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迷子ライフ

みなさん。おはようございますこんにちは、そしてこんばんは。

作者の代弁者の紫乃宮綺羅々でぇ~す! 元気してた?


毎度の事だけどここは前書きでっす!

本編を読みたい人はサクッ、と下まで行ってね。


さて、もう三話目ですよ。三話目!

なんかね、もうねかなりのハイペースだよね! 間宮冬弥さくしゃ大丈夫なのって感じだよね!?


でもね、話数は進んでるけど話は進んでないよね? これって?

これじゃ、終わるまで時間がかかるかもね! あはは!


では、第三話をお楽しみください! それではっ!

 風紀王(風紀委員長)と生徒会長に捕まっちゃってかなり時間がかかったけど……

 なんとか、やっとの思いで騎士道部に辿り着き、着替えて一番に火燐センパイに遅くなった旨を伝えると……

 穏やかで優しい笑顔でまずは『校庭10週』そして『腕立て30回・腹筋30回・背筋30回・スクワット30回を3セット』を言い渡された。


 そしてそのあとに始まる火燐センパイの『個別特訓』という名のおしおきが開幕するのだった……


 ううっ……怖いよぉ……怖いよぉ……


「あ、おしっこ漏れそう」

 火燐センパイの事を考えるといつもおしっこが漏れそうになる。

 これも『あの時』の印象が……ううん違うな。『恐怖』がとても強いかもしれない。


 そして、火燐センパイから必ず『例の件』をどうするか聞かれることになる。わたしはその件の『返答』を言わないといけない。

 ギリギリまで待ってくれたセンパイにわたしは言わないとダメなんだ。


 断ってもきっとセンパイなら受けて入れてくれる。……でも、火燐センパイはわたしを選んでくれたんだ。

 そして今日まで時間をくれたんだ。決心はついている。あとは答えるだけ。わたしの思いを伝えるだけだ。


 わたしには荷が重いかも知れないけど、とても重いかも知れないけど、ちゃんとできるかわからないけど……先輩のその申し出を受けようと思う。



 ◆



 そんなこんなでキツくて辛いおしおきが終わって、バレンタイン当日。


「えっとぉ~~~そのぉ~~~えへへ、あ、痛たた」

 筋肉痛の痛みが走る。そしてわたしの目の前には刹那くんがいる。


 さぁ、決戦だ! なんて意気込んだのはいいけど……思うように口が動いてくれないよぉ~~~


「えっとぉ……そのぉ……」

 どうしよう……刹那くんの顔が見れないよぉ……


「うん。どうしたの?」

「そのぉ……あのぉ……」

 ううっ……どうしよう……


「うん」

「そのぉ……」

「うん」


「……」

「……」

 沈黙。刹那くんはわたしがしゃべりだすのを待ってくれていて……わたしは勇気がだせないで、もじもじしている。


 言わないといけないのに……告白しないと進めないのに……バレンタインは今日一日だけなのに……


 たった一言だけなのに……口から吐き出せない。言葉が組み上げられないよ……


(どうしよう……)

