先輩の誘い
皆さんこんにちは一膳一日です。
この作品は某野球チームの試合を見ていた時にふと思い付いて、私も偶然野球をやっていたことから書いてみようと思った次第ですが、おかげで今連載している小説?のどちらかを休載する羽目になりました( ☆∀☆)。
しかし実は書いていてこれが一番面白いかも!と自分で思えるくらいなので多分面白いと思います。この話は人物の紹介が主なので本格的なシナリオは次話以降になります。
歓声が聞こえる。まるで地球が揺れているように感じるほど球場は熱気に包まれている。
「あぁ、そうか…俺は優勝したのか。」
周りを見渡すとキャッチャーの渡部がミットにウィニングボールをおさめたまま満面の笑顔でこちらに走ってきていた。
右からはサードの田邉、ショートの佐倉が、左からはセカンドの安藤、ファーストの安木が渡部と同じ笑顔で駆け寄ってきていた。
ベンチのメンバーも外野手も全速力で駆け寄ってくる。
次の瞬間俺は皆の輪の中心で揉みくちゃにされながら優勝の余韻に浸っていた。
この日俺達U-15野球日本代表は世界の頂点に立った。
この日のことは俺飛田 珠三郎にとって忘れられない日になった。
2030年日本、世界的な地位も技術的な進歩もカタツムリの様に徐々に進歩していくなか野球界は革新的な変化があった。
つい十年前、男女平等の精神が取り入れられて高校野球やプロ野球に女性の参加が認められた。(メジャーリーグも例外ではない。)このおかげで野球の競技人口は増加し、男性六割、女性四割となっていた。
先日U-15日本代表もほぼ半数のメンバーが女子だった。
4月6日第54回福岡県立陽泉高校入学式、と書かれた校門をくぐって教室に向かう。
一年三組に入って座席表に従い窓際の最前列に座る。席に座ると後ろの生徒が話しかけてきた。
「よっ、俺は横田 勇治ってんだ。これから三年間よろしくな。」
「あぁこちらこそよろしくな。俺は飛田 珠三郎だ。珠三郎って呼んでくれてかまないよ。」
「じゃあ珠三郎、お前は部活は何に入るか決めちょうとか?」
「ん…特には決めてない。」
「おっ、以外だな。俺はてっきりどこかの運動部に入るかと思ってたんだけどなぁ。」
「何でそう思ったとか?」
「制服越しでもわかるぜ、お前体鍛えてるだろう?」
陽泉高校の制服は公立にしては珍しい紺色のブレザーに赤いネクタイだが、冬服なのであまり体格はわからないと思うが彼には解ったらしい。よくみると横田も身長は175㎝(因みに俺は179㎝)くらいで体格もがっちりしてきた。
「そういう横田は何にするか決めたと?」
「俺か?俺は小学生の頃からラグビーやってるからラグビー部に入るぜ。これでも去年は九州大会まで行ったんだぜ。」
「ラグビーか…成程、お前には合いそうだな。」
「そういう珠三郎は何をやっとったとか?」
「俺は…」
だが俺達の会話はアナウンスによって中断された。
『新一年生全員は体育館に入場してください。間もなく入学式を執り行います。』
「おっ、ようやく始まるみたいだな。後で話してくれよ、遅れちゃまずいからな。」
「あぁそうだな。じゃあ行こうか。」
二人は他のクラスメイトと共に体育館に入り、用意されていたパイプ椅子に腰かけた。
すると間もなく入学式が始まった。もちろん最初に校長やPTA会長の挨拶があり、その後校歌斉唱、そして担任の教諭の発表へと移って行った。
そして担任の発表が終わると一人の先輩がステージの壇上に上がった。そしてマイクを用いて話し始めた。
「新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます。私は本校生徒会長の今田 由香と申します。これから各部活の勧誘に移ります。ここで興味を持った部活動があれば明日から始まる部活動体験に是非行ってみてください。ではまず吹奏楽部から!」
「新入生の皆さんこんにちは~!私達吹奏楽部は……」
入学式が終わり、ステージの上では各部活動がそれぞれ部の特色を生かしてパフォーマンスや挨拶をしていた。個人的には書道部のパフォーマンスが凄いと感じていた。そして部活動勧誘も佳境に入り始めた時、生徒会長が次を促す。
「続いては…野球部です。どうぞ!」
するとステージの脇から一人の女子がステージ中央のマイクの前まで歩いてきた。その歩き方は緊張しているのが丸わかりな程にぎこちなかった。こちらに向き直った顔も笑顔がひきつっていた。そして彼女は背が低いので必死にマイクの高さを調節している。
「野球部の発表、あと五分です。」
「ひぅ!ちょ、ちょっと待ってよ生徒会長!」
どっと笑いが体育館中で起こった。
「あ、これでよし。え~皆さんこんにちは、私は本校野球部キャプテンの結城 杏です。ポジションはキャッチャーをしています。
私達野球部はまだ創部して五年目ですが、日々甲子園を目指して練習をしています。興味のある人はこの後校門前に来て下さい。
男子も女子も関係ないので気軽に来て下さい!」
「野球部発表を終了してください。」
「えっ!もう?わ、解りました、では皆さんどうか野球部をよろしくお願いいたします!」
