2人の世界観
寒さが痛いように体に突き刺さるような夜。マフラーより大きいストールを首に巻きつけて重たいリュックをしょって、狭い道を歩いていた。
『はぁぁ。』ため息をつくほどに仕事は、忙しく体にも疲れがでていた。
ジャンパーの右ポケットから、携帯を取り出してあるサイトを開いた。
『回覧数上がらない。やっぱり。』自分は、いつの間にか回覧数やアクセス数、評価、コメントをすごく気にするようになっていた。
上がらない回覧数にひどく落ち込んだ自分はいつからこんな気にするようになったか思い出していた。
狭い道を抜けると、レンタルDVD屋さんが左側に見える。
自分は、ひどく疲れた時にDVDを借りて疲れを癒していた。
『今日も借りて行くか。』とまたため息をつきながら店内へと入って行く。DVDといっても好きなアニメを借りるだけで新しいアニメはあまり手につけないことが自分の悪い癖なんだと思う。
新しいアニメは、もう少し後でと後回しにして後で見たらかなりはまってしまったりと後悔することが多いのだった。
『今日は、どうしよう。気分はこれかこれかこれだな。』仕事の疲れによって気分が変わるわけで、今日は三つのアニメで悩んでいる。身体の疲れなど忘れていた。
『うーん。どうしようかなあ。』悩みながら、店内のアニメコーナーをうろうろしてる自分は周りが見えていなかった。
『梅澤さん。お疲れ〜。』とても可愛らしい柔らかな声が聞こえてきた。この方には、自分がやりたい事を行動に移すように変えてくれた憧れの人で、バイトでは自分の方が上のようだが作品に対しては、先輩だ。
『平本さん。お疲れ様です!DVD借りるんですか?』平本さんは、漫画家志望で今は働きながら毎日夢のために頑張っている人です。作品のために寝る時間がない時もあるらしい。
『うん!今日は、気分転換にアニメを見ようかなって思ってきたんだ。最近どこも出かけられなくて、ストレスになってたから。』自分は、平本さんみたいに寝る時間まで減らして作品を仕上げようとは思わないというかそこまで眠気との戦いに勝てなかった。
『平本さん、無理しないでくださいね。ゆっくり休む時間ないとやってられないですよね。』自分は、平本さんの努力している姿が自分の作品をかけるようになるやる気スイッチのような気がしていた。
『ありがとう〜。本当に休む時間大切だよね。あのさ、梅澤さんが良ければ今度お茶しない?すごく可愛いお店見つけたんだ。』平本さんからの誘いがすごく嬉しかった。やる気スイッチが押されるからと自分の夢をまた確認できるからだ。
『はい!平本さんのお誘い嬉しいです。お忙しいのにすいません。』平本さんの夢を自分が邪魔してないかすごく心配になることがあった。
平本さんは、漫画が一番だが海外へ行ってアートスクールというとこで勉強して漫画を新しいものにしたいという考えも持っていた。そんな平本さんに自分は、憧れ自分にも何か作り出したいと思うのだった。
『良かった。シフト出たら、予定たてようね!本当楽しみ!今は、ひとつ作成しているのがあるの!その話をその時してもいいかな?』どれだけ頑張るのだろう。アニメコーナーの前で、平本さんに会えて回覧数にこだわっている自分が馬鹿らしくなっていた。
『はい!是非聞きたいです!自分も今書いてるものがあるので良ければ見ていただきたいです。』自分の作品を見せるのは恥ずかしいがなんだかアドバイスもらえると嬉しくなる。
『うん是非是非‼︎嬉しい。ありがとう梅澤さん。』そんな言葉を言うのはこっちの方です。平本先輩。
『あの、すいませんなんか。お時間頂いてゆっくり休んでください。』腕時計をチラッと見るともうこんな時間なのかと驚いた。
『あごめんね!呼び止めて。こんな時間なんだね。帰り気をつけてね。』時間を忘れるほど平本さんといるとわからなくなる。
『あいえ、平本さんも気をつけてください。体も気をつけてください。』そうお辞儀しながら平本さんと分かれ入り口へと向かっていた。
『あ、DVD。』借りることを忘れた事に入り口のドアが開く音で気づいたがまあいっかとレンタルDVD屋さんを出た。
そういえばいつからだろうか。
平本さんと仲良くなったのは。
確か、自分が高校三年になってからだったようなそうでないような曖昧になっいた。
自然と連絡を取り合うようになり作品を見せ合いっこしていた気がした。平本さんの一番最初に見せてもらったものは、はっきり覚えている。ひとつひとつの作品が平本さんの努力を表すようにとても好きだった。
