表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/6

かなしみのなみにおぼれる

みなさん。おはようございますこんにちは、そしてこんばんは。

あ、あけましておめでとうございまぁ~す!

作者の代弁者の紫乃宮綺羅々でぇ~す! 今年もよろしく!


もう、おなじみだけど、ここは前書きでっす!

本編を読みたい人はサクッと、ここを飛ばしてね。よろしくね!


さて、今回で一応『凪紗ちゃんのバレンタイン大作戦(仮)』は完結します。

一応とつけたのは今回もおまけを実装しているからです。

といってもたぶん一~二話で完結すると思うけどね。

まぁ、おまけの完結までお付き合いしてね! あはは!


では、最終話『かなしみのなみにおぼれる』をお楽しみください! それではっ!

◆翌朝 午前六時三十八分


「ううっ~~~さ、寒いぃぃぃぃぃいい~~~あと七分もあるよ~~」

 毎日通っている新京連線前橋駅。そこでいつも通りにいつも乗る電車を待ついつものわたし。


 なんか、寝ている時に変な夢見たような気がするけど……まったく覚えていない。覚えていないって事は大した夢じゃないだろう。きっと。


 でも、とても寒かったのだけはなんとなく覚えてる。


「まっ、いっか」

 思い出せないものをいくら思いだそうとしてもしょうがない。それよりも今日このあと、と、言うよりも、もうすぐそこにその『このあと』が来るんだから。


「ううっ……キンチョ~するなぁ……」

 気持ちを切り替え、『このあと』の事を考える。


 そんな『いつも』通りのわたしはスマホの画面を見てわたしの緊張度が増す。刹那くんからの返信メール。メールには『すごくおいしかったよ。ありがとう。改めて明日お礼を言うよ』と返答があった。


「ううっ……やっぱりうれしい……」

 メールを、見てニヤけてしまう。昨日の夜から刹那くんのメールを見てニヤけて、今日の朝もメールを見てニヤけてしまう。


「刹那くん……おいかったって言ってくれた……よし! 来年も絶対にあげよう」

 あれ……でも考えてみたら買ったものだからおいしいに決まってるよね? わたしの手作りだったら緊張するけど……なんで緊張しているんだろわたし? ……手作りかぁ来年は手作りチョコをあげようかなぁ……


「おふぅ……手作り……」

 想像したら恥ずかしくなってきた。顔が赤くなっちゃうかも。


「まもなく、京連妻沼行きの電車がまいります。白線の内側までさがってお待ちください」

「おっ、来たかぁ~」

 手作りチョコを作る為に、今度奈留ちゃんからチョコの作り方を教わろっかな。


 少しさがり、プラットホームに停車した電車のドアが開く。


「手作りのチョコか……よし。来年は!」

 そんな決意した思いを抱きつつ、鋼鉄とステンレスの車内へと乗り込んだ。


「お、お、おはようございます。刹那くん」

「おはよう凪紗ちゃん」

 込んでいるでもなく、空いているわけでもない。ほどよくひとが乗っている。この中の車内のひとは次の新妻沼駅でほとんど降りる。刹那くんもそのひとり。


 お互いに軽い挨拶を交わしつつ定位置である刹那くんの右横に立ち、つり革を掴む。


「どう筋肉痛は? だいぶよくなった?」

「あ、はい。えっと……そうですねぇ……」

 あ、そうだったマッサージするの忘れてた……


「はい。痛みはだいぶ引いてますので昨日よりだいぶよくなりました」

 まぁ、本当にだいぶ痛みは引いてるから、大丈夫でしょう!