そして終始慌ただしいまま野球部の結城さんは退場していった。
体育館は所々で失笑が漏れていた。
「ハハハッ、今の先輩面白かったな!ていうかこの学校に野球部なんてあったんだなぁ。」
「まぁ創部五年目らしいし、目立った成績も残してないからあまり有名じゃないんだろうね。」
「で、珠三郎は行くのか?野球部。」
「ん?何で俺が野球部に行くと思ってるんだ?」
「とぼけんなよ、お前他の部活の勧誘の時はただ見てただけだがよ、野球部の時だけ目の色が変わってたぜ。」
「よく見てるな…だがもう俺は野球はいいんだ。」
「あん?どうしたんだ?お前の体つきをみる限り結構やってたんだろ野球。もうやらないのか?」
「やらないんじゃない。やれないのさ。」
「怪我でもしたのか?」
「そんなところさ。」
部活動勧誘も終わり、新一年生は各教室に戻って担任を交えたホームルームをしてから下校となった。横田はラグビー部に行くと言って先に教室を飛び出して行った。俺はそそくさと荷物をまとめて教室を出た。
だが俺が校門に向かうとあの人がいた。
「野球に興味ありませんか~!」
(忘れてた。確か校門前で待ってるって言ってたな。)
その時不幸(?)にも彼女と目が合ってしまった。
瞬時に目を反らしたが、反らす前に少し見えたが目が合った瞬間彼女の目が輝いていたのは気のせいであって欲しい。
ふと視線を戻すと彼女の姿は何処にもなかった。
あわてて周囲を見渡すが彼女が何処に行ったのか見当がつかなかった。
「ねぇ君!野球に興味あるの!?あるよね!」
「うわぁっ!?び、ビックリした~。小さくて近くに来られたら視界から消えてしまうなぁ。」
「ふふん!これは私の得意技なんだよね!身長が低いならそれを長所として活かさないとね!それでさ、君野球に興味あるよね!」
「えっ…と…はい。」
勢いに圧されて思わず「はい」と言ってしまった。すると腕をガシッと掴まれてそのまま引っ張りだした。
「さっそくグラウンドに行こうか!少し歩くから着いてきてね!それじゃあレッツゴー!」
「えっ!ちょっと…」
腕を掴まれたまま歩くこと五分、学校の近所の河川敷のグラウンドに到着した。グラウンドには野球部の部員が集合していた。
河川敷にしてはグラウンドの状態が良いことや広さも充分にあることにも驚いたが、何よりも驚いたのは部員全員が女子であったことだ。
「みんな~!新入生連れてきたよ~!しかも私達の部始まって以来初めての男子だよ!」
「でかしたキャプテン!」
「ウワッ、身長高い!そして杏がいつもより二割増しでちっちゃく見えるっす!」
「さぁさぁ皆、彼に自己紹介してあげて!」
「じゃああたいからいくよ。」
女子の集団から一人の小麦色に日焼けした金髪のギャルが前に出てきた。
「おっす!あたいは二年の夢野 磨莉奈、ポジションはセンター。まぁぶっちゃけ杏っちが新入生連れてくるとは思ってなかったわ~!まぁよろぴくね。」
「あ、はじめまして、俺は…」
「飛田 珠三郎。」
「えっ?今僕の名前呼んだの誰?」
すると夢野先輩の後ろからキャプテンより少しだけ背が高い茶髪のおさげとメガネが愛らしい女子がでてきた。
「私は二年の葵 碧、ポジションはレフト。あなたのことはスポーツ雑誌で見たことある。」
「さっすが碧っち、情報関係で勝てるやついねぇんじゃね?」
「ていうかスポーツ雑誌に載るってことはあなたってかなりの腕前なんじゃないの?あ、急にごめん。私は二年の米塚 凛だよ。ポジションはライト、よろしくね飛田君。」
米塚先輩は淡い桃色のショートボブに切り揃えていて気遣いのできる優しそうな人だった。
「ねぇねぇ!私は二年生の天野 水希だよ!私のポジションは…どこだっけ?あれ~あのポジションの名前何だったけ~。」
「あんたはショートでしょ水希。はじめまして飛田君、私は三年生の宮田 正子よ。ポジションはサードよ。女子しかいないけどあまり気にしなくていいよ。」
天野先輩は紅い髪を側頭部で結んでいて、少しおどけたような表情で珠三郎を見る。そして艶のある黒髪をシュシュでまとめて流しているのは宮田先輩で、彼女もやはり俺を見ていた。
「こらこら皆さんそんなに一度に言っても覚えられませんわよ。
改めてはじめまして飛田様、私は三年生の有栖川 蘭と申します。ポジションはファーストを務めさせていただいております。
以後お見知りおきを。」
「あっ、こ、こちらこそよろしくお願いします。」
有栖川先輩はいかにもお嬢様の雰囲気を醸し出しており、淡いベージュの髪を動きやすい様にポニーテールにしていた。
だが俺はふと彼女の横に立っている女子にしては背の高い先輩の方に目を向けた。
「…………」
「あのぅ~飛田と申します。先輩の名前を聞いてもよろしいでしょうか?」
「…………」
「『こんにちは飛田君、私は二年生の半田 恵利だ。今日私達がここで会ったのも何かの縁、互いに切磋琢磨していこうではないか!』と半田は申しておりますわ。」
「今のが解るんですか!?」
「学年は違いますが私達は幼馴染ですわ。」
(お、恐るべし幼馴染!)
