今日も
ハロウィンデイカウント小説3日目\( 'ω')/
あと1日(( 'ω' 三 'ω' ))
「っち、どうやらここにいることはバレているみたいだな。」
ガレージの外からは何体いるのかはわからないが複数のゾンビのうめく声が聞こえてくる。
「なんとかしてここから抜け出さないといけませんよね…。」
周りをゾンビに囲まれ、いつこのガレージに流れ込んでくるかもわからない。仮にガレージに入ってこなかったとしても何日もここで暮らせるわけ出もない。
……なによりリチャードが死にゾンビ化するほうが先だろう。
重苦しい雰囲気の中、ショックで気を失っていたリチャードがうっすらと目を開けた。
「っ!リチャード!!目が覚めたのか!!」
「ぁ…?」
薄く開いた眼をきょろきょろと彷徨わせ周囲を見渡す。
「リチャードさんよかった!今僕たちは民家のガレージに。リチャードさんが襲われた後ゾンビの襲撃を受けたんです。」
「すまない、リチャード。私をかばったばっかりに…。」
悔しそうに申し訳なさそうに下を向いて唇をかみしめるサムにリチャードは動かしにくい手を必死に動かしポンと頭を撫でてやる。
「っは。ぁんたを、守れたんなら……それでいぃっす。」
「っ!ありがとう……。」
こんな時にも気遣いを忘れないリチャードにみんなどうしようもなく涙があふれそうになった。
「ッチ!なに怪我なんてしてるんだ。お前がいないと、張り合いがないだろ。」
ニックがガンッとガレージのシャッターを殴りつけやるせない気持ちを吐き出すようにうめいた。
その時、
ばきっ!
不吉な音と共に、シャッターから黒い何かが伸びてきた。
「ぁぐっっ!!!がぁぁっっ!!?」
「ニックっっっ!!?!?」
ガレージのシャッター越しに太い腕が伸びてきて、それが近くにいたニコラスを拘束する。
「あぐっ!くそっっっあがぐぁぅぁあああぅ、がぁぁぁああああああ!!!?!?!!!!!!」
ミシミシとニコラスの肋骨が悲鳴を上げ、そのゾンビの指が腹に食い込む。逃げ出そうともがけばもがくほどに深くえぐってくるそれに口から血が流れる。
指が肋骨に引っかかっている状態で後ろに引っ張られているせいでバキバキと音を立ててニコラスの骨が、腹が開かれる。ガレージの中にニコラスの壮絶な叫び声と湯気立つ臓器がべちゃっと床に落ちる音だけが響く。その凄惨な光景に皆動けずただただ口を押え見つめることしかできなかった。
バキッ、ぐしゃっっ
「ぐぁああぅぅぁあがぐがうあづあぐっっ」
ぐちゃっぱきっ
ヴァァアアアア
ヴァウウアァァウゥ
ついにシャッターを突き破り道に引きずりだされたニコラスのもはや言葉にもなっていない悲鳴と肉がちぎれ骨がかみ砕かれる音とゾンビたちのうめき声。
リチャードがけがを負ったときとは明らかに違う仲間がゾンビに喰われたという事実が音で視覚で匂いで伝わってくる。
「おぇっ!」
ノアが耐えきれずに吐いた吐瀉物がびしゃびしゃと床に零れ落ちる音と匂いも気にならないほどに、ゾンビによる仲間の死は衝撃的だった。
空いたシャッターの隙間から一体のゾンビが中を覗き込み、びくりと全員が体を震わせた。
「ぁ、ぉれを…、おいて、いけ。」
息も絶え絶えのリチャードが痛む傷に耐えそういった。皆が驚いたように自分を見るのが少しおかしくてリチャードは思わず小さく笑った。
「この、傷だと、足手まといに、なる…。それに、ニック1人残してけねーだろ…。」
最後は少し冗談っぽく言うリチャードに誰も何も言えなかった。ぐちゃぐちゃとニコラスの肉がむさぼられる音は恐ろしいだろう、自分が同じように臓物をまき散らし生きながらに喰われるのは発狂しそうなくらい怖いはずなのに、それでもほかの隊員が少しでも罪悪感を感じないように最後まで気を遣うリチャードに三人は敬礼をする。
「すまない、隊長として、お前らを残して行く俺を、どうか、呪ってくれ……。」
「すまない…。それから、ありがとう。必ず、あなたたちの死は無駄にしない。」
「リチャードさんっ。本当に、いつも励ましてくれてっ、ありがとう、ございましたっっ!!」
三人の言葉にヘラっと笑って手をあげる。同時にシャッターの穴からゾンビが中に入ってきた。
「ほ、ら。さっさと、いけよ……。」