「さすがは高校生だね。回復も早い。俺だったら一週間くらいかかりそうだよ」

「そんな事はないですよ。刹那くんも早く治ります。もし筋肉痛になったらわたしがマッサージをしてあげましょうか?」

「う~んありがたいけど、やめとくよ。女子高生にマッサージされちゃったらいろいろとヤバそうだし」

「そうですか? わたしは刹那くんなら別にいいですけど?」

 他のひとはイヤだけど……刹那くん『だけ』ならわたしは、いいのに……

「いやいや、俺が恥ずかしいよ。気持ちだけ受け取っておくね」

「そうですか。残念です」

 ……ここで強く押せないのがわたしの弱い所なのかもなぁ……マッサージするのは刹那くんだけです! って力強いく言えたらいいのに……


「あ、そうだ。チョコおいしかったよ」

「あ、ありがとうございます……」

 ううっ、結構不意打ち気味に言ってきたなぁ……


「おこづかい結構使っちゃったんじゃないの? かなりおいしかったしゴッデスでしょ?」

 そんな細かい気遣いしてくれる刹那くんは……やっぱり優しいなぁ……


「はい。そうです」

「食べといてなんだけど、俺なんかにはゴッデスのチョコじゃなくてボノボルとかシルバーサンダーの安いチョコでもよかったんだよ?」

「でもですね……その、昨日も言ったんですけど去年はその色々とお世話になったんで……その……お礼を込めてって事で……」

「そっか。改めてありがとう。でも義理にしては高価すぎるからくれるならもっと値段が安いのでいいよ」

「あ……えっとぉ……」



 改めて思い知らされる。気づいてもらえなかった事を……そっか……そうだよね。だってちゃんと言ってないもん。チョコを渡しただけだもん。



 そっか刹那くんにしてみれば……『高価なチョコを知り合いの女の子からもらった』だけなんだ。そんな単純な事なんだ……刹那くんにとっては。


 ああ、でも刹那くんに直接言われるとこたえるなぁ……心が弾けてどっかにとんでいきそう。



 単純なことなんだ……その単純なことにしたのは他の誰でもない……わたしなんだ。刹那くんにとって単純な事にしたのはわたし……わたしなんだ……


「じゃあ、俺は降りるね……凪紗ちゃん?」


 胸が痛い……息苦しい。


 わかっているそうこの痛みは、これはわたしが……昨日ちゃんと『好きです』って言えなかったからこその痛み。『好き』って単語を刹那くんにい言っていればこんな気持ちにならなかったのかな……


「凪紗ちゃん……大丈夫?」

「あの、神夜さんすいません。凪紗の事はまかせてください」

「あ、うん……じゃあお願い」

「はい」

 あれ? アイリーンだ。どうしたんだろ? なんで刹那くんと話してるの? あれ、刹那くんどうして降りるの? まだわたし何も言ってないよ……?


 なんで、待って。


「凪紗しっかりして!」

 刹那くんに延ばしかけた腕を鷲掴みにされた。


「えっ……」

 身体が揺れる……なんか心地いい。でも、視界から刹那くんがどんどん離れていく。待って。行かないで。


「凪紗! 凪紗ってば!」

 目の前のアイリーンが揺れてる。それと同時に身体も揺れる。地震かなぁ?


「凪紗! しっかりしてよ!」

 耳元がうるさい。なに言ってんのアイリーン。そこをどいてよ。刹那くんが行っちゃうよ。


「凪紗ってば!」

「痛っ……アイリーン?」

 頬が引っ張られる痛みでわたしはぼやけていた視界がクリアになってアイリーンを見た。


「まったくもう、電車内で瞳孔が開くほど激しく落ち込まないでよ。大きな声出しちゃって恥ずかしいじゃない!」

 意識がはっきりしたと判断したのだろう。アイリーンはわたしの頬を掴んでいた指先を離す。

「あ……ご、ごめん」

 チラッと横目で見ると車内の乗客は好奇なまなざしでわたし達を見ていた。だけど、状況が落ち着くとそれぞれスマホを見たり、雑誌などに視線を落とし始める。


「……まぁそれはいいわ。で、どした? 神夜さん凪紗の事心配してたわよ?」

「刹那くんが……」

 そっか……またわたし……刹那くんに心配かけちゃったんだ……


「アイリーンわたし……ちゃんと言えなかった……」

 視線を……顔を下げてわたしは……消えそうな、か細くて……電車の走行音で消えてしまいそうなほど。ふぅ、と息を吹きかけると消えてしまうろうそくの火のような弱々しい声で呟くように口を開き言葉を吐き出す。