半田先輩は163 ㎝はあり、天然パーマのかかった黒髪とそばかすが印象的で、なんか武士をイメージしてしまうほど闘志に溢れていた。
「そして僕が二年生の副キャプテンの武本 明だよ。ポジションはセカンドだ。よろしくね。」
武本先輩は茶髪を肩の辺りで切り揃えていて、ボーイッシュな感じのする女子で、多分知らない人は皆先輩のことを男だと思うんじゃないかな。そして最後に僕をこの河川敷に連れてきた張本人が前に出て来て、143㎝の身長で胸を張って名乗りをあげた。
「そして知っているだろうけど私が陽泉高校野球部部長の結城 杏だよ!二年生でキャッチャーをやってるんだ。」
彼女は元気ハツラツという言葉を体現したかのような明るさと、艶のある黒髪を短く切っていて動き易さを重視しているなと思った。
「とりあえず飛田君、今日は来てくれてありがとう!ゆっくり練習を見学してください!じゃあ皆いくよランニング!」
結城先輩が皆を引き連れてグラウンドをランニングしだした。
とりあえず来てしまった以上は練習を見学しようと思って河川敷のベンチに座った。すると珠三郎はすぐに気がついた。
(結構ランニングのペースは速いな、U-15のランニングペースより2、3キロくらいか。それでも全員息も切れていないなんて凄いな。)
「よしじゃあ次はダッシュ10本!」
(50m走を10本、先頭は…夢野先輩か。)
俺は携帯を取り出して簡単に先輩方のタイムを計測しようと思った。そして結城先輩がスタートと言うと夢野先輩が走り出した。
(!)
一瞬だった。彼女は急激に加速し、あっという間に50mを走り抜けてしまった。手元の携帯は5秒90を記録していた。
しかもその一本だけでなく終始5秒台で彼女は走っていた。
「よーし!ハァハァ、靴を履き替えてキャッチボールね~。」
「は~い!」
(あれがアップか…予想よりもはるかにハードだなぁ。しかも息切れしてるのも声だしてた結城先輩だけだからな、レベル自体は高そうだな…なんだか…代表の時を思い出す。)
「じゃあキャッチボール始め!」
(キャッチボールの精度も中々のものだよ…な?暴投もキャッチングミスも少ない。何でこのチームが無名なんだろう。)
当然だがキャッチボールは野球の基本である。故にキャッチボールの精度を見ればそのチームの良し悪しが解る。
珠三郎も中学レベルとはいえ世界のレベルを知っている。だからこのチームのキャッチボールの精度は高いことが一瞬で解った。
そんな中キャッチボールでグラウンドいっぱいに広がって遠投に入ると、届かない人がちらほらとでだした。
だが一人の先輩が人よりも少し上の弾道で端から端までボールを投げ込んでいた。
(あれは…米塚先輩か。凄い肩だ…。俺も…あんな風に投げられるかな?)
「あっ!」
米塚先輩に感心していると誰かがボールを取り損なって、ボールがこちらに転がってきた。
見れば天野先輩が手を振っていた。
「お~い飛田君!それ取ってー!」
「はい、投げますよ。」
シュッ、ズキィィッ !!
「!!」
「ぐわあぁぁぁ!」
「あれ?飛田君どしたの?杏ちゃ~ん、飛田君がうずくまっているよ~!」
「えっ?」
「何か肩押さえてるけどどうしたのかなぁ?」
「ひ、飛田君!?ちょっとキャッチボール止め!有栖川さん、救急箱持って来てください!」
「了解ですわ!」
「大丈夫飛田君!?肩でも脱臼したの?」
「ぐうぅぅ…そうじゃないんです。ただ…」
「ただ?」
「肩を壊してるんです。」
ーーーーーーーーーーーー 《続く》ーーーーーーーーーーーー