 呼吸が定まらない。視線が意識と関係なく上下左右と泳ぐ。口の中が急激に乾燥している。唇もうるおいが無くなりそう。

 ヨダレが干上がるほどの口の中がパサつくしカサつく。


 リップ塗りたい。ひとくちだけでいい。何でもいいから何か飲んで落ち着きたい。


 胸のドキドキが止まらない。心臓の鼓動と音がはっきりと聞こえてきそうなほどに心臓が急稼働している。


 きっとリップを塗ろうが何か飲もうが状況はかわらない。落ち着くなんてできない。


 頭が真っ白でになる。何も思いつかない。めまいに似た感覚が身体をよぎっていく。


 どうしよう、どうすればいいんだろう。刹那くんの顔を見るだけでもっとドキドキして緊張しちゃう……


 暑い。体温が急上昇している……寒いはずなのにすごく暑い。マフラーを取りたい。ブレザーを脱ぎたい。


 手を伸ばせばすぐそこにいるのに……言葉を発すれば聞こえる距離に彼はいるのに……すごく遠くに感じる。


 緊張で胸が弾けそう。それよりも先に心臓が口から飛び出てきそう。


 刹那くん……正直に言うね。わたしね……


「あの……えっとごめん凪紗ちゃん。その、とても言いにくいんだけど……そろそろ行かないといけないんだよね。俺」

「あっ! ……えっと、そ、そうですよね!」

 刹那くんの言葉で弾けたように意識が引き戻される。心の準備はできていると思ったのに。全然準備は来ていなかったんだ……わたし。


「京連妻沼行き電車がまもなく発車いたします。ご乗車になってお待ちください」

「ううっ……えっとぉ……」

 無情なアナウンスが流れる。時間が足りない。どうしてもどうあがいても圧倒的に足りない時間が。


 どうしよう。焦りで汗が吹き出てくる。


「凪紗ちゃん。電車出ちゃうけど……えっと……夕方でもいいよ? なんなら明日でも俺は大丈夫だけど?」

「あっ……」

 ダメ、それはダメなんだよ。今日じゃないと……今じゃないと意味がないんだ。夕方に刹那くんと会う約束をしても……会えるとは限らないから……


「えっと……せ、刹那くん!」

「は、はい!」

 わたしは大きな声で刹那くんの名前を呼ぶ。ここで名前を呼ばないと。なんでもいいから言わないと、ダメだ!


「そのぉ……去年はいろいろとありがとうございました! あの……これをどうぞ! 受け取ってください! 痛たた!」

 意を決して感情をムキ出して声を出す。声のボリューム調整なんて抑制できなかった。たぶんかなりの大声で電車内のひとにも聞こえていると思う。


 恥ずかしがるのは後でいい。今は……このチョコだけでも刹那くんに渡さないといけないんだ。


 筋肉痛をガマンして、カバンから勢いよくチョコの箱を取り出し、両手を添えて刹那くんに差し出す。


 顔はうつむいたままだけど……恥ずかしくて刹那くんの顔が見れないままだけど……今は……顔を見れないことを許してね。


「え、あ、うん。ありがとう。ゴッデス……ってチョコかな?……あ、そっか今日はバレンタインデーだからか」

「はい、そうでっす!」

「ありがとう。でもこのチョコってゴッデスでしょ? 高かったんじゃない?」

 チョコを受け取ってくれた刹那くんはたぶんわたしのチョコを見ている……と思う。うつむいてわからないけど……


「はい! 大丈夫でっす! わたしがんばりました! 奮発しちゃいました!」

 チョコを見て刹那くんが心配してくれた。ホントはちょっと痛かったけど……刹那くんの為なら高くても大丈夫!


「そうなの? わかった。ありがとう。このチョコは家に帰ったらおいしく食べさせてもらうよ」

「はい、おいしいので全部食べてください!」

 刹那くんの顔を見れないままうつむいて指をもじもじさせながら恥ずかしいそうにわたしは刹那くんと話す……後でいいと言っておきながら……今にまさに恥ずかしがっている。


 斉藤さんの言葉を思い出すよ……『自分の発言に責任をもてない者は言葉を発する資格はないわ』って……確かにその通りだった。


「ありがとう。チョコは今日の楽しみにしておくね」

「ありがとうござっす!」

 あ、噛んじゃった!


「じゃあ、チョコありがとう。ごめんね俺行くよ」

「はい、じゃあまた明日」

「うん、明日ね。テストがんばってね」

「はい、また明日! テストがんばりまっす!」

 最後に刹那くんの顔を見て、わたしは急いで電車に飛び乗った。


青春(アオハル)ごちそうさまでした」

「よかったよぉ~ギリギリセーフで渡せたよぉ~」

 アイリーンに成功の報告をすると『うんそうだね。チョコは義理義理アウトになっちゃったけどね』と、返ってくる。


 ん? ギリギリアウト?