 わたしの両手はアイリーンの制服の上から両腕をしっかりと握っていた。シワが出ているほど強く。そうして握ってないと……不安で、離してしまうと……わたしはわたしでいられなくなってしまいそうだから。


「それは昨日私が言ったでしょ?」

「……刹那くんにチョコ……義理だって言われた。思われてた」

「それも言った」

「ただチョコをもらったって思われてた……」

「その原因を作ったのは誰なの?」

「……わかってるよ」

「なら気づいているでしょ?」

「うん……わたしが原因」

「そうよ。わかってるじゃない」

「苦しいよ……息が苦しいよ……胸が痛いよ……もうヤだよ」

 涙腺が緩んで涙がでそう……胸がとても痛くて、苦しくて……だからわたしはアイリーンの胸に顔を埋める。泣かないために。


「じゃあ、神夜さんの事好きって事をやめる? 気持ちが楽になるよ」

「なんで? なんで好きになることをやめる必要があるの? 意味わかんない」

「いいの? これからも苦しいよ?」

「苦しくたっていいよ。だってこの苦しい気持ちも痛みも全部、全部含めてわたしは刹那くんが……す、好き……なんだもん。どうしようもないくらい心が痛くても好きで。抑えることができないくらい好きで大好きなんだもん。好きになることをやめる必要なんてない」

「恋の痛みか……それだけ言えれば大丈夫ね」

「ごめんね……朝からこんなわたしで」

「いいよ。でも凪紗は強いね。芯が強いって言うか、なんだろ? 強固な精神の持ち主って感じ」

「なにそれ? よくわかんない」



 ◆



 その後のことはよく覚えていない。きっといつものわたしが自動運転でいつもの日常をこなしてくれていたのだろう。電車から降りて、学校に行って、授業を受けて、お昼ご飯を食べて、授業を受けて、部活をして、バイトをして、電車に乗って家に帰る。


 きっと、自動運転のわたしはこれらの事をこなしてくれたんだと思う。そしてわたしは今、家にいる。学習机に座ってカバンから適当に取り出したノートを見ている。


 昨日と違ってカバンの中のボノボルは残っている。朝カバンに入れた数と同じ。そっか。自動運転のわたしには『ボノボルを食べる』っていうプログラムはされていないんだ。今日のわたしと昨日のわたしは違うんだろう。


 人間って何も考えないで生きると日々の反復行動を起こすのだろうか

と本気で考えてみる。


 身体になんとなく違和感がある。たぶん疲労。この疲労はきっと放課後に部活に出たんだろうな。内容はまったく覚えてないけど……でも、もし火燐センパイに何か言われたらどうしよう……もしそうだったら怖いなぁ……


「あ、おしっこ漏れそう」


 手に取っていたノートを開く。それは科学のノートだ。科学のノートにはわたしの字で化学式や元素記号が並ぶ。空白のわたしには書いた記憶がない。自動運転のわたしが書いた授業内容。二年間同じ事を繰り返した、わたしの行動をそのままトレースした自動運転のわたし。


 『意志のない人間。それはただの人形、あやつりだけの人形』

 そんな言葉が頭に浮かんだ。


「重傷だな……」

 刹那くんにチョコを渡したはずなのに……義理チョコだと思われて、好きだと言えなかったわたしはこんなにも落ち込んでショックを受けているなんて……


「重傷だな……」

 同じ言葉を繰り返し吐く。これで刹那くんにふられたり……実は彼女がいたりしたらわたしはどうなってしまうのだろう?


 死んでしまうかもしれない。死なないまでもきっとずっといつまでも立ち直れないかも知れない。


「ふぅ……」

 と、溜息をついて机の上に突っ伏す。


「結局……誘えなかったな……」

 机の上に放っておいたスマホにおもむろに手を伸ばす。スマホを掴んで重い身体を起こしスマホを立ち上げる。

 メールアプリを起動させて、昨日紫さんからもらったアドレスをクリックしてeチケットを見る。


 eチケットの期限は二十日まで。この手のチケットはとても有効期限が短い。


 つまり、あと五日でこのチケットは使えなくなってしまう。


 そして、初詣の時に話した事を踏まえると、刹那くんが確実に仕事を休めるのは日曜日のみ。刹那くんと一緒に使うなら実質、あと一日だけだ。


「……うん! よし、こんな気持ちのままなら!」

 意を決してアドレス帳から刹那くんのメールアドレスを選択。本文を打ち込む。件名は後で考えればいい。今はとりあえずこのeチケットを使って刹那くんにお誘いメールを送ることだけを考える!


