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プロローグ.ほんの少し世界を歩いた日の事

 青く生い茂る森の中、木々の葉を通り抜けた木漏れ日を道標のように、僕と神崎は手を繋いで歩いていた。

 前世でいい年を過ぎていた俺だが小さくなって僕となった体をとてとてと動かしながら踏しめていく柔らかな土の音を聞く。

 そんな僕の二歩を一歩に、ゆったりと歩みを合わせて歩くのは神崎。

 1000年前から僕が誕生するのを待っていた、魔法人形。

 分かりやすくいうとロボットである彼女は作り物とは思えない白く柔らかな手で僕の小さな手を包むように握りながら、隣を楚々として歩いている。

 足音は二人で一つ、歩幅の違うそれでありながら重なって聞こえる二つの音。

 そんな音が聞こえるのは過去の影響を受けた森の中。前世では絶対に見ることのなかった巨大な神殿の柱ほどある巨木へと進化した木々の間だった。遠く高くざわめく葉の音はざわざわと揺れて、耳を楽しませ、その合間に二人の足音という静かな旋律を奏でる。

 そんな僕たちは別にどこかに行こうと決めたわけじゃない。

 緩やかな午後の陽気、家の窓から日差し眺めていたら誘われたように歩き出していた。そんな僕たちは当然のように互いに伸ばされた手を繋ぐ、それが始まりのように自然と散歩に出かけていったのだった。

 こんななにもしなくてもいい時間。何をしてもいい時間。

 ただの散策に時間をかけることのできる現在。

 贅沢だと感じることのできるほど精神年齢を経て居ながら、子供のままいられる今の自分。


「神崎」


 僕は唐突に声をかける。その子供の声は高く、でも呟くようなそれだった。


「はい、裕也様」


 でも、彼女はそれを聞き漏らすことなく答えた。

 前を見ていた僕は彼女を見上げる。

 彼女はその動くことない表情そのままに僕を見つめた。

 そんな彼女に僕は告げる。


「僕は、今……幸せだなって思うんだ」


 言ってから頬が熱くなった。

 漏れたままの言葉は本音だったけど……あまりにも率直なそれはとても恥ずかしくて誤魔化す様に視線をそらして頬をかく。

 そんな僕の言葉だったが、彼女は一つ頷いたのだろう、一拍置いて答えた。


「それは良いことです、大変良いことであると判断できます」


 いつものように抑揚の少ない声、顔もいつも通り無表情だろうけど、握られた手が熱くなったような気がする。

 僕は顔を上げて彼女を見上げた。

 やっぱり彼女の頬がうごくことは無いけれど、一緒に過ごした時が教えてくれた。

 きっと彼女は喜んでくれていると。

 だからそんな彼女に聞きたくなった。

 僕は立ち止まって彼女を見上げる。


「ねぇ、神崎……神崎はさ、今幸せ?」


 僕の質問を聞いた彼女は丸く黒い黒曜石を磨いたかのような瞳を動かした。

 それからほんの少し時間を空けて彼女は答えた。


「私には幸せと言うのは判断ができません。人形ですので」


 木々のざわめきの中にあって静かに、囁くようなその声は過ぎ去った。


「ですが」


 続いた言葉は僕にはほんの少し力が込められたような気がした。


「まるで荒々しいお祭りのようだった1000年前のあの時間よりも、ただ時が過ぎるのを待った無機質な1000年の時間よりも、今のこの時間を、私はより良くしたいと判断しています」


 そう言い終わると彼女は何かを待つように僕をじっと見つめた。

 僕は当然それに答える。


「うん、うん! そうだね、僕もそう思うよ!! 」


 僕の顔に笑みが浮かんだ。

 繋がった手を大きく振って、また歩き出す。

 彼女も合わせて隣を歩き始める。

 足音は二人で一つ、重なりながら。


 そんな僕らが歩むこの世界は1000年前に一度終わってしまった世界らしいけど。

 僕と彼女はこの世界で時を刻んでいる

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