「アウト? なんでアウトなの?」

「なるほど。これが恋は盲目ってヤツね。うん、説明するとね凪紗は神夜さんに『好き』って言ってないの。チョコだってただ渡しただけ。

それじゃ神夜さんは『本命チョコ』だってわからないし、気づきもしない。違う?」

「……えっ……ちょっ……えっ、マジか!?」

「うん。マジ。ただただ私はあんたが『義理』になったチョコを恥ずかしそうに渡すのを見ただけ。それだけ。それだけの事。アオハルごちそうさまでした」

「……」

「……」

「……」

「……」

「……」

「……」

「えっと……じゃあ」

 あれ。なんだろ。頭が真っ白で……何も考えたくないんだけど……


「簡単に三行でまとめると『バレンタイン』・『告白』・『失敗』って

事」

「えっと……」

「さらに三行追加すると『神夜さん』・『チョコ』・『渡しただけ』って事」

「ふえぇ!……ど、どうしよう! 刹那くんとの関係が終わっちゃうよぉ!」

「まだ、始まってもないけどね」

「で、電話でいいかな? 電子音声ごしでも大丈夫かなぁ!?」

「電話番号知ってるの?」

「し、知らないけど! でも思いがあれば繋がるよね!?」

「イヤイヤ! 無理! 思いがあっても無理無理、無理だから!」

「じゃあ、どうすればいいのぉ~~~~! アイル~~~~ウィ~~~~ン!」

「そうね。メールでも送れば?」

「それだ! さすがアイルウイィィィイィィン!」

 スマホを取り出し、メールアプリをタッチし、新規メール作成画面を立ち上げる。


 よし、ここから始めるんだ! 今日は……刹那くんに! 思いを伝えるんだ!


「……」

「……」

「……」

「……」

「……」

「……」

「……」

「……打たないの?」

 液晶画面を見たアイリーンがわたしに当たり前の疑問を投げかける。


 わかる。その疑問とてもわかるよ。わたしのメール画面は一文字も打たれていないまっさらな画面。

 指すらも動かしてないもん。じっと画面をみつめてるだけだもん。


 うん。わかるよ……でもねぇ……その、いざとなるとさぁ……やっぱりなんだよねぇ……


「ううっ……キ、キンチョ~するなぁ……」

「今さら!?」

「まもなく、終点京連妻沼~、京連妻沼~、京連本線、京連千葉線のお乗り換えのお客さまは駅構内の駅員、案内板にてご確認ください」

 またも、無情で無慈悲な車内アナウンスが流れる。


「おふぅ……」

「時間切れね。ほら降りるわよ」

「ううっ……」



 こーして、わたしは刹那くんになにも伝えることができずに登校したのだった。



 ◆



「ボノボルオイシイナー」

「……」

「キンニクツウガカラダニシミルナー」

「……」

「ボノボルオイシイナー」

「……」

「キンニクツウガカラダニシミルナー」

「……ねぇ、愛華っち。なぎっちどうしたの? 無表情でボノボル食べてるけど……無気力気味?」

 そんな凪紗を見ていた翠がわたしに声をかけてくる。


「なんか、魂が抜けたような顔して同じ事を繰り返す機械みたいになってるけど? 顔も埴輪(はにわ)みたいになってるけど?」

 そして、翠の隣にいた奈留も同じくわたしの問いかける。

 わたしはわたしで『自分の無力さに気づいて、世界を救えなかった勇者の成れの果てよ』とふたりに返す。我ながらだけど良い例えで返せたと思う。


「はぁ……」

「よく、わかんないんだけど……?」

 ……よくわかんなかったらしい……


「何かあったの?」

 と、奈留は核心の質問を突いてきたので朝の出来事をふたりに話した。



 ◆



「と、いう事があったわけなの」

「なるほど」

「それじゃあ、ああなるかもね」

 わたしの説明でふたりは同時にうんうんと二、三回うなずく。


「う~ん、でもさぁ」

 翠が凪紗の方を向き『かなり重傷だね』と言葉を連ねる。

「あれで何個目なのボノボル? かなり食べてるよね? いやいやそんな事よりどれだけ持ってきてるの? ボノボル? 多すぎじゃない? ボノボル?」

 奈留は奈留で別の角度からツッコミを入れている。


 言われてみれば確かに。どこからか取り出してはひとくちでボノボルを食べる凪紗。もう八個目くらいだろうか?