 スノバのシェアチケットもらったんで日曜日、スノバに一緒に行きませんか? お好きなドリンクを飲めますよ。と最後に音符のマークを付け加えてメールが完成。


 スラスラとメールが打てた。なんだろう? なんか、気が楽になってる。きっとバレンタインが終わってなんにも進展がなかったって事がわかって……何も変わってないって変わらないって思って、気が楽になってるのかな……? なんにも変わってない。変化がなかったただのバレンタイン……


「だめだ! だめ! 辛気くさい事考えるな! 今からでもこの状況を変えるんだ!」

 そして、メールに『スノバのあとにどこかに遊びに行きませんか?』とさらに追記してメールを送信!


 と、思ったけど、件名を決めてなかったので送信エラーで弾かれてしまった。


 とりあえず、『一緒にスノバにいきませんか?』と件名を打ち改めて送信。


「ふぅ……息巻いてたけど……これがわたしの限界かぁ……」

 と、送信して少し後悔。もう少し気のきいた事をかけない事に、これがわたしの限界なの? って事に気づいて後悔。


「あれ……」

 わたしはふと、気づく。


「あれ、これって……デ、デートに誘ったってことじゃないのかな!?」

 スノバにコーヒーを飲みましょうって誘って、さらにその後に遊びに行きませんかって誘うって……これってやっぱりデ、デートに誘った事になるのかなぁ!? イヤイヤ待って待って。チケットがもったいないから使うだけだからデートじゃないよね? イヤイヤまってまって。ふたりで使うチケットだから自然とふたりになるよね? あれ、やっぱりこれってデートなの? いやいや待って待って。確かに状況を変えようとスノバに誘ったけど。デートになるの?


「もしもし。アイリーン」

 わたしはおもむろにコネクトからアイリーンに電話をかけていた。


「聞きたいんだけど、男女ふたりきりで遊びに行くとデートになるのかな?」

『はぁ? 男女で? それはもうデートでしょ?』

「ありがとう」

『ちょ! なぎ……!』

 わたしはそれだけ聞くと電話を切った。


「ふぅ」

 落ち着くために深呼吸を行う。


「デートだぁああぁああぁぁああぁあああぁぁぁぁあああ~!」

 そして絶叫。叫び。


「ばなっしぃぃぃいいぃぃ~~ど、どうしよう! 刹那くんをデートに誘っちゃったよ! ふ、ふたりっきりだよおぉぉぉぉぉぉおおぉぉおおおお~~!」

 ばなっしーのぬいぐるみを抱き寄せ顔をうずめる。


 去年の船橋の病院とは違って最初からコーヒー飲んだり、おしゃべりしたり……そんなひとときが約束されたんだよ! 日曜日に!

 


「落ち着けわたし……よし! 今日はもう寝よう!」

 そしてわたしはお風呂に入ってほどよくしてベッドに潜り込んだのだった。


「と、その前に」

 スマホを手に取る。


「あ……」

 メールアイコンの右上に着信を知らせる『1』の数字が表示されている。


「やっぱり……まじめだな」

 メール送信者には『刹那くん』と登録名が踊る。やっぱり刹那くんは本当にまじめだ。今日中にメールを返してくれた。


「……よし」

 メールには『いいよ。じゃあ日曜日に妻沼の駅で待ってるね。あ、でも午後から中村君とでかける予定があるから午前中だけだけどいいかな?』と、ある。


「あ、そっか……ごめんね。刹那くん」

 その後に、『それと今日体調悪かった? なんか途中から元気が無かったような気がしたから。心配したけどメールくれて安心したよ』


「ごめんね。心配かけて」

 メールの最初の『心配してくれてありがとう。もう大丈夫です。だから気にないでください』と打つ。


「さてと刹那くんといられるのは午前中だけか……」

 かなり残念だけど、中村さんと予定があるならしようがない。刹那くんは今日中に返してくれたんだ。ならわたしも今日中に返さないと。


「午前中だけで大丈夫です。じゃあ、時間は10時にJP妻沼駅でって事でいいですか? もし早いなら時間ずらします。返答は明日でもいいのでお返事お願いします。これでよしっと!」