それに対して、自分はどうなんだろう。今書いてる作品もまだ未完成でとても見てもらえるものにはなってない。自分は、平本さんに嫉妬していたのかもしれない。
『寒い…。』こんな時間じゃ寒いどころではなかった。息は、白くはっきりと見えていて手の感覚がなくなっていた。家までは、あと10分ぐらいで着く。その10分がすごく長かった。
凍えながら、家の前まで着くと安心感と早く入りたいという気持ちが出て勢いよくドアを開けてすぐドアを閉める。
『ただいま。』自分の一声でおかえりという家族はいない。母親は、仕事で朝まで帰らず兄は、静岡県で働いていて帰るはずもない。
『とりあえず、ストーブかな。疲れたあ。』自分の部屋に入りストーブをつけ少しの間固まっていた。ノートが床に散乱していて机は、消しゴムのカスが散らばっていてとても休める空間ではなかった。自分には、綺麗になってるより散らかってるほうがなぜか落ち着いた。
『羨ましい。』ふと、平本さんのことを思い出した。平本さんと自分は、同じ母子家庭で育っていてなんとなく嫌だったことや嬉しかったことを共感できるところがあった。
転校もいっぱいしたことも同じで寂しい気持ちとか友達のこともいろいろ共感できる。話し合える仲なんだと思った。
だからなのか、話し合えることが出来るのがすごく嬉しかった。
でも、話し合えた後はなぜか悔しい気持ちと自分は何一つ成長していないことに気づき落ち込んだりイライラしていた。
平本さんの作品を見るたびに自分の作品がお遊びにしか見えない。
憧れでもあり、羨ましかった。
ブーッブーッ。携帯電話が鳴った。見てみると平本さんからだった。
(さっきは、ありがとう。急で申し訳ないんだけど明日とか会えるかな?無理なら大丈夫なんだ!話したい事があって。)突然の平本さんのお誘いになぜか嫌な予感がした。
平本さんの突然にはいろいろ嫌なことがある。平本さんは、漫画家を目指すことに必死で無理をし過ぎたのか目が見えなくなると医者に言われたと前にも突然の電話で告白していた。
『怖いな。大丈夫なのかな。』突然の誘いに不安になった。平本さんの努力は凄いが倒れたりしたらと思うと怖くなった。
明日は、仕事はないし予定は夜やればいい話だ。
『よし、会おう。』
(こんばんわ。お疲れ様です。
いえ、平本さんが忙しくなければ会いたいです!お時間いただいてすいません。何でも聞きます!明日何時頃から大丈夫でしょうか?)
メールの文章と今思う気持ちは、まったく違う。今思うのは恐怖だけだった。
落ち着かない自分は、布団にダイブして返信を待った。携帯電話を見つめながらごろごろと布団の上を転がった。
ブーッブーッ。携帯電話が耳元で鳴り響く。飛びつくように素早く携帯を開きメールを見た。
(ありがとう〜‼︎嬉しい!早く話しておきたかったことだから良かったあ!
それじゃあ、明日13時に今日あったレンタル屋さんの前でいいかな?)
早く話しておきたかったことという文章に更なる不安を抱いた。
明日が怖くなった。
(わかりました。明日13時にレンタル屋さんの前で!お時間いただいてありがとうございます!)明日の13時には、いろいろなことを知るんだと思った。
それから平本さんのメールは、きたが見るまえからメールの内容はわかった。
また明日という文章で終わっているはずだ。
布団に戻り毛布に包まった。明日の不安と今日の仕事の疲れが出たのかそのまま眠ってしまった。
ブーッブーッ。ブーッブーッ。携帯電話がずっと鳴っている。その音で目を覚ました。
『うん…誰だ。こんな時間に。』携帯を開くと母親からだった。何かあったのかとりあえず電話に出た。
『もしもし。』声がかすれていた。
『あごめんね!寝てたよね。仕事あるの?』母親の声は、ものすごく通る。目覚ましになったら毎日起きられる時計だと思った。
『仕事は、ない。だけど午後から平本さんと出かけてくる。』
『あそうなの?じゃあご飯いらないのね?あるもので足りる?』電話の要件は、ご飯だった。
『あ大丈夫。足りる。ありがとう。』
『わかった!じゃあまだ仕事あるからごめんね起こして。ゆっくり休んでねー。』ブチっと電話切れた。母親の声でもう目がぱっちり。時計をみるとまだ朝の4時。二度寝しようにも目がぱっちりし過ぎて眠れなかった。
『ふはああ。暇だし今日見てもらうように作品まとめるか。』毛布に包まり床に散らばっているノートを引っ張り出した。