 無気力で無表情。そんな埴輪になった親友が大量のボノボルをむさぼっている。


 傷心の親友にわたしは『元気出してよ凪紗』と言う。さらに追加で『太るよ』と付け加える。


「キンニクツウガカラダニシミルナー」

「……」

 だめだ。効果は無い。そしてわたしの声が届いていない。


「もう、なぎっち! 一度くらいの失敗がなんだ。次だよ、次! 次が成功すればいいんだよ! なんなら今からメールを打てばいいんだよ! どうよこれ!?」

「あ、その言葉はダメ!」

「へっ?」

「シッパイ……しっぱい……失敗……」

 手遅れだった! 翠の言葉に反応した凪紗に『失敗スイッチ』が入っちゃった!


「あはは……失敗、失敗した……失敗した……失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した

失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した

失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した、わたしは失敗した」

「あちゃ~~~」

 凪紗は大仰に机に突っ伏し、『失敗した』を連呼し初めてしまった。


「おおっ……シュタゲみたいになっちゃってる……」

 さすがゲーム同好会。『失敗した』の連呼だけで『シュタゲ』と感づくところはさすがは奈留。と言った所ね。


 でもね、それは『手紙に起こして』こそが、そして田村ゆかりボイスで言ってこそのシュタールゲートだと言わせてもらうわ。


「安心してなぎっち。なぎっちの告白が成功してる世界線だってきっとあるから大丈夫だよ!」

「翠。……それフォローになってないからね」

「ううっ……私は……失敗した」

 奈留が言うとおり確かに重傷だなこれは。立ち直るまで時間がかかりそうだ。



 ◆



「だいぶ立ち直ったわね」

「わたしそんなに重傷だった?」

「重傷」

「……そ、そうなんだ」


 放課後。


 バレンタインデーの失敗を引きずって、引きずって引きずりまくって、放課後。そんな放課後になんとか朝のショックから立ち直りかけているわたし。


 アイリーンが言うには、わたしはかなり重傷だったらしい。顔が埴輪なっているくらい無表情で無気力。まともな会話すら成立しなかったらしいし……


 でもそんな立ち直りかけているわたしにはひとつ気がかりな事がある。


 教室でカバンの中を見たら三日分くらい入れていたボノボルがかなり無くなっている。今日、食べた記憶はないんだけど……


 アイリーンに聞くとどうやら、わたしが午前中にかなり食べまくっていたらしい。まったく覚えがないけど……


 いやむしろ朝の告白の失敗から今までの記憶がまったくないんだけど……どうしてだろ? ……大丈夫かな? わたし。


「ねぇ、アイリーン。タイムマシーンって作れるの?」

 記憶のことは置いておいて唐突にそんな質問をアイリーンに聞いてみた。


 わたしは部活。アイリーンは委員長会議で廊下を歩いている時だった。


「タイムマシーン? そんな事聞いてどうするの?」

「あ、えっとね。さっきトイレから出た時に話しているのを聞いちゃったんだよね」

「話しているときって誰が?」

「たぶん……ほら何とかって雑誌に独論が載ったって噂の天才の今井さん」

「ああ、グローバルサイエンスね」

「そうそう。そんな感じの雑誌。スマホで誰かと話してたんだけど、なんか記憶だけを飛ばすとか、脳波がどうとか。かいば? がどうとかって。

あとそれじゃタイムマシーンじゃないって言ってたかな」

「海馬ね。へぇ~そんな事を話してるんだ今井さんって。意外だわ」

「そんなに意外な事なの?」

「それはそうでしょ? だってサイエンス雑誌に独論が乗るくらいの天才少女よ? タイムマシンなんてそんなおとぎ話で非現実な事なんて見向きもしないと思わない?