 あ、送信する前に、わたしはもう寝ちゃうからその事も書いておこうかな。もしかしたら刹那くんはわたしの返信を待っちゃうかもしれないし。


「それと、すみませんけどもう寝ますんでメールでのお返事は明日、直接言いますっと。よし、これで送信」

 送信をボタンをクリックし、メールを送信。


「返事も書けたし……どうなるかは明日のみぞ知るって事で!」


 わたしは勢いよくベットのかけ布団をまくり上げ、ベッドにすべりこんでそのまま眠りについたのだった。


 と、思っていたんだけど。


「……どうしよう。眠れない」

 結局。明日の事が気になってしまって眼が冴えてしまった。一度でも眼が冴えてしまうと、もう寝れなくなってしまう。


「ううっ……しようがないかぁ……」

 しぶしぶベッドから出て、両手を床に置いたのだった。



 ◆



「ううっ……さ、寒いぃぃいぃい~~あ、あと七分もあるぅ~~」

 寒空が肌を冷やし、寒さを振りまいている朝の午前六時頃。わたしは電車を待つ。電車を待っている。


 いつも通りにひとはいるし、いつも通りのアナウンス。特になにも変わらない。


「ううっ……ね、眠いぃぃいぃい~~す、すごく眠いぃぃ~~~」

 いつもと違うのはわたしはすごく眠いことだ。


 あの後。眠れたのは午前三時。どう目をつむっても寝れないので、がっつりと身体を動かして強制的に疲れを誘発して寝ることにした。


 具体的には筋トレ。


 腕立て、腹筋、背筋、スクワットを各10回の3セット4種それぞれの30回づつこなしてシャワーを浴びてやっと眠れたのだ。筋肉痛が治りかけていた身体には結構こたえたけど、ずっと寝れないよりはマシだし火燐先輩の個別訓練よりはずっとマシだ。でもそのおかげでまた筋肉痛になりそうだけどね……ふぅ……


 でもねぇ……寝たはいいけど二時間後には起きたので、正直寝た気がしないんだよねぇ……


 そんなこんなであと七分間をいつもどおりコネクトを見たり音楽を聴いたりして時間をつぶす。最近はコネクトミュージックやコネクトマンガと言ったコネクト独自のコンテンツも増えてきて、時間の使い方の幅が増えてきた。けど、別料金で月額だから使っていない。むしろコネクトミュージックなんてわたしには意味がないんだよね。今もすでにlpod(エルポッド)で音楽を聴いているんだし。ましては何万の音楽を聞くなんて到底できない。興味がない。あ、でもマンガは良さそう。無料期間だけ使ってみようかな?


 いつもの制服に赤いマフラー。それに去年から履き始めたスパッツ。そんないつもの格好で電車を待つ。


 今日はいつに増しても寒い。そろそろ暖かくなってもいいと思うけど……とにかく寒い。肌に染み込むほどに寒い。寒い!


 こんな寒い日だからきっと……


 ピコン。


「おっ?」

 ブレザーにしまいかけていたスマホから着信音とバイブがなる。


「おおっ、久しぶりだなぁ」

 コネクトには涼葉さんからのメッセージが届いていた。


 涼葉さんとは去年会ったきりだ。会ったといっても刹那くんと挑んだ初めてのアンブレイドバトルでの対戦相手としてだ。


 いいところまでいったけど、結局負けてしまった。


 だけど、いいとこまで行ったのはわたしの実力じゃない。それはわたしの首にぶらさがっている【色付き】って呼ばれている白い半透明のマテリアルプレートのおかげだ。このプレートがなければわたしはもっと早い段階で負けていたと思う。ううん絶対に負けていた。