薄く笑ったリチャードにそう言われ三人は涙を流しながら民家の中を通ってその場から逃げ出す。しばらくして後ろからリチャードの叫び声と肉のかみちぎられる音が聞こえてきた。流れる涙をふくこともせずに民家から逃げ出し、しばらく三人は無言でただひたすらに走り続けた。
しかし悪夢はまだ終わってはいなかった。
ヴァーーー
ゾンビの声と徐々に大きくなる足音、この悪夢の原因になったあの走るゾンビが再び三人の前に姿を現した。
「くそっっ!!!サムっ!ノアっ!!走れ!!!!」
オリバーの声にはじかれたように走り出したが、ゾンビのくせにどういう訳かその走るゾンビはとてつもなく早かった。ぐんぐんとっ距離を詰めてくるゾンビに焦る三人。前方に群がるゾンビたちを銃で撃ちつつたまに後ろの走るゾンビの足を撃ち転倒させるも、立ち上がるとすぐにまた距離が詰められるその状況に焦りが募る。
道の先に見えるゾンビを撃ち、その場にうずくまったゾンビのそばを走り抜けた次の瞬間。
「ちょ、ストップ!ストップストップ、ストーーーーップっっ!!!!人間脅かすのは禁止だってっ!!」
聞こえてきた意味の通るその言葉に、思わず足を止めた。
「ヴァゥア」
「不満そうな声出してもダメなもんはダメだっつーの。」
そこにいたのは幼い少女と、頭の左半分の毛が抜け落ちた、恐らくゾンビの、男。
「お、おい!!お前、言葉がわかるのか?」
声を掛けられリアムが後ろを振り返ると特殊部隊の面々がひゅっと息をのんだ。エマは出会ってからずっと守ってくれるリアムのその容姿に慣れてしまったが、初対面の特殊部隊の面々はゾンビ然としたリアムの姿に先ほどの光景を連想し、顔を青ざめさせる。
爛れた顔の左半面に、飛び出し血走った左目。所々抜け落ちたぼさぼさの髪の生えた頭をぼりぼりと掻く手にはなぜか軍手がつけられている。
「あー。言葉はわかっけど、あんたらもしかして住人の保護しに来た感じ?」
「え、あ、はい。」
思った以上に気軽に話しかけてくるゾンビの質問に、あっけにとられながらもノアが答えるとそのゾンビは醜悪な顔をにちゃりとゆがませて喜ぶ。
「おー!!まじか!だってよ、エマ!!よかったなー!!」
「……うん。」
ゾンビの陰に隠れていた女の子が返事をした。ゾンビではない、ちゃんとした人間の女の子が、だ。その子供の頭をポンポンと撫でてやるゾンビと、それを受け入れる女の子に唖然とする。
「ちょっと!そのゾンビは大丈夫なの!?あなた、早くこっちに来なさい!!」
先ほどの仲間の最期を思い出し、サムがそう叫ぶがエマは動こうとせずむしろそのゾンビにひっついた。
「リアムは私のこと助けてくれたよ。ゾンビだけど、いい人。みんなも、リアムの言うことは聞いてくれるから安全だもん。」
きゅっとゾンビのズボンにしがみつく女の子の言葉はにわかには信じがたいが、実際そのゾンビはこちらを襲おうともせず、後ろを追いかけてきていた走るゾンビも今はおとなしくしている。
「そ、その後ろのゾンビは…?」
「あ?ああ、アレックか?こいつ元陸上部だから早かっただろー。よく逃げ切れたなー。」
事も無げにそういうリアムにサムはふつふつと怒りがわいてくる。
「ふざけるな!!そいつのせいで、リチャードとニックがっっ!!」
それ以上は涙のせいで言葉にはならなかった。
しかし、その言葉でリアムは何事かを察したようで、へらへらと笑っていた顔を引き締めた。
「あー、わりぃ。こいつらには一応人間が来ても襲うなって言ってんだけどな…。本能みたいで俺がいなきゃ言うことを聞きやしねーんだ。わりぃ。」
心底申し訳なさそうにするゾンビにサムもほかの二人も何も言えなかった。
「あのよ、その様子だともう無駄かもしんねーけど、そいつらのこと見に行ってみるか?」
俺がいれば襲われねーからというゾンビの言葉を信用していいものか悩んだものの、仲間のため、遺品の一つでも拾ってやりたいという思いから三人は無言でうなずいた。
「おらーーーー!!!お前ら何喰ってんだ!!どけ!」
件のガレージには何十体というゾンビが群がっており、外ではニックと思しき肉塊が、中ではリチャードの食い荒らされた無残な死体があった。
「あー、あー。こんなに食い荒らしやがって。」
リアムの言葉通り先ほどとは打って変わってどのゾンビも襲ってこない。
リアムによってゾンビが散らされると徐々に二人の死体があらわになる。