時間移動なんて夢物語よ」

「そんなものなのかなぁ」

 なんか……難しそうな話しになりそうな予感がする……


「そんなもんよ。それにタイムマシンなんて作れるわけ無いでしょ。凪紗は知ってるの? タイムトラベルを可能にする『かも』知れない11の理論を。

一応理論的には可能って言ってるけど、どれも現実味を帯びない。机上の空論の理論。まぁ『神をも冒涜する12番目の理論』が本当にあるならできない事もないけど……

それはゲームの中の、ううん、フィクションの中の話。100パーセント無理。作れないわね。それに12番目の理論は正確には記憶を過去に飛ばすって感じだし」

「そりゃそうだよね……」

 でも……理論的は時間を戻る事は可能なんだ。そしてその理論が11個もある……過去に戻れるかもしれない理論が11個もあるなんて初めて知ったよ。わたしは。


「もしかして今日のことを『やり直したい』って思ってる? なら無理よ。あきらめなさい」

「わかってるよ。『なかった事』にはできないよ」

「ならいいわ。過ぎ去りし過去を求めるより現実(いま)を見なさい」

「……手厳しいね。アイリーンは」


 実現にできもしない他愛もない会話。そんな会話をして部活にいくのだった。



 ◆



「う~ん」

 スマホのメール画面を立ち上げて悩む。


 メールアドレスは刹那くん宛。本文はまっしろ。一文字も打っていないし件名すらも打ってない。


「う~ん」

 時刻は午後九時。わたしの部屋にてわたしはスマホの画面を見て悩み、うなっている。


「どうしよっかな……聞いてみようかな……」

 聞いてみるのは『チョコおいしかったですか?』ということ。でも、そんな事でメールを送るのもなんだし……かといっておいしかったのか、

 おいしくなかったかを聞きたいって思いもあるし……明日まで待てないし。


「う~ん……うわっ!」

 悩んでいるとスマホが震えメール着信音が鳴る。


「メール?」

 開いてみると紫さんからだった。


 やっほ~凪紗ちゃんどうよ? 元気。そんな元気な凪紗ちゃんに私からのスノバのチケットのプレゼントだよ。このチケットでスノバでのひとときを楽しんでね!


 と、言う本文が躍り出ている。


「チケットか……」

 本文に付いていたアドレスをクリックするとチケットのページに飛ぶ。


「……紫さん……これをどうしろと……」

 そのチケットは『シェアチケット』と呼ばれているeチケット。チケットの使用内容は『ドリンクを購入時に、同じドリンクをもう一杯無料』というものだ。

 同じドリンクってのが条件だけど二杯目が無料が飲めるチケット。


 そのチケットの使用条件上、大多数が『友達』や『カップル』などが利用するチケット。


 つまりが、これは『ふたりで使用する』チケットなんだよねぇ……まあ、無理をすればひとりでも使えるけど……ほぼ持ち帰り限定だしなぁ……

 それに、これって職権乱用じゃないのかなぁ……まあ、ありがたいけどね。


「せっかくだし、アイリーンと行くかなって……ちょっと待って?」

 わたしの頭にひとつ妙案が浮かぶ。その妙案は少し勇気……少しどころの勇気じゃない勇気が必要な案。


「こ、このチケットを使って……せ、刹那くんと……スノバで楽しいひとときを過ごせるんじゃ……ふたりっきりで……」

 せ、刹那くんと……ふたりっきり……ふたりで?!