 その戦いのあと、コネクトのIDとメアドの交換をして友達になったんだ。二ヶ月前の事だけどなんか懐かしいな。


「一週間ぶりだなぁ。元気にしてたかな?」

 コネクトでやりとりしてる涼葉さんからのメッセージ。だけどここ一週間くらいきてなかったから久しぶりって感じ。こっちから送っても返事がなかったからなぁ。心配してたよ。


「なんだろう……えっ、ホントに!」

 メッセージは今度こっちに遊びに来るって内容だった。


「妻沼に来るんだ。久しぶりに会えるんだ涼葉さんと。あ、でも遊びに来るって書いてあるけど……もしかしてまたバトるつもりじゃないなのかな? そしたらやだなぁ……晴れの日に来てくれないかなぁ」

 バトルの可能性は捨てきれないけど……来たときには天気が晴れであってほしい! いやむしろ晴れてください! アンブレイドは持ちたくありません!


「でもいつ来るんだろう……あれ、書いてないや。あ、来る日が決まったらまた連絡するか……来るとしたら春休みあたりか……う~ん、あやしい!」

 もしかして、こっちの天気を調べてから来るんじゃないのかなぁ……疑ってるわけじゃないけど……あやしい!


 もう一度言うけど、疑ってるわけじゃない訳じゃない。じゃないけど無意識に天気予報アプリを起動しているわたしがいる。今週、来週、さらには月間の天気も調べている。


 何度も言うけど、疑ってるわけじゃないよ! ホントだよ! と、自分に言い聞かせているけど天気アプリを見る視線ははずさない。そんなわたし。


「おっふぅ……」

 来月。つまり三月は曇りが多いって予報が出ている。


「曇りかぁ……」

 天気は曇りだけど、天候なんてものは刻一刻(こくいっこく)と変化しているから……参考程度で考えておこう……


「晴れてくれないかなぁ……」

 結局はこの結論に辿り着いてしまうのだった。



 ◆



「刹那くん。おはようございます」

 七分後。到着した電車に乗り込み、わたしは定位置である刹那くんの隣に左となりに立つ。



「おはよう凪紗ちゃん」

「はい。おはようございます」

 音楽を停止してイヤホンをlPodに巻き付けてカバンにしまう。



 バレンタインは失敗したけど、失敗してもひとつだけ変わらないことがある。刹那くんが好きと言う気持ちだけは絶対に変わらない。この恋に後悔なんてしない。


 今はまだ知り合いってレベルだけど……知り合いから友達になってそして、その後に……いつかきっと、刹那くんに絶対に『好き』って言って……そのあとはどうなるかわからないけど……だけど、わたしはどうなろうとその事を受けとめようと思う。



 だからその時まで好きでいさせてね。刹那くん。




 大好きだよ。刹那くん。




□最終話『凪紗ちゃんのバレンタイン大作戦』 完






○おまけ/ちょっとだけ続きの物語



「昨日のメールだけど、10時で大丈夫だよ。でもスノバなら7時からあいてるけど10時いいの? なんなら9時からでもいいけど?」

「えっ、いいんですか?」

 よし! 1時間早く刹那くんに会えるし、1時間多く一緒にいられる!


「わたしはオッケーですけど、刹那くん的には9時で大丈夫なんですか?」

「俺はぜんぜん大丈夫だよ。それに俺から提案しておいて9時はダメだなんて言えないよ」

「じゃあ、9時にしましょうよ」

 ホントは7時からがいいんだけど……さすがにそれは早いし、わたし自身も起きられる自信がない!


「わかった。どこのスノバに行く? リーナ、それともパルモのスノバ?」

「パルモのスノバでお願いします」

 その方が話は早いんだよね。もしかしたらこのチケットってパルモのスノバでしか使えない可能性もあるし。使えなくても紫さんの名前を出せばスムーズに事が運ぶし。


「じゃあ9時に、この前と同じJP妻沼駅の改札前ってことで」

「はい、じゃあ待ってます」

「わかった。遅れそうならメールして」

「はい」

 そんなこんなで日曜日に刹那くんとスノバでの楽しいひとときが約束された。すごく楽しみだ! なに着ていこうか今から考えちゃうよ!