「……エマちゃん、だったよね。こっちにおいで。」
その凄惨な光景を知るノアが、幼いエマには刺激が強いだろうと判断しその幼い体を抱きしめて視界に映らないようにしてやる。
「あ、ぁああああ!!リチャード、ニコラスっっ!!!!」
人とは呼べない肉塊になり果てた仲間の姿にサマンサがその場に泣き崩れた。オリバーは泣き崩れこそしないものの、静かに涙を流しながら二人の遺品になりそうなものを回収していく。
「こりゃまた盛大に喰われてんなー。まあ、ここまで喰われてりゃゾンビになって歩き回ることはねーだろーな。」
場にそぐわない明るいリアムの声にサムがキッとリアムを睨みつける。
「あんたに…、あんたに何がわかんのよ!!仲間があんたらみたいな訳が分からないやつに喰われて、ゾンビになったあんたにはわからないんでしょ!!?!?」
サムも立て続けに仲間を失ってもう心が限界だったのだろう、つんざくように怒鳴りつけるサムを誰が責められようか。
「……サム、もうやめろ。今回こいつらの遺品が回収できたは、ほかでもないこのゾンビのおかげだろう。」
それでもとリチャードとニックのドッグタグを回収したオリバーがサムを軽くいさめたが、サムは憮然とした態度のまま涙を荒々しくぬぐうと一人少し離れたところで立ち尽くす。
「……すまない。彼女にとってこのチームのメンバーは、家族も同然だったんだ。」
「んー?いや、別に気にするほどのもんでもねーだろ。」
「そういってもらえると助かる。ああ、俺はオリバー・テイラー。SWATαチームの隊長だ。今回君のおかげで仲間の遺品が回収できた。感謝する。」
すっと手を差し出すオリバーにリアムは驚きながらも握手に答える。
「俺はリアム・ウォーカー。とりあえず、まあ落ち着いて話せるとこに移動しねーか?あんたらもこの場所にとどまんのはきついだろ?」
「ああ、そうしてもらえると、助かる。」
苦笑いしてそう答えるオリバーと生き残ったノアとサマンサを連れ、リアムは自宅兼店舗のバーに足を運んだ。
ちなみにエマはガレージから離れるとすぐにノアのそばを離れリアムと手をつなぐ。そのおかしな光景を複雑そうな表情でサムとノアはただただ見つめた。
バーにつくとリアムはいつものように入り口付近の窓際に腰を落ち着け、エマがバーカウンターの奥から人数分の水と濡れたタオルを持ってくる。
「はい、これ。どうぞ。」
「あ、ありがとうございます。」
「…ありがとう。」
「ん、ああ。すまんな。」
正午についてからたった数時間しかたっていないにもかかわらず、αチームの三人はすでに憔悴しきっていた。水と濡れタオルをエマから渡された三人はほんの少しだけ気力が戻った。
隊長として気丈にふるまっていたオリバーも、自分のせいでリチャードを死なせてしまったサムも、初めての任務で先輩二人を失ったノアも、精神的には限界だった。それでも二人の死を無駄にしないためにもオリバーたちはリアムに協力を頼まざるを得なかった、たとえそれが憎きゾンビの仲間だったとしても。
「とりあえず、さっきも言ったが改めて。SWATαチーム隊長、オリバー・テイラーだ。よろしく頼む。」
「………副隊長のサムよ。サマンサ・ハリス。」
「あ、えっと。ノア・フロイスです。よろしくお願いします。」
オリバーとノアは律義に握手を求めてきたが、サムだけはまだ心の整理がついていないのかかたくなに握手を拒んだ。リアムはそれを気にした風もなく自分とエマの紹介を始めた。
「俺はリアム・ウォーカー。なんか知らねーけど気づいたらゾンビになってて、なぜか人間だった時の意識も持ってる。で、こっちのちっこいのが…。」
「…エマ。エマ・クラーク、です。」
恥ずかしいのか緊張しているのか、水とタオルを配り終わってからずっとリアムのそばを離れようとしないエマは、リアムのズボンのすそをぎゅっと握って挨拶をした。
「こいつは2、3日前に町ん中でゾンビに追っかけられてるところを俺が保護した。それまではずっとホテルの部屋で閉じこもってたから無事だったらしいぞ。」
ぽんぽんと軍手越しにエマの頭をなでるリアムに、オリバーたちは何とも言えない表情になる。
一体どうするのが正しいのか、自分たちはどうするべきなのか、リアムとエマのふたりを見ているのだんだんわからなくなっていくのだ。