「おふぅ……」

 ううっ……考えただけで……胸がドキドキするよぉ~~~


「ううっ……どうしよう……」

 メール画面は開いたままで刹那くんのアドレスのみ入力済み……本文は白紙……


 ◆


 10分後


「ううっ……どうしよう」

 時間だけが過ぎていく。悩んで悩んで迷って迷いまくって10分。未だにメール画面とにらめっこしていて本文は白紙のまま。一文字も打っていない。


「はぁ……誘う材料はあるのになぁ……」

 ホントにどうしよう……


「と、とりあえず、チョコおいしかったですか? ってメールだけでも打とうかな……

でも、どうなんだろう? こっちからおいしかったですか? って打っていいのかな? なんか強要してるような気がするし……

刹那くんからの感想を待った方がいいのかな……」

 迷う。これは迷うよ……


「うん、よし……チョコの事だけでも」

 決心して決死の覚悟でメールを打つ。


「えっと……今晩は。仕事お疲れさまでした。ところでどうでしたか、チョコ食べてくれました? う~ん、すこし内容が堅いかなぁ……」

 あれこれと文章を打っては消して打っては消してを繰り返す。


「……結局……こんな形になっちゃったな」

 最終的に『刹那くんこんばんは。凪紗です。お仕事お疲れさまです。そんなお仕事で疲れた刹那くんには、今日わたしがあげたチョコを食べて、

 明日もがんばってね。じゃあね。あ、そうだ。明日チョコの感想を聞かせてくださいね。バイバイ』


 文面を崩しては再構成して組み直して打ち直して、こんな感じの分になった。


 うん。我ながら上出来って感じ。長くもなく短くもない。読むテンポもなかなかいい感じ。うんうんこれは会心の出来!


「よし、それじゃあ送信!」

 と、送信をタップしそうになって指が止まる。


「う~ん、もう少しなれなれしいかなぁ……書き直そうかな……」

 そんな事思って思いとどまり、メールを読み返してみる。


「う~ん……馴れ馴れしい」

 そして、10分後。またいろいろと打ち直してやっと納得のできるメールの文章が打てたので(さっきとほどんど変わらないけど……)刹那くんにメールを送信したのだった。



 ◆



 暗い。真っ暗な場所。見上げると、ぽつんとふたつの光がある。

 それはふたつの月。双子の月が弱々しく空で輝いている。


 寒い……


 寒い。とても寒い。身体が震えるほど寒い。『わたし』はすでにかじかんでいる手を見る。

 袖口の服には見覚えがある。これは制服『わたし』の学校で着ている制服だ。『わたし』は着ている服に視線を落とし服を触る。色に形に校章。

 確かにこれは『わたし』がいつも着ている制服だ。


 ここは……どこだろう?


 吐く息が光る。気温は息が白くなるくらいに低くなっている。


 『わたし』は考える。一歩踏み出す。


 シャリっと地面から音が鳴り足が地面にめり込む。その瞬間に足下に寒気が襲う。


 雪……


 やわらかい地面にしゃがみ、かじかんだ手にそれを掴む。


 それは紛れもない雪。暗くてよくわからないけど、それは冷たくてサラサラしている月に照らされている綺麗な純白の雪。


 雪……? これは、雪……


 雪をきっかけに『わたし』は思い出す。『わたし』はこの場所を……暗くて、寒くて、とても寒くて……怖い、怖かったこの場所を知っている……?


「また、『会えた』ね」


 声が聞こえる。


 驚きで『わたし』は振り返る。


 目に飛び込んできたのは『わたし』と同じ制服だった事。そして『わたし』と同じくらいの背丈の女の子。


 それらの印象を一気に吹き飛ばすほど、とても幻想的な、長くて綺麗なポニーテールでまとめられた『銀色の髪』に『わたし』は眼を奪われる。


 その銀色は月に照らされていて……まるで別世界のお姫様のような綺麗な銀色の髪だった。


「ケガは大丈夫?」

 その声で強烈な違和感を覚える。なんだかわからないけど……違和感を感じさせる声。耳がムズムズする。なんだろう。例えるなら……自撮り動画の自分の声を聞いているような感じ。