(どうしようかなぁ~~なに着てこうかなぁ~~あ、奮発して新しい服買おうかな?)


「まもなくぅ~新妻沼~、新妻沼~JP線はお乗り換えですぅ~」

 至福な心の声とは裏腹に残酷な新妻沼駅到着アナウンスが車内に染み渡る。


 それは同時に刹那くんとの別れを意味している。う~ん。アイリーンの家から通学したいよ。そーすれば、もっと長い時間刹那くんと一緒にいられるのになぁ……


「じゃあね、凪紗ちゃん。また明日」

「はい。また明日」

「うん。いってくる」

「うん。いってらっしゃい。バイバイ刹那くん」

 手を振り刹那くんを見送る。


「おはよう。アイリーン……今日はすごく寒いね」

「そうね」

「……」

「……」

「……なに? じって見てなんなの?」

「……暑くない? それに厚くない? そんな重装備で大丈夫なの?」


 そう。気温が下がり、すごく寒くなるとアイリーンはかなり着込んでくる。イヤーマフラーを耳にかけて、マフラーをネックウォーマー並に顔半分まで覆うくらいに巻きつけている。さらにはダッフルコートの下にはシロクロで売っているウルトラライトジャケットを着て、さらにその下にブレザー。そしてさらに下には学校指定のセーターを着ている。


 スカートの下にはジャージを履いている上下の肌着はもちろん暖かさを保つヒートインナーだなきっと。

 手はいわずもがな手ぶくろ装備済みだ。それと絶対に手ぶくろの下には手ぶくろ用の手ぶくろインナーを組み込んでいるだろうな。手がパンパンになってるもん!


 去年初めて見たときはびっくりしたけど、本人曰く『私は寒がりなのよ』だそうだ。


 でも、ニット帽みたいな頭にかぶる防寒着はつけない。アイリーン曰く理由はダサいからだそうだ。まぁ、ニット帽までかぶったら遠目から見たら『目出し帽』っぽくなっちゃくからな。これはダサくなるよ。


 でもね、アイリーン。ニット帽をかぶるとダサくなるって言うけどさ。そんなに着込んでると着ぶくれしてて、太って見えるよ。


 なんて言うものならアイリーンにひっぱたかれちゃうかな? すこしそれっぽいことをさっき言った気もするけど。


 しかしこの重装備のアイリーンを見ると、『本格的な冬だな』とか『今日はすごく寒いんだな』って実感するよ。わたしはあまり寒くはないけど。


「大丈夫よ。問題ないわ。むしろあんたが軽装備すぎるのよ。去年も聞いたけど、なんでこんな寒いのに防寒着がマフラーひとつなのよ? 寒くないの?」

「寒いけどマフラーで平気」

「信じられない!」

 去年も同じ答えを言って同じ反応なんだけど……アイリーンにしてみれば相変わらず信じられない事らしい。わたしの防寒装備がマフラーひとつって事が。


「さすが、名前に『雪』の名が入ることだけあるわ」

「関係ないと思うけど……でも雪が降る日はすごい寒いからダッフルコートは着てくるよ。それに手ぶくろも」

「それくらいしないと化物よ、化物。名もない怪物よ」

「あはは……」

 雪か……どこかわからない暗い場所。空から降る雪。それと……


「凪紗、降りるわよ? ぼけ~っとしない」

「あ、え、ああ、ごめん」

「元気そうでよかった」

「……昨日はごめん」

 わたしは急いでホームに降りたのだった。

 

 おまけ 続く


こんばんは、間宮冬弥です。まずは、あけましておめでとうございます。

新年の挨拶が遅くなりましたが今年もよろしくお願いします。


そして稚拙な作品を最後まで読んで頂きましてありがとうございます。


さて前回のあとがきで「あと一、二話続く」と書きましたが、今回で完結です。

といっても、代弁者が言ってしまっているので知っていると思いますが、おまけがまだ

続きます。こちらはあまり長く続かない予定です。

最後までお付き合いしていただければ幸いです。


では、短いですがこれで失礼します。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=95196862&si
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