いていく。
街から少し離れた場所に大きな草原が広がっている。そこにどっからどう見ても場違いに家がたっている。俺達が向かっている。場所はここである。
ここに来るのには一つ理由があった。
例の石を錬成するのに必要な材料の調達を依頼しに来たのだ。
白い洋風の木造二階建てで、どこか俺がただいま住んでいる家に似ている。
この街には建築士が1人しかいないのかよ。
玄関のドアをノックしようかと思ったのだが彼女の名前をまだ聞いていない。
「そういえば君の名前は?」
「そうね。名前はお互いの信頼のために必要よね。リリ。それが私の名前。」
「俺の名前は…」
「あなたの名前はどうだっていいわ」
おい、信頼の話はどうした。
仕方なく扉を開ける。
ギーという音が響く。
ドアを開けてすぐ、鈴のように凛とした声が聞こえた。
「久しぶりです。最近会えなくてとても寂しかったんですよ?」
あざとい声の持ち主は目的の人物「マヤ」である。俺よりかなり小柄で銀髪のショートヘアーだ。まさにロリの完成系に近い存在である。
「えーっ、彼女いたんですかー?年下しか興味ないと思っていたのにー」
あざとさ&かわいさのフルコンボはまさに恐ろしいほど俺の心を掴み取る。
リリが犯罪者を見るような目でこちらを見ている。ここはなんとしても場を落ち着かせなくては。
「いやいや、彼女じゃないよ。」
焦りが声に現れてしまう。
「そうですね。年下にしか興味がありませんもんね?」
リリの目はさらに狂気を増し、まるで人を殺す直前のアリゲーターだ。
「そ、そんなことより依頼があってきたんだけど!」
「あっ忘れてました。うっかりですね♡」
自分の頭をコツンと叩いた。
まったく、可愛さとは人の人生を狂いかねないな。
リリの目も殺戮アリゲーターからレベルダウンしていた。
これに裸を覗いたことを暴露されたらこの部屋は混沌と化したことだろう。
必要な材料のメモを渡し帰ろうとした際。
「ついでに一緒に材料を調達をしに行きませんか?」
またしても甘い声での勧誘。
「どうしようか。リリがいいなら行くけど」
「私は別に構わないわ」
きっとこの一言が原因だったのだろう。
その後俺たちは恐怖を味わうことになる。
気がつけば洞窟の目の前に立っていた。
俺たちの目的はこの洞窟の主と呼ばれたり呼ばれなかったりするガーローンという猛獣の血液だ。ガーローンとか、三秒で思いつきそうな名前だな。
横にはライフル銃とランタンをもったマヤ。
そしてその横には怯えたリリ。
怖ければ待っていればよかったのに。
そうゆう俺も少し不安に満ちている。
今更の話だが、マヤは一流のハンターだ。
何かあればこいつが何とかしてくれるだろう。
「さぁ、行きましょ!」
元気なのはマヤ一人だけのようだ。
何分歩いたかすら覚えてない。
視界に入るのはランタンで照らされた岩、岩また岩、もう疲れた。
「例の猛獣はいつあらわれるんだ。」
「もう、そんなこと言っちゃいますと、猛獣に襲われちゃいますよ。」
その言葉を発した瞬間だった。
暗闇の中からひとつの大きな塊がこっちの方に飛んできた。
それが、例の猛獣ガーローンであると知ったのは俺の足を噛み砕いた瞬間だった。
まるでその姿はケルベロスのようだった。
もう何が起きたか理解出来ていない。
俺の左足が大きな顎でバキッと噛み砕かれ。
その後に血が一気に吹き出す。
「あ゛ァァァ…」
ただ絶叫するしかなかった。
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い……
呼吸は瞬く間に荒くなる。
気づけば噛まれたままぶら下がっていた。
足からの血が体を伝って顔にかかって真っ赤になっていた。
もう意識が薄くなっていた。
このまま俺は出血多量で死ぬな。
ああああ……
俺の覚えている最後の記憶はマヤの撃った弾が猛獣の顔に当たり、噛むのをやめて俺の体が地面に叩きつけられた所までだった。
もう、既に痛みも何も感じなくなっていた。