 誰……


 『わたし』は制服を着た『彼女』にそう返す。


「……わかっていたけど……やっぱり覚えてないんだね」

 とても、悲しくて残念そうな声だった。


 やっぱり『彼女』の声にすごい違和感を覚える……まるで自分自身と電話で話しているような気持ちの悪い感覚。

 昔お父さんにカセットテープに録音してくれた自分の声を聞いているような不思議な違和感。


「だとしたら、きっとこの再会も忘れてしまうんだろうな……ちょっと悲しい」


「でも、大丈夫。《私》は『わたし』にこうして、もう一度出会えた」


 何を……言ってるの?


「《私》は『わたし』にいつでも会える。《私》は『わたし』になれた」


 何を言ってるか意味がさっぱりわからない。彼女は一体何を言っているの? 何を言いたいの?


「そして、『わたし』も《私》になれる」


「だから大丈夫。《私》と『わたし』は出会った。逢おうとすればいつでも会える。

その雪の結晶を『わたし』がもっていてくれる限り《私》と『わたし』はつながっている。結びついている」


 雪の結晶?


 『わたし』は無意識のうちだったのだろう、ペンダントに収まっている【色付き】と呼ばれている白い半透明のマテリアルプレートを握っていた。


 あれ……なんだろう……眼が、視界がだんだん……


 だんだんと離れている意識。視界がまるでシャッターを閉じるように上から景色が消えていく。


「もう時間か……早いなぁ……でもしょうがないか」

 前方に倒れかけた『わたし』を彼女が駆け寄って支え、悲痛な声で名残惜しそうに投げかける。


「忘れてしまうから言ってもしょうがないと思うけど、最後に《私》から『わたし』に助言するね」

 耳元でささやくその声には違和感がまとわりついている。耳のムズムズ間がハンパない。


 顔を見る……閉じかけた視界と双子月を背してしまっていて光が当たらないから顔全体は見えなかった。でも……瞳だけは綺麗な蒼いって事だけはわかった……


「雪はとても冷たくて、とても熱い」


 雪が……熱い?


「そう、雪は熱い。その身を焦がしてしまうくらい」


 身を……焦がす……?


「それはとても熱くて冷たい。でも雪は味方。だけど見方をかえればそれは敵」


 わからない。雪が熱いって……どっちなの……?


「時間は短いから。気をつけてね」


 短い……時間……? って……


「あ、あと(うえ)からたくさんの雪だるまを落とすのはよくないからね。まぁ、状況的にはしょうがなかったかもしれないけどね」


 空から雪だるま……えっと……どこかでそれを『わたし』は……あれは……確か……


 思いだそうとしても意識が閉じるのが早く思い出せない。記憶の引き出しが引っかかって開かない。


 視界が消えていく。意識がここから遠のいていく……


「時間だね。じゃあね。あ、刹那くんによろしくね」


 えっ……なんで、そこで……


 完全に、完璧に、そこでわたしの意識は途切れた。ブラックアウトした視界に残ったのは……ただ、ただ、とても寒くてすごく寒い感覚。

 それと同じくらい落ちていく感覚だけ。落ちる先には何があるのか、もしかしたらこのままずっと落ち続けるのかも知れない。そんな不安がよぎってもなお、落ち続けた。


 ああ、寒いなぁ……とても寒い。


第三話 迷子ライフ 終


こんばんは、間宮冬弥です。

まずは、この稚拙な作品を最後まで読んで頂きましてありがとうございます。


第三話目ですが、いかがでしたでしょうか? 僕の代弁者も言っていましがた

正直、話自体はあまり進んでいません。申し訳ないです。

予定ではあと一~二話で完結させようと思っていたのですが、案外と長引きそうです。

最終話までお付き合いしていただければ幸いです。


それでは、短いですがこれで失礼します。


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